193 / 199
元魔王城(142〜)
192
しおりを挟むきっぱりと言ってのけたアレクシアだったが、次に扉を開けた瞬間に前言撤回することとなる。
「……すみません、どうやら空っぽではありませんでした」
扉を引き開けたまま振り向いて言ったアレクシアの顔には、鉄仮面のような無表情でも隠しきれない嫌悪の色が滲んでいる。
しかし、後ろに並んでいたメンバーたちには彼女の表情を読み取っている余裕などなかった。
扉が開いた瞬間、強大な魔力が吹き付けてきたのだ。
暴力的でどこか魅惑的な魔力と、微かに冷えた魔力。その二つが入り混じって頸烈に魔覚を刺激する。
たまりかねたギムナックがアレクシアの肩を引いて扉を閉めた。
「おお、神よ……」
「なんだよ今の!」
「どうしていつもこうなるのよ!」
「今度はなんだ? 人が居たと聞こえたが?」
「あの魔力はまさか──」
「何があったんだ? なんだか凄い魔力を感じたけど」
「ちょっとちょっとぉ、今のってあいつだったわよねぇ?」
「ああ、間違いないな」
「えー……」
「間違いありません」
「うん、〈勇者〉だな」
「勇者⁉︎」
「ユウシャ?」
わっと騒がしくなって、「勇者」という言葉が出た途端に静まった。
リュークだけが首を捻って馴染みのない単語に想像力を働かせている。
改めて〈勇者〉について説明しておくと、それはかつて英雄クラルド・ローグが魔王を討ち取った際に初めて神が与えた称号であり、この称号を持つ者こそは「勇者」と呼ばれる。また、クラルド・ローグの死後より現れ始めた勇者は生まれながらに〈勇者〉の称号を持っており、彼らは例外なく赤ん坊の頃から魔王討伐を志す狂気的な人である。
国は勇者支援のための予算を設けており、全ての民は勇者の魔王討伐のための行動を妨げてはならない。故に、時に敬遠されがちな憐れな存在でもある。
実力は当然折り紙付き……というより、人を超越している。
さて、そんな勇者だが、魔王を探して訪れたこの元魔王城が迷宮化していたため、どこか別の場所へ向かったという話であったはずだが。
「何故ここに勇者がいるの? あ、でも待って、その前に──」
ミハルは言い淀んでレオハルトの様子を窺う。レオハルトは冷静そのものの顔で「信じがたいですが」とグランツを見上げた。
「この部屋に残留している魔力は〈アイスドラゴン〉のものに違いありません」
「む、アイスドラゴンだと? あのような大物が何故またここに?」
正直に疑問を口にするばかりのグランツ。するとレオハルトはこれまでになく躊躇いがちに仲間たちを見遣って、それから意を決して口を開いた。
「最悪の仮説に思い至りました。この扉の向こうには、本来テヌート伯爵領に現れたあのアイスドラゴンが居たのです」
ヴンダーが喫驚して咽せた。レオハルトはそれを一瞥し、話を続ける。
「勇者が宝玉を盗んだ可能性があるということです。勇者は〈魔封じの首飾り〉という魔具を所有しているという話ですので、宝玉を運ぶのは容易でしょう」
「確かに可能性は否定できねえな」ソロウが言った。「けど、一体なんのために運んだんだ? アイスドラゴンの宝玉なんて、魔王討伐に必要とは思えねえんだが」
「運搬先はブーゼリヒ侯爵の別荘です。覚えていますか? アイスドラゴンは、ブーゼリヒ侯爵の別荘屋敷を押し潰して巣に作り替えていたのです。かの侯爵は、闇オークションの主催者です。何を求めていたとしても不思議ではない。
宝玉を屋敷へ運び終えた勇者は、魔封じの首飾りを持って山を降りたのでしょう。そして、ついに宝玉がアイスドラゴンに見つかってしまった。勇者は新聞か何かで一件を知り、ここに居たアイスドラゴンを確認するために慌てて戻ってきたと考えれば──」
「レオハルト……!」
グランツの声が震える。
「それは、とんでもないことだ。とんでもないことだぞ。もしも、万が一にもその仮説が当たっていたとすれば私は……!」
私は、と自問するように声を低くしたグランツは取り囲む兵士らの輪からフラフラと抜け出すと、いつになく真剣に考え込むためにその辺を徘徊し始めた。難しげな話には用事のないリュークとリンが面白がってその後ろを追いかけて行った。さらにフルルも「領主様の邪魔をしちゃ駄目だぞ」と彼らを追って輪を抜ける。
「あ、あのぅ」
ヴンダーが小さく手を挙げた。
「本当に同じ個体なんでしょうか……? 本当に、ここにアイスドラゴンが? いやいや、レオハルトやミハルの魔覚を疑っている訳ではなくてですね、でも、その……あまりにも」
「信じがたいでしょう?」
「あ、う、はい、とても。だって……あっ……だけど、あれか……勇者って……」
ヴンダーには何やら心当たりが出てきたようである。そして、プルェ・プティカのメンバーは一様に苦い顔をして会話を聞いているのだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
魔法筆職人の俺が居なくなったら、お前ら魔法使えないけど良いんだよな?!
川井田ナツナ
ファンタジー
俺は慈悲深い人間だ。
だから、魔法の『ま』の字も理解していない住民たちに俺の作った魔法筆を使わせてあげていた。
だが、国の総意は『国家転覆罪で国外追放』だとよ。
馬鹿だとは思っていたが、俺の想像を絶する馬鹿だったとはな……。
俺が居なくなったら、お前ら魔法使えなくて生活困るだろうけど良いってことだよな??
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。
国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。
そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
アラフォーおっさんの週末ダンジョン探検記
ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
ある日、全世界の至る所にダンジョンと呼ばれる異空間が出現した。
そこには人外異形の生命体【魔物】が存在していた。
【魔物】を倒すと魔石を落とす。
魔石には膨大なエネルギーが秘められており、第五次産業革命が起こるほどの衝撃であった。
世は埋蔵金ならぬ、魔石を求めて日々各地のダンジョンを開発していった。
俺、何しに異世界に来たんだっけ?
右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」
主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。
気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。
「あなたに、お願いがあります。どうか…」
そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。
「やべ…失敗した。」
女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる