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怪しいメイドに会う
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夜。
水を取りに台所に向かうと、不思議なメイドに出会った。
副騎士団長になって不思議に思うことがある。
この国は夜になると歌が聞こえてくることだ。
不眠症の俺は眠れなくてよく目の下に濃い隈をこさえていた。もうずっと、ずっとほとんど寝むれていない。
不眠症になって何年経つだろうか…。覚えてない。
ここに赴任してきてから、何度目かの夜が訪れた。
歌は聞こえてくるが一向に眠くならない。歌だけを聞いて夜が更ける。
正直苦痛でしかない。眠れないからな。
また夜が訪れる。疲れているはずなのに眠れないこの苦痛。
どうしたものか。
普段は寝転がったらベッドからは出ずに読書をしたり魔法書を読んで勉強したりするのだが、その日は蒸し暑く、台所に飲み水を取りに自室の扉を開けた。
「暑いな…」
誰も起きていない城の中は、昼間に行き交う人の声や往来がない分、とても静かで空気が澄んでいるように思える。
歩く自分の足音が月明かりが照らす廊下中に響いている。
相変わらず歌がどこからか聞こえてくるのだが、出所がわからないでいる。
いったいどこから───
台所の扉を少し開けたところで灯りが漏れていることに気付く。
(誰かいる)
ゆっくり扉を開けて中を覗くと小柄な女性がメイド服を着てお湯をコップに注いでいる姿が見えた。
(なんだ、メイドか。 ……ん?待て、メイド?皆寝てるはずの城に一人だけ起きている…)
「お前、何者だ」
ゆっくり近づいてメイドに静かに声をかける。
「~♪」
振り向いたメイドは唄を口ずさんでいた。
「~♪」
歌いながらメイドは口元に人差し指を当てて
"しーっ 静かに"
の仕草をして、なおも歌い続ける。
紙に何かを書きだしたメイドは、破いた紙を机の上に置いた。
" どうぞ "と書いた綺麗な字は、多分 " お座りください " の意。
「……………」
とりあえず黙る事にした俺は、大人しく椅子に座る。
まさか歌の出所はこのメイドからだったとは。
どうぞと書かれた紙の余白に俺は簡潔に言葉を書き出す。
" なぜ歌う "
彼女はその問いに対して答えた。
" 王様のお願い "
ここから俺たちは筆談で話をしていった。
" どうやって拡張を? "
" このイヤリングが音を大きくし、広げる役割をしてくれている "
メイドは自身の耳飾りをトントンと軽く叩く。一見透き通った水色に見えるの雫の形をしたイヤリングは、3つのランプの光に照されてよく見ると鮮やかに様々な色へと変化している。
" それには魔法が? "
じっと見た後、何かの魔法がかけられていることに気付いた俺は、さらに質問をする。
" はい "
こくりと彼女は歌いながら頷いた。
" 見せていただくことは "
かなり複数の魔法が複雑に練り込まれている。その仕組みを知りたくなった俺は交渉してみる。
" すみません "
目を閉じて首を横に振る彼女。
" ……わかりました。 "
" もう夜も明けます。自室にお戻りくださいませ "
と紙に書いたあと、彼女は何故か白湯を俺に出してきた。
(帰れってことか?)
" 水をもらいにきた "
紙に書くと彼女は水と白湯をお盆に置いて、俺にスッと差し出してきた。
" お戻りを "
顔にもそう書いてある。
仕方なく俺は席を立ち、お盆を持って台所を後にした。
台所を遠ざかっても歌は変わらず聞こえてくる。
不思議なメイド。
月明かりがまだ明るく照らす廊下を、自室に向かって歩き出す。
お盆を見ると湯気が立ち上る白湯と氷の入った水のコップがお盆の上を歩く振動でゆらゆらとゆっくり揺れている。
(こんな追い出され方は初めてだ)
ふぅとため息を付くとコップの底にさっきまで筆談をしていた紙が挟まっていた。
" よい夢を "
ごちゃごちゃと書いた筆談の一番端に綺麗な字で書いてあった。
「あのメイドは何者なんだろうか」
ふっ と自然と笑みが込み上がる。
(久々に楽しかった。歌いながら筆談されるとは)
紙を見ながら自室に入る。
とりあえず白湯でも飲んで落ち着こうとゆっくり飲んでベッドに座り、さっき見たイヤリング、複雑に練り込まれている魔法を1つ見つけたので、さっそく本で調べる事にした───────
コンコン
ドアを叩く音に気が付く。
目を開けると、俺は開いた本を横に置いたままベッドに横になっていた。
─── ? 今、俺は寝ていたのか?
