寄り道

灯埜

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バレンタイン

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バレンタインの日。
授業が終わる毎に結からお菓子を手渡される悠哉。
全部のお菓子に一文字ずつ文字が書かれており、授業時間毎に集まる文字を繋げて推理していくが、今朝、妹の彼氏からチョコを渡されたという話を結から聞いてから、推理も誤解が交じり、あらぬ方向に。

悠哉にもモテ期到来(?)
結を待っていると、女子から(誤解されたまま)チョコを渡されているところを結がちょうど戻ってきて──


放課後、二人で過ごす楽しくも居心地のいい幸せな時間。天然な結とそれに振り回される悠哉。
彼らは一緒の帰り道によく寄り道をする。





 そう、今日はバレンタイン。
ったく、高校生にもなってバレンタインの日の朝からそわそわしてるなんてなぁ… ふっ 心はまだまだ少年か。
とかさっき結(ゆい)に言われたんだけど、お前だってそわそわしてるだろ。人の事言えた義理か。
「ずいぶん余裕だな。お前はチョコもらったんか?」
「ぅえ!?あー、いや、まぁ…んふふ」
 なっ!?なんだその反応は!?まさか貰ったんか!?いったいどこの馬の骨に…
「今朝さ、玄関前で妹の彼氏に貰ったんだ。これ!どうぞ!って必死だったから、貰っちゃった」
「そう、なんだ」
 結の妹の彼氏…一回だけ見たことあんぞ。結にやるとか…解せぬ!
「だから、お前に言いたくてさ」
「それでお前そんなそわそわしたの?」
「えへへ」
 自慢したかっただけかよ。
「あとね女性二人からもチョコ貰ったんだー」
「え」
 女性!?ふ、二人!?
「なっ…!誰だ!?この学校のやつか!?それともどこか違う学校の」
「何慌ててんだ?母さんと妹からだぞ」
「……へ?」
「二人からパイの実とかチロルチョコとかいっぱい詰まった袋貰ったんだ。放課後食べるんだ、いいだろー。 ん?眉間に皺寄せてどした?」
「…何でもない」
 お前の言葉ですげぇ焦ったなんて、恥ずかしくて言えるか。
「あ、そうだ。これ、やるよ」
鞄からチロルチョコを二つ、コロンと俺の手の平の上に落とした。
「チロルチョコ?」
「そ、俺のおすすめ。いやチロルチョコなら全部おすすめだけど、朝から食べるならピーナッツチョコとコーヒーヌガーだな」
「そうなんだ、ありがとう」
 やった!思いがけず結からチョコを貰った✨️
「ん」
満足げににひっと笑って自分の席に戻っていった。
授業中、結からもらったチロルチョコを指で弄んで嬉しさを噛み締めていた。
 結からのチョコ、嬉しいな。勿体なくて食べられない。いっそ家の仏壇に飾ろうか。
一限目が終わった後、結がまたお菓子をあげてきた。
今度はチョコパイ一つ。
「え、何これ」
「チョコパイ」
「いやそういうことじゃなくて、なんでまた?」
「今日バレンタインだろ、だから、一限ずつ終わったらチョコ類を一つずつあげてみようかなと思って」
「なぜそうなった」
「だってほら、次何もらえるかなって、ちょっとわくわくしない?」
「小出しやめろ。そこまで子供じゃない」
「楽しみがあっていいだろ。んで、お菓子を貯めて、放課後一緒に公園で食べようよ」
「まさかそれまで」
「お・あ・ず・け」
「嘘だろおい、嘘だと言ってくれ」
「お・あ・ず・けー♥️」
両頬を両手で覆って、イタズラっぽく笑いつつ、きゃ~という顔をした。仕草が自然すぎて、男子であることも忘れるくらい可愛い。ノリがいいのはいいけど
「……………」
 耐えるこっちの身にもなってくれ。
一瞬手を伸ばして抱き締めたくなる衝動に駆られそうになったが、ここは教室。大勢のいる前でそんなことはしない!絶対!
たった今生まれた衝動と言う名の欲を空気を握るように握り潰し、握り拳をつくって耐えた。 落ち着け、俺。

二限目の授業中、気づいたことがある。一限目浮かれてて気が付かなかったが、チョコのパッケージに油性で文字が一文字ずつかかれている。
チロルチョコには「だ」
チョコパイには「き」
 もしかして、「だ」「き」「し」「め」「て」…?か?いや、いやいやいやいや待てっ!待て待て!二文字で俺の都合の行く言葉が自動変換で勝手に錬成されてしまったが、これはまだ憶測でしかない。次だ。次の菓子の文字を見てから決めよう。

