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第九話
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「聞き間違いではないですよね? リーンハルト様、私と再び婚約をしたいと仰せになられましたか?」
あまりにも、数秒前のリーンハルト様の言葉が信じられないので私は思わず聞き返してしまいました。
なんせ、私との婚約を破棄して妹のミリムと婚約されてまだ一ヶ月も経っていないのですから。
あれだけ、ミリムのことを美しいだとか、運命の人だとか、持ち上げておいて――彼女と結婚して幸せになることは自分の義務だと言っておきながら、そんなことを言えるはずありません。
「そう言ったのだが。おめでとう、君こそ次期公爵である僕の妻に相応しい。認めるよ、君は教養豊かで、頭も良く、何よりも品性がある。ミリムなんかじゃあ、到底及びもつかない人間だ」
おめでとう、ではありませんよ。
あれだけ大騒ぎしておいて、あっさりミリムまで捨てようとする男性なんて次期公爵であろうが関係なく怖すぎます。
そもそも、最初に私と婚約破棄して妹と婚約すること自体が非常識極まりないと私は思っていましたのに……。
どう考えても悪い冗談にしか聞こえないのですが、リーンハルト様は癖毛が特徴的な茶髪をかきあげて、黒曜石のような瞳でまっすぐにこちらを見つめます。
その表情は真剣そのものでしたが、私にはその真剣さが恐ろしく感じました。
「リーンハルト様、妹のミリムが何か粗相を? それについては謝りますが、私ともう一度婚約することは無理ですよ。何故なら――」
こんなにも早くミリムと別れたいと仰るということは、何か事情はあるのだと思われます。
大方、彼女が何かしらリーンハルト様の琴線に触れるようなことをしたのでしょう。
しかし、どちらにせよ、アルビニア王国の王太子であるアルフレート殿下との婚約が成立している私はそもそもリーンハルト様の婚約者にはなれません。
それを彼に説明しようとしたのですが――。
「あっ! いいよ、いいよ! 全っ然、気にしなくていいって! いやー、美人は三日で飽きるって本当だったんだな。君と一緒に居たほうが楽しいって気付いただけなんだ。そう、一目惚れなんてアテにしちゃ駄目だな。不思議だったんだよ、王族が誰もミリムに求婚してないなんて。こういうことだったのかー」
気にしますよ。気にするに決まってるじゃないですか。
端的に言うとミリムに飽きた、と言いたいのですよね。
明るくヘラヘラと笑いながら述べていますが、それって、最低な理由なのですよ……。
褒められた性格ではないのかもしれませんが、そんな理由で妹を雑に扱って欲しくありませんでした。
一目惚れをアテにしてはならないと仰せになりますが、あなたはあのとき大騒ぎしたのですよ。
ミリムこそが運命の糸で結ばれた生涯の伴侶だと。ロマンチックな台詞に酔いながら……。
「いえ、ミリムのことも気になりますが、そうでは無くてですね……」
「父上と母上のことか! それも問題ないさ。寧ろ、両親はシャルロットのことを気に入っていたから。公爵家の嫁に相応しいと――」
再び、私の言葉を遮って話し出すリーンハルト様。
ですから、最後まで話を聞いてください。
あなたと婚約し直すことは不可能なのです。
ミリムと会話しているときも被せて話をされて会話にならないときがありますが、リーンハルト様にも同じような癖があるみたいです。
「あ、あの、リーンハ――」
「君、僕の婚約者に何か用事かい? 見たところ、困らせているように見えたのだが」
「「――っ!?」」
私が意を決して大きな声を出そうとした、その時――。
中庭のテラスに突如として現れた長身の男性。長い金髪を靡かせながら立っているその方は中性的で美しい顔立ちをしています。
この方は間違いありません。隣国の王太子――アルフレート殿下です。
「家の方に聞いたら、こっちにいると言っていたから。ごめん、早く君に会いたくて予定より早く着いてしまったよ」