寝ていたのか??
白湯を飲んで本を読んでいたのは覚えている。拡張の魔法を調べていて、それからもう1つの魔法も調べようとしてて……… そこからの記憶がない。
そうか、俺は寝ていたのか。
頭がスッキリしている。目も音もいつもよりはっきりと見えるし聞こえる。頭痛も倦怠感もない。
久々のちゃんとした睡眠。
コンコン
再び扉を叩く音がして返事をする。
「はい」
「副団長、おはようございます。朝の打ち合わせを少しだけお願いしてもよろしいでしょうか」
団長の声が扉越しに聞こえる。
「5分程待ってください。すぐ支度します」
そう言った俺は急いでベッドから降り、かかとを軽くトントンと叩く。
足元から魔法陣が現れ、その魔法陣が下から上に上がると一瞬にして服が変わる。
口元に人差し指を軽く当てて、左から右にスライドをさせると歯みがきをしたかのように口の中が爽やかに。
洗顔は昨日もらったまだ飲んでいない氷水の氷(何故かまだ溶けていない)を2つ取り出し、浮かせた氷をそのまま少量の水に変え、その中にタオルを沈めて濡らす。
冷たいタオルで寝起きの顔をシャキっとさせて身支度は終了した。
部屋を出る前に氷水を飲んで喉と身体を潤し、扉を開けて団長との打ち合わせを歩きながら始めた。
話ながら自然と廊下にいるメイドたちに目が行く。
(あのメイドはまだいない)
あのメイドは何者なんだろうか。
また、会えるだろうか
筆談で使った紙を胸ポケットにしまったまま、今日の業務に取りかかる。
登場人物 補足
🌿メイド
何やら訳ありな感じ。
夜中に子守唄を歌い続けていた。
珍しい魔道具を使用。
水を取りに台所に向かうと、不思議なメイドに出会った。
副騎士団長になって不思議に思うことがある。
この国は夜になると歌が聞こえてくることだ。
不眠症の俺は眠れなくてよく目の下に濃い隈をこさえていた。もうずっと、ずっとほとんど寝むれていない。
不眠症になって何年経つだろうか…。覚えてない。
ここに赴任してきてから、何度目かの夜が訪れた。
歌は聞こえてくるが一向に眠くならない。歌だけを聞いて夜が更ける。
正直苦痛でしかない。眠れないからな。
また夜が訪れる。疲れているはずなのに眠れないこの苦痛。
どうしたものか。
普段は寝転がったらベッドからは出ずに読書をしたり魔法書を読んで勉強したりするのだが、その日は蒸し暑く、台所に飲み水を取りに自室の扉を開けた。
「暑いな…」
誰も起きていない城の中は、昼間に行き交う人の声や往来がない分、とても静かで空気が澄んでいるように思える。
歩く自分の足音が月明かりが照らす廊下中に響いている。
相変わらず歌がどこからか聞こえてくるのだが、出所がわからないでいる。
いったいどこから───
台所の扉を少し開けたところで灯りが漏れていることに気付く。
(誰かいる)
ゆっくり扉を開けて中を覗くと小柄な女性がメイド服を着てお湯をコップに注いでいる姿が見えた。
(なんだ、メイドか。 ……ん?待て、メイド?皆寝てるはずの城に一人だけ起きている…)
「お前、何者だ」
ゆっくり近づいてメイドに静かに声をかける。
「~♪」
振り向いたメイドは唄を口ずさんでいた。
「~♪」
歌いながらメイドは口元に人差し指を当てて
"しーっ 静かに"
の仕草をして、なおも歌い続ける。
紙に何かを書きだしたメイドは、破いた紙を机の上に置いた。
" どうぞ "と書いた綺麗な字は、多分 " お座りください " の意。
「……………」
とりあえず黙る事にした俺は、大人しく椅子に座る。
まさか歌の出所はこのメイドからだったとは。
どうぞと書かれた紙の余白に俺は簡潔に言葉を書き出す。
" なぜ歌う "
彼女はその問いに対して答えた。
" 王様のお願い "
ここから俺たちは筆談で話をしていった。
" どうやって拡張を? "
" このイヤリングが音を大きくし、広げる役割をしてくれている "
メイドは自身の耳飾りをトントンと軽く叩く。一見透き通った水色に見えるの雫の形をしたイヤリングは、3つのランプの光に照されてよく見ると鮮やかに様々な色へと変化している。
" それには魔法が? "
じっと見た後、何かの魔法がかけられていることに気付いた俺は、さらに質問をする。
" はい "
こくりと彼女は歌いながら頷いた。
" 見せていただくことは "
かなり複数の魔法が複雑に練り込まれている。その仕組みを知りたくなった俺は交渉してみる。
" すみません "
目を閉じて首を横に振る彼女。
" ……わかりました。 "
" もう夜も明けます。自室にお戻りくださいませ "
と紙に書いたあと、彼女は何故か白湯を俺に出してきた。
(帰れってことか?)
