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第六話

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「シーラ……、本当にすまん! 頼むから、今日だけ、今日だけ、我慢してくれぬか」

「はぁ? どういうことですか?」

 両手を合わせて、ごめんなさいのポーズを取りながら父が私に如何にも不吉な予感がするような話を振ってきた。

 止めて、止めて、止めてよ。
 なにを我慢するっていうんだろう。
 まさか、さっき玄関先が騒がしかったけど……。

「カール殿下が来られたんだ」

「やっぱり……」

「ワシも今日、書状を出そうとしてたんだ。本当だぞ。ほら、ここにある。だが、あんなに早く殿下が我が家を訪れるとか思わないだろう?」

 書状を書くってそんなに難しいことだと思っていなかったので、とっくに出していたと思っていた。話をしたのは二日前だし……。
 言葉を選ぶにしても、手間暇かかることではないだろう。
 まさか、父はなし崩し的に私がカール殿下のことを甘受するとか思っているのか。

「追い返してください。私に悪いと思っているのでしたら、お願いです」

「無茶を言うな。王族の人間を門前払い出来るはずがなかろう。頼むから、一時間で良いから、話し相手になってやってくれ。我が家を守ると思って。お願いだから……!」

 情けない声を出しながらカール殿下に帰るように言えないという我が父。
 どれだけ、家名が大事なのか分からないけど、こんなことで責められるくらいの信頼関係だったらそれは父が悪いとしか言えない。
 
「無理を仰らないでください。二日前にお話して、もう正直に申しまして、うんざりでした。本当に無理です。私に殿下の首を絞めさせるおつもりで?」

「やぁ、シーラ。首を絞めてはいけないな。死んでしまう」

「「で、殿下!?」」

 廊下で立ち話していた私の背後にカール殿下が現れた。
 父も素っ頓狂な声を出して、私も心臓が飛び出るくらい驚いてしまう。
 玄関で待たせておけなかったのか。
 今の会話、聞かれていたら嫌だな。……まっ、いいか。

「これは、カール殿下。よくおいでくださいました。それでは、お帰りください」
「こ、こら! シーラ!」

「あはは、すぐ帰そうとするゲームとか流行っているのか? 喉が渇いたな、紅茶をもらえると嬉しい」

 いえ、ゲームではなくて本当に帰ってほしいだけなんだけど。
 王子だし、婚約者だしって、甘やかしていたけど、随分と図々しく成長したものだ。
 昔から、怒ったり、苦言を言ったり、結構したんだけど無駄だったみたい。

「おい! 紅茶だ! お茶の用意をせよ!」

「は、はい! 旦那様……!」

 父が使用人に命じる声を聞いて私は彼を睨みつける。
 何をどさくさに紛れてお茶の用意をさせているのか。
 ええーっと、父はカール殿下に何か弱みでも握られているの?

「まぁ、立ち話もなんだから、座ってくれ。実は一昨日な。マリーナに婚約指輪を渡したのだが――」

 勝手に人の家の客間のソファに腰掛けようとするカール殿下はまたもやマリーナの話をする。
 ああ、もう! 父も役に立たないし、誰かこの人を何とかしてもらえないかな……!
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