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Last Episode 婚約破棄
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「おっお前、この僕を、この高貴なるこの僕を、よくもっ! 許さんっ! ってあれ?」
倒れた皇太子はキョロキョロと辺りを見渡します。
「探し物はコレですかぁ? 殿下、いけませんねぇ。紳士たる者、このような物を女性に向けるのは――」
アレンデールは皇太子が落とした短剣を摘んでニコリと笑いました。
「きっ貴様はセイファー家の!? いつからここに居た?」
「ショックです――。そんなに僕って存在感なかったですかねぇ。まっそんなことはどーだっていいんですよ。殿下、この度は誠に残念でした。これから、新しい生活に突入される皇太子殿下に僕からちょっとしたアドバイスを差し上げましょう。どうか、悔しさを忘れないでいてください。それが生きる力になります……。まぁ、頑張ってください。辛くて惨めな気持ちになるでしょうが――」
アレンデールはアメジストのような瞳を光らせて皇太子に語りかけました。
「ふっふざけるなっ! この国は僕たち皇族のモノだっ! 教皇なんて、知ったことか! 全員、殺せばっ! そうだ、この国では1番偉いのは父上なんだっ! そうですよね? 父上!」
皇太子は皇王の方を見ました。そして、すぐに口を大きく開けて愕然としました。
「もうどうにもならんよ。馬鹿息子……。お前が暴れおったせいで、もう何も弁解はできん。それにな、教皇様を相手取り戦争なんて仕掛けてみろ、周辺諸国の同盟国家が黙っちゃいないぞ。ダルバート王国、パルナコルタ王国、ボルメルン帝国、ブルズ皇国……。これらの国に一斉に囲まれて終わりだ。余もお前も死罪は免れん」
皇王は教皇の護衛に既に拘束されていました。
さすがに状況の飲み込みは早かったですね。皇太子よりは……。
「嘘だぁぁぁっ! 嫌だっ! 僕には幸せになる権利があるんだっ! なんで、なんで、僕だけ、こんな目に……。クラリスっ、君は目を輝かせていたじゃないかっ! 夢の結婚生活をっ! 君だって同罪だろっ! 聖女ならっ僕をっ助けろっ! “真実の愛”を誓ったじゃないかっ!」
皇太子は悲痛な顔でクラリスを見ました。
「そう――ですね。あたしも被害者ぶるつもりはないです――。さすがにバカなあたしでも分かりますよ。グレイスお義姉様は――きっと、あたしも許さない……。ですから、殿下と一緒に罰を受けるつもりです」
クラリスは真剣に皇太子の目を見て言葉を発しました。
私が貴女に対して抱いている感情に既に気付いて、じゃあ、何故……。
「グレイスお義姉様、ごめんなさい。あたし、今さら、自分勝手に気付いたの。裏切られるってこんなに痛いんだってわかったら、呑気に幸せな結婚生活を空想してたのが、如何に馬鹿だったっのだろうって、お義姉様はもっと痛く傷ついたんだろうなって、本当に今さら気付いたの――。だから、それでも、強く自分を貫き通した、尊敬するお義姉様に罰してもらうことが――あたしの1番の願いです」
クラリスは今度は私の方を向いて気持ちを吐き出しました。
本当に今さら、何を――。誰からも無条件で愛される貴女を罰したりしたら、私がどうなるかわかったものではないじゃないですか。
しかし、貴女が望んでいるなら、それは別でしょうね。だったら、私は――。
「グレイスっ! 僕はこの聖女に騙されていたんだっ! もう、全部無かったことにしよう! 君と結婚してやる。これで君は皇太子妃だっ! 結婚式も日取りが近いし、元に戻そうよっ!」
皇太子は今度は私に土下座する勢いで迫ってきました。貴方、さっき私を殺そうとしたこと、忘れてませんか? どういう思考をしているのか、本気で怖いのですが……。
「そうですね。殿下は責任を取ってくれるみたいですし――。私も誠意を見せなくてはいけませんね」
「そうだっ! 僕は責任を持つよ! 責任を持って君を幸せに――」
「皇太子の身分を捨てるって責任の取り方は、なかなか出来ません。ええ、殿下はきっちり痛い目を見て下さいました。ですから、私もキチンとお約束通り、“婚約破棄”して差し上げましょう――。ほら、貴方の悲願でしたよね。なんせ、私を“悪女”と扱ってまで“婚約破棄”をしたがっていたのですから――」
「そっそんな――。僕は、グレイスにも、クラリスにも、見捨てられたのか――」