" 水をもらいにきた "
紙に書くと彼女は水と白湯をお盆に置いて、俺にスッと差し出してきた。
" お戻りを "
顔にもそう書いてある。
仕方なく俺は席を立ち、お盆を持って台所を後にした。
台所を遠ざかっても歌は変わらず聞こえてくる。
不思議なメイド。
月明かりがまだ明るく照らす廊下を、自室に向かって歩き出す。
お盆を見ると湯気が立ち上る白湯と氷の入った水のコップがお盆の上を歩く振動でゆらゆらとゆっくり揺れている。
(こんな追い出され方は初めてだ)
ふぅとため息を付くとコップの底にさっきまで筆談をしていた紙が挟まっていた。
" よい夢を "
ごちゃごちゃと書いた筆談の一番端に綺麗な字で書いてあった。
「あのメイドは何者なんだろうか」
ふっ と自然と笑みが込み上がる。
(久々に楽しかった。歌いながら筆談されるとは)
紙を見ながら自室に入る。
とりあえず白湯でも飲んで落ち着こうとゆっくり飲んでベッドに座り、さっき見たイヤリング、複雑に練り込まれている魔法を1つ見つけたので、さっそく本で調べる事にした───────
コンコン
ドアを叩く音に気が付く。
目を開けると、俺は開いた本を横に置いたままベッドに横になっていた。
─── ? 今、俺は寝ていたのか?
寝ていたのか??
白湯を飲んで本を読んでいたのは覚えている。拡張の魔法を調べていて、それからもう1つの魔法も調べようとしてて……… そこからの記憶がない。
そうか、俺は寝ていたのか。
頭がスッキリしている。目も音もいつもよりはっきりと見えるし聞こえる。頭痛も倦怠感もない。
久々のちゃんとした睡眠。
コンコン
再び扉を叩く音がして返事をする。
「はい」
「副団長、おはようございます。朝の打ち合わせを少しだけお願いしてもよろしいでしょうか」
団長の声が扉越しに聞こえる。
「5分程待ってください。すぐ支度します」
そう言った俺は急いでベッドから降り、かかとを軽くトントンと叩く。
足元から魔法陣が現れ、その魔法陣が下から上に上がると一瞬にして服が変わる。
口元に人差し指を軽く当てて、左から右にスライドをさせると歯みがきをしたかのように口の中が爽やかに。
洗顔は昨日もらったまだ飲んでいない氷水の氷(何故かまだ溶けていない)を2つ取り出し、浮かせた氷をそのまま少量の水に変え、その中にタオルを沈めて濡らす。
冷たいタオルで寝起きの顔をシャキっとさせて身支度は終了した。
部屋を出る前に氷水を飲んで喉と身体を潤し、扉を開けて団長との打ち合わせを歩きながら始めた。
話ながら自然と廊下にいるメイドたちに目が行く。
(あのメイドはまだいない)
あのメイドは何者なんだろうか。
また、会えるだろうか
筆談で使った紙を胸ポケットにしまったまま、今日の業務に取りかかる。
登場人物 補足
🌿メイド
何やら訳ありな感じ。
夜中に子守唄を歌い続けていた。
珍しい魔道具を使用。
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