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Ep4 聖女恐るべし
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ひと月前――私は正式な手続きの元で皇王陛下に面会し、自分自身を見張って欲しいと懇願しました。
皇王陛下は訝しい顔をされましたが未来の娘の頼みならということで、何も聞かずに了承してくださいました。
私の行動は皇王陛下に全て筒抜けになっていますので、皇太子のでっち上げの証拠はすぐさま矛盾が露呈するという理屈です。
「お前のメモの日付と場所は全て余に届いた報告と矛盾しておる。これでもまだシラを切るつもりか?」
皇王陛下の語気は静かになりましたが威圧感は増したように感じました。
そして、周りの方の痛い視線も同時に無くなりました。
静寂――。
皇太子の赤かった顔はみるみる青くなり、小刻み震えていました。
おそらく必死で言い訳を考えているのでしょう。その姿は度を超えた悪戯がバレてお仕置きを受けている子供のようでした。
静まり返った会場で最初に口を開いたのは意外な人物でした。
「あのぉ、よく分からないのですけどぉ。殿下のことを許して上げてくれませんかぁ?」
間延びした可愛らしい声で皇太子の隣に居るクラリスが口を開きました。
えっ、この子は何を言っているのでしょうか? 分からないけど、許してほしいって――それこそ分からないのですが……。
「殿下はあたしの為を想って何か良くないことをされたのでしょう。でも、殿下はとても優しい方です。あたしみたいに何の取り柄もない、てんでダメな平民の女に丁寧で紳士的に相談に乗ってくださいました――。殿下はあたしの太陽のような方なんです。そりゃあ、空回りして失敗しちゃうこともあるけども、あたしにはそんなところも愛おしく感じます。っていやだ、あたしったら、なんて事を……」
クラリスは熱意を込めて皇太子を擁護します。
その姿はまるで天使のように美しく、声は小鳥のように可憐で清楚な感じで、必死な様子に私も応援したいと思ってしまいそうになりました。
こっ、今度の演者は一流じゃないですか……。
“何の取り柄もない”ですって? とんでもない! この方は誰からも愛される才能と容姿を持っています。
なんとも恐ろしい取り柄があるじゃないですか。
これは危なかったです。自衛手段に出てなかったら、あの男の支離滅裂な証拠とやらで押し切られて私は本当の悪女にされてしまうところでした。
それほど、クラリスの魅力は媚薬にも近い雰囲気を持っています。
敵対している私ですらその神秘的な雰囲気に飲み込まれそうになるのですから、関係ない方は彼女の味方になりたいと思っていることでしょう。
まるで、極寒の冬に春風が吹いたような――。大きく空気が変わったのを肌で感じました。
まぁ、今回は私の無実を証明する証拠がありますから、さすがにあの公明正大で理知的な皇王陛下が情に絆され判断を誤ることは無いと思いますが……。
「皇王陛下、どうか殿下を、殿下を、許して上げてください! 過ちを犯さない人間はおりません! あたしは殿下とでしたら共に償う覚悟を持っております。どこまでも添い遂げる覚悟もあります。例え地獄の果てまでだとしても……」
クラリスはさらに【聖女】パワーを増して皇王陛下に訴えてました。
さすがに無駄ですよ。今回ばかりはそちらの分が悪すぎます。
正直、私はこの件はこれで皇太子に厳罰が下り私の溜飲も多少は下がると踏んでいました。
ええ、甘かったのは私なんです。角砂糖よりも甘い私の見通し――。男の心と、クラリスの天性の“愛され力”を完全に侮っていました。
「ここには、グレイスの素行について書いたメモがある。そして、馬鹿息子の自作自演のメモももな」
皇王陛下は2枚のメモを右手に持ち、手近なところにあったロウソクに近づけました――。
「えっ――。何を――、まさか――」
私は背筋が凍りました。
事もあろうに皇王陛下は証拠のメモを燃やしてしまったのです――。
