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子どもの姿に
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グウェンにも言っていない、俺の秘密。
半月と満月の日に子どもの姿になること。
俺は膨大な魔力を持って生まれてきた。
生まれた瞬間から身体への負荷が大きく、痛みで毎日泣いていたらしい。
成長し、日々訓練すれば多少は耐えられる身体となった。
だが、
成長するにつれて、半月と満月の日には何故か魔力がさらに増える現象に、身体に走る激痛と身体から漏れる魔力を抑えるために強い薬を飲み、薬の副作用によりひどい頭痛を抱え、夜を耐える。その繰り返しだった。
15歳になった時、父上が腕の立つ魔法師をつれてきた。後に俺のお師匠様となる人物だ。
俺の現状を知ったお師匠様は、俺に魔法をかけた。
魔力がさらに増える半月と満月の日に、少しでも暴走を抑える魔法を施したら、副作用として子どもの姿になってしまったらしい。
いやすまんすまん(笑)って笑ってごまかしてた。
そして魔法を二重に重ねてかけ、その魔法に鍵をかけた。
なんの魔法を重ねてかけたのかは教えてくれなかったが、
発動条件は
・半月と満月の日。
・魔力が急激に増えた時。
・身体に大きな負荷をかけたとき。
・お師匠様の考えた合言葉。
だと教えてもらった。
お師匠様曰く、「お前は自分を酷使しすぎる」だそうだ。
「我慢強いのはいいことだが、それを当たり前だと思うな。少しは周りを頼ることを知りなさい」と教えてくれた。
かけてもらった魔法のお陰で痛みがだいぶ安らいだ。
まだ痛みはあるが、我慢できないほどの痛みではない。
(これなら、大丈夫)
感情も何もかも死にかけていた俺は、いい師に巡り合えたと思っている。
彼のお陰で人間味を取り戻したといっても過言ではない。それほど大きな存在だった。
お師匠様は、今旅に出ている。
時々手紙を寄越しては、俺を心配しているようだった。それに、旅は相変わらずらしく、近々一旦帰るとも書いてあった。会えるのが楽しみだな。
魔法をかけてもらってから今に至るまで、俺が子どもの姿になることは家族以外に知る人はいない。
グウェンには何故言わないかというと、俺と同じ研究好きだから、俺にかけられた魔法を解読しようとするはず。
俺も一度やろうとして失敗している。
鍵付きの魔法に弾かれ、反動で子どもの姿に。お師匠様にこってり怒られたことがある。
それ以来、自身の鍵付き魔法の解読は諦めた。
お師匠様がいつか教えてくれるまで、待つ。
周りには絶対教えない。
今日がその半月の日。
部屋に戻ったは良いが、さすがにお腹が減った。
クキュルルルー… と細くて長い音がお腹から鳴る。
ベッドから降りて、ドアノブに手をのばす。
いつもなら片手で開けられるドアノブも今は大きく見える。小さい手では両手で開けざるを得ない。少し背伸びをしてドアノブを両手でひねり、ドアを開ける。
歌声だけが響く廊下に少しほっとする。
誰もいないことと彼女だけが起きているとわかるだけでも安心感がある。
(台所に行って食べ物を見つけてこよう)
ブカブカの服に、両手両足をだいぶ捲った裾が重たい。
(ワイシャツだけでもよかったんだが、誰もいない廊下は少し冷えるな)
多少重たくても我慢だ。
少し時間はかかったが、なんとか台所までたどり着いた。
「~♪」
彼女は相変わらず台所で何か作業をしていた。
カタン
捲った裾が何かに引っ掛かり、音が鳴る。
バッと振り返った彼女が俺の姿を見て、小首を傾げた。
(こんな子いたっけ?みたいな顔してる)
こっそり入るつもりが予期せぬ音で失敗してしまった。
俺は開き直って、いつも座る位置の椅子によじ登って座った。
"君は誰?"
