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好きな人
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彼女を知ったきっかけは、鼻歌でした。
そこから彼は、どんどん彼女のことが気になりはじめて、隙あらば話をかけるようになった。
そんな彼と彼女の日常を少しだけ。
今日も幸せをかみしめて、彼女の隣にいる。
「あの…すみません、探してるのってこれですか?」
大学の玄関でキョロキョロと探し物をしている清掃員に俺は声をかけた。
男子トイレの前に箒が立て掛けてあったのを届けに行くと、キョロキョロうろうろと歩き回って何かを探し回る後ろ姿が見えた。
「………どうもありがとうございます」
清掃員は箒を受け取るとお辞儀をし、図書館に続く階段まで歩いて行った。
その後ろ姿を見送っていると、俺の後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「よっ、恭。何だ何だぁ?また例の清掃員に話しかけてんの?」
「おはよ、了(りょう)。良いだろ、声かけたって」
「はぁ、熱烈だねぇ。了、妬けちゃう」
「何で妬けんだよ。お前にもいるだろ、婚約者」
「いるよー、俺の可愛い妻」
「溺愛してるくせに、俺の方が胸妬けるわ」
「妻とお前に愛されてるわー。俺は幸せもんだな」
「そりゃ良かったな(笑)」
幸せの溜め息と笑みをこぼす友人を横に、俺は次はまたどうやって声をかけようか考えていた。
気になる清掃員がいる。
いつも帽子を深くかぶり、右目にはいつも白い眼帯、そして必ずマスクをしている。作業着姿が様になっている。
髪はショート…か?帽子を深く被っているためわからない。もしかして中に入れてるっていう可能性も考えられる。最近わかったことは、その清掃員は女性ってことだけ。休日何してるとか好きなものやこと、好きな音楽とか趣味などなど…聞きたいけど、聞く隙がほとんどないというのが今の現状だ。学生がいる大勢の中で話しかけられるのを嫌うようで、この前話しかけようとした時に、静かに消えるように逃げられてしまったことがあったからだ。人数の少ない時間帯でほぼ一人になったところを見計らって声をかけるようにしている。そうなると時間も少ないし、俺は講義に出席しなければならないし、終わった後彼女を探すも、帰った後だと知る。
彼女のことをもっと知りたい。
そう思ったキッカケは本当に些細なことだった。
「~♪」
ある朝、静かな玄関に微かな鼻歌が聞こえる。
玄関にまっすぐ通じる通路があり、その左右に休憩スペースが設けられている。そこで3講目に間に合うように登校した俺は、始まるまでの間、休憩スペースで過ごしていた。提出するレポートの嵐に追われて、今日もパソコンを叩く。バイトの疲れと寝不足を抱えて。
しばらくパソコンのキーを叩いてレポートを作っていると、キーを叩く音以外に聞こえてきたもう一つの音。とても静かな大学内に微かだが聞こえる鼻歌に気づいた。
何の曲かわからないがとても心地の良いもので、寝不足の俺には安らぐ子守唄のように聞こえたのだ。いつの間にか寝こけてしまい、3講目に間に合うように来た了に起こされるまでずっと眠ってしまっていた。
「大丈夫か?」
「おー…。起こしてくれてありがとな」
「良いってことよ。3講出るだろ?」
「ん、出る」
「なら、昼飯買って来ようぜ」
「あぁ」
俺たちは昼飯を買いに席を立った。チラリと玄関の方を見る。当たり前だが、あの鼻歌は聞こえない。誰が歌っていたのだろうと疑問に思う程度だった。あの時は。
次の日。
人通りの多い玄関から右に曲がり、廊下を少し歩いて、突き当たりを右に曲がると図書館に通じる階段がある。その通路はあまり人が通らないため、声が響く。
俺は図書館にレポートの資料を借りに玄関から右に曲がり廊下を少し歩いて向かう途中、昨日聞いたあの鼻歌が聞こえてきた。
「!」
「~♪」
小走りをし、誰が歌っているのか確かめたくて急いだ。
通路を右にさらに曲がると階段が見えた。
「~♪」
見つけた!
そこには清掃員が一人、階段の掃除をしていた。回転箒を使って埃を下に落として掃いている。
「あの!」
見つけた嬉しさで、勢いよく声をかけた。
俺の声が大きく響いてしまい、掃除をしていた清掃員が肩をビクッとさせてこちらを向いた。
「!?」
「あ……すみません」
「……………何でしょうか」
「いえ、あの、その……」
清掃員の顔を見た時、思わず、はっ…と、息も思考も全部止まってしてしまった。右目に眼帯、マスクだったから…。なんであの時止まったのか自分でもわからなかった。
「お通りになるのでしたら、どうぞ」
「あ…、はい。すみません、ありがとうございます…」
真っ白の思考のまま、促されるまま階段を登り、図書室に向かい、カードキーを通して中に入り、とりあえず椅子に座った。机に突っ伏して考える。
「俺のばかぁー…(泣)」
ゆっくり思考を巡らせていく。聞きたいことや言葉が頭に蘇ってきて、残ったのは後悔だけ。
「なんであの時、何も言えなかったんだろう…」
あの清掃員は一体どんな人なんだろうか。
あの鼻歌をもう一度聞きたいと思ってしまった。
その日から毎日、鼻歌の清掃員を見つけては、少しずつ話をかけるようにしている。反応は返してくれるけど、言葉は少ない。まだまだだなと思う。
で、現在に至る。
彼女は、毎回探し物をしている。
片目が見えてないというのもあるかもしれないけど、置き忘れの可能性が高い。何かしら通った痕跡を残していくのだ。俺であったり、他の学生や先生だったりが彼女に親切に届けに行く。
どうやら日常茶飯事らしい。
できれば俺が届けたい。話すきっかけにもなる必須アイテムを誰かが拾い届けるのは正直多少の嫉妬はする。
もはや争奪戦、いや、クエストだと思ってもいい。
拾ったアイテムを使って、実際に話しかけている学生も少なからずいるからだ。(目撃情報提供者 : 了)
俺が考えていることは、同じことを他の人も考えているということ。侮れん。
今日は箒を届けた。少しだけだが話ができた。もっと話したい欲が大きくなる。
だが、今日はレポートの提出日でこれから各先生の部屋のポストに入れに行かなければならない。これがまた大変。それぞれ先生が違うため、居る部屋も違う。階も違う。棟も違うときた。学内を歩き回って提出するのだ。今日の17時までに。
今は15時50分をきったところ。急がねば!
友人の了は、早々に提出を終えているため、バイトがあると言って、「すまん、先帰るわ。また明日!」と先に帰ってしまった。
学内を歩き回り、指定された各部屋のポストに次々と書いたレポートを入れていった。
テストが近くなるとレポートの数も増える。しんどい…。
最後、一番離れている棟に向かい、時間ギリギリでやっとポストにたどり着きレポートを入れた。
「はぁー、終わったぁー!」小声で一人言が漏れる。
疲れた…。今日はもう直ぐ寝る!絶対寝る!!
ふらふらと歩いていると、ふと非常階段の直ぐ横に人一人通れるくらいの空間があることに気づいた。
疲れている時って普段気にならないことを気にしだすんだよね。疲れてるけど、なんとなく気になる…。いつもは届けたらすぐエレベーターで降りるけど、今日は寄り道をすることにした。
非常階段のすぐ横の空間を覗く。
「!?」
少し奥ばった場所に扉があった。
「こんなところに部屋なんてあったのか…知らなかったな」
扉の上を見ると、部屋の名前が書いてあった。
【宿直室】
「宿直室…」
警備員さんや先生が夜の見回りの時に泊まる部屋だよな。
電灯はなく、キャンプ用の小さな電池ランタンが扉の横の壁にかけてあるだけ。それでも十分明るい。
扉に手を掛ける。
「!」
開いた!
ゆっくり開けると、小さな個室がすぐに見えた。
小さな机と座椅子、布団が一つずつ置いてあるだけのシンプルな部屋だった。引戸の窓、小さな台所、部屋の角には一つだけ扉がある。トイレだろうか。
部屋の中を見渡していると、部屋の角の扉が開き、彼女が出てきた。
ツナギの上半身の部分を腰の辺りで結び、タンクトップ一枚の姿で、頭をタオルで拭いている。
「っ!!??」
思わず声が出かけて、口を慌てて両手で塞ぐ。今声出したらまずい!
どうして良いかわからないまま、とりあえず少しずつ後ろに下がって部屋を出ようとした。
あと少し!
あと少しと思っていた矢先にドアノブが手に当たってしまい、玄関に音が響く。
ガタン
彼女が音に反応して急にこちらを向き、箒を持って玄関に来た。
ヒュッ ガン!
箒の柄が勢いよく俺の顔の横を真っ直ぐに通りすぎ、壁に力強く止まった。
「ひっ!」
「誰だ!?」
彼女は目を細め、眉間に皺を寄せて俺を見ようとしているようだが、多分見えていない。
「俺です!氷野 恭です!」
「ひの?知らんな」
「え」
それもそうだ。まだ彼女に名乗ってすらいないことに今更ながら気づく。
「とりあえず警察に連ら」
「わー!すみませんすみませんすぐに出ていきます!警察だけは!!」
「出たら扉の前で待て。呼んだら入ってこい。いいな」
「はい!…はい?」
え?何で??
彼女の言ったことが理解できず、聞き返した。
「君に頼みたいことがある」と言って、ほら、出た出た と俺を部屋の外に押しやって扉を閉めた。
「頼みたいこと?」
5分くらい待って、声が聞こえた。
「どうぞ」
「はい!お邪魔します!」
「ん」
「はい」
言われるがままに用意してくれた座布団に座った。
「悪いがお茶を切らしててな」
「いえ、あの…お構い無く…」
ツッコミたくなる気持ちを抑えた。今俺の目の前にはコップに入った水がある。彼女の前にはお茶のペットボトル2Lが置かれている。
目の前にお茶あるじゃん!!Σ\( ̄□ ̄;)
「まず。見た?」
「何をですか?」
「全部」
「見てません」
「本当か?」
「はい!見てません!」
「神に誓って?」
「いえ、仏に誓って」
「すまない、宗教違ったか」
「大丈夫です」
「なら、いいや。で、罰として頼みたいことがあるんだが」
彼女が言った"罰"。俺が言ったこと信用してないことがわかる。まぁ、俺も嘘ついてるし…。罰ってなんだろう…。
「一つと手前の駅、わかるか?」
「大学に行く一つと手前の駅、わかります」
「最近越してきたのだが、いまいち道がよくわかってなくて困っていたんだ。その案内が罰だ」
「それだけですか?」
「あ?」
「いえ、なんでもありません!慎んでお受けいたします!!」
口を滑らせた。もっとすごいこと言われるのかなと思ってたけど、すんごい簡単な罰だったので、拍子抜けしてしまったのだ。
罰と言うよりご褒美では?あの過酷なレポート三昧の日々の後の彼女の言う罰は、最早俺にとってはご褒美だと考えてしまう。
寝不足の頭で考えて、絞り出した答えが「慎んでお受けいたします!!」だった。我ながら思うに、寝不足の思考をフル回転してももともとレポートで出しきってて空っぽだから、語彙力の無さが露見しただけだった気がする。
はぁ。恥ずかしい…。
彼女と連絡を取って日にちを決めることになった。
難点が一つ。
彼女は今時に珍しい、携帯電話を持っていなかった。
やり取りは、メモや付箋に書いてロッカーに挟んだり貼ったり。彼女のロッカーは無いので、宿直室の扉に挟んだり貼ったりして連絡を取り合った。
彼女の字はとても綺麗だ。時々字が抜けていることもあるが、そこはスルーで。あと少し字が大きい。彼女の見えやすいサイズがこのくらいなのだろうと察した。
最初の頃、普段書いている字で書いたら、返ってきた付箋で『見えずれぇよ!( ゚皿゚)💢虫眼鏡使ったわ!💢』
って返ってきた。これには流石に笑った。
ならもう少し大きく書くか。ってなって、付箋も大きめのを売店で買った。
「今日は何時に終わりますか?来週の予定を聞きたいので、待ってますよ😃」
『18時に終わる。待ってなくていい。メモのやり取りだけで十分事足りる』
「では、玄関前の昇降口付近で待ってます😉終わったら、俺の名前叫んでくださいね🖤」
『人の話しを聞け!誰が呼ぶか!!( ゚皿゚)💢』
とまあ、こんな感じに、ね。
「恭、お前嫌われてない?」
「嫌われてない。これが通常運転なんだよ」
「だったら、当たりがきついなー」
「可愛いだろ?」
「うちの恭がまさかのMとは…新たな性癖を垣間見た気がするぞ俺はぁ」
「誤解を招くような言い方すんな。Mじゃない。普通だ、普通」
「恋愛とは人を盲目にさせる…」
「なんか言ったか?」
「何も」
俺が了の方を向いたと同時にそっぽ向いた了は、そ知らぬ顔をしていた。
まったく…。
もらったメモをノートに貼る。
「おー、ノート」
「今までもらったメモをこうやって貼ってとっとこうと思って」
「あ、彼女の字、綺麗じゃん」
「そうなんだよ!俺も初めてもらった時、同じ感想が口から漏れたもん」
「プチ文通みたいだな」
「だな。今すごい幸せ」
「良かったな、幸せで。それを聞いた俺も幸せよん🌹」
両手を両の頬にそっと当てて乙女感を醸し出す了。
俺から見てもイケメンだから、乙女を醸し出しても何故か似合っているので、不思議だ。
「出た。乙女了ちゃん」
「今日待ち合わせ?なの?こんなこと書いてるけど」
「うん。この間も書いたことあったけど、ちゃんと待っててくれてたよ。そん時は俺が「清掃員のお姉さーん!」って、居そうな場所に向かって叫んだら、背後から蹴られて、挙げ句に怒られて終わったんだけどね笑」
「なんと…」
「痛かったけど、あの人顔真っ赤にして怒ってたから、なんか可愛いなと思ったんだよね」
「やっぱMじゃん」
「ちげぇわ」
了と会話をしながら次の抗議室に向かった。
17時に抗議が終わり、約束の18時になるまで図書室で本を読んで時間を潰す。
「今日は何を読もうかな」
レポートに使う本を探しつつ、読書用の本も探す。
「あ、この絵本懐かしいな。せかいいちおいしいスープだ」
絵本や小説を幾つか取って、机つきの椅子に座った。
読みながらページをゆっくりと捲る。
絵本はたまに読むと面白い。
夢中になって読みふけり、予めセットしておいたアラーム(消音バイブあり)が本の上でブブブと鳴る。
「ん?あぁ、もう時間か。これ、借りてこうかな」
読もうと思って机に置いた本を全部借りることにした。なんとなくまだ読み足りない気がしたのだ。
「集合の時間10分前だし、トイレ寄ってこ」
カウンターで本を借りて、図書室を出た。
階段を降りてすぐ横のトイレで用を足し、集合場所に向かったが、まだ少し時間がある。
18時まであと3分か。何しようかな…。あ。
鞄の中にチョコクッキーがあるのを思い出した。小腹が空いた用にいつもお菓子を常備して持ち歩いている。
「少し腹減ったし、つまんじゃおーっと」
「何をつまむって?」
「うわあああ!」
背後から急に近くで声をかけられて驚いた俺は、急いで前に逃げた。心臓バックバク。薄暗い中、目を凝らして見るとそこに立っていたのは、清掃員のお姉さんだった。
「はぁー…もぅ、びっくりしたじゃないですか!」
「油断してるのが悪い。ほら、行くぞ」
「あ、待ってくださいよぉ」
彼女がすたすたと駅に向かって行くのを俺は追いかける。
ちょうどJR来てる。
ピッ
定期を通してJRに乗り込んだ。
「座れましたね」
「あぁ、運がいいな」
ガタンゴトン ガタンゴトン
揺られてるうちに眠くなってくる。
あー!だめだ眠っちゃだめだ!何か話題を…を!?
右肩にトンと何かがぶつかった感覚に振り向くと、彼女が寝てる。
「ふぁ!?ぁんぶっ!」
喜びが口から出そうになり、慌てて口を手で塞いだ。
数分!ほんの数分しかないけど、寝てるとこなんて貴重すぎる!集中しろ俺!右側に全部の神経と精神を集中させるんだ!彼女を感じろぉ俺ぇぇぇ!!
「…………………」
全部の神経と精神を右側に。集中力を注ぐ。
『次は────』駅員のアナウンスの声で目を覚ました彼女は、俺が右側になけなしの集中力を注ぎすぎて、半屍状態のようになってきている姿に驚き、体をビクッとさせていた。
「………」俺の顔の前で手をフリフリと振り、大丈夫かの確認をしている。
そんな… 可愛い…
▶️語彙力喪失
「じゃあ…、気をつけて」
「はい、また明日!✨」
大丈夫かこいつ…とでも言いたげな顔で止まった駅を降りていく彼女。
何とかそれに答えて手を振って見送る。
『ドアが閉まります』
『発車します』
ガタンゴトン ガタンゴトン
「ふっ……疲れたぁ~」
俺はやっと気を抜いて、自分が降りる終点駅までぐっすり眠った。
テストもレポートも終わり、後は結果を待つのみ。来週発表と聞いた。
どうか!どうか!どぉうか!赤点が一つもありませんようにぃ!!
結果発表当日。
「い…」
「い?」
「いよっしゃああああああああーー!!っ…ぐ、げっほげほ」
「うわーすんごい声」
俺と了で朝イチに大学に来て見にきていた。俺たち以外に誰もいない。結果はパソコンや携帯でも見られるので、朝イチに大学に来て見る奴は多分、なかなかいない。
やった!赤点が一個もない!ギリギリな点数はいくつかはあるけど…乗りきった!俺はのりきったぞぉぉおぉおお!
床に両膝をがっくりと落として着き、両手を高くあげて顔は天を仰ぐように([赤点無し!]を噛み締めるように)目を瞑り、盛大なガッツポーズをしてしまった。嬉しさのあまり。
「俺そういうガッツポーズする奴、漫画でしか見たことないけど、実際する身近な奴初めて見たわ」
「嬉しくてついな。これで今年は乗りきった!お前は?」
「俺もないよー」
にこにことVサインをして、やったねとお互い笑う。
「さて、今日は何もないし、これからどうしようかな」
「そうさなぁ…とりあえずご飯食べ行かん?」
「だな、安心したら腹減ったし、近くのカフェでご飯食べよか」
「行こ行こ」
大学の近くにあるカフェは、大学生がよく訪れる憩いの場。カフェなのにレストランみたいなメニューも兼ね備えているちょっと不思議ところでもある。
歩いて10分のところにあるカフェは、一軒家のような古い木造建築で、大きな木が隣に青々とした葉をつけて赤い屋根を軽く覆っている。
何となくキレイ好きの魔女とか住んでそうな感じの小綺麗な見た目が印象的だ。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2名です」
「空いている席にお掛けになってお待ちください。お伺いに上がりますので」
「はい」
「席どこにする?」二人でキョロキョロと辺りを見回す。客がほとんどいないから、席も選び放題。
窓際の端っこの席に見慣れた姿が見えた。
俺 :「あ」きゃー!お姉さんだ💕と一瞬にして幸せになった笑顔。
お姉さん :「げ」すんごい嫌そうな顔。こっち来んなって顔に書いてある。
了 :「ん?」何々?っていう好奇心の顔。俺の目線に顔を向けている。
「お姉さん!💕奇遇ですね!」
「………………」
「なんかすんごい嫌そうな顔してるけど、本当にお前嫌われてない?」
「あっははは笑 ナイナイ(ヾノ・∀・`)」
「ならいいんだけど…えっと、初めまして?」
「……どうも」
「俺、こいつの親友の野々原 了って言います。よろしくお願いします」
「…私は、大学の清掃員をしている山本 出雲(やまもと いずも)と言います。よろしくお願いいたします」
「俺は」
「帰れ」
「そんなぁ、まだ何も言ってないじゃないですかぁ」
「やっぱりお前嫌われてない?」
「嫌われてない!」
「お客様、お待たせいたしました。ご注文お伺いいたします」
「「 あ 」」
店員の声に俺たち三人は一斉に店員の方を向いた。そうだった、俺と了は今席を選んでる最中だった。
「?」
店員は首をかしげて、どうしました?という顔をこちらに向けている。
す… すとん
「お、お願いします」
その席に俺たちは座らざるを得なかった。
注文をした後、料理が来るまでの間に了とお姉さんはすっかり意気投合していた。
「わかります!掃除って本当に大変なんですよ!掃除機とかかけたのに、もう誰か歩いてるの見たら、あの達成感から秒で急に落とされたような…なんかため息出ますもん」
「だよな!大学の清掃なんて掃いた後に誰か歩くから切りねぇったらさぁー」
「君たち、お酒飲んでる?」
「「 飲んでない 」」
「そうですか…」
ノリが酔っぱらいのような感じになってる。
掃除の仕方のあれこれや愚痴などを話している様子がまるで主婦と主夫がいるみたいに見える。
カヤの外の俺は、早く料理が来ないかそわそわした。どうにも居たたまれなくて。
「俺のお姉さんなのに…」
「いつお前のになったよ」
「お前のものではない」
二人してひどい。
料理が運ばれてきて、俺たちはご飯を食べながら話をした。主に清掃の話だけど。
「じゃあ、また学校で」
「いないかもしれないぞ」
「俺が見つけるので、安心してください♥️」
「今の台詞に犯罪臭がしてる」
「犯罪臭だなんてそんなっ!愛と言って!」
「ハハ…。じゃあな」
「あーん!渇いた笑いだけ残して去ってかないで~」
「やばぁ!(笑笑) 乙女が全面的に出てる(笑笑)」
「明日が楽しみだ✨️」
「あ、恭」
「ん?何?」
「明日から俺ら休み期間に入るぞ」
「……………あ」
そうだ!思い出した。俺ら明日休みだよ!なんで俺は肝心なこと忘れてたんだ!そうだよ休みだよ!
頭を抱えて、うー!と唸っていると、了がさらに付け加えてきた。
「でも、補講やら再試験で学校は休みじゃないから、彼女も来るんじゃないのかな?」
「了!頭いいな!よし、俺明日行くわ!学校!」
「よかったな」
明日の計画を了と立てて、俺は早速明日の準備をすることにした。
次の日。
「おねーさん!おはようございます!!」
「おはようございます。相変わらず元気だな」
「はい!今日の事が楽しみすぎて、まだ一睡もしてませんからね」
「何に楽しみでそんななったのか知らんけど、遠足前の子供かよ💧」
「おねぇさんに会えると思ったら、なんか興奮しちゃって…てへへ☆」
「言い方どうにかならんのか。変な奴だな」
「今日は何時に終わりますか?」
「いつも通りの18時だが…、まさかそれまで待っているつもりか?」
「当たり前じゃないですか」
「時間の無駄だ、帰れ」
「嫌だ!」
「帰れ!」
「嫌だ!」
「帰れ!だだっ子か!」
「俺は今日おねぇさんのためだけに時間を使うって決めてるんです!」
「気持ち悪い言い方すんな、仕事の邪魔だ。帰れ」
「お昼一緒に食べましょうよ。終わるまでその辺にブラリといますから」
「……………はぁ。こりゃ何を言ってもダメだな。わかった。ほら、これ宿直室の鍵。一睡もしてないんだろ?疲れたら、あそこで休んでるといいよ」
「女神様!✨️」
「なんかわからんが昇格した(笑) さて、仕事するからそこ避けてもらおうかな」
「わかりました。気をつけて作業してくださいね」
宿直室の鍵を握りしめて、彼女に手を振りながらコンビニに向かった。
「お昼は何をたべようかなー」
アイスとおにぎりと飲み物を買って、宿直室に向かう。
宿直室の中は、窓から温かい日が差しており、窓を開けると涼しい風が入り、ゆっくりと過ごすにはちょうどいい空間となっていた。
「あ、東雲さんの本かな?」
大学の図書館から借りているようだ。図書館のバーコードがついている。近くには眼鏡と虫眼鏡が置いてあった。
「これで読んでるのか…、うわー 度が強いなぁこれ」
彼女の眼鏡をつけてみると一気にくらりときた。右目だけ視力の違いがあるのか、すごく度が強い。
この眼鏡に虫眼鏡、相当だな…。
眼鏡を机の上に置いて、詩集を開いた。
この文字の大きさでも見えにくいのか。
ゆっくり読んでページを捲る。
確かにそうかも…と思う言葉が沢山綴られていた。考えさせられたり気づかされたり、共感する部分が多かった。
詩集か…
最後まで読み終えて、本を閉じる。
「俺に足りないものってまさか…」
悟っている時、ちょうど彼女がため息をつきながら帰ってきた。
「やっと休憩だよ。…なんだいたのか」
「出雲さん」
「な、なんだよ。いきなり下の名前で呼ぶなよビックリするだろ」
「俺に足りなかったものって出雲さんへの愛だと思うんですよね」
「いきなりなんの話だ?気持ち悪い」
露骨に嫌がる顔を向ける彼女。
「これからはもっと話しましょう!そして、出雲さんのこと沢山知れたらと思うんです。あ、俺のことも知ってくれたら嬉しいですけど」
「急にどうしたんだお前、変だぞ」
「この本を読んで、気づいたんです」
さっきまで読んでいた詩集を彼女に手渡す。
「あぁこれか。…なに、これ読んで悟り開いてたの?」
「はい!ヒントはもらいました」
「あっそ。よかったな」
「はい!あ、ご飯食べましょう」
「ん」
「これは」
「お茶」
「いやわかりますけど、なんでですか?」
「この間用意してなかったから、数本用意しておいた」
「あ、ありがとう、ございま、す…」
「うん」
お茶をくれるのは正直に嬉しいですけど、なんで2リットルのお茶なんだろう。これはもしやあれですか、いつものって言って取っておいてくれるお酒のボトルみたいな感じのあれですか。残りはここに置いていっていいよ的な感じの…
「あ、飲みかけとかはここには置けないから。他の警備員さん使うし、基本持って帰ることになってるから」
全然違った。そういうことなら、半分くらい減らしていかないとダメかも…。
お昼ごはんを食べた後、彼女は静かに過ごしたいらしく、お互い静かに本を読んで休憩が終わる10分前まで一緒に過ごした。
部屋には外から聞こえる電車の音と人の声、草木が揺れる音と優しい風の匂い、そして小さく聞こえる本のページを捲る音。
穏やかで過ごしやすい空間と落ち着くゆっくりとした時間だった。
こんな日があってもいいな。
そう感じた時間だった。
「さて。行く、かぁ」
ため息を一つついて、手拭いと飲み物を持って戸を開けた。
「いってらっしゃい、出雲さん」
「………ん、いって、き、ます……」
そう言って、戸を閉めた。
返事に迷った間と泳ぐ目が可愛かったが、堪えた。
彼女が仕事終わるまであと5時間。なにしようかなー。
「ん………ん!?」
彼女を見送った俺は、本の続きを読んでいる途中いつの間にか眠っていたようで、外は少しの赤みと半分ほど覆いはじめている群青色の空が見え、日も沈みかけていた。
「うあーヤバい!今何時!?」
十七時五十七分
「あちゃー寝てた…」
とりあえず起きて背伸びをする。バキッバキ ゴキッと人体から鳴っちゃいけない音が俺の体から聞こえる。
伸びただけでこんな音なる!?俺一体どんな格好で寝てたんだ?