まさか、このタイミングでアルフレート殿下が現れるとは。
どうしましょう。リーンハルト様の話をまずは終わらせるべきですよね――。
あまりにも、数秒前のリーンハルト様の言葉が信じられないので私は思わず聞き返してしまいました。
なんせ、私との婚約を破棄して妹のミリムと婚約されてまだ一ヶ月も経っていないのですから。
あれだけ、ミリムのことを美しいだとか、運命の人だとか、持ち上げておいて――彼女と結婚して幸せになることは自分の義務だと言っておきながら、そんなことを言えるはずありません。
「そう言ったのだが。おめでとう、君こそ次期公爵である僕の妻に相応しい。認めるよ、君は教養豊かで、頭も良く、何よりも品性がある。ミリムなんかじゃあ、到底及びもつかない人間だ」
おめでとう、ではありませんよ。
あれだけ大騒ぎしておいて、あっさりミリムまで捨てようとする男性なんて次期公爵であろうが関係なく怖すぎます。
そもそも、最初に私と婚約破棄して妹と婚約すること自体が非常識極まりないと私は思っていましたのに……。
どう考えても悪い冗談にしか聞こえないのですが、リーンハルト様は癖毛が特徴的な茶髪をかきあげて、黒曜石のような瞳でまっすぐにこちらを見つめます。
その表情は真剣そのものでしたが、私にはその真剣さが恐ろしく感じました。
「リーンハルト様、妹のミリムが何か粗相を? それについては謝りますが、私ともう一度婚約することは無理ですよ。何故なら――」
こんなにも早くミリムと別れたいと仰るということは、何か事情はあるのだと思われます。
大方、彼女が何かしらリーンハルト様の琴線に触れるようなことをしたのでしょう。
しかし、どちらにせよ、アルビニア王国の王太子であるアルフレート殿下との婚約が成立している私はそもそもリーンハルト様の婚約者にはなれません。
それを彼に説明しようとしたのですが――。
「あっ! いいよ、いいよ! 全っ然、気にしなくていいって! いやー、美人は三日で飽きるって本当だったんだな。君と一緒に居たほうが楽しいって気付いただけなんだ。そう、一目惚れなんてアテにしちゃ駄目だな。不思議だったんだよ、王族が誰もミリムに求婚してないなんて。こういうことだったのかー」
気にしますよ。気にするに決まってるじゃないですか。
端的に言うとミリムに飽きた、と言いたいのですよね。
明るくヘラヘラと笑いながら述べていますが、それって、最低な理由なのですよ……。
褒められた性格ではないのかもしれませんが、そんな理由で妹を雑に扱って欲しくありませんでした。
一目惚れをアテにしてはならないと仰せになりますが、あなたはあのとき大騒ぎしたのですよ。
ミリムこそが運命の糸で結ばれた生涯の伴侶だと。ロマンチックな台詞に酔いながら……。
「いえ、ミリムのことも気になりますが、そうでは無くてですね……」
「父上と母上のことか! それも問題ないさ。寧ろ、両親はシャルロットのことを気に入っていたから。公爵家の嫁に相応しいと――」
再び、私の言葉を遮って話し出すリーンハルト様。
ですから、最後まで話を聞いてください。
あなたと婚約し直すことは不可能なのです。
ミリムと会話しているときも被せて話をされて会話にならないときがありますが、リーンハルト様にも同じような癖があるみたいです。
「あ、あの、リーンハ――」
「君、僕の婚約者に何か用事かい? 見たところ、困らせているように見えたのだが」
「「――っ!?」」
私が意を決して大きな声を出そうとした、その時――。
中庭のテラスに突如として現れた長身の男性。長い金髪を靡かせながら立っているその方は中性的で美しい顔立ちをしています。
この方は間違いありません。隣国の王太子――アルフレート殿下です。
「家の方に聞いたら、こっちにいると言っていたから。ごめん、早く君に会いたくて予定より早く着いてしまったよ」
まさか、このタイミングでアルフレート殿下が現れるとは。
どうしましょう。リーンハルト様の話をまずは終わらせるべきですよね――。
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