西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

172 だいじなもの

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 ヴンダーは久しぶりに手元に戻ってきた鞄を見つめた。魔法使いに愛用される茶色い革製の肩掛け鞄。少し汚れているが、破損はしていない。中はマジックバッグになっているのでそれなりの容量がある。ヴンダー自身、中に何を入れていたか忘れかけていることもあって、大胆にも鞄をひっくり返してみることにした。

「ええと、ペン、インク、杖、ローブが三着とその他衣類に、予備のブーツ。毛布と歯ブラシと──財布と──魔石──」

 床に出した諸々を並べ直して確認していく。いっぱいあるな、とフルルが感心して呟く。

「ノートと、魔法書と──」

「……あっ! すごいわ、これ古代魔法の書じゃない! こっちはエルフ語の? あ、それは光魔法の書ね! うわあ、お宝ばかりだわ」

 ミハルが大層楽しげにはしゃいだ。レオハルトは表情こそ変えないが、同じく興味深げに魔法書を気にしている。ヴンダーは威張りくさって「いいでしょう、苦労して集めた魔法書たちです。恩人である貴方がたには特別に貸してあげますよ」と言った。

 ミハルとレオハルトはすぐにヴンダーのことなど忘れたように魔法書に夢中になった。ソロウとギムナックは、そんな彼らのことを見ながら「魔法使いってやつは……」と呆れている。

 リュークはヴンダーの持ち物に対してはあまり関心がないようだったが、綺麗な羽ペンを見つけて目を輝かせた。

「気に入ったものは全部あげるよ。どうせ、元々オローマでなくしたものだしね。ところで、僕の大事なものって一体……」

 ヴンダーは言いながら改めて鞄の中身を眺める。貴重な魔法書、珍しい本、魔法式を書き込んだノート、高価な杖。大事なものはたくさんあるが、そもそも紛失したと思っていたものなので、今さら無くとも困りはしない。そうなると、これらは「大事なもの」といえるのだろうか?

「まあ、一番大事なものというなら魔法式を書いたノートか。でも、正直それだって中身は全部暗記してるしなあ……しかも他の人には見えないように加工してあるし……」

「バッグは?」

 と、リュークが言ったのでヴンダーは振り向いた。他の面々もリュークを注視する。

「マジックバッグは?」

「この鞄? 確かに大事だけど……そこまで大事というほどでは……」ヴンダーは動揺する。鞄など、また買い直せば良いではないかと思う。しかし、リュークの視線が真っ直ぐ過ぎて何を正解とすべきか分からなくなる。

「じゃあ、それでいい?」

 少年が念をおすように聞くと、ヴンダーはやや気が引けつつも「うん」と答えた。

 頷いたリュークは、ヴンダーの空っぽの鞄を抱いて暖炉へと向かう。ソロウたちは薄ら奇妙な予感を覚えたが、形容しがたいこの不安を何と伝えるべきか迷った挙げ句、ついに口を開かなかった。
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