「とりあえず、お茶飲も」
眠気覚ましにお茶を一杯飲んだ。
「ぬるい」
出しっぱなしだったしな。
「疲れてんのかな…」
熟睡してしまうとは…(反省)
夜ごはんをどこで食べようか携帯で検索をかけていると、ドアが開く音がした。
「はぁ…つかれ「お疲れ様です!出雲さん!」」
「……なんだ、まだいたのか」
「ひどい!」
「お昼だけかと思ってたから」
「俺のこと嫌いなんですか?」
「嫌いでも好きでもないな」
「可もなく不可もなくみたいなこと言わないでくださいよ(T^T)」
彼女は帰り支度をしながら、間にお茶を飲む。
「正直なところ、なんで私につきまとう」
「好きだからです!」
「即答かよ。理由は?」
「きっかけは出雲さんの鼻歌なんですけど、レポートで疲れてる時に聞いて、耳済ましてたらいつの間にか寝てしまってて。何の歌か気になって歌を最後まで聞こうとしたらいつも途中で途切れて気になるし、神出鬼没でなんか目が離せなくなってあなたを追うようになってました。今では姿を見るととても安心して心臓の鼓動がめっちゃ早くなります!」
「鼻歌?」
「はい、何の曲をいつも歌っているんですか?」
「その日の気分だから、なんだろうなぁ…」
「曲名だけでも知りたいです」
「う~ん…アニメの曲、洋楽、邦楽とか何でも聞くし、昨日は津軽海峡冬景色歌ってたしな」
「津軽海峡冬景色」
「うん。だからその日の気分で無意識に歌ってること多いね」
「じゃあ、その日に鼻歌歌ってたら、なに歌ってたか教えてくれますか?」
「どんだけだよ。まぁ、歌ってる場面に遭遇したらな」
「やった!」
「ほら、早く帰りなさい」
「一緒に帰りましょー」
「わかったわかったから、手を離せ!」
彼女の手を取ってドアの方に向かおうと歩き出すと、手を握っただけなのに頬を少し赤くした彼女が、「部屋の最終点検しないとだから、先に行け」と手を振りほどいて俺を廊下に出した。
「かわいすぎる」
俺は廊下でずるずると壁にもたれながらしゃがみこみ、行き場のない熱を吐き出すように、はぁ…と一つため息をついた。
日曜日。
罰という名のご褒美…もとい町内の案内の日がやってきた。
待ち合わせは9時、いつものJR駅の改札前。
必要なもの、カメラ。携帯のカメラ。そして、カメラ。
ふっ 俺に抜かりはない。
「お、いた」
「この氷野 恭!この日をどんなに待ちわびたことか!指折り数えてやって来た今日(こんにち)!そう!出雲さんとデイツ!!ふはははははははは!」
喜びのあまり熱がこもってしまい、握りこぶしを作って天に上げ、心の声が口から漏れでる。
「…………」
少し離れたところに待ち人の出雲さんがゆっくり後退りして行くのを見逃さなかった。
「あ!出雲さ」
「すまない、人違いだったようだ。では」
「うわーん!待って出雲さん!俺です!恭です!」
「そんなふざけた人を私は知らないな。ついてくるな」
「そんなぁ、俺たち知人通り越して友達じゃないですか」
「誰が知人通り越して友達だ。むしろあなた誰ですか?レベルで知らん奴だわ」
「それもはや赤の他人じゃないですか!ひどい!😭」
「とりあえずついてくんな。気持ち悪い」
彼女の後ろを付いていきながらポケットからメモ帳とペンを取り出し書き出す。
「赤の他人宣言して更に罵倒するなんて、出雲さんがSだということが一つわかりました。まだまだ収穫の余地ありっと…」
「歩きながら何をメモっとんのじゃ!いらん!消せ!」
カリカリと書く音を拾ったのか、後ろを振り返り戻ってきた。手を伸ばして俺からメモ帳を取り上げようとしてくる。
あぁぁぁ可愛いっ!あんなに一所懸命に手を飛ばしてる身長差で負けてんのになおも取ろうと必死になってるところとかマジ可愛い。
「出雲さんが意地悪したから、俺も意地悪します」
「いや意地悪じゃなくて本気で引いたから帰ろうとしたんだが」
「今日はデー…じゃなくて町内の案内をする約束だったじゃないですか」
「心の声がまだ口から出かけてたぞ」
「出てません」
「今日は何の約束だったかもう一度言ってみ」
「出雲さんとデーt ………町内の案内です」
「言い直すなアウトだ。サイナラ」
「あー!待ってすみません!落ち着きます。これは道案内これは道案内これは道案内」
「暗示かけてまですることか」
「はい!」
「あ、そ。まぁ、落ち着いたんならいいわ。帰る」
「えっ!?∑(´□`; 何でですか!?」
「いやむしろなんで今の流れで行けると思ったんか不思議でたまんないよ。メンタル鋼か。普通に帰るわ。なんか疲れた」
「そう言わず、美味しいお店ご紹介しますから!さぁ行きましょう!」
彼女の手を取り、ずるずると引っ張る形で渋々な顔の彼女を連れて、俺の町内案内が始まった。
「まず、ここが町内で一番よく利用されているスーパーです」
「うん」
「来たことありますよね」
「買い物に何度かな」
「じゃあ、大丈夫ですね。次はですね、ここはホームセンターです。基本、何でも売ってます。とりあえず中に入って見てみましょ」
実際に中に入ってキョロキョロと見渡し、これ欲しいやつだ、と電化製品を見て歩いたり、必要なものを買って郵送したりと充実した時間を過ごした。
ホームセンターの他に、少し離れたところにある服屋さん、その隣にある雑貨屋さん、左に曲がって10歩歩いた先に郵便局など次々とよく利用するお店や、カフェ、レストラン、食事処なども歩いたりバスを使ったりして紹介していった。
───────────────
「疲れたー」
「結構歩きましたからね」
「お腹空いたな」
「そうですねぇ、どこかで食べていきましょうか」
「さっき紹介してくれたレストラン気になる」
「じゃあ、そこにしましょう」
俺たちはレストランでご飯を食べたあと、暗くなる前に解散をした。
「あぁ楽しかった。出雲さん可愛かったな」
黒のチノパンに淡い水色のワイシャツ、鼠色の薄いカーディガンにつば付き帽子とシンプルな服装で来たが、ピアスが女子だった。三つの小さな雫の形が各々高さ違いに連なっており、歩く度に水色、紫色、緑色の雫が太陽の光に照らされて控えめな光がキラキラゆらゆらと揺れる印象的なピアスだった。
本当に可愛かった
右目が見えない分何度か物にぶつかりそうになり、電柱に肩をぶつける、人とぶつかる、つまづくなどちょくちょくぶつかっている。危なっかしかった。
「腕貸す?服だけ掴んでもいいよ」って言ったら、
「大丈夫、余計な心配は不よ、あ!」
彼女は歩きながら小さく手を上げていらないと制した矢先、アスファルトの割れ目、盛り上がっている隙間に足を取られて転びそうになり、咄嗟に俺の腕を掴んで転ぶのを防いだ。
「ふぅ、危なかった」
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、なんとか大丈…夫…」
地面から掴んでいる先へと目線を動かす。
アスファルトの割れ目、自分の手、俺の腕、そして、俺の顔。
私は今いったいなにをした?という顔をして、その場に固まった。
「出雲さん?」
「いや……なんでもない」
もしかして考えるのやめたのかな?
