名探偵に憧れた私はついうっかり異世界に探偵事務所を構えてしまった

冬月光輝

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第10話 フレンチトーストと国境と紫鬼

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――コンコン

 ノックの音で、あたしは起きた。
 こちらの世界に来て初めて、ふかふかのベッドで眠れたのであたしは熟睡してしまったらしい。

「ふわぁ。どうぞ」
 あたし、今日はいくらでも眠れるなあ。あくびをしながらそんなことを考える。

「涼子様、おはようございます。昨夜はよく眠れましたか?」
 ニーナが入ってきた。

「おかげさまで。それに寝巻きまでありがとうございます」
 あたしはニーナに寝巻きを貸してもらっていた。もちろん色んな意味で大きすぎたのだが……。

「それは、何よりですわ。ちょうど朝食の支度が終わりそうなので、1階に降りて頂けないでしょうか?」
 ニーナさんは笑顔で朝食に誘ってくれた。

「何から何まですみません」
 恐縮しながら、あたしはニーナと共に1階へ向かう……。

 1階に行くと意外な光景が目に飛び込んできた。エプロン姿の立花がフライパンを握っていたのだった。

「涼子くん。おはよう」
 立花は、フレンチトーストを作りながら挨拶した。

「おっおはようございます」
 あたしも少し驚いた表情で返事をした。

「もうすぐ、ゆで卵出来るよ。固ゆでだけど、構わないだろ。ウチはゆで卵はハードボイルドで決まっているんだ」
 そう言いながら、あっという間に朝食の準備が終わってしまった。

「簡単なもので、すまないねぇ。お口に合えば良いのだが」
 立花は手を合わせるのと同時にあたしとニーナも手を合わせる。

「いただきます」
 あたしたちは、食事を始めた。

「あっ美味しいー」
 フワフワのフレンチトーストを食べて、あたしは、感想をもらした。

「ふふっ、それは良かった」
 立花はニヤリと笑う。

「でも、意外でした。立花さんみたいなタイプは料理なんてしないと思ってましたから。全部ニーナさんに任せてるのかと」
 あたしはつい思ったことを言ってしまった。
 別に立花のことを生活能力が無さそうとか思ったわけじゃ無いのだけど……。

「いやぁ。それはだねぇ」
 立花はチラッとニーナを見た。ニーナはバツの悪そうな顔をしている。

「彼女は下手なんだ……、そのぉ料理が壊滅的に……。私も餓死するわけにはいかないからねぇ。自衛くらいするさ」

「先生、酷いですわ。いくら事実でも、あんまりです」
 ニーナは頬を赤らめて、抗議する。

(事実なんだ‥)
 あたしは心の中でツッコんだ。

「涼子くん。昨日貸してもらったお父さんの写真について調べて見たんだが、写真の場所が特定出来たよ」
 食べながら、立花はしれっととんでもないことを言う。

「へっ‥」
 あたしは、変な声が出た。

「まずは、写真の裏に書かれていた呪文だけど、図書館で調べたところ、これは【古代ラボン語】だった。ラボン地方には城は50箇所以上あるのだけど、この写真の城は城門付近の建築方法が特徴的で少なくとも、ここ150年の間に建てられたものなんだよ」
 立花はコーヒーをひと口飲んだ。

「それでも、10箇所以上城は残った。そこで私は15年~13年前の失踪事件について調べてみた。いやあ、失踪って結構起こっているものだねぇ」

「先生、また余計なことをおっしゃっていますわ」
 ニーナが、咎める。

「こりゃまた、失敬。そして私は1つの事件に注目した。ある城で起きた、煙のように消えた騎士とその家族の失踪事件にね」
 立花さんの目には大きなクマが出来ていた。きっとほとんど寝てないのだろう。

「それに、あたし達の家族が巻き込まれたと言うことですか?」
 あたしは震える声で尋ねてみた。

「君はカンが鋭いねぇ。話が早くて助かるよ。私はその可能性が高いと推理している。ラボン地方のグレス王国の城に行けば真相に近づけるかもしれない」
 立花は自信満々の表情を浮かべる。

「仮に外れだとしても、行ってみる価値はあるだろうねぇ。涼子くん、着替えを買っておいたから、食べたら出かける準備をするんだよ。あと、ニーナくんは着替えの他にいつものアレも準備しておいてくれたまえ」
 立花はコーヒーを一気に飲み干すしながら言った。

「わかりました」
 あたしは短く返事をした。

「承知いたしましたわ。先生」
 ニーナも了承した。

「出発は1時間後にしよう。遅れないように準備すること」
 立花はそう言い残して席を立った。

「立花さんって、実は凄い人なんですか?」
 あたしはニーナさんに尋ねた。

「もちろんですわ。少しお口が悪いところもありますが、先生の頭の中だけは誰にも負けませんわ。信頼くださいまし」
 ニーナは自分のことのように、胸を張って自慢した。

「ふーん。なんとなく、ニーナさんがそう言ってるのを聞いたら安心してきました。あたし、着替えてきます。遅れたら立花さんに怒られちゃいそうですし」
 あたしは本心からそう答えた。

