夜間勤務のメイド

灯埜

文字の大きさ
7 / 38

子どもの姿に

しおりを挟む
グウェンにも言っていない、俺の秘密。


半月と満月の日に子どもの姿になること。



俺は膨大な魔力を持って生まれてきた。
生まれた瞬間から身体への負荷が大きく、痛みで毎日泣いていたらしい。
成長し、日々訓練すれば多少は耐えられる身体となった。

だが、

成長するにつれて、半月と満月の日には何故か魔力がさらに増える現象に、身体に走る激痛と身体から漏れる魔力を抑えるために強い薬を飲み、薬の副作用によりひどい頭痛を抱え、夜を耐える。その繰り返しだった。


15歳になった時、父上が腕の立つ魔法師をつれてきた。後に俺のお師匠様となる人物だ。

俺の現状を知ったお師匠様は、俺に魔法をかけた。

魔力がさらに増える半月と満月の日に、少しでも暴走を抑える魔法を施したら、副作用として子どもの姿になってしまったらしい。

いやすまんすまん(笑)って笑ってごまかしてた。

そして魔法を二重に重ねてかけ、その魔法に鍵をかけた。
なんの魔法を重ねてかけたのかは教えてくれなかったが、
発動条件は
・半月と満月の日。
・魔力が急激に増えた時。
・身体に大きな負荷をかけたとき。
・お師匠様の考えた合言葉。

だと教えてもらった。
お師匠様曰く、「お前は自分を酷使しすぎる」だそうだ。
「我慢強いのはいいことだが、それを当たり前だと思うな。少しは周りを頼ることを知りなさい」と教えてくれた。


かけてもらった魔法のお陰で痛みがだいぶ安らいだ。
まだ痛みはあるが、我慢できないほどの痛みではない。
(これなら、大丈夫)

感情も何もかも死にかけていた俺は、いい師に巡り合えたと思っている。
彼のお陰で人間味を取り戻したといっても過言ではない。それほど大きな存在だった。

お師匠様は、今旅に出ている。
時々手紙を寄越しては、俺を心配しているようだった。それに、旅は相変わらずらしく、近々一旦帰るとも書いてあった。会えるのが楽しみだな。


魔法をかけてもらってから今に至るまで、俺が子どもの姿になることは家族以外に知る人はいない。

グウェンには何故言わないかというと、俺と同じ研究好きだから、俺にかけられた魔法を解読しようとするはず。
俺も一度やろうとして失敗している。
鍵付きの魔法に弾かれ、反動で子どもの姿に。お師匠様にこってり怒られたことがある。


それ以来、自身の鍵付き魔法の解読は諦めた。
お師匠様がいつか教えてくれるまで、待つ。


周りには絶対教えない。



今日がその半月の日。
部屋に戻ったは良いが、さすがにお腹が減った。
クキュルルルー… と細くて長い音がお腹から鳴る。

ベッドから降りて、ドアノブに手をのばす。
いつもなら片手で開けられるドアノブも今は大きく見える。小さい手では両手で開けざるを得ない。少し背伸びをしてドアノブを両手でひねり、ドアを開ける。

歌声だけが響く廊下に少しほっとする。
誰もいないことと彼女だけが起きているとわかるだけでも安心感がある。
(台所に行って食べ物を見つけてこよう)


ブカブカの服に、両手両足をだいぶ捲った裾が重たい。
(ワイシャツだけでもよかったんだが、誰もいない廊下は少し冷えるな)
多少重たくても我慢だ。

少し時間はかかったが、なんとか台所までたどり着いた。

「~♪」
彼女は相変わらず台所で何か作業をしていた。


カタン


捲った裾が何かに引っ掛かり、音が鳴る。
バッと振り返った彼女が俺の姿を見て、小首を傾げた。

(こんな子いたっけ?みたいな顔してる)
こっそり入るつもりが予期せぬ音で失敗してしまった。
俺は開き直って、いつも座る位置の椅子によじ登って座った。

"君は誰?"

彼女は筆談で問いかける。

"お腹が減った。何か食べるものが欲しい"

俺の字を読んだ彼女は、しばらく考えて"ちょっと待っててね"と書き残して、台所の奥に数分姿を消して戻ってきた。
手には小ぶりのカボチャが。

カボチャを洗い、上を少し切ってから種を取り出し、丸ごと魔工具の蒸し器に入れた。
しゅんしゅんと音を立てて蒸されていく。

その間に彼女は何かを鍋で温めだした。

(シチューだ)
今日の夕飯はシチューだったのか。余り物でも嬉しい。


カコン

カチャ カチャ コトッ

料理する音が台所に響く。

蒸し上がったカボチャを魔工具から取り出して皿に乗せ、カボチャの中にシチューを入れていく。
蒸すときに切った上部分を蓋代わりにして乗せ、俺の目の前に置いた。


"簡易的ですが、カボチャのシチューをどうぞ"


大人用のスプーンを渡され、小さい手で握る。
へたの部分を持って持ちあげると湯気がふわりと上がり、美味しそうなシチューの匂いが鼻をくすぐり、食欲をさらに誘う。

「い、いただき、ます」

ぎこちない挨拶をした後、スプーンをシチューの海にくぐらせてすくう。ふぅーと少し冷ましたあとゆっくり食べる。
(うまい!)
シチューはもともとカボチャのシチューだったようで、しっかりとカボチャの味がしていた。
カボチャの内側と一緒にシチューをすくって食べるとさらに甘く、おいしく感じた。

俺はカボチャのシチューを夢中で食べた。
大人用のスプーンは扱いづらく、度々こぼしてしまったが、その都度彼女が台ふきで拭き、服が汚れるのを防いでくれた。

ついでにナプキンで口許も拭かれてしまったが……(恥)


カボチャのへただけを残して全て食べた俺は、お腹がいっぱいになり、うとうとし始めた。
きっとさっき彼女が用意してくれたお茶を飲んだからだ。
それと、多分スプーン握ったまま眠ってしまったんだと思う。

起きると、知らない天井と部屋。
そして左手にはスプーンが握られていた。


「ここ、どこだ?」
俺は混乱と困惑、そしてあとからじわじわと沸き上がってきた恥ずかしさが入り交じった朝を迎えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...