彼女は筆談で問いかける。
"お腹が減った。何か食べるものが欲しい"
俺の字を読んだ彼女は、しばらく考えて"ちょっと待っててね"と書き残して、台所の奥に数分姿を消して戻ってきた。
手には小ぶりのカボチャが。
カボチャを洗い、上を少し切ってから種を取り出し、丸ごと魔工具の蒸し器に入れた。
しゅんしゅんと音を立てて蒸されていく。
その間に彼女は何かを鍋で温めだした。
(シチューだ)
今日の夕飯はシチューだったのか。余り物でも嬉しい。
カコン
カチャ カチャ コトッ
料理する音が台所に響く。
蒸し上がったカボチャを魔工具から取り出して皿に乗せ、カボチャの中にシチューを入れていく。
蒸すときに切った上部分を蓋代わりにして乗せ、俺の目の前に置いた。
"簡易的ですが、カボチャのシチューをどうぞ"
大人用のスプーンを渡され、小さい手で握る。
へたの部分を持って持ちあげると湯気がふわりと上がり、美味しそうなシチューの匂いが鼻をくすぐり、食欲をさらに誘う。
「い、いただき、ます」
ぎこちない挨拶をした後、スプーンをシチューの海にくぐらせてすくう。ふぅーと少し冷ましたあとゆっくり食べる。
(うまい!)
シチューはもともとカボチャのシチューだったようで、しっかりとカボチャの味がしていた。
カボチャの内側と一緒にシチューをすくって食べるとさらに甘く、おいしく感じた。
俺はカボチャのシチューを夢中で食べた。
大人用のスプーンは扱いづらく、度々こぼしてしまったが、その都度彼女が台ふきで拭き、服が汚れるのを防いでくれた。
ついでにナプキンで口許も拭かれてしまったが……(恥)
カボチャのへただけを残して全て食べた俺は、お腹がいっぱいになり、うとうとし始めた。
きっとさっき彼女が用意してくれたお茶を飲んだからだ。
それと、多分スプーン握ったまま眠ってしまったんだと思う。
起きると、知らない天井と部屋。
そして左手にはスプーンが握られていた。
「ここ、どこだ?」
俺は混乱と困惑、そしてあとからじわじわと沸き上がってきた恥ずかしさが入り交じった朝を迎えた。
半月と満月の日に子どもの姿になること。
俺は膨大な魔力を持って生まれてきた。
生まれた瞬間から身体への負荷が大きく、痛みで毎日泣いていたらしい。
成長し、日々訓練すれば多少は耐えられる身体となった。
だが、
成長するにつれて、半月と満月の日には何故か魔力がさらに増える現象に、身体に走る激痛と身体から漏れる魔力を抑えるために強い薬を飲み、薬の副作用によりひどい頭痛を抱え、夜を耐える。その繰り返しだった。
15歳になった時、父上が腕の立つ魔法師をつれてきた。後に俺のお師匠様となる人物だ。
俺の現状を知ったお師匠様は、俺に魔法をかけた。
魔力がさらに増える半月と満月の日に、少しでも暴走を抑える魔法を施したら、副作用として子どもの姿になってしまったらしい。
いやすまんすまん(笑)って笑ってごまかしてた。
そして魔法を二重に重ねてかけ、その魔法に鍵をかけた。
なんの魔法を重ねてかけたのかは教えてくれなかったが、
発動条件は
・半月と満月の日。
・魔力が急激に増えた時。
・身体に大きな負荷をかけたとき。
・お師匠様の考えた合言葉。
だと教えてもらった。
お師匠様曰く、「お前は自分を酷使しすぎる」だそうだ。
「我慢強いのはいいことだが、それを当たり前だと思うな。少しは周りを頼ることを知りなさい」と教えてくれた。
かけてもらった魔法のお陰で痛みがだいぶ安らいだ。
まだ痛みはあるが、我慢できないほどの痛みではない。
(これなら、大丈夫)
感情も何もかも死にかけていた俺は、いい師に巡り合えたと思っている。
彼のお陰で人間味を取り戻したといっても過言ではない。それほど大きな存在だった。
お師匠様は、今旅に出ている。
時々手紙を寄越しては、俺を心配しているようだった。それに、旅は相変わらずらしく、近々一旦帰るとも書いてあった。会えるのが楽しみだな。
