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第55話 応急処置と漆黒の矢と憎しみの感情

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「お父さんってあんなに強かったの……」
 あたしは普段温厚だった父とのギャップに驚いていた。

「そりゃあ、素性のわからない人間が、この国で親衛隊の副隊長にまでなったんだ。弱い訳ないよ」
 立花はあまり驚いて無いようだった。

「どうしたヨハン。頼りの羽はこんなに脆かったのかな?」
 和也はヨハンを挑発した。

「カズヤァ、あまり調子に乗るんじゃないですよ」
 怒れるヨハンは光の羽を再生させる。

「まずはあなたをお嬢様の前で殺します。そして、その後、あのお嬢様の【力】を貰いますね」
 ヨハンは光の羽を分裂させて、和也に攻撃する。しかし、和也に攻撃はかすりもしなかった。

「数を増やせば当たると思うとは、意外とお前って浅はかな奴だったんだな」
 和也はそう言い放つと、ヨハンの顔目掛けて攻撃した。

「ぐっ、あなたもまだ衰えてないという事ですか」
 間一髪で躱したヨハンは頬から血が流れていた。

「どうした、顔を傷付けられても激高しないところを見ると少しは成長したのかな」
 和也は完全にヨハンを圧倒していた。

「まあ、この傷はサービスしておきますよ。お嬢様を頂けましたので」
 ヨハンはニヤリと笑うと、地面から光の羽が出てきてあたしの方に向かってきた。

「くっ、待てっ」
 和也は、追いかけるが追い付けない。

――グサッ

「無事かい、涼子くん」
 立花が涼子を庇って刺されていた。

「何で‥立花さん、どうして、あたしを……」
 血まみれの立花を見て、あたしは頭がおかしくなりそうだった。

「そんな顔をしないでくれたまえ。これぐらいの傷は慣れているさ。君は逃げ切ることだけ考えたまえ」
 立花は弱々しくニヤリと笑った。

「先生、今応急処置しますわ。涼子様はここを出ることに集中してくださいまし」
 ニーナは立花の怪我の処置を始めた。
 あたしのせいだ、素直に帰っていれば、言うことを聞いていれば、あたしが居なければ‥…。
 あたしは頭が真っ白になり、気が遠くなる感覚がした。

「あの男が涼子を守って……」
 和也も立花の行動に驚いていた。

「おやおや、邪魔が入りましたか。まあ、じっくり行きますか」
 ヨハンは笑って、光の羽を更に増やしてあたしに向かわせる。

「くそっ、闘気爆破(オーラエクスプロージョン)」
 和也の体から放たれた闘気の塊は光の羽を次々に破壊する。

「流石にこれはキツイな」
 和也は体力の消耗を実感していた。

「おや、ようやく体力の差が出てきましたね。私の勝ちです」
 ヨハンは分裂させた羽を一つに集めて、今までで一番巨大な羽を作り出した。

「気が変わりました。皆さんには先に死んで頂きましょうか」
 ヨハンは巨大な羽を振り落とした。

「くそっ防ぎ切れない」
 和也は舌打ちした。

「僕の力では、無理なのか」
 レオンは無力さを呪った。

「先生、ニーナは頑張りましたが駄目でした。申し訳ありませんですわ」
 ニーナは目を閉じた。

「そんな、立花さんも、みんなも助からない。あたしのせいで‥」
 あたしは全てを呪った。

『ァレをコロセば、イィデはナイカ』

「誰? 何を言っているの?」
 あたしの耳に知らない声が響く。

『コロセ、コロスのダ』

 次第に声が大きくなるにつれて、あたしの意識は無くなった。

一―そして、ヨハンの巨大な光の羽は辺り一体を押しつぶした。

「ククッみんな死にましたね。さあて後はディナータイムですよ」
 ヨハンは勝ち誇った顔をしていた。

――バキュゥゥゥン

 突然、漆黒の矢がヨハンの羽を貫いた。

「何ですかこれは?」
 ヨハンは怪訝な顔をする。

 あたしの体は真っ黒に染まって、心は憎しみの感情で埋め尽くす……。

「オマエをコロス」
 憎しみの感情は、あたしの中の【力】を呼び覚ました。あたしは何もかも壊したい気分だった……。
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