皇太子は目から生気を失い、ピクリとも動かなくなりました。
こうして、私はアレクトロン皇国の皇太子と婚約破棄を成立させたのです。
終わってみると、存外気分が良くなるものです。
しかし、いい経験になったとプラスに取りたいですが、まぁ……そのう、二度と経験したくないですね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから2ヶ月ほど時が流れました――。
「意外でしたよ。てっきり私は貴方は王になりたいと願っているものだと思っていましたから――」
私は旅支度をしているアレンデールに話しかけました。
「ふふっ、僕が王ですか? 想像してご覧なさい。僕みたいな“人でなし”が王になった国を――」
アレンデールは相変わらずの調子で返事をします。
「そうですね。控えめに言って地獄です」
「これは、また手厳しい。まぁ、今さら“セイファー家の築いた”アレクトロン王国の再興なんて興味はないですよ。皇族に精一杯の嫌がらせを出来たので満足です」
「逆に質が悪すぎて笑えないのですが――。最後まで手際が良くて文句も言えないのが悔しいですね――。まさか、お父様が王になるなんて――」
そう、アレンデールの手回しと、【聖女】になることを断ったにも関わらず持ち前の愛され力で教皇に気に入られたクラリスが娘ということもあり、教皇はアルティメシア公爵を次期国王に推薦しました。
アレクトロン皇国、改め、アレクトロン王国の誕生です。
「貴女も王女になれたんだ。良かったじゃないですか。――と言いたいところですが、なぜ貴女も旅支度を?」
アレンデールは大きな荷物を持った私に疑問を投げかけました。
「それは、私は“自由”を手に入れたからですよ。クラリスの心変わりには感謝ですね。彼女に罰を与えたおかげで私は思いっきり、この広い世界で“自由”を堪能できます!」
私は両手を挙げて背伸びをしながら言いました。
「はぁ、さっぱり分かりません」
「ですから、クラリスに私の身代わりになって貰ったんですよ。王女になってもらって、教皇とも親密な関係を築き、更に、隣国のローレンス皇太子がなんと、婿養子にまでなってアルティメシア家の跡継ぎになってくれたのです。“聖女パワー”はすごいですねー」
私はクラリスにアルティメシア家の令嬢の身代わりをしてもらいました。
効果は思いの外、すごいものでして、まさか隣国の皇太子が義理の弟になるとは思いませんでした。
「ローレンス殿もまぁ、幸せそうでしたし、ダルバート王としては、息子のうちの一人が隣国の王になるのなら国力増強が出来ると目論んだのも手伝ったのでしょう。私もそれは予想外でした――。しかし、それと貴女の旅立ちに何が関係しているのでしょうか?」
「ですから、クラリスに頼んだのですよ。私の自由を願って欲しいと。彼女は不思議そうな顔をしていましたが、効果はありました。――お父様が私の旅立ちを許してくれたのです。『お前を家に縛り付けて悪かった。不都合は全てなんとかするから自由に生きなさい』と仰ってくれました」
アルティメシア家が盤石なものとなり、さらに跡継ぎ問題も解決した私には何の憂いもありませんでした。
幼い日より世界を自由に冒険したいという夢を必死に忘れようとして、自分を殺して生きてきました。
しかし、今日から新しい生活がスタートです。私は旅立ちます。
「それは、おめでとうございます。――最後にひとつだけ、なぜ僕とリルアちゃんに付いてくるのです? せっかくの自由を満喫するのに僕らは不要でしょ」
そう、私はアレンデールの旅に付いていくつもりです。彼は世界中の歴史の裏に残された陰謀と、謎を追求する旅にリルアとともに出発するところでした。
「それは、リルアさんがどうしてもって仰るからであって、貴方には関係ありません――」
「おや、これはウチの妹のワガママでしたか。リルアちゃんは何を考えてるのだか……。僕らの旅は割と危険ですよ。前に話したでしょう、僕に流れている悪魔の血の話を――。実は、今から向かうブルズ皇国にも似たような話がありましてねぇ。悪魔の血を持つ2人の皇子が殺し合いを秘密裏に行われた様なのです。まぁ、詳しいことはこれから調査しますが、国家機密に関わることなのでねぇ。お嬢さんには危険な旅になると思いますよ」
アレンデールは脅しを含めたような言い方をしてきました。
「問題ないです。もう、とっくに危険な橋は渡った経験がありますから――」
