短編集

灯埜

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短冊

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「毎年大通りで行われている七夕イベント、覚えてる?」
「何急に  ( ´・ω・` )?」


友達から恋人になった二人。気心知れた仲ではあるが、これといって進展はなく、平行線気味。
彼は彼女のことすごく大好きだし愛したいけど、彼女が奥手過ぎて、どこまで愛していいのか迷っている現状だった。


毎年彼女が書く短冊に返事を書く彼は、今度こそ彼女にプロポーズしようとするが…。



彼女曰く、「短冊に返事を書くな」






 ✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴✴






「毎年大通りで行われている七夕イベント、覚えてる?」
「何急に  ( ´・ω・` )?」

「七夕イベント、今の時期だなーって思ってさ。毎年思い出すんだよね、君の言葉」

部屋に入ってきた恋人が、二つのコップに冷たいココアを入れて持ってきた。そして唐突に聞いてきた。

「恥ずかしいから、思い出さんでいいって///」
俺は照れた顔を隠すために、プイッとそっぽを向く。

「だって私が毎年書いていたお願い事、君はどうやってあの数の中から見つけてくるんだか毎年私の短冊のとなりに飾って、願い事の返事書いてたでしょ(笑)」
俺のコップを机に置いて、彼女は自分のココアを飲んで、美味しいというようにため息をつく。



友達から恋人になった俺たち。気心知れた仲ではあるが、これといって進展はなく、平行線を辿っていた。
俺は彼女のことすごく大好きだし愛したいけど、彼女が奥手過ぎて、どこまで愛していいのか迷っている現状だ。


「"ずっと、ずっと一緒にいてくれる人と巡り会えますように" の言葉に俺は答えられると思ったからだよ」
「んふふ///」

今度は彼女が照れを隠すように、ココアをスプーンでぐるぐるとかき混ぜてごまかす。

カラカラとスプーンで氷を混ぜる音がほんの少し涼しさを感じさせる。

「あのね、"俺ならずっと一緒にいられるし幸せに出きる!する!したい!だから、俺と結婚を前提に一緒にいて欲しいです!お願いします!" って、短冊に力強く書かれてて、周りでその短冊ちょっと話題になってたよ」

笑いをこらえながら話す彼女の話に初耳の俺は俯いて赤くなった顔を片手で隠す。
「マジか…、うわ、ハズカシッ」

「私の短冊の紐にくくりつけてあったし、短冊の裏に私の好きな花貼ってあったしで、テレビにも紹介されてたよ」

なにそれ、それも初耳だわ…。
「サイアク……」

追い討ちをかけるように畳み掛けてくる彼女。
「偶然見ちゃったのよ(笑)」

「俺は必死だったのに」
彼女のいれてくれたココアを飲んで、顔の火照りが少し落ち着く。

「何でそんな話を今するんだよ」
「今日町でそのイベント見てきたんだよね。毎年すごいけど、やっぱり今年もすごかったよ」

「あそ」
俺は完全に拗ねた。
何で連れていってくれなかったんだよ  (>ω<。) って。


「ココアありがとう」と彼女に言ってから、俺はふて寝した。一時間くらい。


その間に彼女は帰っちゃったけどね。


次の日。
昨日ふて寝した俺は、彼女に何て言って会おうか迷って、彼女の好きな花を買って会いに行くことにした。


会うまでに何か言葉を考えなければ。


大通りの花屋を訪れ、小さな花束を作ってもらった。
前に短冊に貼る花を買った時にお世話になった店員さんがいた。

「どうか素敵な1日を」という言葉に背中を押された俺は、彼女の家に行く決心を固める。


大通りの真ん中で七夕イベントと大きく書かれた看板が掲げられていた。
大きな笹の葉が飾られ、そこに皆で願いを書いた短冊を好きな場所に吊るしていく。

見かけた俺は方向転換し、ぐるりと笹の葉の周りを回り、彼女の書いた短冊探す。

昨日言っていた。

『今日町でそのイベント見てきたんだよね。毎年すごいけど、やっぱり今年もすごかったよ』

なら、書いてるはず。絶対書いて吊るしてあるはずだ。


花束を持ったまま、うろちょろ探し、やっと見つけた。

彼女は背が小さいからあまり高いところにはくくりつけられない。
いつも背伸びして腕を精一杯伸ばして少しでも高いところにつけたがる。可愛い彼女。

彼女の目線から少し上の辺りを見ると、…… あった。

彼女の短冊。

"大好き彼と笑顔溢れる幸せな家庭を、いつまでも一緒にいられますように"

