西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

191 不条理の産物

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 メデューサ討伐からすぐに暖炉のある部屋ではなく出口方面の扉を開けることになったのは、半ば興奮冷めやらぬグランツとエモリーによる勢い任せの決断のためであった。

 異形のメデューサが落とした球体の石と赤黒い魔石、それと死神の鎌を拾い、またすぐにでもメデューサが再出現しかねない部屋を足早に後にした一行は、すぐに食事の準備に取り掛かった。
 グランツは出来上がった料理をこれまで食べそこねた分以上に食べ続けた。そしてその食欲があまりにも度が過ぎたために途中でレオハルトに制止された。

「食糧が尽きてしまいます」

 グランツは自分でも驚いた。一度にスープ十五人前を作れる大きな鍋四つ分も食べたのに、腹はまだ半分も満たされていなかったのだ。因みに、一行のメンバーの殆どは一度の食事で二人前かそれ以上食べる。プルェ・プティカを除いた辺境伯一行全員分の一度の食事量は、スープならだいたい鍋三つ分である。
 魔狼リンは別で鍋半分から丸々一つ分を平らげるがそれでも足りないらしく、たまに動物や魔物を自分で狩って食べている。レオハルトが止めてくれたことにグランツは感謝した。何故なら、リンも同じだけ食べてしまうからだ。自分が食べているものをリンに食べるなとは言えない。

「困ったな。この腕のせいか、燃費が悪すぎる」

「外へ出れば食糧調達できるでしょう。あともう少しだけ召し上がって構いません。悪魔に負けては元も子もありませんからね」

 レオハルトは、特に足が早い食材を選んで食いしん坊へ与えた。辺境伯の暴食を呆気に取られて見つめていた兵士たちは、ここでやっと我に返って自分たちの食事を再開した。貧血を起こしていた体にじかに栄養が染み渡るようだった。一方、ここまでグランツに負けじと食い意地を張っていたエモリーは、流石に諦めてスプーンを置いた。



 エモリー以外の冒険者は、とっくに食器を片付けてくつろいでいる。その輪の中でリュークだけが口の周りを汚しながらスープを食べ続けている。ミハルとアレクシアはリュークの顔を拭いてやったり、こぼしても良いように胸元に布を広げてやったりと、可愛い少年に甲斐甲斐しく世話を焼くことを楽しんでいる。たまにフルルも参加して髪の毛を整えてやったりしている。

「もう、驚いたなんてもんじゃなかったですよ。本当に死んだかと思いました。だって、僕をあの部屋へ送り込んだ転移魔法は消えただろうと直感的に思ったんです。だから助けは来ないだろうって。そしたら、僕の仲間が来てくれるなんて! 今も鳥肌が止まらないったら!」

 魔力を取り戻し仲間との再会も果たして歓天喜地のヴンダーがはしゃぐと、隣に座るハンナがしみじみ「奇跡ってあるのねぇ」と言った。それを聞いたソロウたちは、なんとも言えず遠い目で向こうの壁を眺める。

(奇跡と言やあ奇跡には違いねえんだが……)

 そうしているうち、グランツとリンの食事が終わったようだった。一行は荷物をまとめつつ誰からともなく会議を始める。

「ここで悪魔を解放するのか?」
「この先が一つ目のボス部屋なんだろう? 一体何が──」
「やはり暖炉のある部屋の方が良いのではないだろうか? 扉を塞がれても、もしもの時に暖炉から逃げられる」
「悪魔が暖炉に入ったらどうする?」
「全員で一斉に掛かるのか? それとも能力を測るために初めは少数精鋭で挑むべきか?」

 あれこれと意見が飛ぶ。プルェ・プティカを加えて総勢二十三名と一匹。大所帯となった一行の意見を取りまとめるのはやはり辺境伯側近のレオハルトである。

「一つずつ解決していきましょう。まず、一つ目の部屋のボスはどのような魔物でしょうか」

 レオハルトがプルェ・プティカの面々へ視線を向けると、アレクシアが直ぐにこう答えた。

「一つ目の部屋は、以前来たときも今回も何も居ないようでした。つまり、この先は空っぽです」

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