西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

174 均衡の保ちかた

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 どこかの誰かは「世の中には恵まれた人とそうでない人がいる」と言ったが、例えば神の中にも不平等はあるのだろうか。


 リュークは、ヴンダーと入れ替わるように現れた大きな神を見上げて、次いでその肩に担がれているものに目をやった。それは、どうやら神が身につけている白布と同じ布でぐるぐる簀巻きにされた魔法の神だった。

 リュークのすぐそばではリンが鼻を鳴らしている。リン以外の仲間は、恰も全員が石化したように指先一つも動かさないし、目の光も失われている。

 大きな神はこう言った。

「お前が生じさせる価値の過不足が目に余る不均衡を引き起こした。魔法神こいつの不自由によって過不足を幾らか清算し、均衡を保つことにしたのだ」

 少年は首を捻る。困ったことに、大きな神の言うことはさっぱり分からない。ただただ四角いような巨体を見上げて黙りこくっていることしか出来ない。

 この大きな神の正体は〈生命の神〉である。この神は目も、肌も、くりくりの短髪も、眉毛もまつ毛も、まるで輝く白磁の色をしている。顔はゴツゴツとしていて岩そのものだが、粗削りなだけで見れば見るほど美しく、もとの造形は魔法の神や時の神と大差ないようにも見える。そして、ギムナックよりもずっと大きい。三メートルはあるだろうか。ともすれば大きな部屋の高い天井に頭が当たりそうだ。

 生命の神は、簀巻きの魔法の神を絨毯に転がした。不自由で清算するというからには、成る程、とても酷い扱いである。
 魔法の神は口にも布を噛まされていて喋れない。綺麗な淡青色の瞳を持つ目からぽろぽろと宝石が零れ落ちては砕け、空気に溶けて消えていく。

「これでもまだ足りていない。……笑い事ではないぞ、お前のせいで魔法の神がこんな目に遭っているのだからな」

 リュークが可笑しそうに笑って魔法の神を突っつこうとしているところを窘める生命の神。リュークはよく分からないながらも頷いて見せた。かと思えば、すぐさま生命の神と魔法の神を置き去りにして暖炉へ入ろうとした。

「おい、おい、待ちなさい。いや、そうだ、待ってくれた方が良い。うむ。分かってはいたものの、誠に自由だな」

 生命の神は柄にもなく慌てふためくと、思わずつまんでしまった小さな腕をそっと離し、まるで「ちゃんと見ておけ」とでも言わんばかりにリンに一瞥をくれた。

「ヴンダーの魔力をもとに戻したいんだ」

 リューク少年は素直に伝えた。彼にとっては、神よりヴンダーの方が優先なのだ。魔法の神が布越しに何か訴えているのか、小さく呻いているのが聞こえる。それを生命の神は乱雑な手つきで転がして、より遠くへやってしまった。もう魔法の神のくぐもったうめき声は殆ど聞こえない。

「呪いを解く順序を守っていないだろう? それじゃあまた過不足が生まれてしまう」

「ヴンダーの魔力が戻ったら、みんな喜ぶんだって」

「ふむ。それで良いのか?」

「良いの?」

 生命の神は、リュークに理解を求めるようであり、求めていないようでもあった。それでいて、すべてを創造する筈の神の一つのくせに、微かに憧れを含む剣呑な眼差しでもってリュークを見下ろす。

「仕方があるまい、お前は自由だからな。しかし、覚えておいて欲しい。──お前の自由が、きっと世界を滅ぼすのだ」

 
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