「これどーぞ」
「ありがとう」
二限目が終わり、にこにこ笑顔で結がお菓子を持ってやってきた。
今度は個装のキットカットだ。
裏のメッセージ欄に「い」と書かれていた。
 「だ」「き」「い」?
 もしかして並べかえか?いや何かの暗号かもしれんし、なぞなぞ?
うーん…と頭を悩ませて三限目が始まった。国語の授業で、悩みつつも小テストをこなし、当てられて教科書の文を読み、ノートを板書した。これらを器用にこなし、最後出席カードの裏に質問や感想を書いて提出する際に、質問をしてみた。
「だ」「き」「い」ってなんだと思いますか?
お前は授業中いったい何を聞いていたんだと怒られるかもしれないが、悩んだんだ。悩んだ末の質問なんだから、仕方ないだろう。
帰りに先生から質問の答えの紙が返ってくるので、待つしかない。先生に賭ける。

「んっふっふー だいぶ貯まってきたんじゃない?お菓子」
「そうだな」
 お前が残した暗号でだいぶ悩んでいるがな。
三限目が終わり、スキップでこちらにやってきた。
次のお菓子はポッキーだ。極細五十本入り。
パッケージの裏に大きく「ぞ」と書かれていた。
「だ」「き」「い」「ぞ」?
 ますますわからん。何が言いたい?
うーんと悩みながら結とトイレに一緒に行き、結が妹と遊んだ話をしているのを黙って頷きながら聞いて四限目が始まった。
数学では抜き打ちテストがあった。
 何を悩むことがある。んなもんちゃんと授業聞いてれば解けなくもないだろ。先生も昨日のおさらいだって言ってたしな。
結の方をチラリと向くと頭を抱えて、あばばばばあちゃーって慌てた顔をしていた。
 お前昨日居眠りしてて、当てられそうになってたから、俺が起こしてたもんな。あの後復習してなかったのか。
どうしようという顔で俺と目が合った。口パクで「結頑張れ」と小さくエールを送ったところでテストが始まった。終わった後の結の顔。オワッタ………って灰になってた笑

「ありゃないよー!先生の鬼ぃ」
文句を言いながらとぼとぼゆっくり歩いてやってきた。
 あいつ今日一日で喜怒哀楽全部出てないか?(笑)忙しいやつだな(笑)
「テストおつかれさん」
「んー」
不満げな顔で俺にお菓子を手渡した。
次はチョコボールだ。
未開封の袋の上に「だ」の文字が書かれていた。
「だ」「き」「い」「ぞ」「だ」?
 やはり並べかえか?どう並べ替えも変な言葉しか出来ないが、一番無難な言葉は「だ」「い」「き」「だ」「ぞ」。だいきって誰だよ!!妹の彼氏の名前か?そんなことわざわざチョコで主張してくる意味あるか?なんぼ妹のこと好きだからって彼氏の名前まで覚えさせられるのはさすがにどうかと思うぞ結。(←前に結に、妹の友達の名前と特徴を覚えさせられた経験があるため、今回もか?とちょっと疑っている)
 昼休み聞くか?いやでもなぁ…。
昼は部活のミーティングがあるため、結とのお昼は一緒に出来ない。これから移動だ。