皇王であろうと人の親……。私はそれを失念していた――。
私は目の前の光景が信じられず、めまいがしました……。
皇王陛下は訝しい顔をされましたが未来の娘の頼みならということで、何も聞かずに了承してくださいました。
私の行動は皇王陛下に全て筒抜けになっていますので、皇太子のでっち上げの証拠はすぐさま矛盾が露呈するという理屈です。
「お前のメモの日付と場所は全て余に届いた報告と矛盾しておる。これでもまだシラを切るつもりか?」
皇王陛下の語気は静かになりましたが威圧感は増したように感じました。
そして、周りの方の痛い視線も同時に無くなりました。
静寂――。
皇太子の赤かった顔はみるみる青くなり、小刻み震えていました。
おそらく必死で言い訳を考えているのでしょう。その姿は度を超えた悪戯がバレてお仕置きを受けている子供のようでした。
静まり返った会場で最初に口を開いたのは意外な人物でした。
「あのぉ、よく分からないのですけどぉ。殿下のことを許して上げてくれませんかぁ?」
間延びした可愛らしい声で皇太子の隣に居るクラリスが口を開きました。
えっ、この子は何を言っているのでしょうか? 分からないけど、許してほしいって――それこそ分からないのですが……。
「殿下はあたしの為を想って何か良くないことをされたのでしょう。でも、殿下はとても優しい方です。あたしみたいに何の取り柄もない、てんでダメな平民の女に丁寧で紳士的に相談に乗ってくださいました――。殿下はあたしの太陽のような方なんです。そりゃあ、空回りして失敗しちゃうこともあるけども、あたしにはそんなところも愛おしく感じます。っていやだ、あたしったら、なんて事を……」
クラリスは熱意を込めて皇太子を擁護します。
その姿はまるで天使のように美しく、声は小鳥のように可憐で清楚な感じで、必死な様子に私も応援したいと思ってしまいそうになりました。
こっ、今度の演者は一流じゃないですか……。
“何の取り柄もない”ですって? とんでもない! この方は誰からも愛される才能と容姿を持っています。
なんとも恐ろしい取り柄があるじゃないですか。
これは危なかったです。自衛手段に出てなかったら、あの男の支離滅裂な証拠とやらで押し切られて私は本当の悪女にされてしまうところでした。
それほど、クラリスの魅力は媚薬にも近い雰囲気を持っています。
敵対している私ですらその神秘的な雰囲気に飲み込まれそうになるのですから、関係ない方は彼女の味方になりたいと思っていることでしょう。
まるで、極寒の冬に春風が吹いたような――。大きく空気が変わったのを肌で感じました。
まぁ、今回は私の無実を証明する証拠がありますから、さすがにあの公明正大で理知的な皇王陛下が情に絆され判断を誤ることは無いと思いますが……。
「皇王陛下、どうか殿下を、殿下を、許して上げてください! 過ちを犯さない人間はおりません! あたしは殿下とでしたら共に償う覚悟を持っております。どこまでも添い遂げる覚悟もあります。例え地獄の果てまでだとしても……」
クラリスはさらに【聖女】パワーを増して皇王陛下に訴えてました。
さすがに無駄ですよ。今回ばかりはそちらの分が悪すぎます。
正直、私はこの件はこれで皇太子に厳罰が下り私の溜飲も多少は下がると踏んでいました。
ええ、甘かったのは私なんです。角砂糖よりも甘い私の見通し――。男の心と、クラリスの天性の“愛され力”を完全に侮っていました。
「ここには、グレイスの素行について書いたメモがある。そして、馬鹿息子の自作自演のメモももな」
皇王陛下は2枚のメモを右手に持ち、手近なところにあったロウソクに近づけました――。
「えっ――。何を――、まさか――」
私は背筋が凍りました。
事もあろうに皇王陛下は証拠のメモを燃やしてしまったのです――。
皇王であろうと人の親……。私はそれを失念していた――。
私は目の前の光景が信じられず、めまいがしました……。
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