寄り道

灯埜

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ぬいぐるみ

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学校帰りのちょっとした寄り道。いつも通りの公園で今日は課題をやって過ごす。
次の課題を鞄から出そうとしたとき、急に結がぬいぐるみを鞄から取って俺に渡してきた。

悠哉の葛藤はまだまだ続きそうだ。





学校帰りのちょっとした寄り道。いつも通りの公園で今日は課題をやって過ごす。
次の課題を鞄から出そうとしたとき、急に結がぬいぐるみを鞄から取って俺に渡してきた。
「メリークリスマス!」
「メリークリスマス」
「これあげる。クリスマスプレゼント」
「なにこれ」
「登校する前にガチャガチャでとった」
「そうなの?ん、なんかこのぬいぐるみ俺に似てない?」
「似てない (-д- 三 -д-) 違うキャラクターだし」
「そっかぁ?」
 この間出掛けたときに着た服とほぼ同じ服をぬいぐるみが着ている。
 これ絶対俺だろ(笑)
「ん?指どうした、怪我したのか」
「これは…あれだ、け剣山で刺した」
「お前生け花しないだろ」
「た、たまたまだ💦」
「ふぅーん、たまたまねぇ」
左右ほとんどの指に絆創膏が貼られており、少し血が滲んでいる。
「他のぬいぐるみないの?」
「あるよ、あるけど…」
「けど?」
「俺のだから、だめ」
ゴニョゴニョと口ごもって鞄をきゅっと抱き締める。
「見せてくれないの?」
「み、見せない」
「気になるなー」
「だめ」
「なんで?ガチャガチャでとったやつなんでしょ?」
「ん、うん…」
「どんなのとったのか気になるなー」
「笑わない?」
「?笑わないよ」
「…………ん」
そろりと出したのは結に似たぬいぐるみだ。
「これは、結かな?」
「ち…ちがいます」
「かわいいね」
「そ、そう?」
ほわりと嬉しそうな顔になった。
「やっぱりこれは結?」
「ちがいます」
「ふむ、認めんぞ と?」
「ん」
うなずく結。そんなにか。
「じゃあ、このぬいぐるみも俺がもらってもいい?」
「へ?」
「だってこれとこれ、なんか対みたいで可愛いし、俺はこのぬいぐるみたち可愛がったりするよ(?)」
「それは………」
「この子なんかかわいいし、なんとなくいい匂いするし…」
結に似たぬいぐるみの両脇を抱えて持ち上げ、お腹の辺りに顔を近づけて匂いをすぅ…と嗅ぐ。
「うああぁぁぁー!悠哉色っぽいの禁止!だめー!!」
俺からぬいぐるみを取り上げて顔を赤くしながら両手でぬいぐるみをぎゅっと抱き締めて抵抗する。
「何するんだよ」
「これは俺なの!俺のなの!」
「これはお前なの?」
「違う!これは俺なの!」
「だから、これはお前なのねって」
「そう!これは俺な……の…… …ん?」
「認めたな」
「うあっ」
言葉の意味を理解した結が、ぶわっと一気に顔が赤くなり、耳も首までも真っ赤になった。
「この、天然さんめ☆」
「ひどい!悠哉に嵌められたぁぁぁぁ!」
わー!と赤くなった顔を隠しながら後ろを向く結。
「ぬいぐるみもらっていい?」
俺は結の後ろから手を伸ばして、いたずらっぽくぬいぐるみをとろうとする。
「だめ」
「なに、もしかしてぬいぐるみに嫉妬してる」
「してないけど…」
「けど?」
「ぬいぐるみの匂い嗅ぐくらいなら、ぬいぐるみより俺がいるのにって思っただけ」
「ぅん……」
それを嫉妬というのだよ 結さんや…。

なにこの可愛い生き物 嫉妬してることも気づかないなんてどんだけ俺のこと好きなの可愛すぎだろどうな
「交換しないか、ぬいぐるみ」
止まらない妄想と可愛さと愛しさといろいろな感情がごちゃ混ぜになってる中、言葉を紡ぎ出す。
よく口から出てきたと思う。出てきた言葉に俺自身も内心びっくりしてるくらいだ。
「交換?……もうぬいぐるみにあんなことしない?」
「あんなこと…?あ、しないよ。本当だよ、ほら」
俺は結のうなじに鼻を寄せてす…と匂いを嗅ぐ。
「ふぁ!?あ、あ、そ、そそそそういうことじゃないんだよ!?違くて、その、ぅぁ、……うー!」
言葉に困って最後は両手で顔を覆って隠し、小さく唸る。
恥ずかしがってる顔が可愛くて思わず首にキスをしたくなったが、やめた。

ここは外で、公園で、公共の場で、人がちらほらいるからだ。

結の恥ずかしがってる顔は誰にも見せたくないし、俺だけに見せてほしいというかなんというか、独占欲丸出しなので、こんなところで独占欲丸出しにして、誰に向けてるんだよって話だよな。なに言ってるんだ俺は…。いや、何してんだ俺は…。だな。

ぐるぐると思考を働かせて自問自答しながらうなじから離れる。
「結、お菓子食べよっか」
話題を変えることにした。
「お菓子?ん、食べる」
まだ少し顔の赤い結がお菓子の言葉にパッと振り向いた。
「ジュースもあるから、飲もう」
「ん」
何事もなかったかのようにお菓子を食べながらついでに出した課題を取り組み始めた。


結をチラリと見る。

いつか結を…と思っているが、まだ…とも思っている。

俺の葛藤はまだまだ続きそうだ。
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