魔法をかけてもらってから今に至るまで、俺が子どもの姿になることは家族以外に知る人はいない。
グウェンには何故言わないかというと、俺と同じ研究好きだから、俺にかけられた魔法を解読しようとするはず。
俺も一度やろうとして失敗している。
鍵付きの魔法に弾かれ、反動で子どもの姿に。お師匠様にこってり怒られたことがある。
それ以来、自身の鍵付き魔法の解読は諦めた。
お師匠様がいつか教えてくれるまで、待つ。
周りには絶対教えない。
今日がその半月の日。
部屋に戻ったは良いが、さすがにお腹が減った。
クキュルルルー… と細くて長い音がお腹から鳴る。
ベッドから降りて、ドアノブに手をのばす。
いつもなら片手で開けられるドアノブも今は大きく見える。小さい手では両手で開けざるを得ない。少し背伸びをしてドアノブを両手でひねり、ドアを開ける。
歌声だけが響く廊下に少しほっとする。
誰もいないことと彼女だけが起きているとわかるだけでも安心感がある。
(台所に行って食べ物を見つけてこよう)
ブカブカの服に、両手両足をだいぶ捲った裾が重たい。
(ワイシャツだけでもよかったんだが、誰もいない廊下は少し冷えるな)
多少重たくても我慢だ。
少し時間はかかったが、なんとか台所までたどり着いた。
「~♪」
彼女は相変わらず台所で何か作業をしていた。
カタン
捲った裾が何かに引っ掛かり、音が鳴る。
バッと振り返った彼女が俺の姿を見て、小首を傾げた。
(こんな子いたっけ?みたいな顔してる)
こっそり入るつもりが予期せぬ音で失敗してしまった。
俺は開き直って、いつも座る位置の椅子によじ登って座った。
"君は誰?"
彼女は筆談で問いかける。
"お腹が減った。何か食べるものが欲しい"
俺の字を読んだ彼女は、しばらく考えて"ちょっと待っててね"と書き残して、台所の奥に数分姿を消して戻ってきた。
手には小ぶりのカボチャが。
カボチャを洗い、上を少し切ってから種を取り出し、丸ごと魔工具の蒸し器に入れた。
しゅんしゅんと音を立てて蒸されていく。
その間に彼女は何かを鍋で温めだした。
(シチューだ)
今日の夕飯はシチューだったのか。余り物でも嬉しい。
カコン
カチャ カチャ コトッ
料理する音が台所に響く。
蒸し上がったカボチャを魔工具から取り出して皿に乗せ、カボチャの中にシチューを入れていく。
蒸すときに切った上部分を蓋代わりにして乗せ、俺の目の前に置いた。
"簡易的ですが、カボチャのシチューをどうぞ"
大人用のスプーンを渡され、小さい手で握る。
へたの部分を持って持ちあげると湯気がふわりと上がり、美味しそうなシチューの匂いが鼻をくすぐり、食欲をさらに誘う。
「い、いただき、ます」
ぎこちない挨拶をした後、スプーンをシチューの海にくぐらせてすくう。ふぅーと少し冷ましたあとゆっくり食べる。
(うまい!)
シチューはもともとカボチャのシチューだったようで、しっかりとカボチャの味がしていた。
カボチャの内側と一緒にシチューをすくって食べるとさらに甘く、おいしく感じた。
俺はカボチャのシチューを夢中で食べた。
大人用のスプーンは扱いづらく、度々こぼしてしまったが、その都度彼女が台ふきで拭き、服が汚れるのを防いでくれた。
ついでにナプキンで口許も拭かれてしまったが……(恥)
カボチャのへただけを残して全て食べた俺は、お腹がいっぱいになり、うとうとし始めた。
きっとさっき彼女が用意してくれたお茶を飲んだからだ。
それと、多分スプーン握ったまま眠ってしまったんだと思う。
起きると、知らない天井と部屋。
そして左手にはスプーンが握られていた。
「ここ、どこだ?」
俺は混乱と困惑、そしてあとからじわじわと沸き上がってきた恥ずかしさが入り交じった朝を迎えた。
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