「結、ちょっとミーティング行ってくる」
「んー、んっんんー」
お弁当を頬張りながら手をブンブンと振って見送ってくれた。
「可愛いなぁ」
廊下を歩きながら思わず声が漏れたことに気付き、はっと慌てて口元を押さえた。立ち止まった近くに、知らない女子が「え…」っと顔を真っ赤にして俺の方を見ている。
「あ、すみません💦」と慌てて謝り、急いでその場を去った。変な誤解生まれてなきゃいいけど…。
ミーティングに参加し、お昼は部活の先輩後輩の皆でご飯を食べた。
わいわい賑やかに食べて、悩んでいることを一旦忘れた。
昼休み終わる10分前には解散。教室に戻る際、何かの視線を感じてキョロキョロと見回すが、変な様子の人は誰も居ない。
 何だ?気のせいか?
気になりはしたが、早く結に会いたくて教室に早足で向かった。
「ただいま」
「おー」
教室に戻ると結に真っ先に声をかける。振り向いた結の口の端にはゴマがついていた。
「結、口の端にゴマついてるよ」
「え、どこ?」
そう言って右の頬を手の甲でごしごしと擦る結。
「あ、違う、左の方」
今度は左の頬を手の甲でごしごしと擦る。
「違う。左の口の端だっ…て……」
「ん。ありがと」
なかなか伝わらないもどかしさで無意識に手を伸ばして結の口の端に付いたゴマを親指で取っていた。それを結が俺の親指に付いたゴマを舌でペロッと舐め…
「ふふ」
そして頬に添えた俺の手を結が掴んで添えて、くすぐったいよとふにゃりと笑った。
「ん゛ん゛っ!」
 可愛いっ!!///
渋い顔をして何とかにやけるのを耐えた。危ない。
「なした?」 
「何でもない」
無自覚と言えど、この破壊力。恐るべし…。今日は五限までで完全下校だから、あと少しで放課後だ。
「濃厚ないちゃいちゃしてるところ大変に申し訳ないのですが、そろそろ席に戻らないと先生来ちゃいますよ」
友達に背後から急に声をかけられて我に返る。そうだ、ここは教室。俺はなんてことを…!
「すまん、すぐに戻る」
友達と席に戻る。俺のとなりはクラスで最初に友達になった永瀬祥次郎(ながせ しゅうじろう)。
頭の回転が早いのか、理解も早く、俺が結に好意を寄せているのも何故か真っ先にバレた。応援してくれているらしいが、ちょっかいもかけるので、たまに何を考えているのかわからない奴でもある。
「はぁ。結、可愛いもんね」
「お前のことは良い友達だと思っている。だがな、お前に結はやらん」
「急に父親面やめろよ。怖い」
「今のは俺の恋路を脅かす言葉があった。だからお前が悪い」
「えー、俺のせいなの?笑」
祥次郎のちょっとしたちょっかい?に笑いつつも、五限目が始まった。
 もうこれはあれだ、放課後結に直接聞くしかないな。
だいきとは誰のことか、はたまた違う意味か。気になる。
英語は聞き逃せないので、悩んでいることは一旦置いておいて、授業に集中する。今回はリスニングが多い。