私は首を横に振って、アレンデールの目を見つめました。
「――はぁ。僕は責任取りませんから――。彼らに守ってもらってくださいよ」
アレンデールが私の後ろに目をやると――。
「――そんなことだろうと、思いましたよ。では、我々も同行しましょう」
「お嬢、ウチらも付いてけってさ。国王命令だ」
「グレイス様ぁ、勝手に出ていかないでください」
アシュクロフト、セリス、エリーカが追いかけてきました。父が命令したのですか……。はぁ、相変わらず過保護なのですから――。
「それでは、これからよろしくお願いします。あまり、気の利いたことは出来ませんが……」
「ええ、貴方にそんな期待はしてませんので――」
「ふふっ、そういうところが可愛いらしい方ですねぇ」
「あら、そうでしょうか? 私は貴方のそういうところが憎たらしいと思いますよ」
アレンデールが差し出した手を握り、私は新しい“自由”の世界に足を踏み入れました。
これから、私を待ち受ける冒険の日々――それはまた、別の物語です。
『悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?』
完
―――――――――――――――――――――――――――――
あとがきのような言い訳のようなもの
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
初めて異世界恋愛のジャンルに手を出して無事に完結出来てホッとしています。
多分クラリスへの処遇が甘いって思われるんじゃないかなぁって思っているのですけど、まぁ甘いのはその通りなんです。
ただ、グレイスとしては自分の身代わりとして、家の基盤のために利用する方が得だと考えて、彼女の一生を縛ることを、慰謝料として貰ったと納得していただければ――やっぱり無理がありますかね……。
本当にここまでお付き合いしてくださってありがとうございます。ご意見やご感想があれば、お気軽に仰ってください!
あっあと、私事で恐縮ですが、新連載を開始しました。
『聖女になって帰郷したら婚約破棄されました』というタイトルなのですが、この作品と似たようなノリで、スケールとファンタジー要素を大きくした感じに仕上げております。
こちらの方も、是非ご興味ありましたら応援の方を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
最後に宣伝をしちゃって申し訳ありませんでした!
倒れた皇太子はキョロキョロと辺りを見渡します。
「探し物はコレですかぁ? 殿下、いけませんねぇ。紳士たる者、このような物を女性に向けるのは――」
アレンデールは皇太子が落とした短剣を摘んでニコリと笑いました。
「きっ貴様はセイファー家の!? いつからここに居た?」
「ショックです――。そんなに僕って存在感なかったですかねぇ。まっそんなことはどーだっていいんですよ。殿下、この度は誠に残念でした。これから、新しい生活に突入される皇太子殿下に僕からちょっとしたアドバイスを差し上げましょう。どうか、悔しさを忘れないでいてください。それが生きる力になります……。まぁ、頑張ってください。辛くて惨めな気持ちになるでしょうが――」
アレンデールはアメジストのような瞳を光らせて皇太子に語りかけました。
「ふっふざけるなっ! この国は僕たち皇族のモノだっ! 教皇なんて、知ったことか! 全員、殺せばっ! そうだ、この国では1番偉いのは父上なんだっ! そうですよね? 父上!」
皇太子は皇王の方を見ました。そして、すぐに口を大きく開けて愕然としました。
「もうどうにもならんよ。馬鹿息子……。お前が暴れおったせいで、もう何も弁解はできん。それにな、教皇様を相手取り戦争なんて仕掛けてみろ、周辺諸国の同盟国家が黙っちゃいないぞ。ダルバート王国、パルナコルタ王国、ボルメルン帝国、ブルズ皇国……。これらの国に一斉に囲まれて終わりだ。余もお前も死罪は免れん」
皇王は教皇の護衛に既に拘束されていました。
さすがに状況の飲み込みは早かったですね。皇太子よりは……。
「嘘だぁぁぁっ! 嫌だっ! 僕には幸せになる権利があるんだっ! なんで、なんで、僕だけ、こんな目に……。クラリスっ、君は目を輝かせていたじゃないかっ! 夢の結婚生活をっ! 君だって同罪だろっ! 聖女ならっ僕をっ助けろっ! “真実の愛”を誓ったじゃないかっ!」
皇太子は悲痛な顔でクラリスを見ました。
