西からきた少年について

ねころびた

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元魔王城(142〜)

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 きっぱりと言ってのけたアレクシアだったが、次に扉を開けた瞬間に前言撤回することとなる。


「……すみません、どうやら空っぽではありませんでした」

 扉を引き開けたまま振り向いて言ったアレクシアの顔には、鉄仮面のような無表情でも隠しきれない嫌悪の色が滲んでいる。
 しかし、後ろに並んでいたメンバーたちには彼女の表情を読み取っている余裕などなかった。

 扉が開いた瞬間、強大な魔力が吹き付けてきたのだ。
 暴力的でどこか魅惑的な魔力と、微かに冷えた魔力。その二つが入り混じって頸烈に魔覚を刺激する。
 たまりかねたギムナックがアレクシアの肩を引いて扉を閉めた。

「おお、神よ……」
「なんだよ今の!」
「どうしていつもこうなるのよ!」
「今度はなんだ? 人が居たと聞こえたが?」
「あの魔力はまさか──」
「何があったんだ? なんだか凄い魔力を感じたけど」
「ちょっとちょっとぉ、今のってあいつだったわよねぇ?」
「ああ、間違いないな」
「えー……」
「間違いありません」
「うん、〈勇者〉だな」
「勇者⁉︎」
「ユウシャ?」

 わっと騒がしくなって、「勇者」という言葉が出た途端に静まった。
 リュークだけが首を捻って馴染みのない単語に想像力を働かせている。

 改めて〈勇者〉について説明しておくと、それはかつて英雄クラルド・ローグが魔王を討ち取った際に初めて神が与えた称号であり、この称号を持つ者こそは「勇者」と呼ばれる。また、クラルド・ローグの死後より現れ始めた勇者は生まれながらに〈勇者〉の称号を持っており、彼らは例外なく赤ん坊の頃から魔王討伐を志す狂気的な人である。
 国は勇者支援のための予算を設けており、全ての民は勇者の魔王討伐のための行動を妨げてはならない。故に、時に敬遠されがちな憐れな存在でもある。
 実力は当然折り紙付き……というより、人を超越している。

 さて、そんな勇者だが、魔王を探して訪れたこの元魔王城が迷宮化していたため、どこか別の場所へ向かったという話であったはずだが。

「何故ここに勇者がいるの? あ、でも待って、その前に──」

 ミハルは言い淀んでレオハルトの様子を窺う。レオハルトは冷静そのものの顔で「信じがたいですが」とグランツを見上げた。

「この部屋に残留している魔力は〈アイスドラゴン〉のものに違いありません」

「む、アイスドラゴンだと? あのような大物が何故またここに?」

 正直に疑問を口にするばかりのグランツ。するとレオハルトはこれまでになく躊躇いがちに仲間たちを見遣って、それから意を決して口を開いた。

「最悪の仮説に思い至りました。この扉の向こうには、本来テヌート伯爵領に現れたあのアイスドラゴンが居たのです」

 ヴンダーが喫驚して咽せた。レオハルトはそれを一瞥し、話を続ける。

「勇者が宝玉を盗んだ可能性があるということです。勇者は〈魔封じの首飾り〉という魔具を所有しているという話ですので、宝玉を運ぶのは容易でしょう」

「確かに可能性は否定できねえな」ソロウが言った。「けど、一体なんのために運んだんだ? アイスドラゴンの宝玉なんて、魔王討伐に必要とは思えねえんだが」

「運搬先はブーゼリヒ侯爵の別荘です。覚えていますか? アイスドラゴンは、ブーゼリヒ侯爵の別荘屋敷を押し潰して巣に作り替えていたのです。かの侯爵は、闇オークションの主催者です。何を求めていたとしても不思議ではない。
 宝玉を屋敷へ運び終えた勇者は、魔封じの首飾りを持って山を降りたのでしょう。そして、ついに宝玉がアイスドラゴンに見つかってしまった。勇者は新聞か何かで一件を知り、ここに居たアイスドラゴンを確認するために慌てて戻ってきたと考えれば──」

「レオハルト……!」

 グランツの声が震える。

「それは、とんでもないことだ。とんでもないことだぞ。もしも、万が一にもその仮説が当たっていたとすれば私は……!」

 私は、と自問するように声を低くしたグランツは取り囲む兵士らの輪からフラフラと抜け出すと、いつになく真剣に考え込むためにその辺を徘徊し始めた。難しげな話には用事のないリュークとリンが面白がってその後ろを追いかけて行った。さらにフルルも「領主様の邪魔をしちゃ駄目だぞ」と彼らを追って輪を抜ける。

「あ、あのぅ」

 ヴンダーが小さく手を挙げた。

「本当に同じ個体なんでしょうか……? 本当に、ここにアイスドラゴンが? いやいや、レオハルトやミハルの魔覚を疑っている訳ではなくてですね、でも、その……あまりにも」

「信じがたいでしょう?」

「あ、う、はい、とても。だって……あっ……だけど、あれか……勇者って……」

 ヴンダーには何やら心当たりが出てきたようである。そして、プルェ・プティカのメンバーは一様に苦い顔をして会話を聞いているのだった。
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