名探偵に憧れた私はついうっかり異世界に探偵事務所を構えてしまった

第26話 真髄と流星と作戦

「能力の秘密がバレた途端に余裕もなくなったみたいだな。今度は僕のターンだ」
　レオンは素早い動きでフィリップを翻弄しようとした。
　
「どうだ、見切ることは出来まい。セイファー流の真髄とは…」
　レオンがそう言いながら斬撃を加えようとした瞬間、フィリップの姿が煙のように消えてしまった。

「高速の動きによって斬撃のダメージを上乗せする。でしたっけ?」
　フィリップはレオンの背後にいきなり現れた。

「何っ…ぐっぐわぁ」
　レオンは吹き飛ばされる。

「まだ、終わってませんよ」
　フィリップは指からレオンに向かって圧縮された衝撃波を連射した。

　レオンは腕も足もボロボロになって、あたしの近くに倒れた。

「レオンさん…簡単にやられちゃった」
　あたしは小声で呟いた。

「聞こえたぞ、誰が簡単にやられるか。君は結構口が悪いな」
　レオンは剣を杖がわりにして何とか立ち上がる。

(耳は良いんだな)

「でも、一度逃げて立花さん達と一緒に挑んだほうが良いかも知れませんよ」
　あたしは、レオンにアドバイスしたつもりだった。

「僕がペテン師と出来損ないの妹に助けを求めるだって？君は本気でそんなことを言っているのか？」
　レオンは大声で叫んだ。

「そんなことをするくらいなら死を選ぶし、僕はまだ負けてない」
　レオンの身体は今まで以上に輝いて太陽のように眩しかった。

「セイファー流、奥義、光竜の咆哮(ドラゴンインパクト)」
　流星のような大きな光の塊が超高速でフィリップを貫いた。

「僕にこの切り札を使わせたことだけは認めてやるよ。だけど、結局正義は勝つのさ」
　レオンは勝利を確信して言った。

「切り札にしては、結局スピード任せの雑な技ですね。少し残念でしたよ」
　フィリップはまた、レオンの背後に立っていた。

「テレポートって知っていますか？どんなスピードもこの能力には関係ありません。貴方はどんなに頑張っても勝てないことが、わかりましたでしょうか？」
　そう言い残すと、フィリップは両手をレオンの背中に当てる。

「それでは、生きていましたらまた会いましょう」

――ズドォォォン

重い衝撃がレオンの体を貫くと、彼は地面に埋まるように激突して動かなくなった。

「お待たせしました。さあ行きましょう」
　あたしは再び、フィリップに抱えられて何処かに連れられていった。

――ホテルの前――

「まったく、私としたことが情けないねぇ」
　ようやく起き上がることが出来た立花はフィリップの言葉を噛み締める。
「受けてやろうじゃないの」
　独り言を呟いて、埃だらけのコートを羽織る。

――15分後。

立花は倒れているニーナの元にたどり着いた。

「ニーナくん、しっかりしたまえ」
　気絶しているニーナに何度か声をかけた。

「せっ先生、ニーナは役立たずです…」
　目を覚ましたニーナは泣きそうな顔で自分を批判した。

「よく頑張ってくれた。そして、よく生きてくれたねぇ」
　立花はニーナを労った。

「私もかなりの誤算をしていたようだ。今のフィリップは前の時よりも数段が力が増している。殺されなかったのはただの気まぐれだろうねぇ」
　立花はこれまでのことを分析する。

「幸い彼は絶対的な自信から、私に対してゲームを持ちかけてきた。これはまたとないチャンスだ。涼子くんを救出して、今度こそ彼に勝とう」
　立花はニーナに言い聞かせる。

「君の力は絶対に必要だ。ついてきてくれるかい？」
　立花は優しく問いかけた。

「はいっ必ず先生のお役に立ちたいですわ」
　ニーナの顔に力が戻った。

「彼の能力は確かに厄介極まり無いけど、弱点はあったんだ。もっともそこ付く前に先にやられちゃったのだけどね」
　立花はため息をつきながら言った。

「それでしたら、先生…！」
　ニーナは立花の目を見る。

「作戦は既にあるんだ、少し準備がいるが…。彼に勝つにはこれしかないかもしれないねぇ」
　立花の眼光は鋭く光っていた。

約束の時間まであと23時間30分