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元魔王城(142〜)
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しおりを挟むヴンダーは勇者に関する記憶を辿った。もともと勇者というものには全く関心のないヴンダーだったので数秒は思い出すのに時間が掛かったが、一つ二つと頭の中にある記憶の引き出しが開かれると、あとはその異常な記憶能力により蓄積されていた情報が次々と思い起こされていった。
「ああ、そうそう、あの勇者って外道として有名ですよね」
「外道……?」
聞いた数名は目を丸くし、数名は眉を顰めた。
「僕は一度しか会ったことないんで殆ど噂に聞いた話ですけど。なんでも、魔王軍と見ればところ構わず大規模な攻撃を仕掛けるらしくて、町や村が壊されたり通りすがりの商人なんかが巻き込まれたりすることも少なくないそうで。あと、逃げた村人の家に空き巣に入ったり──」
「あ、空き巣⁉︎」
ミハルが驚愕し、ソロウと顔を見合わせる。そこへ「それだけじゃないわよ」と、ハンナが割って入った。
「町村から魔物を追い払った時には住民に法外な謝礼金を求めたり、国王から資金が支給されてるはずなのに宿屋や酒場や道具屋の代金を支払わないとか、もっと酷いのって言ったら、野盗どもを脅して商人を襲わせたり、人身売買に加担したり……まあとにかく外道も外道だわ」
「間違いないな」と、今度はロルトが入ってきた。「俺が知ってるだけでもその大半が事実だ。幸い色事には興味がないみたいで女をどうこうって話は聞かないが、その他はまさに絵に描いたようなクズだよ」
勇者の話を聞く一同が言葉を失っているなか、アレクシアとエモリーまでが全くその通りであるという風に頷いた。
「今の勇者は真性のクズです。勇者装備の強化に失敗した鍛冶屋の両腕を折った話も事実でした」
「賭博で擦ってこさえた借金も全部踏み倒して、今じゃ国王に山のような借用書が届いてるらしいぜ」
ソロウ、ミハル、ギムナック、そして兵士らは気を失いそうになるほど驚き、失望した。
王都より西側には魔王が居るといわれる瘴気の壁が存在しないため、通常は勇者と関わる機会が無い。特にヴレド伯爵領以西では勇者に対する興味のなさは露骨で、アルベルムに届く前に勇者に関わる大抵の情報が荒野の道端にでも捨てられて風化して呆気なく消える。
人類の一番の脅威であると言っても過言ではない魔王と、魔王を打ち倒すために旅を続ける勇者。興味深く注目されて然るべき重要な話題であるはずが、何故このように無関心の犠牲となってしまうのか。
理由は明らかである。
というのも、ヴレド伯爵領の荘園での領民の暮らしは幸か不幸か極めて充実しており、ヴレド伯爵というおかしな人のおかげで毎日の話題にも事欠かないのだ。また、アルベルム辺境伯領の領民も全体的に見れば非常に充実した暮らしに身を置いていて、ヴレド伯爵領を通過して届くような如何わしい噂話などには見向きもしない。それに度々魔物の軍勢を辺境伯軍や冒険者らが撃退したり、アルベルム辺境伯というおかしな人や活発な冒険者たちが毎日新鮮な話題を提供してくれるので、井戸端会議や酒の肴に困ることもない。
さらに言えば、勇者とはもうずっと長い間存在し続けているものであって、過去の沢山の勇者たちにもそれぞれの個性があり、逸話や噂の類は積もるばかりで、既に飽きられている。しかも勇者の活動地域から遠く離れた地に住まう西側の者たちにとってはやはり勇者にまつわる多くが眉唾ものの噂話の域を出ないので、アルベルムの兵士や冒険者が勇者のことをろくに知らずとも無理はないのだ。
ただし、情報収集に関しても有能な男であるレオハルトは勇者の噂をよく仕入れていた。当然だが、万が一勇者が倒れて魔王軍が力を増せば、アルベルムにも危険が及ぶためだ。特に今の勇者は歴代で類を見ないほど信用の置けない人物である。レオハルトは表情こそ冷静を保っていたが、辟易した様子がふと漏れた小さな吐息から察せられた。
そして、意外なことにフルルも勇者の非道には聞き覚えがあるという。
リンとリュークと一緒になってグランツの後ろを歩いていたフルルは、長い耳で話を聞いていたらしく、ぴょんぴょんと跳ねるような小走りで大人達の輪の中に戻ってきた。
「あたしも勇者の人身売買の話なら知ってるよ。ヨシュア様から『勇者には気をつけなさい』って教えられたから」
「ヨシュア神官が?」
ソロウたちは意外なところでヨシュアの名を聞いて驚いた。
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