西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

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 ──ここは何処どこだ?

 青年はうつ伏せの状態から飛び起きて周囲を見回した。黒い床、壁、遠い天井。元魔王城の一室には間違いないらしいと考えて、途端、全身が粟立った。

 空気に圧迫されて息が上がる。そして、重い。なんだこの異常な不快感は──そう思ったとき、ヴンダーの目に涙が溢れた。

「魔覚……?」

 魔力が、と繰り返し呟いて現実を確かめる。握り締めた両の手を開いて見る。身体の中から魔力が沸き起こってくるのを感じる。魔力が爪先から頭の先まで満遍なく駆け巡っている。魔法式を思い描けば迸る魔力が呼応し、杖が無いにも関わらず大きな火柱を噴き上げた。

「うわ、うわぁ……! 本当に……魔力が……!」

 あらゆる低級魔法を連発しては、呪いから解き放たれた喜びに震える。ミハルであれば魔力欠乏に陥る程の狂いっぷりだが、何せ天才魔法使いヴンダー・トイは膨大な魔力の持ち主である。このまま半日くらい魔法式の嵐に浸かっていても倒れたりはしないのだ。

 ところが、この歓喜の魔法祭りは長く続かなかった。

 はたと動きを止めた青年は、嬉し涙に混じって冷や汗を流し始めた。それは、異様な空気の重さを思い出したからだった。これだけの魔力を取り戻してなお全身に浴びる重圧の不可解が、今起きた喜びの感情を端からこそぎ落としていく。

(なんだろう、久しぶりで魔覚がおかしくなっているのか?)

 確かに、呪いにかかる前に感じた元魔王城の魔力は底が知れず不気味だと思った記憶がある。ただ、それにしてもこの気配は一体何だ。

 ヴンダーはいよいよ緊張して視線を巡らせる。部屋に異変はない。

(ここ、ボス部屋か? この時間でボスが不在の部屋……だとすれば、可能性が高いのは最後に倒したヴァンパイアの部屋だけど……あれは倒したことになるのか? 見方によっては拉致ってことになるのかも……? でも結界は解除されたし、討伐判定になったのかな? となると、やっぱり再出現リポップするのか?)

 考えるほどに恐ろしくなったヴンダーは一刻も早く部屋を出ようとして、しかし左右どちらの扉を開けるべきか悩んだ。困ったことに、こうして見る分には部屋は左右対称で、来た道も行く道も判断がつかないのだ。さらに、迷宮の特徴が発揮されていて、部屋で起きた戦闘の痕跡なども時間が経過すれば全て綺麗さっぱり消えてしまう。ここを吸血鬼の部屋と仮定するなら、早くどちらかの扉を開けて向こうが部屋になっているか通路になっているかを見れば良いのだが、薄ら混乱している頭では体も上手く動かせない。
 
「どうしよう……。杖無しじゃ、ヴァンパイアどころかサハギンでも苦戦しそうなんだけど」

 すっかり弱気が染み付いてしまった天才魔法使い。どうしよう、と内股でおろおろしているうちに、彼の頭上で赤黒い魔力が渦を巻いた。

 

 

 
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