「そう――ですね。あたしも被害者ぶるつもりはないです――。さすがにバカなあたしでも分かりますよ。グレイスお義姉様は――きっと、あたしも許さない……。ですから、殿下と一緒に罰を受けるつもりです」
クラリスは真剣に皇太子の目を見て言葉を発しました。
私が貴女に対して抱いている感情に既に気付いて、じゃあ、何故……。
「グレイスお義姉様、ごめんなさい。あたし、今さら、自分勝手に気付いたの。裏切られるってこんなに痛いんだってわかったら、呑気に幸せな結婚生活を空想してたのが、如何に馬鹿だったっのだろうって、お義姉様はもっと痛く傷ついたんだろうなって、本当に今さら気付いたの――。だから、それでも、強く自分を貫き通した、尊敬するお義姉様に罰してもらうことが――あたしの1番の願いです」
クラリスは今度は私の方を向いて気持ちを吐き出しました。
本当に今さら、何を――。誰からも無条件で愛される貴女を罰したりしたら、私がどうなるかわかったものではないじゃないですか。
しかし、貴女が望んでいるなら、それは別でしょうね。だったら、私は――。
「グレイスっ! 僕はこの聖女に騙されていたんだっ! もう、全部無かったことにしよう! 君と結婚してやる。これで君は皇太子妃だっ! 結婚式も日取りが近いし、元に戻そうよっ!」
皇太子は今度は私に土下座する勢いで迫ってきました。貴方、さっき私を殺そうとしたこと、忘れてませんか? どういう思考をしているのか、本気で怖いのですが……。
「そうですね。殿下は責任を取ってくれるみたいですし――。私も誠意を見せなくてはいけませんね」
「そうだっ! 僕は責任を持つよ! 責任を持って君を幸せに――」
「皇太子の身分を捨てるって責任の取り方は、なかなか出来ません。ええ、殿下はきっちり痛い目を見て下さいました。ですから、私もキチンとお約束通り、“婚約破棄”して差し上げましょう――。ほら、貴方の悲願でしたよね。なんせ、私を“悪女”と扱ってまで“婚約破棄”をしたがっていたのですから――」
「そっそんな――。僕は、グレイスにも、クラリスにも、見捨てられたのか――」
皇太子は目から生気を失い、ピクリとも動かなくなりました。
こうして、私はアレクトロン皇国の皇太子と婚約破棄を成立させたのです。
終わってみると、存外気分が良くなるものです。
しかし、いい経験になったとプラスに取りたいですが、まぁ……そのう、二度と経験したくないですね。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
それから2ヶ月ほど時が流れました――。
「意外でしたよ。てっきり私は貴方は王になりたいと願っているものだと思っていましたから――」
私は旅支度をしているアレンデールに話しかけました。
「ふふっ、僕が王ですか? 想像してご覧なさい。僕みたいな“人でなし”が王になった国を――」
アレンデールは相変わらずの調子で返事をします。
「そうですね。控えめに言って地獄です」
「これは、また手厳しい。まぁ、今さら“セイファー家の築いた”アレクトロン王国の再興なんて興味はないですよ。皇族に精一杯の嫌がらせを出来たので満足です」
「逆に質が悪すぎて笑えないのですが――。最後まで手際が良くて文句も言えないのが悔しいですね――。まさか、お父様が王になるなんて――」
そう、アレンデールの手回しと、【聖女】になることを断ったにも関わらず持ち前の愛され力で教皇に気に入られたクラリスが娘ということもあり、教皇はアルティメシア公爵を次期国王に推薦しました。
アレクトロン皇国、改め、アレクトロン王国の誕生です。
「貴女も王女になれたんだ。良かったじゃないですか。――と言いたいところですが、なぜ貴女も旅支度を?」
アレンデールは大きな荷物を持った私に疑問を投げかけました。
「それは、私は“自由”を手に入れたからですよ。クラリスの心変わりには感謝ですね。彼女に罰を与えたおかげで私は思いっきり、この広い世界で“自由”を堪能できます!」
私は両手を挙げて背伸びをしながら言いました。
「はぁ、さっぱり分かりません」
「ですから、クラリスに私の身代わりになって貰ったんですよ。王女になってもらって、教皇とも親密な関係を築き、更に、隣国のローレンス皇太子がなんと、婿養子にまでなってアルティメシア家の跡継ぎになってくれたのです。“聖女パワー”はすごいですねー」
私はクラリスにアルティメシア家の令嬢の身代わりをしてもらいました。