手を離して、何事もなかったかのようにスタスタと先に歩きだした。
照れ隠し…でもなさそう。
あれはなんの店だ?と店を指差して俺に聞いてくる。
もうすでに興味が別なものに移っている。
はぁ… また出掛けたいな、出雲さんと。
甘えるのが下手なのかなかなか助けを求めない。自分でなんとかしようとする精神は認めるけど、できずに失敗してため息をついて、またか…という顔を彼女する。
その顔をもうさせたくないなと思った。
次の日、用もないのに大学に行った。
廊下は静かで、微かに鼻歌が聞こえる。
あ、出雲さんだ。これは…なんて歌だろう。
声をかけようか迷って、やめた。
鼻歌が途切れて聞けなくなる可能性が高いから。
この人と一緒に居たいと思った。
彼女に猛アプローチをして、大学を卒業後、俺は彼女にプロポーズをした。
彼女にいろいろ言われたけど、最後は「もし…!私が見えなくなってもいいのか?!私はつまらない奴だから…、もしもお前が…ほ、他の奴に現を抜かすことだって有り得るんだぞ!それに…」と涙目で言葉を濁して返事をためらってたけど、でも。
出雲さんと過ごした日々も話した言葉も全部が愛しいから、プロポーズをしたんだよって言ったら、泣きながら言ってくれた言葉が嬉しかった。
俺たちは結婚をして、今、台所でご飯の準備をしながら鼻歌を歌っている。
後ろから聞こえてくる鼻歌を聞きながら、自然と小さな笑みがこぼれる。
「ふふ(笑) 出雲さん、可愛いですね。愛してます」
「な、なんだ突然!///」
今日も幸せをかみしめて、彼女の隣にいる。
そこから彼は、どんどん彼女のことが気になりはじめて、隙あらば話をかけるようになった。
そんな彼と彼女の日常を少しだけ。
今日も幸せをかみしめて、彼女の隣にいる。
「あの…すみません、探してるのってこれですか?」
大学の玄関でキョロキョロと探し物をしている清掃員に俺は声をかけた。
男子トイレの前に箒が立て掛けてあったのを届けに行くと、キョロキョロうろうろと歩き回って何かを探し回る後ろ姿が見えた。
「………どうもありがとうございます」
清掃員は箒を受け取るとお辞儀をし、図書館に続く階段まで歩いて行った。
その後ろ姿を見送っていると、俺の後ろから聞きなれた声が聞こえた。
「よっ、恭。何だ何だぁ?また例の清掃員に話しかけてんの?」
「おはよ、了(りょう)。良いだろ、声かけたって」
「はぁ、熱烈だねぇ。了、妬けちゃう」
「何で妬けんだよ。お前にもいるだろ、婚約者」
「いるよー、俺の可愛い妻」
「溺愛してるくせに、俺の方が胸妬けるわ」
「妻とお前に愛されてるわー。俺は幸せもんだな」
「そりゃ良かったな(笑)」
幸せの溜め息と笑みをこぼす友人を横に、俺は次はまたどうやって声をかけようか考えていた。
気になる清掃員がいる。
いつも帽子を深くかぶり、右目にはいつも白い眼帯、そして必ずマスクをしている。作業着姿が様になっている。
髪はショート…か?帽子を深く被っているためわからない。もしかして中に入れてるっていう可能性も考えられる。最近わかったことは、その清掃員は女性ってことだけ。休日何してるとか好きなものやこと、好きな音楽とか趣味などなど…聞きたいけど、聞く隙がほとんどないというのが今の現状だ。学生がいる大勢の中で話しかけられるのを嫌うようで、この前話しかけようとした時に、静かに消えるように逃げられてしまったことがあったからだ。人数の少ない時間帯でほぼ一人になったところを見計らって声をかけるようにしている。そうなると時間も少ないし、俺は講義に出席しなければならないし、終わった後彼女を探すも、帰った後だと知る。
彼女のことをもっと知りたい。
そう思ったキッカケは本当に些細なことだった。
「~♪」
ある朝、静かな玄関に微かな鼻歌が聞こえる。
玄関にまっすぐ通じる通路があり、その左右に休憩スペースが設けられている。そこで3講目に間に合うように登校した俺は、始まるまでの間、休憩スペースで過ごしていた。提出するレポートの嵐に追われて、今日もパソコンを叩く。バイトの疲れと寝不足を抱えて。
しばらくパソコンのキーを叩いてレポートを作っていると、キーを叩く音以外に聞こえてきたもう一つの音。とても静かな大学内に微かだが聞こえる鼻歌に気づいた。
何の曲かわからないがとても心地の良いもので、寝不足の俺には安らぐ子守唄のように聞こえたのだ。いつの間にか寝こけてしまい、3講目に間に合うように来た了に起こされるまでずっと眠ってしまっていた。
「大丈夫か?」
「おー…。起こしてくれてありがとな」
「良いってことよ。3講出るだろ?」
「ん、出る」
「なら、昼飯買って来ようぜ」
「あぁ」
俺たちは昼飯を買いに席を立った。チラリと玄関の方を見る。当たり前だが、あの鼻歌は聞こえない。誰が歌っていたのだろうと疑問に思う程度だった。あの時は。
次の日。
人通りの多い玄関から右に曲がり、廊下を少し歩いて、突き当たりを右に曲がると図書館に通じる階段がある。その通路はあまり人が通らないため、声が響く。
俺は図書館にレポートの資料を借りに玄関から右に曲がり廊下を少し歩いて向かう途中、昨日聞いたあの鼻歌が聞こえてきた。
「!」
「~♪」
小走りをし、誰が歌っているのか確かめたくて急いだ。
通路を右にさらに曲がると階段が見えた。
「~♪」
見つけた!
そこには清掃員が一人、階段の掃除をしていた。回転箒を使って埃を下に落として掃いている。
「あの!」
見つけた嬉しさで、勢いよく声をかけた。
俺の声が大きく響いてしまい、掃除をしていた清掃員が肩をビクッとさせてこちらを向いた。
「!?」
「あ……すみません」
「……………何でしょうか」
「いえ、あの、その……」
清掃員の顔を見た時、思わず、はっ…と、息も思考も全部止まってしてしまった。右目に眼帯、マスクだったから…。なんであの時止まったのか自分でもわからなかった。
「お通りになるのでしたら、どうぞ」
「あ…、はい。すみません、ありがとうございます…」
真っ白の思考のまま、促されるまま階段を登り、図書室に向かい、カードキーを通して中に入り、とりあえず椅子に座った。机に突っ伏して考える。
「俺のばかぁー…(泣)」
ゆっくり思考を巡らせていく。聞きたいことや言葉が頭に蘇ってきて、残ったのは後悔だけ。
「なんであの時、何も言えなかったんだろう…」
あの清掃員は一体どんな人なんだろうか。
あの鼻歌をもう一度聞きたいと思ってしまった。
その日から毎日、鼻歌の清掃員を見つけては、少しずつ話をかけるようにしている。反応は返してくれるけど、言葉は少ない。まだまだだなと思う。
で、現在に至る。
彼女は、毎回探し物をしている。
片目が見えてないというのもあるかもしれないけど、置き忘れの可能性が高い。何かしら通った痕跡を残していくのだ。俺であったり、他の学生や先生だったりが彼女に親切に届けに行く。
どうやら日常茶飯事らしい。
できれば俺が届けたい。話すきっかけにもなる必須アイテムを誰かが拾い届けるのは正直多少の嫉妬はする。
もはや争奪戦、いや、クエストだと思ってもいい。
拾ったアイテムを使って、実際に話しかけている学生も少なからずいるからだ。(目撃情報提供者 : 了)
俺が考えていることは、同じことを他の人も考えているということ。侮れん。
今日は箒を届けた。少しだけだが話ができた。もっと話したい欲が大きくなる。
だが、今日はレポートの提出日でこれから各先生の部屋のポストに入れに行かなければならない。これがまた大変。それぞれ先生が違うため、居る部屋も違う。階も違う。棟も違うときた。学内を歩き回って提出するのだ。今日の17時までに。
今は15時50分をきったところ。急がねば!
友人の了は、早々に提出を終えているため、バイトがあると言って、「すまん、先帰るわ。また明日!」と先に帰ってしまった。
学内を歩き回り、指定された各部屋のポストに次々と書いたレポートを入れていった。
テストが近くなるとレポートの数も増える。しんどい…。
最後、一番離れている棟に向かい、時間ギリギリでやっとポストにたどり着きレポートを入れた。
「はぁー、終わったぁー!」小声で一人言が漏れる。
疲れた…。今日はもう直ぐ寝る!絶対寝る!!
ふらふらと歩いていると、ふと非常階段の直ぐ横に人一人通れるくらいの空間があることに気づいた。
疲れている時って普段気にならないことを気にしだすんだよね。疲れてるけど、なんとなく気になる…。いつもは届けたらすぐエレベーターで降りるけど、今日は寄り道をすることにした。
非常階段のすぐ横の空間を覗く。
「!?」
少し奥ばった場所に扉があった。
「こんなところに部屋なんてあったのか…知らなかったな」
扉の上を見ると、部屋の名前が書いてあった。
【宿直室】
「宿直室…」
警備員さんや先生が夜の見回りの時に泊まる部屋だよな。
電灯はなく、キャンプ用の小さな電池ランタンが扉の横の壁にかけてあるだけ。それでも十分明るい。
扉に手を掛ける。
「!」
開いた!
ゆっくり開けると、小さな個室がすぐに見えた。
小さな机と座椅子、布団が一つずつ置いてあるだけのシンプルな部屋だった。引戸の窓、小さな台所、部屋の角には一つだけ扉がある。トイレだろうか。
部屋の中を見渡していると、部屋の角の扉が開き、彼女が出てきた。
ツナギの上半身の部分を腰の辺りで結び、タンクトップ一枚の姿で、頭をタオルで拭いている。
「っ!!??」
思わず声が出かけて、口を慌てて両手で塞ぐ。今声出したらまずい!
どうして良いかわからないまま、とりあえず少しずつ後ろに下がって部屋を出ようとした。
あと少し!
あと少しと思っていた矢先にドアノブが手に当たってしまい、玄関に音が響く。
ガタン
彼女が音に反応して急にこちらを向き、箒を持って玄関に来た。
ヒュッ ガン!
箒の柄が勢いよく俺の顔の横を真っ直ぐに通りすぎ、壁に力強く止まった。
「ひっ!」
「誰だ!?」
彼女は目を細め、眉間に皺を寄せて俺を見ようとしているようだが、多分見えていない。
「俺です!氷野 恭です!」
「ひの?知らんな」
「え」
それもそうだ。まだ彼女に名乗ってすらいないことに今更ながら気づく。
「とりあえず警察に連ら」
「わー!すみませんすみませんすぐに出ていきます!警察だけは!!」
「出たら扉の前で待て。呼んだら入ってこい。いいな」
「はい!…はい?」
え?何で??
彼女の言ったことが理解できず、聞き返した。
「君に頼みたいことがある」と言って、ほら、出た出た と俺を部屋の外に押しやって扉を閉めた。
「頼みたいこと?」
5分くらい待って、声が聞こえた。
「どうぞ」
「はい!お邪魔します!」
「ん」
「はい」
言われるがままに用意してくれた座布団に座った。
「悪いがお茶を切らしててな」
「いえ、あの…お構い無く…」
ツッコミたくなる気持ちを抑えた。今俺の目の前にはコップに入った水がある。彼女の前にはお茶のペットボトル2Lが置かれている。
目の前にお茶あるじゃん!!Σ\( ̄□ ̄;)
「まず。見た?」
「何をですか?」
「全部」
「見てません」
「本当か?」
「はい!見てません!」
「神に誓って?」
「いえ、仏に誓って」
「すまない、宗教違ったか」
「大丈夫です」
「なら、いいや。で、罰として頼みたいことがあるんだが」
彼女が言った"罰"。俺が言ったこと信用してないことがわかる。まぁ、俺も嘘ついてるし…。罰ってなんだろう…。
「一つと手前の駅、わかるか?」
「大学に行く一つと手前の駅、わかります」
「最近越してきたのだが、いまいち道がよくわかってなくて困っていたんだ。その案内が罰だ」
「それだけですか?」
「あ?」
「いえ、なんでもありません!慎んでお受けいたします!!」
口を滑らせた。もっとすごいこと言われるのかなと思ってたけど、すんごい簡単な罰だったので、拍子抜けしてしまったのだ。
罰と言うよりご褒美では?あの過酷なレポート三昧の日々の後の彼女の言う罰は、最早俺にとってはご褒美だと考えてしまう。
寝不足の頭で考えて、絞り出した答えが「慎んでお受けいたします!!」だった。我ながら思うに、寝不足の思考をフル回転してももともとレポートで出しきってて空っぽだから、語彙力の無さが露見しただけだった気がする。
はぁ。恥ずかしい…。
彼女と連絡を取って日にちを決めることになった。
難点が一つ。
彼女は今時に珍しい、携帯電話を持っていなかった。
やり取りは、メモや付箋に書いてロッカーに挟んだり貼ったり。彼女のロッカーは無いので、宿直室の扉に挟んだり貼ったりして連絡を取り合った。
彼女の字はとても綺麗だ。時々字が抜けていることもあるが、そこはスルーで。あと少し字が大きい。彼女の見えやすいサイズがこのくらいなのだろうと察した。
最初の頃、普段書いている字で書いたら、返ってきた付箋で『見えずれぇよ!( ゚皿゚)💢虫眼鏡使ったわ!💢』
って返ってきた。これには流石に笑った。
ならもう少し大きく書くか。ってなって、付箋も大きめのを売店で買った。
「今日は何時に終わりますか?来週の予定を聞きたいので、待ってますよ😃」
『18時に終わる。待ってなくていい。メモのやり取りだけで十分事足りる』
「では、玄関前の昇降口付近で待ってます😉終わったら、俺の名前叫んでくださいね🖤」
『人の話しを聞け!誰が呼ぶか!!( ゚皿゚)💢』
とまあ、こんな感じに、ね。
「恭、お前嫌われてない?」
「嫌われてない。これが通常運転なんだよ」
「だったら、当たりがきついなー」
「可愛いだろ?」
「うちの恭がまさかのMとは…新たな性癖を垣間見た気がするぞ俺はぁ」
「誤解を招くような言い方すんな。Mじゃない。普通だ、普通」
「恋愛とは人を盲目にさせる…」
「なんか言ったか?」
「何も」
俺が了の方を向いたと同時にそっぽ向いた了は、そ知らぬ顔をしていた。
まったく…。
もらったメモをノートに貼る。
「おー、ノート」
「今までもらったメモをこうやって貼ってとっとこうと思って」
「あ、彼女の字、綺麗じゃん」
「そうなんだよ!俺も初めてもらった時、同じ感想が口から漏れたもん」
「プチ文通みたいだな」
「だな。今すごい幸せ」
「良かったな、幸せで。それを聞いた俺も幸せよん🌹」
両手を両の頬にそっと当てて乙女感を醸し出す了。
俺から見てもイケメンだから、乙女を醸し出しても何故か似合っているので、不思議だ。
「出た。乙女了ちゃん」
「今日待ち合わせ?なの?こんなこと書いてるけど」
「うん。この間も書いたことあったけど、ちゃんと待っててくれてたよ。そん時は俺が「清掃員のお姉さーん!」って、居そうな場所に向かって叫んだら、背後から蹴られて、挙げ句に怒られて終わったんだけどね笑」
「なんと…」
「痛かったけど、あの人顔真っ赤にして怒ってたから、なんか可愛いなと思ったんだよね」
「やっぱMじゃん」
「ちげぇわ」
了と会話をしながら次の抗議室に向かった。
17時に抗議が終わり、約束の18時になるまで図書室で本を読んで時間を潰す。
「今日は何を読もうかな」
レポートに使う本を探しつつ、読書用の本も探す。
「あ、この絵本懐かしいな。せかいいちおいしいスープだ」
絵本や小説を幾つか取って、机つきの椅子に座った。
読みながらページをゆっくりと捲る。
絵本はたまに読むと面白い。
夢中になって読みふけり、予めセットしておいたアラーム(消音バイブあり)が本の上でブブブと鳴る。
「ん?あぁ、もう時間か。これ、借りてこうかな」
読もうと思って机に置いた本を全部借りることにした。なんとなくまだ読み足りない気がしたのだ。
「集合の時間10分前だし、トイレ寄ってこ」
カウンターで本を借りて、図書室を出た。
階段を降りてすぐ横のトイレで用を足し、集合場所に向かったが、まだ少し時間がある。
18時まであと3分か。何しようかな…。あ。
鞄の中にチョコクッキーがあるのを思い出した。小腹が空いた用にいつもお菓子を常備して持ち歩いている。
「少し腹減ったし、つまんじゃおーっと」
「何をつまむって?」
「うわあああ!」
背後から急に近くで声をかけられて驚いた俺は、急いで前に逃げた。心臓バックバク。薄暗い中、目を凝らして見るとそこに立っていたのは、清掃員のお姉さんだった。
「はぁー…もぅ、びっくりしたじゃないですか!」
「油断してるのが悪い。ほら、行くぞ」
「あ、待ってくださいよぉ」
彼女がすたすたと駅に向かって行くのを俺は追いかける。
ちょうどJR来てる。
ピッ
定期を通してJRに乗り込んだ。
「座れましたね」
「あぁ、運がいいな」
ガタンゴトン ガタンゴトン
揺られてるうちに眠くなってくる。
あー!だめだ眠っちゃだめだ!何か話題を…を!?
右肩にトンと何かがぶつかった感覚に振り向くと、彼女が寝てる。
「ふぁ!?ぁんぶっ!」
喜びが口から出そうになり、慌てて口を手で塞いだ。
数分!ほんの数分しかないけど、寝てるとこなんて貴重すぎる!集中しろ俺!右側に全部の神経と精神を集中させるんだ!彼女を感じろぉ俺ぇぇぇ!!
「…………………」
全部の神経と精神を右側に。集中力を注ぐ。
『次は────』駅員のアナウンスの声で目を覚ました彼女は、俺が右側になけなしの集中力を注ぎすぎて、半屍状態のようになってきている姿に驚き、体をビクッとさせていた。
「………」俺の顔の前で手をフリフリと振り、大丈夫かの確認をしている。
そんな… 可愛い…
▶️語彙力喪失
「じゃあ…、気をつけて」
「はい、また明日!✨」
大丈夫かこいつ…とでも言いたげな顔で止まった駅を降りていく彼女。
何とかそれに答えて手を振って見送る。
『ドアが閉まります』
『発車します』
ガタンゴトン ガタンゴトン
「ふっ……疲れたぁ~」
俺はやっと気を抜いて、自分が降りる終点駅までぐっすり眠った。
テストもレポートも終わり、後は結果を待つのみ。来週発表と聞いた。
どうか!どうか!どぉうか!赤点が一つもありませんようにぃ!!
結果発表当日。
「い…」
「い?」
「いよっしゃああああああああーー!!っ…ぐ、げっほげほ」
「うわーすんごい声」
俺と了で朝イチに大学に来て見にきていた。俺たち以外に誰もいない。結果はパソコンや携帯でも見られるので、朝イチに大学に来て見る奴は多分、なかなかいない。
やった!赤点が一個もない!ギリギリな点数はいくつかはあるけど…乗りきった!俺はのりきったぞぉぉおぉおお!
床に両膝をがっくりと落として着き、両手を高くあげて顔は天を仰ぐように([赤点無し!]を噛み締めるように)目を瞑り、盛大なガッツポーズをしてしまった。嬉しさのあまり。
「俺そういうガッツポーズする奴、漫画でしか見たことないけど、実際する身近な奴初めて見たわ」
「嬉しくてついな。これで今年は乗りきった!お前は?」
「俺もないよー」
にこにことVサインをして、やったねとお互い笑う。
「さて、今日は何もないし、これからどうしようかな」
「そうさなぁ…とりあえずご飯食べ行かん?」
「だな、安心したら腹減ったし、近くのカフェでご飯食べよか」
「行こ行こ」
大学の近くにあるカフェは、大学生がよく訪れる憩いの場。カフェなのにレストランみたいなメニューも兼ね備えているちょっと不思議ところでもある。
歩いて10分のところにあるカフェは、一軒家のような古い木造建築で、大きな木が隣に青々とした葉をつけて赤い屋根を軽く覆っている。
何となくキレイ好きの魔女とか住んでそうな感じの小綺麗な見た目が印象的だ。
「お邪魔します」
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
「2名です」
「空いている席にお掛けになってお待ちください。お伺いに上がりますので」
「はい」
「席どこにする?」二人でキョロキョロと辺りを見回す。客がほとんどいないから、席も選び放題。
窓際の端っこの席に見慣れた姿が見えた。
俺 :「あ」きゃー!お姉さんだ💕と一瞬にして幸せになった笑顔。
お姉さん :「げ」すんごい嫌そうな顔。こっち来んなって顔に書いてある。
了 :「ん?」何々?っていう好奇心の顔。俺の目線に顔を向けている。
「お姉さん!💕奇遇ですね!」
「………………」
「なんかすんごい嫌そうな顔してるけど、本当にお前嫌われてない?」
「あっははは笑 ナイナイ(ヾノ・∀・`)」
「ならいいんだけど…えっと、初めまして?」
「……どうも」
「俺、こいつの親友の野々原 了って言います。よろしくお願いします」
「…私は、大学の清掃員をしている山本 出雲(やまもと いずも)と言います。よろしくお願いいたします」
「俺は」
「帰れ」
「そんなぁ、まだ何も言ってないじゃないですかぁ」
「やっぱりお前嫌われてない?」
「嫌われてない!」
「お客様、お待たせいたしました。ご注文お伺いいたします」
「「 あ 」」
店員の声に俺たち三人は一斉に店員の方を向いた。そうだった、俺と了は今席を選んでる最中だった。
「?」
店員は首をかしげて、どうしました?という顔をこちらに向けている。
す… すとん
「お、お願いします」
その席に俺たちは座らざるを得なかった。
注文をした後、料理が来るまでの間に了とお姉さんはすっかり意気投合していた。
「わかります!掃除って本当に大変なんですよ!掃除機とかかけたのに、もう誰か歩いてるの見たら、あの達成感から秒で急に落とされたような…なんかため息出ますもん」
「だよな!大学の清掃なんて掃いた後に誰か歩くから切りねぇったらさぁー」
「君たち、お酒飲んでる?」
「「 飲んでない 」」
「そうですか…」
ノリが酔っぱらいのような感じになってる。
掃除の仕方のあれこれや愚痴などを話している様子がまるで主婦と主夫がいるみたいに見える。
カヤの外の俺は、早く料理が来ないかそわそわした。どうにも居たたまれなくて。
「俺のお姉さんなのに…」
「いつお前のになったよ」
「お前のものではない」
二人してひどい。
料理が運ばれてきて、俺たちはご飯を食べながら話をした。主に清掃の話だけど。
「じゃあ、また学校で」
「いないかもしれないぞ」
「俺が見つけるので、安心してください♥️」
「今の台詞に犯罪臭がしてる」
「犯罪臭だなんてそんなっ!愛と言って!」
「ハハ…。じゃあな」
「あーん!渇いた笑いだけ残して去ってかないで~」
「やばぁ!(笑笑) 乙女が全面的に出てる(笑笑)」
「明日が楽しみだ✨️」
「あ、恭」
「ん?何?」
「明日から俺ら休み期間に入るぞ」
「……………あ」
そうだ!思い出した。俺ら明日休みだよ!なんで俺は肝心なこと忘れてたんだ!そうだよ休みだよ!
頭を抱えて、うー!と唸っていると、了がさらに付け加えてきた。
「でも、補講やら再試験で学校は休みじゃないから、彼女も来るんじゃないのかな?」
「了!頭いいな!よし、俺明日行くわ!学校!」
「よかったな」
明日の計画を了と立てて、俺は早速明日の準備をすることにした。
次の日。
「おねーさん!おはようございます!!」
「おはようございます。相変わらず元気だな」
「はい!今日の事が楽しみすぎて、まだ一睡もしてませんからね」
「何に楽しみでそんななったのか知らんけど、遠足前の子供かよ💧」
「おねぇさんに会えると思ったら、なんか興奮しちゃって…てへへ☆」
「言い方どうにかならんのか。変な奴だな」
「今日は何時に終わりますか?」
「いつも通りの18時だが…、まさかそれまで待っているつもりか?」
「当たり前じゃないですか」
「時間の無駄だ、帰れ」
「嫌だ!」
「帰れ!」
「嫌だ!」
「帰れ!だだっ子か!」
「俺は今日おねぇさんのためだけに時間を使うって決めてるんです!」
「気持ち悪い言い方すんな、仕事の邪魔だ。帰れ」
「お昼一緒に食べましょうよ。終わるまでその辺にブラリといますから」
「……………はぁ。こりゃ何を言ってもダメだな。わかった。ほら、これ宿直室の鍵。一睡もしてないんだろ?疲れたら、あそこで休んでるといいよ」
「女神様!✨️」
「なんかわからんが昇格した(笑) さて、仕事するからそこ避けてもらおうかな」
「わかりました。気をつけて作業してくださいね」
宿直室の鍵を握りしめて、彼女に手を振りながらコンビニに向かった。
「お昼は何をたべようかなー」
アイスとおにぎりと飲み物を買って、宿直室に向かう。
宿直室の中は、窓から温かい日が差しており、窓を開けると涼しい風が入り、ゆっくりと過ごすにはちょうどいい空間となっていた。
「あ、東雲さんの本かな?」
大学の図書館から借りているようだ。図書館のバーコードがついている。近くには眼鏡と虫眼鏡が置いてあった。
「これで読んでるのか…、うわー 度が強いなぁこれ」
彼女の眼鏡をつけてみると一気にくらりときた。右目だけ視力の違いがあるのか、すごく度が強い。
この眼鏡に虫眼鏡、相当だな…。
眼鏡を机の上に置いて、詩集を開いた。
この文字の大きさでも見えにくいのか。
ゆっくり読んでページを捲る。
確かにそうかも…と思う言葉が沢山綴られていた。考えさせられたり気づかされたり、共感する部分が多かった。
詩集か…
最後まで読み終えて、本を閉じる。
「俺に足りないものってまさか…」
悟っている時、ちょうど彼女がため息をつきながら帰ってきた。
「やっと休憩だよ。…なんだいたのか」
「出雲さん」
「な、なんだよ。いきなり下の名前で呼ぶなよビックリするだろ」
「俺に足りなかったものって出雲さんへの愛だと思うんですよね」
「いきなりなんの話だ?気持ち悪い」
露骨に嫌がる顔を向ける彼女。
「これからはもっと話しましょう!そして、出雲さんのこと沢山知れたらと思うんです。あ、俺のことも知ってくれたら嬉しいですけど」
「急にどうしたんだお前、変だぞ」
「この本を読んで、気づいたんです」
さっきまで読んでいた詩集を彼女に手渡す。
「あぁこれか。…なに、これ読んで悟り開いてたの?」
「はい!ヒントはもらいました」
「あっそ。よかったな」
「はい!あ、ご飯食べましょう」
「ん」
「これは」
「お茶」
「いやわかりますけど、なんでですか?」
「この間用意してなかったから、数本用意しておいた」
「あ、ありがとう、ございま、す…」
「うん」
お茶をくれるのは正直に嬉しいですけど、なんで2リットルのお茶なんだろう。これはもしやあれですか、いつものって言って取っておいてくれるお酒のボトルみたいな感じのあれですか。残りはここに置いていっていいよ的な感じの…
「あ、飲みかけとかはここには置けないから。他の警備員さん使うし、基本持って帰ることになってるから」
全然違った。そういうことなら、半分くらい減らしていかないとダメかも…。
お昼ごはんを食べた後、彼女は静かに過ごしたいらしく、お互い静かに本を読んで休憩が終わる10分前まで一緒に過ごした。
部屋には外から聞こえる電車の音と人の声、草木が揺れる音と優しい風の匂い、そして小さく聞こえる本のページを捲る音。
穏やかで過ごしやすい空間と落ち着くゆっくりとした時間だった。
こんな日があってもいいな。
そう感じた時間だった。
「さて。行く、かぁ」
ため息を一つついて、手拭いと飲み物を持って戸を開けた。
「いってらっしゃい、出雲さん」
「………ん、いって、き、ます……」
そう言って、戸を閉めた。
返事に迷った間と泳ぐ目が可愛かったが、堪えた。
彼女が仕事終わるまであと5時間。なにしようかなー。
「ん………ん!?」
彼女を見送った俺は、本の続きを読んでいる途中いつの間にか眠っていたようで、外は少しの赤みと半分ほど覆いはじめている群青色の空が見え、日も沈みかけていた。
「うあーヤバい!今何時!?」
十七時五十七分
「あちゃー寝てた…」
とりあえず起きて背伸びをする。バキッバキ ゴキッと人体から鳴っちゃいけない音が俺の体から聞こえる。
伸びただけでこんな音なる!?俺一体どんな格好で寝てたんだ?