 終わった~。後は帰るだけ。部活は今日はない。結と一緒に居られる。
ふんふん♪と鼻歌を歌いながら鞄に教科書や筆箱を仕舞い、帰る支度を始める。
帰りのホームルームが終わり、国語の先生からの質問の回答の紙が配られた。
 「並べ替えかもしれませんね。他に何か手がかりがあれば、それも組み合わせつつ、予想しながら言葉を作ってみてはどうでしょうか。ふふ 頑張ってくださいo(´ω`o)」
 なるほど。先生のアドバイス通りにはなってます。一応。ある文字で作ってはみましたが、考えれば考えるほどおかしな解答に…。授業以外の質問なのに、こんなに丁寧な回答が返ってくるとは、先生すごいな。明日お礼を言いに行かねば。

教室を出て、結とは下駄箱の前で集合となった。
なにやら朝からやらかしたようで、没収された物を返してくれるらしく、先生に呼び出されたのだ。
「何やってんだか…。いったい何を没収されたんだ?」

 コンコン(ドアをノックする音)
「失礼します。先生来ました」
「おー、こっちな。あと、それだと俺が来たみたいな意味になるぞ笑」
トコトコと先生の机の側まで来て、アイスの所在を目で探す。
「先生、いや、叔父さん。そんなことより、俺のアイスはどこですか?(゜Д゜≡゜Д゜)?」
「なぜ言い直した。ったく、相変わらずだな。アイスなら職員室用の冷凍庫の中だよ」
「ありがとうございます。持って帰ります」
「待て待て、まず理由を聞こうか。何で登校するのにアイス持って来たんだ?しかも職員室礼儀正しく入ってきたかと思ったら、勝手に冷凍庫開けて勝手に使おうとするし、俺は朝から驚きを隠せなかったぞ」
「朝、トイレで親父と一緒に新聞とチラシを見て食べたくなったから、朝早くにコンビニに行って、買ってきたんです。お昼に食べようと思って」
「んー…ちょっと待てよ。情報量が多すぎて頭の処理が追い付かない。何?朝から新聞とチラシを見たんだな?」
「はい」
「親父さんと一緒に?」
「はい」
「トイレで??」
「はい」
「あ、ごめんその辺よくわからない。え??どんな状況??結くん家にはトイレが一つの部屋に二つのトイレが並んでるの?」
「いえ、一つの部屋に一つのトイレですね」
「だよね。じゃあ、何で親父さんと一緒にトイレで新聞とチラシ見てんだ?」
「親父がトイレしながら新聞読んでて、俺がその前で床に座ってチラシを見ている感じですね。時々新聞とチラシを交換したり話したりしてます。あ、俺は親父のトイレ待ちです」
「え、じゃあトイレのドア開きっぱで親父さんがトイレしてる傍で出待ちのお前が目の前でチラシ見てんの?」
「はい」
「お前なにやってんの??親父さん迷惑してなかったか」
先生が頭を抱えている。
「親父に最初はドア閉めろ言われてたんですが、三日続けてたら、言われなくなりました。もういいや…って呟いてましたし、うちの親父ってこう見えて順応性高いんですよ」
「諦めただけだろそれ。親父さん、可哀想に…」
哀れんだ顔を俺に向けてきた。うちの叔父であり担任の先生は、感情と表情豊かで面白いと思う。
「お前の自由人っぷりは今に始まったことじゃないからな、俺は多少慣れてきたつもりではいたが、まだまだのようだということが今思い知らされたわ」
「俺も一週間に4回も呼び出されるのもだんだん慣れてきてはいるんですけど、職員室入るとやはり緊張しますね。先生も大変ですね」
「お前と一緒にするな(-"- ) 全部お菓子関連で呼び出されてるのお前だけだからね」
「反省してるからこうして職員室訪れてるんですけど、先生に伝わってなかったんですね」
 伝わってると思ってたのに。
「ほぼ毎日のようにやられると、反省してるように見えないからな。それに、こうして職員室に来るのも、お菓子を取りにくるためだろう。はぁ、俺も甘いな。ほら、今日は完全下校だから、アイス持って早く帰りなさい」
「はーい」
冷凍庫からアイスの入った買い物袋を取り出して、アイスを一つ、先生に渡した。
「ん?なんだ?」
「今日はバレンタインなので、先生にもお一つどうぞ。今日初めて買ったんですよ」
「おー、ありがとう。パルム美味しいよな。俺アイスとかって、コタツとかストーブの前で食べるの好きなんだよ」
「わかります。ほどよく溶けて、美味しいですよね」
「いいよな。結、ホワイトデー何欲しい?」
「チロルチョコのコーヒーヌガーがほしいです」
「具体的な要望来た(笑) わかった。楽しみにしててくれ」
「はい」
「あ、姉さんによろしく」
「伝えておきます。では、失礼します」
「気をつけて帰れよー」
「はーい」
先生は母さんの弟。俺の叔父さん。入学したときは驚いたが、まさか担任になるとは思わなかったな。
袋をブンブン振り回してルンタルンタ気分でスキップしながら下駄箱に向かった。放課後は悠哉とお菓子パーティーだ。フッフッフー(にやけ顔) 悠哉が待ってる♪