「うぐっ…… ///」
"大好きな彼と笑顔溢れる幸せな家庭を"
赤くなる顔を片手で隠す。


密かに指輪買ったの気づかれてたんかな。
買ってからずっと鞄に入れて持ち歩いている。


プロポーズの言葉、紙に書いてはペンで消して書いては消して、紙がぐちゃぐちゃになるまで考えてたのバレてないよな?
そんなことしてたなんて、恥ずかしくて言えるか。


彼女の写真、部屋の写真立てに一つ、ロケットペンダントと手帳にも入れて持ち歩いてるのもバレないようにしないと。

ぐるぐると思考を巡らせて隠すこといっぱいだなとため息をつく。

並んで短冊を書く順番を待ち、俺の番になって短冊をスタッフからもらう。
ペンを持って、早速短冊を書いた。

紐をもらい、彼女の短冊の紐にくくりつけて吊るしてきた。
彼女の好きな花を裏に貼って。


ピンポーン♪


インターホンを押して、彼女が出てくるのを待つ。


「はーい!あ、ふて寝くん」
Tシャツに短パン姿の彼女が俺の顔を見るなりニカッと笑っておかしな名前で呼ぶ。

「その節はどうもすみませんでした ( ;´・ω・`)」
花束を背中に隠して、ペコリと頭を下げる。

「声かけたけど、ガチ寝だったもんね」
「気づかなかった…」

「何か言うことは?」
懺悔なら聞きますぞ?という顔をしている。

「俺と結婚してください」
隠していた花束をゆっくり彼女に差し出す。

「え?」
彼女、大困惑。
「あ、順番間違った。反省してます。ふて寝するときは、一緒に寝よう」
真剣な顔で誘うと、彼女は困った顔で少し笑う。

「いや、一緒に寝たくて言ってるんじゃなくて、というか、ふて寝を一緒にしようって誘ってくる人初めてだわ」
「え、それで拗ねてるのかと思って」
違うの?という顔を向けると、彼女は呆れた顔でこちらを見る。
「貴方じゃないんだから」
「……はい」
返す言葉もございませんですはい。


「で?順番間違えてプロポーズ?」

「まだプロポーズじゃない」
「じゃあ、さっきのは何?」
「な、なんでもないよ、うん  (;´ω`)」
彼女の困惑した顔見たらヘタレが前に出てきた。情けない。

「なんだ、違うのか…」
少し拗ねた顔をしてドアを閉めようとした彼女に俺は慌ててドアを掴んで止めた。

「何?」
「やっぱりなんでもなくない。俺と結婚してください!」
「……やだ」

「やだぁー⤵🙍」
俺は彼女の言葉にショックを受ける。

「出直してきてください」

パタン

彼女はドアを閉めて、インターホン越しに『お帰りください』と一言だけ言って出てこなくなった。

「わかった」
俯いたまま俺は花束を彼女の家の花壇に穴を掘ってせっせと植える。

ガチャ!

「こら!!勝手に花壇に植えるな!💢」
「お、出てきた」
穴を掘った土を再度埋め直すために手で土を戻していく。

「花と私に失礼でしょうが!」
「ごめんて。スコップちょうだい」
「まず植えるな!」
彼女は穴にはめた花束を引っこ抜き、花瓶買いに行くぞ!と再び紙に巻き直して二人で100円均一に花瓶を買いに行く事になった。

「このおバカめ」
ぷん😠💨 と怒りつつも、大事そうに花束を抱える彼女。

「すんませっ」
謝りつつも可愛いとちょっとしか反省してない俺。右手で口許を隠して口が緩むのを押さえる。

「なんか笑って「ないです」」
彼女が俺の顔を見てなんか笑ってない?という言葉に、言いきる前に即座に否定。反省の色だけは醸し出す。

大通りの近くにある100円均一に寄るため、また大通りに戻ってきた。

「あ、私また短冊書いたんだよ。ふふ、見つけられないように短冊が多いところに飾ってきたもんねー」
「そうなんだ。じゃあ、難易度高めだねぇ」
「そうなのよ」

ふふん と得意気にどや顔をする彼女に、もう短冊を見つけてしまった俺はとりあえず黙っておく。

100円均一でこれいいね、と二人で選んで買った花瓶を持って彼女の家に向かう。

大通りを通ったとき、ふと彼女が七夕イベントの方に足が向いた。

「いっぱい飾られてるね」
「ね」
くるくると周りを回っていろんな人のいろんなお願い事をさらりと見て回る。

「君は書かないの?」
「もう書いたよ」
「ほんと?どこ??」
彼女はきょろきょろ笹の葉に吊るされた短冊たちを今度はゆっくり見ていく。

「さぁ?どこでしょう」
「………まさか」

何かを察した彼女は、自分が吊るした辺りの短冊まで行って、背伸びをしてぐっと少し上の辺りを見る。

「あ!やっぱり!」
俺の短冊を引っ張って自分の方に引き寄せる。


"俺は君とこれからも、これからの人生も一緒に笑ったり時には困ったりなどしてずっと歩んでいきたい。お互いしわくちゃになっても変わらず君は可愛いし、愛し合っていく自信もある!溺愛する自信もある溺愛しかしない。どうか、俺と結婚してください!!"


細かい字でびっしり書いてある俺の短冊を読んだ彼女は「日本語変だよ(笑)」と泣きながら笑っていた。



彼女の返事は「はい」だった。



ちなみに指輪もメモも写真も全部バレていた。
うーん、どこでバレたんだろ……。



結婚式はまだだけど、とりあえずお互いの両親の挨拶からかなと思ってる。



今日も隣で笑う彼女につられて笑う。


"ずっと一緒にいられますように。"


星空に感謝と祈りを込めて彼女と眺めた。
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