「とりあえず、お茶飲も」
眠気覚ましにお茶を一杯飲んだ。
「ぬるい」
出しっぱなしだったしな。
「疲れてんのかな…」
熟睡してしまうとは…(反省)
夜ごはんをどこで食べようか携帯で検索をかけていると、ドアが開く音がした。
「はぁ…つかれ「お疲れ様です!出雲さん!」」
「……なんだ、まだいたのか」
「ひどい!」
「お昼だけかと思ってたから」
「俺のこと嫌いなんですか?」
「嫌いでも好きでもないな」
「可もなく不可もなくみたいなこと言わないでくださいよ(T^T)」
彼女は帰り支度をしながら、間にお茶を飲む。
「正直なところ、なんで私につきまとう」
「好きだからです!」
「即答かよ。理由は?」
「きっかけは出雲さんの鼻歌なんですけど、レポートで疲れてる時に聞いて、耳済ましてたらいつの間にか寝てしまってて。何の歌か気になって歌を最後まで聞こうとしたらいつも途中で途切れて気になるし、神出鬼没でなんか目が離せなくなってあなたを追うようになってました。今では姿を見るととても安心して心臓の鼓動がめっちゃ早くなります!」
「鼻歌?」
「はい、何の曲をいつも歌っているんですか?」
「その日の気分だから、なんだろうなぁ…」
「曲名だけでも知りたいです」
「う~ん…アニメの曲、洋楽、邦楽とか何でも聞くし、昨日は津軽海峡冬景色歌ってたしな」
「津軽海峡冬景色」
「うん。だからその日の気分で無意識に歌ってること多いね」
「じゃあ、その日に鼻歌歌ってたら、なに歌ってたか教えてくれますか?」
「どんだけだよ。まぁ、歌ってる場面に遭遇したらな」
「やった!」
「ほら、早く帰りなさい」
「一緒に帰りましょー」
「わかったわかったから、手を離せ!」
彼女の手を取ってドアの方に向かおうと歩き出すと、手を握っただけなのに頬を少し赤くした彼女が、「部屋の最終点検しないとだから、先に行け」と手を振りほどいて俺を廊下に出した。
「かわいすぎる」
俺は廊下でずるずると壁にもたれながらしゃがみこみ、行き場のない熱を吐き出すように、はぁ…と一つため息をついた。
日曜日。
罰という名のご褒美…もとい町内の案内の日がやってきた。
待ち合わせは9時、いつものJR駅の改札前。
必要なもの、カメラ。携帯のカメラ。そして、カメラ。
ふっ 俺に抜かりはない。
「お、いた」
「この氷野 恭!この日をどんなに待ちわびたことか!指折り数えてやって来た今日(こんにち)!そう!出雲さんとデイツ!!ふはははははははは!」
喜びのあまり熱がこもってしまい、握りこぶしを作って天に上げ、心の声が口から漏れでる。
「…………」
少し離れたところに待ち人の出雲さんがゆっくり後退りして行くのを見逃さなかった。
「あ!出雲さ」
「すまない、人違いだったようだ。では」
「うわーん!待って出雲さん!俺です!恭です!」
「そんなふざけた人を私は知らないな。ついてくるな」
「そんなぁ、俺たち知人通り越して友達じゃないですか」
「誰が知人通り越して友達だ。むしろあなた誰ですか?レベルで知らん奴だわ」
「それもはや赤の他人じゃないですか!ひどい!😭」
「とりあえずついてくんな。気持ち悪い」
彼女の後ろを付いていきながらポケットからメモ帳とペンを取り出し書き出す。
「赤の他人宣言して更に罵倒するなんて、出雲さんがSだということが一つわかりました。まだまだ収穫の余地ありっと…」
「歩きながら何をメモっとんのじゃ!いらん!消せ!」
カリカリと書く音を拾ったのか、後ろを振り返り戻ってきた。手を伸ばして俺からメモ帳を取り上げようとしてくる。
あぁぁぁ可愛いっ!あんなに一所懸命に手を飛ばしてる身長差で負けてんのになおも取ろうと必死になってるところとかマジ可愛い。
「出雲さんが意地悪したから、俺も意地悪します」
「いや意地悪じゃなくて本気で引いたから帰ろうとしたんだが」
「今日はデー…じゃなくて町内の案内をする約束だったじゃないですか」
「心の声がまだ口から出かけてたぞ」
「出てません」
「今日は何の約束だったかもう一度言ってみ」
「出雲さんとデーt ………町内の案内です」
「言い直すなアウトだ。サイナラ」
「あー!待ってすみません!落ち着きます。これは道案内これは道案内これは道案内」
「暗示かけてまですることか」
「はい!」
「あ、そ。まぁ、落ち着いたんならいいわ。帰る」
「えっ!?∑(´□`; 何でですか!?」
「いやむしろなんで今の流れで行けると思ったんか不思議でたまんないよ。メンタル鋼か。普通に帰るわ。なんか疲れた」
「そう言わず、美味しいお店ご紹介しますから!さぁ行きましょう!」
彼女の手を取り、ずるずると引っ張る形で渋々な顔の彼女を連れて、俺の町内案内が始まった。
「まず、ここが町内で一番よく利用されているスーパーです」
「うん」
「来たことありますよね」
「買い物に何度かな」
「じゃあ、大丈夫ですね。次はですね、ここはホームセンターです。基本、何でも売ってます。とりあえず中に入って見てみましょ」
実際に中に入ってキョロキョロと見渡し、これ欲しいやつだ、と電化製品を見て歩いたり、必要なものを買って郵送したりと充実した時間を過ごした。
ホームセンターの他に、少し離れたところにある服屋さん、その隣にある雑貨屋さん、左に曲がって10歩歩いた先に郵便局など次々とよく利用するお店や、カフェ、レストラン、食事処なども歩いたりバスを使ったりして紹介していった。
───────────────
「疲れたー」
「結構歩きましたからね」
「お腹空いたな」
「そうですねぇ、どこかで食べていきましょうか」
「さっき紹介してくれたレストラン気になる」
「じゃあ、そこにしましょう」
俺たちはレストランでご飯を食べたあと、暗くなる前に解散をした。
「あぁ楽しかった。出雲さん可愛かったな」
黒のチノパンに淡い水色のワイシャツ、鼠色の薄いカーディガンにつば付き帽子とシンプルな服装で来たが、ピアスが女子だった。三つの小さな雫の形が各々高さ違いに連なっており、歩く度に水色、紫色、緑色の雫が太陽の光に照らされて控えめな光がキラキラゆらゆらと揺れる印象的なピアスだった。
本当に可愛かった
右目が見えない分何度か物にぶつかりそうになり、電柱に肩をぶつける、人とぶつかる、つまづくなどちょくちょくぶつかっている。危なっかしかった。
「腕貸す?服だけ掴んでもいいよ」って言ったら、
「大丈夫、余計な心配は不よ、あ!」
彼女は歩きながら小さく手を上げていらないと制した矢先、アスファルトの割れ目、盛り上がっている隙間に足を取られて転びそうになり、咄嗟に俺の腕を掴んで転ぶのを防いだ。
「ふぅ、危なかった」
「大丈夫ですか!?」
「あぁ、なんとか大丈…夫…」
地面から掴んでいる先へと目線を動かす。
アスファルトの割れ目、自分の手、俺の腕、そして、俺の顔。
私は今いったいなにをした?という顔をして、その場に固まった。
「出雲さん?」
「いや……なんでもない」
もしかして考えるのやめたのかな?
手を離して、何事もなかったかのようにスタスタと先に歩きだした。
照れ隠し…でもなさそう。
あれはなんの店だ?と店を指差して俺に聞いてくる。
もうすでに興味が別なものに移っている。
はぁ… また出掛けたいな、出雲さんと。
甘えるのが下手なのかなかなか助けを求めない。自分でなんとかしようとする精神は認めるけど、できずに失敗してため息をついて、またか…という顔を彼女する。
その顔をもうさせたくないなと思った。
次の日、用もないのに大学に行った。
廊下は静かで、微かに鼻歌が聞こえる。
あ、出雲さんだ。これは…なんて歌だろう。
声をかけようか迷って、やめた。
鼻歌が途切れて聞けなくなる可能性が高いから。
この人と一緒に居たいと思った。
彼女に猛アプローチをして、大学を卒業後、俺は彼女にプロポーズをした。
彼女にいろいろ言われたけど、最後は「もし…!私が見えなくなってもいいのか?!私はつまらない奴だから…、もしもお前が…ほ、他の奴に現を抜かすことだって有り得るんだぞ!それに…」と涙目で言葉を濁して返事をためらってたけど、でも。
出雲さんと過ごした日々も話した言葉も全部が愛しいから、プロポーズをしたんだよって言ったら、泣きながら言ってくれた言葉が嬉しかった。
俺たちは結婚をして、今、台所でご飯の準備をしながら鼻歌を歌っている。
後ろから聞こえてくる鼻歌を聞きながら、自然と小さな笑みがこぼれる。
「ふふ(笑) 出雲さん、可愛いですね。愛してます」
「な、なんだ突然!///」
今日も幸せをかみしめて、彼女の隣にいる。
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