「あの…」
下駄箱の前で結を待っていると、横から女子に声をかけられ、振り向くと、昼休みに見た女子がいた。
「はい」
「す…」
「?」
「す…すすっすす、ふぅ…はぁ、すすすすす好きです!私と付き合ってください!お願いします!」
九十度の角度で腰を折り、両手で勢いよくチョコの入った箱を俺に突き出してきた。
「ぇ…え!?俺!?」嘘だろ!?
驚いてフリーズ。何かの奇跡が起きない限り、こんなことってなかなか起きないだろ。っていつも思ってた。部活動一筋だったから、恋愛なんて、ましてや告白されるなんて、初めてだ。
「あ… えっと…💦」
 どう返事すればいいのか悩んだ。俺は結が好きだ。だが、こういうときのシチュエーションは考えてはいなかった。自分には全く縁遠いと思っていたからだ。
告白するなら自分から。がいいなと思っていたのもある。
「返事はホワイトデーの時でいいので…あの、チョコ、受け取ってください!」
「あ、あり」
「悠哉お待たせー。…ありゃ?💧」
後ろから結の声がして振り向くと、結は俺の姿を見て気まずい顔になった。もしかして俺やらかした?💧って顔。
「じ、じゃあ!これ!どうぞ!」
彼女はチョコの箱を俺に押し付けて、急いで帰ろうとした。
「あ!ちょっと待って!」
そこを結が急いで止めた。
「!?」
「!?」
「これ、あげる」
結が買い物袋からアイスを取り出して、彼女に渡した。
 結はいったい何を考えているんだ?
「え?あの…?」
「これ、美味しいんだよ。パルムってアイス。知ってる?」
「え、えぇ」
「これあげるよ。それだけ。バイバイ」
「は、はい、ありがとう、ございます(?)」
アイスを受け取った彼女は、結の顔を見てびくっとし、そそくさと玄関を出ていった。
「さ、悠哉、俺らも帰ろっか。公園でお菓子パーティーだ✨️」
くるりと満面の笑みで俺の方に向き直り、「ほら、早く」と腕を引っ張られながら下駄箱に行き、靴を取り出した。
 アイスもらった後のあの子の様子がおかしかったけど、結はどんな顔をしていたんだろう?
「あぁ、そうだな。帰るか」
疑問に思いつつ靴を履いていると、後ろから先生が施錠のため玄関にやってきた。
「見送りお疲れ様です。叔父さん。いや、先生」
「言い直すくらいなら、先生で頼むわ」
「考えときます(笑)」
「実行に移してくれよ」
「はーい。ほら、悠哉行くよー」
「おー」
「悠哉」
ふと先生に呼び止められて、俺は先生の方を振り向いた。
「さっきの見てたぞ。このモテ男め」
「ちがっ、たまたまですよ、たまたま💦」
「それにしても結のやつ、嫉妬してたな」
「え?嫉妬?」
「あぁ、あいつの言葉さ。母親から教わったらしいんだが、またね、は次も会いたい。バイバイやじゃあね、は縁がない限りもう会うことはないね。さようなら、はもう二度と会いたくない。の意味が込められてるんだとよ」
「え」
 そんな意味があったの?まじで??
「あいつはいつも「またね」しか言わないんだが、まさかここでバイバイが聞けるなんてな。お前がチョコ貰って、自分が貰えなかったからって、嫉妬してやんの(笑) はー、心が狭いねぇ」
やれやれと言って、俺の頭をぐしゃぐしゃと優しく撫でてくる。
 結が嫉妬?俺に?
「しかも、ありゃあ多分無意識に嫉妬したみたいだし、後は、まぁ、よろしく。じゃ、気をつけて帰れよ」
「……は、い。失礼します……」
先生に見送られて玄関を出た。
「頭ボサボサだ(笑)」
結と公園に向かって歩きながら、俺は先程の先生の言葉を思い出していた。
「なぁ、結」
「んー?何ー?」
「さっきのことなんだけどさ」
「うん」
「…いや、やっぱ何でもない。何て言おうとしたか忘れたわ」
「何それ(笑)じゃあ、思い出したら教えて」
「そうする」
「お、公園が見えてきた。おっ菓子パーティー♪ おっ菓子パーティイ♪」
スキップで公園の入り口を通り抜けて入っていく。
公園の中にある木の椅子と机がある屋根付きの休憩場所に着くと、結は机の上にレジャシートを敷いて鞄の中から大きな袋を取り出し、袋の中のお菓子を机の上にドサッと出した。
 あのリュックサックのどこにそんな大量のお菓子が入っていたんだろう💧
「結、異次元ポケット持ってたりする?」
「そんなすごいもの持ってないよ(笑) あ、悠哉、これあげる」
「お、おぅ、ありがとう」
「どういたしまして」
さぁ、食べよー!♪♪と言って、結はお菓子を選び出した。
俺はもらったパルムのアイスのパッケージをひっくり返したりして文字がないか探した。
「!」あった!見つけた!
パルムのアイスのパッケージの赤色の濃さに馴染むように黒のマッキーで書いた字が見えにくい。だがそこに大きく「す」と書かれていた。
「だ」「い」「き」「だ」「ぞ」「す」
全部揃った言葉を頭の中で並び替えをして、一つの答えが頭に浮かんだ。
「だ」「い」「す」「き」「だ」「ぞ」
「あ!」