効果は思いの外、すごいものでして、まさか隣国の皇太子が義理の弟になるとは思いませんでした。
「ローレンス殿もまぁ、幸せそうでしたし、ダルバート王としては、息子のうちの一人が隣国の王になるのなら国力増強が出来ると目論んだのも手伝ったのでしょう。私もそれは予想外でした――。しかし、それと貴女の旅立ちに何が関係しているのでしょうか?」
「ですから、クラリスに頼んだのですよ。私の自由を願って欲しいと。彼女は不思議そうな顔をしていましたが、効果はありました。――お父様が私の旅立ちを許してくれたのです。『お前を家に縛り付けて悪かった。不都合は全てなんとかするから自由に生きなさい』と仰ってくれました」
アルティメシア家が盤石なものとなり、さらに跡継ぎ問題も解決した私には何の憂いもありませんでした。
幼い日より世界を自由に冒険したいという夢を必死に忘れようとして、自分を殺して生きてきました。
しかし、今日から新しい生活がスタートです。私は旅立ちます。
「それは、おめでとうございます。――最後にひとつだけ、なぜ僕とリルアちゃんに付いてくるのです? せっかくの自由を満喫するのに僕らは不要でしょ」
そう、私はアレンデールの旅に付いていくつもりです。彼は世界中の歴史の裏に残された陰謀と、謎を追求する旅にリルアとともに出発するところでした。
「それは、リルアさんがどうしてもって仰るからであって、貴方には関係ありません――」
「おや、これはウチの妹のワガママでしたか。リルアちゃんは何を考えてるのだか……。僕らの旅は割と危険ですよ。前に話したでしょう、僕に流れている悪魔の血の話を――。実は、今から向かうブルズ皇国にも似たような話がありましてねぇ。悪魔の血を持つ2人の皇子が殺し合いを秘密裏に行われた様なのです。まぁ、詳しいことはこれから調査しますが、国家機密に関わることなのでねぇ。お嬢さんには危険な旅になると思いますよ」
アレンデールは脅しを含めたような言い方をしてきました。
「問題ないです。もう、とっくに危険な橋は渡った経験がありますから――」
私は首を横に振って、アレンデールの目を見つめました。
「――はぁ。僕は責任取りませんから――。彼らに守ってもらってくださいよ」
アレンデールが私の後ろに目をやると――。
「――そんなことだろうと、思いましたよ。では、我々も同行しましょう」
「お嬢、ウチらも付いてけってさ。国王命令だ」
「グレイス様ぁ、勝手に出ていかないでください」
アシュクロフト、セリス、エリーカが追いかけてきました。父が命令したのですか……。はぁ、相変わらず過保護なのですから――。
「それでは、これからよろしくお願いします。あまり、気の利いたことは出来ませんが……」
「ええ、貴方にそんな期待はしてませんので――」
「ふふっ、そういうところが可愛いらしい方ですねぇ」
「あら、そうでしょうか? 私は貴方のそういうところが憎たらしいと思いますよ」
アレンデールが差し出した手を握り、私は新しい“自由”の世界に足を踏み入れました。
これから、私を待ち受ける冒険の日々――それはまた、別の物語です。
『悪女扱いした上に婚約破棄したいですって?』
完
―――――――――――――――――――――――――――――
あとがきのような言い訳のようなもの
最後まで読んでいただいてありがとうございます。
初めて異世界恋愛のジャンルに手を出して無事に完結出来てホッとしています。
多分クラリスへの処遇が甘いって思われるんじゃないかなぁって思っているのですけど、まぁ甘いのはその通りなんです。
ただ、グレイスとしては自分の身代わりとして、家の基盤のために利用する方が得だと考えて、彼女の一生を縛ることを、慰謝料として貰ったと納得していただければ――やっぱり無理がありますかね……。
本当にここまでお付き合いしてくださってありがとうございます。ご意見やご感想があれば、お気軽に仰ってください!
あっあと、私事で恐縮ですが、新連載を開始しました。
『聖女になって帰郷したら婚約破棄されました』というタイトルなのですが、この作品と似たようなノリで、スケールとファンタジー要素を大きくした感じに仕上げております。
こちらの方も、是非ご興味ありましたら応援の方を何卒よろしくお願いしますm(_ _)m
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最後までお読みいただいて、ありがとうございましたm(_ _)m