176 / 199
元魔王城(142〜)
175
しおりを挟む──ここは何処だ?
青年はうつ伏せの状態から飛び起きて周囲を見回した。黒い床、壁、遠い天井。元魔王城の一室には間違いないらしいと考えて、途端、全身が粟立った。
空気に圧迫されて息が上がる。そして、重い。なんだこの異常な不快感は──そう思ったとき、ヴンダーの目に涙が溢れた。
「魔覚……?」
魔力が、と繰り返し呟いて現実を確かめる。握り締めた両の手を開いて見る。身体の中から魔力が沸き起こってくるのを感じる。魔力が爪先から頭の先まで満遍なく駆け巡っている。魔法式を思い描けば迸る魔力が呼応し、杖が無いにも関わらず大きな火柱を噴き上げた。
「うわ、うわぁ……! 本当に……魔力が……!」
あらゆる低級魔法を連発しては、呪いから解き放たれた喜びに震える。ミハルであれば魔力欠乏に陥る程の狂いっぷりだが、何せ天才魔法使いヴンダー・トイは膨大な魔力の持ち主である。このまま半日くらい魔法式の嵐に浸かっていても倒れたりはしないのだ。
ところが、この歓喜の魔法祭りは長く続かなかった。
はたと動きを止めた青年は、嬉し涙に混じって冷や汗を流し始めた。それは、異様な空気の重さを思い出したからだった。これだけの魔力を取り戻してなお全身に浴びる重圧の不可解が、今起きた喜びの感情を端からこそぎ落としていく。
(なんだろう、久しぶりで魔覚がおかしくなっているのか?)
確かに、呪いにかかる前に感じた元魔王城の魔力は底が知れず不気味だと思った記憶がある。ただ、それにしてもこの気配は一体何だ。
ヴンダーはいよいよ緊張して視線を巡らせる。部屋に異変はない。
(ここ、ボス部屋か? この時間でボスが不在の部屋……だとすれば、可能性が高いのは最後に倒したヴァンパイアの部屋だけど……あれは倒したことになるのか? 見方によっては拉致ってことになるのかも……? でも結界は解除されたし、討伐判定になったのかな? となると、やっぱり再出現するのか?)
考えるほどに恐ろしくなったヴンダーは一刻も早く部屋を出ようとして、しかし左右どちらの扉を開けるべきか悩んだ。困ったことに、こうして見る分には部屋は左右対称で、来た道も行く道も判断がつかないのだ。さらに、迷宮の特徴が発揮されていて、部屋で起きた戦闘の痕跡なども時間が経過すれば全て綺麗さっぱり消えてしまう。ここを吸血鬼の部屋と仮定するなら、早くどちらかの扉を開けて向こうが部屋になっているか通路になっているかを見れば良いのだが、薄ら混乱している頭では体も上手く動かせない。
「どうしよう……。杖無しじゃ、ヴァンパイアどころかサハギンでも苦戦しそうなんだけど」
すっかり弱気が染み付いてしまった天才魔法使い。どうしよう、と内股でおろおろしているうちに、彼の頭上で赤黒い魔力が渦を巻いた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる