西からきた少年について

ねころびた

文字の大きさ
178 / 199
元魔王城(142〜)

177

しおりを挟む

(落ち着け、慌てるな。道が繋がってなくても助けに来てくれる可能性はある。そもそも僕は確か暖炉からいきなりここへ飛ばされたんだ。見たところ異空間への出入口はどこにもないけど……だけど、きっとここはあの暖炉と繋がっていて……繋がって……)

 考えつつ、今となってはもうあの暖炉と繋がっていないことはヴンダー自身がよく分かっている。そして、空間を再度同じ場所へ接続するのは例え至近距離でさえ極めて困難だということも知っている。
 部屋の中心には、薄汚れた黄土色のドレスを身に着けているメデューサが憤怒の表情で仁王立ちして──仁王立ち?

 ヴンダーは念のため目をこすった。

 それから改めて見てみるが、メデューサは変わらず仁王立ちで居る。細身の体型だが、ギムナックよりもふた周りは大きい。

(メデューサの下半身って、蛇じゃなかったっけ? 亜種かなあ?)

 死地ともいえる状況を鑑みてなお能天気なのは、雪山で一晩のうちに鍛え抜かれた度胸のせいだけではなさそうである。相手がヴァンパイアでなくメデューサであったことが要因であるかも知れない。

 メデューサは、個体数こそ少ないながらも大陸の至るところで出現が確認されていて、その分得られた情報が多い。例えば、間合いに入らなければ物理攻撃をしてこないことや、遠距離攻撃は火か土魔法を使ってくること。弱点属性は水か風であること。さらに石化スキルの再使用には一定の時間を要することなど、討伐に必要な情報はほぼ出揃っているのだ。
 
 かといって無論、討伐は出来ない。だが、時間稼ぎなら多少出来そうである。この絶望しきれないギリギリの相手というのが、恰も運命のような何かが一縷の望みに賭けて足掻くだけ足掻いてみせよと青年に命じているかのようではないか。
 ヴンダーは皮肉めいた運命を悲観しつつ、防御結界を幾重にも展開している。

(土の無い場所で土魔法は使えない。火魔法に耐性を絞った結界なら強度を上げられるな)

 以前であればしなくて済んだ細やかな調整を入れて魔法式を完成させていく。メデューサは、今にも怒声を伴って暴れだしそうなほど顔を歪めてヴンダーを睨め付けている。そして、頭の無数の蛇がそれぞれに口を開けて火の玉を放った。ヴンダーの結界は上手いことそれらを相殺して割れた。
 ヴンダーは、間髪入れず再び結界作りにいそしむ。杖が無いと燃費も悪くなる。より効率の良い結界を即興で生み出そうとするうち、恐怖も忘れて没頭していた。






 そのまま、気付けばどのくらいの時間が経っただろう。ヴンダーは幸運なことに、まだ五体満足でいる。残念なことに、メデューサもまた無傷である。そして、そろそろヴンダーの魔力が尽きる。

「君、何をそんなに怒ってるの」

 ヴンダーが苦笑混じりに尋ねても、魔物メデューサは答えない。当然である。これがメデューサの元々の顔なのだ。寧ろ、どちらかと言えば上機嫌ですらある。メデューサは面食いだからだ。ただ、眼の前にいる顔の良い人間をなかなか石に出来ずにいるのでもどかしくも思っている。
 それも、あと少しの辛抱だ。あと少しで、あれを石に出来る。どの表情を石にしてやろうか。苦しみか、恐怖か、最期に一瞬の安堵を与えてやっても良い。そのあとの絶望の表情はどんなに愛らしいものだろう。メデューサはじわじわと青年を追い詰めながら想像し、憤怒の顔で嗤った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!

川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。 だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。 だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。 馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。 俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。  そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。  【魔物】を倒すと魔石を落とす。  魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。  世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

処理中です...