「はい!ですわ」
 ニーナは笑顔で返事をした。

――1時間後。

「先生ーまだですかぁ?」
 ニーナは立花を急かした。時間になっても立花は自分の部屋からまだ出て来ない。

――10分後。

「帽子の色はカーキで大丈夫かなぁ。からし色と迷ったんだが‥」
 立花はブツブツ言いながら謝りもせずにやってきた。

「立花さん、遅いじゃないですか!」
 あたしは、文句を言った。

「やっぱり、からし色がいいかなあ?」
 立花が引き返そうとすると‥

「先生、いい加減にして下さいまし!」
 ニーナは立花の手を引いて、強引に事務所から出た。

 そして、あたしは再び馬車乗り場まで歩いて行ったのだが、着くまでに15分も掛からなかったので妙な感覚になった。
 馬車に乗り込むと、立花は旅の説明を始めた。

「まずは、この馬車でエジシアの国境に向かう。着いたら船に乗らなくてはならないのだが、船着き場のある国に行くには、怪物(モンスター)が、出現する道を歩いて行かなくてはならない」
 立花はこれからの予定を説明した。

「モンスターですか?何かテレビゲームみたいですね」
 あたしはあまり想像せずに答えた。

「そうだねぇ、結構イメージしているので当たってると思うよ。炎を吐き出すドラゴンなんかあの辺りはよく出るなあ」
 立花は他人事のように呟いた。

「それってあたし達、無事に船着き場に辿り着けるんですか?立花さんって、実は武道の達人とか?」
 あたしは不安な顔をした。

「やだなあ、私は戦いとかそういうのは素人だよ。ドラゴンとやりあったら、5秒もかからず死んじゃうねぇ」
 立花は頭を振った。

「それじゃあ、どうやって向かうのですか?」
 あたしは混乱していた。

「もちろん、護衛がいるんだよ。とびっきりの腕利きのね」
 立花はニヤリと笑って答えた。

「それを先に言ってくださいよ。相変わらず、イジワルですね」
 あたしは文句を言って、頬を膨らませた。

――3時間後。

馬車は国境の付近のオランの町に止まった。

「先生、ちょっとあちらで買い物をさせて頂きますわ」
 ニーナはお店を指差して言った。

「そうか、では私達は先にあそこで手続きして待ってるから」
 立花は国境の入り口の近くにある建物を指差した。

「承知いたしましたわ」
 ニーナは日傘をさして小走りでお店へ向かった。

「簡易的な食料や、飲み物を買いに行ってくれてるんだよ」
 立花は説明してくれた。

建物の近くまで歩いていると後ろから大きな声がした。

 「おい!タチバナじゃないか。待っていたぞ」
 振り返ると、紫の髪をした2m以上はありそうな大男が声をかけてきた。
 大男の背中には大きな剣が背負われていた。

(この人が護衛かな。よかった~凄く強そう)
あたしは心の底から喜んだ。

「グレンくん。ご無沙汰だねぇ」
 立花も親しそうな感じだった。

「涼子くん紹介するよ、こちらのグレンくんはねエジシア王国騎士団の中でも特に腕利きでね、他の国の人からも紫鬼(パープルオーガ)と呼ばれて恐れられていたんだよ」

(ダサいあだ名だったんだなあ)
 心の中で悪口を言ってしまったが、それだけ強いのならと安心した。

「よしてくれよ恥ずかしい。俺なんか1回も黄金の暴風雨(ゴールデンストーム)に勝てなかったんだからよ。奴は元気にしてるのかい?」
 グレンは頭を掻きながら言った。

(変なあだ名が流行っているんだなあ)
 あたしは、どうでもいいことを考えていた。

「ああ、すこぶる元気だよ。今度一緒に食事でもしよう。あと例のものを持ってきてくれたかい?」
 立花は答えると、手を出した。

「もちろんよ。急だったから2個しか用意出来なかったけど十分だろ」
 グレンは袋を取り出して立花に渡した。

「悪いねぇ。忙しいのに無理言っちゃって。それじゃあ仕事気を付けてね」
 立花は手を振った。

「まあ心配はしてないが、お前らも気を付けろよ」
 グレンも手を振ってどこかに行ってしまった。

「あのお、グレンさんどこかに行ってしまわれたみたいですけど」
あたしは慌てて立花に話しかけた。

「そりゃあ、騎士団の仕事があるからねぇ。たまたま仕事で、ここに来ていただけだし」
立花は当たり前の顔をしていた。

「グレンさんが護衛じゃないんでしたら、誰が来るんですか?グリーンオーガですか?ホワイトオーガですか?」
 動揺してあたしは訳のわからないことを口走った。

「おお、来た来た。こっちだよぉ」
 立花は手を振って合図した。

(遂に来たか。待ってました)
 あたしが振り返ると、日傘をさした美女がこちらに手を振りながら、小走りで近づいてくる。

 どう見てもニーナだった。

(大丈夫かなあ)
 旅の始まりから、あたしはゲンナリしていた。
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