 大好きだぞ、か!!
「結!結!わかった!」
「お。じゃあ、答えはなんでしょうか?」
「フッフッフー、" 大好きだぞ "!だな!」
「正解!」
「良かった。最初はさ、だいきだぞって書かれてるのかなと思ってさ、いや誰だよ!ってなったよね。妹の彼氏の名前かとも考えたわ」
「いやそれこそ誰だよ(笑) 因みに妹の彼氏の名前は、才崎 慶史(さいざき けいじ)君だよ」
「あぁ、あの浮気者か」
「何!?あいつ浮気してんのか!?」
「いやお前にチョコあげてたんだろ?」
「あ、浮気相手俺なの?確かにチョコもらったけど…どうしよう、妹に恨まれるかな…」
「それはないと思うけど。とりあえず開けてみようよ」
「それもそうだな」
ガサガサと彼からもらったチョコを開けて見る。
  ガサガサガサッ  カパ
「……………」
「……………」
ハートのチョコにホワイトのチョコペンで " 結愛(ゆあ)(←妹の名前)さんのこと色々教えてください。お義兄さん、これからもよろしくお願いします"
「これは…友チョ、じゃないな。同盟チョコだな」
「同盟チョコ」
「そう。妹が大好き過ぎるあまりに、俺の知り得る妹の情報を共有すべく同盟を結ぼうとしているに違いない」
「そういうことなら、これは浮気じゃないな」
俺は安堵のため息をついた。
 本当にホッとした。
「んじゃ、いっただっきまーす」
「!!あむ!」
「んんー!??」
結がチョコにかぶりつくのと同時に俺も勢いよくもう半分の部分にかぶりついた。パキッと音を立ててハートが半分に割れる。
俺の頬と唇半分、結の頬と唇半分が触れた。
「んぐ、悠哉何やってんだ!?」
結は口元についたチョコを手の甲で拭いながら、驚いた顔をしている。
「なんか気に食わなくて」
 何でよりによって同盟チョコがハート型なんだよ。
妹の彼氏に少しの嫉妬をしつつ、結の顔を見ると真っ赤だ。
「何にだよ!?」
「同盟チョコがハート型なのが許さん!」
「形にこだわるなよ。要は気持ちだろ」
「そのチョコから邪な気持ちが醸し出されているのが見えないのか」
「よこしま?何も見えないけど…、どこ?」
かじりかけのチョコを前と後ろを交互にくるくるさせながら眺める。
「横のしましまじゃなくて、邪な。良からぬ思いってことだよ」
「あぁー…… うん。知ってたよ?」
「そうか(笑)」
「お、おぅ」
 ならこっちを見ろ。目が泳いでるぞ。
「嘘へたか(笑) とりあえずそれ全部寄越せ」
「やだ」
「寄越せ」
「これは俺のだから、だめ」
チョコをカプッとかじながら防御するように俺に背を向けた。
「いいから寄越せって」
後ろから結を抱き寄せて、もうかじっているチョコを取り上げようとした。
「んんんー!!」(訳:やめろー!!)
「手を、は、な、せっ」
なお抵抗する結の横から強引に結の持っているチョコに俺もかじりついた。
「んんー!!?!?」(訳:何ぃー!!?!?)
「ん」
 結が目と鼻の先に見える。これじゃあ、まるでポッキーゲームみたいだ。
お互いに同じチョコを口にしてじっと見つめてから数分。
彼の耳が赤くなっている。多分照れてる。
 …埒があかん。
  カリッ 
「!?」
  カリッカリカリカリパリパリカリ…
俺はどんどんチョコを食べ進めて、結の口の近くまできて…
「んぅ…んっ、んん、はっ、ぁ」
「はぁ…むっ」
口の中にあるチョコを食べようとするように俺は結の口にかぶりつくようにキスをしているが、なかなか口を開こうとしない。
「んぅ、あっ、ゆ、ぅや、な、な、にして…」
チュッ チュッ っと口から頬へ、頬から首筋へ、首筋から鎖骨へ…下にゆっくり降りるようにキスをしていく。
その度にビクッびくっと体が反応している結は、俺を押して退けようと俺をぐっと押すが、力が入らないのか、俺のYシャツをきゅっと掴んで終わっている。
 ふ 可愛い。このまま俺のものにならないかな
「ゆ、ゆうやぁ」
「ん?なぁに?」
「お、俺、お前のこと図鑑で読んだことある、んだ」
「……は?」
  図鑑?なんの?
はぁはぁいいながら俺に訴えてくる。
「腹が減ると獰猛になるって…」
「それは何の図鑑かな?」
「楽しい動物図鑑」
「動物図鑑」
「ライオンとか熊の辺りにそう書いてあったよ」
「一緒にすな。腹が減れば、誰だって獰猛にもなるわ」
「は…ふぅ、そんな悠哉にはこれ!パルムー!(ドラえもんが道具を出すときの口調)」
コンビニの袋からパルムを取り出して俺に渡してきた。
「…ドーモ」
パルムを受け取ると、二人ではむっと食べた。パリッと音ともに甘いバニラが口いっぱいに広がる。
「んまい」
「な」
隣で食べる結の耳が真っ赤だ。さっきのごまかしたな。
 結とまだもう少し、このままで。
結の頬に触れて、頬に付いたチョコを指で拭って取った。
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