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第二十六話
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リーンハルト様の弟であるエルムハルト様が我が家を訪れたのですが、彼はなんとミリムを自分の妻にしたいと言い放ちました。
私たちはミリムが問題を起こしたばかりでしたので、無言になってしまいます。
あの、アルフレート殿下でさえ驚いているように見えました。
「エルムハルト殿、嬉しい申し出ですが……ミリムは先日、アルフレート殿下に粗相をしたばかりで修道院で再教育を受けさせることになったのですが」
私の父は動揺しながらも、エルムハルト様にミリムが修道院で再教育させることに決まったと説明します。
恐らく、そのことも公爵様やリーンハルト様から聞いているとは思うのですが……。
「父から聞きいております。なんでも、婚約中の身ながら殿下に迫った上にアルビニア国王陛下に名前がないと思われていたとか。何とも、ユニークな方です」
どうやら、エルムハルト様は事の顛末をご存知の上でミリムを妻にしたいと思っているみたいです。
爽やかに微笑んでいる彼は一体何を考えているのでしょう……。
どうも、ミリムのことを面白がっているように見えました。
「エルムハルトくん、君の意図するところが分からない。せっかく公爵家の跡取りになれたのに、もっと将来の公爵夫人に相応しい女性を選ぼうと思わないのか?」
アルフレート殿下も気になって仕方がないのか、つい父とエルムハルト様の会話に割り込んでしまいます。
無理もありません。公爵家ならば、縁談話が欲しいと思っている女性も多いですし、エルムハルト様はまだお若い――ゆっくりと将来のことを考えた方が良いのです。
私も両親も気になっていたことですから、気兼ねなく質問していただいて助かりました。
「そうですね。私も随分と屈折した性格になったものだと思います。どうも、頭の良い女性の方が信じられなくて……。ミリムさんはこれから厳しく躾ければ、従順になる余地はあると思いますし」
「…………」
エルムハルト様から発せられる空気が一瞬、ピリッとしました。
躾けと従順、その二つの言葉を何事もないことのように発する、エルムハルト様が少し怖かったです。
「私は兄の性格を知っていましたから、昔からいつかはこうなると思って、自分なりに家を継ぐ準備はしていました。今後のことは全部自分で決めたいんですよね。ですから、賢しい妻は要らないのです。それにミリムさんは私にとっては邪魔な兄を排除してくれた恩人ですし。あはは……」
穏やかな口調の裏から感じられるのは、兄であるリーンハルト様への侮蔑と恨み。
この方、あのミリムを従順にさせると仰っていますが、情け容赦なくあの子に接するつもりなのでしょう。まるで動物を調教するように……。
時折、ギラついて見える彼の瞳を見ながら私はそれを察しました。
「ふぅ、僕にも弟がいるが、少し怖くなってしまったよ。そんなふうに思われていたら、と思うとね」
「アルフレート殿下ほど聡明な兄を持っていましたら、喜んで跡取りになってもらいましたよ。ご安心を、ミリムさんをアルビニア王室と関わらせるという事はありませんから」
アルフレート殿下の物言いもエルムハルト様は涼しい顔で受け流し、確固たる意志を示します。
両親としてはありがたいことこの上ない提案なのでしょう。
んっ? ちょっと待ってください。
どういうことでしょう? 先程の「アルビニア王室と関わらせるということはない」という発言は……。
「それなら、願ってもいないことだ! あんな娘でよろしければ喜んで差し上げます!」
上機嫌そうに父は娘を差し出すと仰せになりました。
何とも嫌な予感がしますが……。
「ありがとうございます。では、ミリムさんは我が家の分家筋の養子ということで、あのような無教養な娘を育てた親はいらないですからね」
「「――っ!?」」
再び時が止まりました――。
私たちはミリムが問題を起こしたばかりでしたので、無言になってしまいます。
あの、アルフレート殿下でさえ驚いているように見えました。
「エルムハルト殿、嬉しい申し出ですが……ミリムは先日、アルフレート殿下に粗相をしたばかりで修道院で再教育を受けさせることになったのですが」
私の父は動揺しながらも、エルムハルト様にミリムが修道院で再教育させることに決まったと説明します。
恐らく、そのことも公爵様やリーンハルト様から聞いているとは思うのですが……。
「父から聞きいております。なんでも、婚約中の身ながら殿下に迫った上にアルビニア国王陛下に名前がないと思われていたとか。何とも、ユニークな方です」
どうやら、エルムハルト様は事の顛末をご存知の上でミリムを妻にしたいと思っているみたいです。
爽やかに微笑んでいる彼は一体何を考えているのでしょう……。
どうも、ミリムのことを面白がっているように見えました。
「エルムハルトくん、君の意図するところが分からない。せっかく公爵家の跡取りになれたのに、もっと将来の公爵夫人に相応しい女性を選ぼうと思わないのか?」
アルフレート殿下も気になって仕方がないのか、つい父とエルムハルト様の会話に割り込んでしまいます。
無理もありません。公爵家ならば、縁談話が欲しいと思っている女性も多いですし、エルムハルト様はまだお若い――ゆっくりと将来のことを考えた方が良いのです。
私も両親も気になっていたことですから、気兼ねなく質問していただいて助かりました。
「そうですね。私も随分と屈折した性格になったものだと思います。どうも、頭の良い女性の方が信じられなくて……。ミリムさんはこれから厳しく躾ければ、従順になる余地はあると思いますし」
「…………」
エルムハルト様から発せられる空気が一瞬、ピリッとしました。
躾けと従順、その二つの言葉を何事もないことのように発する、エルムハルト様が少し怖かったです。
「私は兄の性格を知っていましたから、昔からいつかはこうなると思って、自分なりに家を継ぐ準備はしていました。今後のことは全部自分で決めたいんですよね。ですから、賢しい妻は要らないのです。それにミリムさんは私にとっては邪魔な兄を排除してくれた恩人ですし。あはは……」
穏やかな口調の裏から感じられるのは、兄であるリーンハルト様への侮蔑と恨み。
この方、あのミリムを従順にさせると仰っていますが、情け容赦なくあの子に接するつもりなのでしょう。まるで動物を調教するように……。
時折、ギラついて見える彼の瞳を見ながら私はそれを察しました。
「ふぅ、僕にも弟がいるが、少し怖くなってしまったよ。そんなふうに思われていたら、と思うとね」
「アルフレート殿下ほど聡明な兄を持っていましたら、喜んで跡取りになってもらいましたよ。ご安心を、ミリムさんをアルビニア王室と関わらせるという事はありませんから」
アルフレート殿下の物言いもエルムハルト様は涼しい顔で受け流し、確固たる意志を示します。
両親としてはありがたいことこの上ない提案なのでしょう。
んっ? ちょっと待ってください。
どういうことでしょう? 先程の「アルビニア王室と関わらせるということはない」という発言は……。
「それなら、願ってもいないことだ! あんな娘でよろしければ喜んで差し上げます!」
上機嫌そうに父は娘を差し出すと仰せになりました。
何とも嫌な予感がしますが……。
「ありがとうございます。では、ミリムさんは我が家の分家筋の養子ということで、あのような無教養な娘を育てた親はいらないですからね」
「「――っ!?」」
再び時が止まりました――。
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