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元魔王城(142〜)
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しおりを挟むヴンダーはその場を飛び退いて走った。結界が現れる前にこの部屋を出なければと、生存本能に体を乗っ取られたかのような咄嗟の行動だった。
しかし、とにかく走って、走って、ようやく扉へ手を伸ばしたとき、無情にも扉は結界に閉ざされていたのである。
たった一人きり、杖も回復薬も心の準備もない。
魔法使いは杖がなくとも簡単な魔法であれば使えるが、素手では威力も精度も格段に落ちる。いくらヴンダー・トイといえど、杖無しに元魔王城のボスと戦うのは無謀だろう。
魔力の渦はにわかに大きさを増している。狼狽しつつもよくよく魔覚を澄ませてみると、渦の魔力の正体に見当がついた。
「ヴァンパイアじゃなくてメデューサか!」
血流が滞るような体の重さも、表皮が麻痺する感覚も、どれもこれも呪いにかかる前に既に体感している。
メデューサはA級の魔物で、ヴァンパイアよりは格下だが、A級の中では上位であり、S級冒険者であっても単独での討伐は望めない。また、大人数で対峙するにしてもメデューサの〈石化〉はとても厄介で、複数に対して同時に効果を発揮し、これを掛けられると全身が石化する前に状態異常を治す魔法で石化を解かなければ、完全に石になって元に戻らなくなるという恐ろしいスキルである。
ところで、ヴンダーが過去にメデューサと対峙したのは元魔王城の二つ目のボス部屋でのことであった。
元魔王城の四つ目のボス部屋にあたる〈祭壇の部屋〉と〈洞窟の迷路〉が繋がっていたことを考えると、元魔王城の三つ目のボス部屋の向こうにもう一部屋休憩できる空間があるとして、本来その先にあったはずの四つ目の部屋とはもはや繋がっていないことになる。すると、ヴンダーとリューク達は同じ元魔王城に居乍らにして、完全に分断されてしまっている状況ということになるのではないか。
ヴンダーは徐々に落ち着きを取り戻しながら、自分のおかれた状況に青ざめるばかりだった。
「誰も助けに来てくれないってこと……?」
もしかしたらレオハルトたちが駆け付けてきてくれるかも知れないという仄かな希望すら潰えてしまった。
絶体絶命だ。これならまだアイスドラゴンと向き合っていたときの方がマシだ。あのときは幾分頭がおかしくなっていたので、こんなにじっくり考えなくて済んでいた。それにしても、メデューサがなかなか現れない。ボスの再出現を見る機会など早々ないので、そう思うだけだろうか?
ヴンダーは、自分でも気付かぬうちに両手を組んで神に祈るように膝をついていた。
どうか一生出てこないでくれと切実に願う。
が、現実とは厳しいもので、天井を覆うほど大きくなった赤黒い渦の中心から、メデューサの無数の蛇でできた髪がゆらゆらとうねりながら出てきたのだ。
ひっ、と竦み上がるヴンダーの視線の先で、やがてはぬっと腕が現れ、頭、肩、背、腰、と逆さまに現れ出てくるメデューサ。そして、もう足首まで出でくるというところで後ろを向いていたメデューサの頭が突然ぐりんと回って、灰色で塗り潰したような眼がヴンダーを睨み付けた。
「あっ、や、やば、やばい!」
ヴンダーは反射的に防御結界と目眩ましの魔法を発動した。杖が無いため触れられたら割れそうなほど弱い結界と子供騙しのような目眩ましになってしまったが、なんとかメデューサの〈石化〉スキルは防げたらしい。
ほっと一息吐く間もなく、目眩ましの光が止んだ頃には、黒い床に堂々として立つ恐るべき魔物メデューサの姿があるのだった。
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