空中転生 - 落ちこぼれニート、空の上でリスポーンしました -

蜂蜜

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第3章 少年期 ミリア編

第四十五話「水上都市・ミリア」

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 ミリア都市国家。
 通称、「水上都市」。

 その通称の文字通り、この国はさながら水の上に浮かんでいるようにも見える。
 いや、見えるなんてもんじゃない。
 この都市は、水の上に浮かんでいる。

 遠い遠洋からでもそれとわかるくらい、巨大な街だ。
 聞くところによると、ここは世界で唯一の水に浮かぶ「都市国家」であるらしい。
 そりゃそうだ。
 こんな街がコロコロあってたまるか。

 ブルタ王国の中に存在する最大の都市、ミリア都市国家。
 水上都市と呼ばれるだけあって、水が今までに見た中で一番透き通っている。

 そして、デュシス大陸に上陸したということは。

「人族ばっかりね!」

 これまで竜人族ばかりだった人間が、ほとんど人族になった。
 転移する前までこれが普通に光景だったのに、何故か違和感を覚える。
 角も生えてないし、皮膚の色もほとんど肌色だ。

 今日からまた何週間か、この街に滞在する。
 大陸を渡るためにほとんどの金を使ってしまったため、また旅費を稼がなければならない。
 また運よく事件に巻き込まれて大金を稼げればいいのだが。
 人生はそう甘くない。

「とりあえず、宿を取ろう」

 ランスロットのこの言葉も、もはやデジャヴュのように思える。
 これから何回聞くことになるやら。

 俺達以外に人間語を喋っている人が周りにいるのが違和感でしかない。
 看板に書いてある文字も、全て人間語だ。
 たった三ヶ月天大陸にいただけで、全く目が慣れない。

 船旅は、過酷を極めた。
 道中で何度も死ぬような思いをした。
 一番死の危険を感じたのは、クラーケンの襲来があった時だろう。
 思っていた五倍は大きかったな。

 クラーケンは八本の巨大な足で、船を転覆させようとしてきた。
 乗っていた乗客の中に冒険者も何人かいたため、協力しながらなんとか撃退したものの。
 足を斬っても斬っても無限に生えてくるから、かなり危ないところだった。
 八本の足を同時に斬ったことで、クラーケンは消滅した。

 後は、エリーゼの介抱が大変だったな。
 ランスロットの言った通り、一週間が経った頃から天候が悪化。
 それと共に船の揺れもかなり激しいものとなった。

 俺はそれでも船酔いはしなかったが、エリーゼの症状がひどかった。
 魔力が尽きる寸前までエリーゼの治療に専念する、というのを一週間ほど続けたところ、
 天気が回復したと同時にエリーゼの体調も回復した。

 もう二度と船旅はごめんだ。
 と言いたいところだが、残念ながらもう一度船に乗らなければならない。
 デュシス大陸は、俺達のゴールではない。
 いわば、チェックポイントみたいなものだ。

 デュシス大陸の南端に位置するミリア都市国家から、歩いて北上する。
 そして進路を東に変えて進む。
 道中にどんな街に寄るかとかは、あまり明確に決まっていない。
 ただ、ランスロットの描いた世界地図には、中央大陸とデュシス大陸の間に陸地は存在しなかった。
 つまり、二度目の地獄が確約されたわけだ。

 ……エリーゼが弱っていて、凄く甘えん坊だった姿は、しっかりと脳と瞼に焼き付けておいた。
 危うく手を出してしまう所だったが、弱みに付け込むような男ではない。
 俺はそのあたりをきちんと弁えている立派な紳士なのさ。

 宿に入り、手続きを済ませ、部屋に入る。
 今回も二部屋しかとれなかった。

 ということは、

「あたしはシャルロッテと一緒の部屋にするわ」
「はいはい……あれ?」

 ……あれ?
 いつもの流れなら、「あたしはベルと一緒の部屋がいいわ!」と駄々をこねるところじゃないか。
 まあ、エリーゼにも気分というものがあるのだろう。

「エリーゼは、ベルと一緒ではなくていいのか?」
「ええ」
「珍しいですね。何かあったんですか?
 喧嘩でもしましたか?」
「別に、そういうわけじゃ……」

 エリーゼはシャルロッテから目を逸らす。

 ん?
 何かやましいことでもあるのだろうか。
 俺に隠し事でもしているのか?

 エリーゼの顔を覗き込むと、慌ててそっぽを向かれてしまった。
 え、もしかして俺が何かしただろうか。
 治療の時に服のボタンを開けていたから、その間から二つの丘を拝んだのがダメだったか。
 まだ山とは言い難い大きさだが順調に……じゃなくて。

「とりあえず、今日は各々ゆっくり休め。
 俺も流石にこの船旅は堪えた」
「分かりました。
 皆さん、おやすみなさい」
「今から寝るんですか……」

 ランスロットは、これまた珍しくグッタリとした様子で部屋へ入ってしまった。
 シャルロッテも欠伸をしながらその場を後にした。
 残ったのは、俺とエリーゼのみ。
 やけに気まずいな。

「あの、エリーゼ?」
「おやすみ」

 エリーゼは俺に見向きもせずに、シャルロッテの後を追うようにして扉に手をかけた。
 一瞬動きを止めたが、やはりそのまま勢いよく扉を閉めた。

「えぇ……」

 昨日までこんなことなかったのにな。
 急激な心の変化があったのかもしれない。
 エリーゼは、あと半年もしないうちに13歳を迎える。
 もう中学生の歳だ。
 あ、芸人の方じゃないぞ。

 中学生あたりから本格的に思春期が始まる人が多いだろうし、
 もしかしたらエリーゼもそうなのかもしれない。
 だとしても、ああも冷たくされるのはキツイ。

 皆疲れているようだが、俺は不思議と疲労はない。
 エリーゼの介抱に着かれているといえばそうだが、最後の一週間はゆっくりできたし。

 一人で、「水上都市」の観光でもしてみようか。
 どうせ暇だし、まだ外は全然明るい。
 また遠くないうちに冒険者活動を再開するだろうから、今のうちに観光を楽しんでおこう。

---

 ラゾンも良かったが、流石は都市国家と言ったところか。
 何から何まで、全部デカい。

 建物、売っている魚の大きさ、後はすれ違う女性達の胸筋。
 最後のは決して変な意味じゃなくてだな。
 てか、そんなものは街の大きさと全く関係ない。

 こうして一人で街を歩くというのも、たまにはいいな。
 そりゃみんながいたほうが賑やかで楽しいだろうが、
 何も言わずただ街を見て回るのも趣があっていい。

 アヴァンを歩いていた時にも思ったが、都会は歩いているだけで楽しい。
 目新しいものばかりが目に飛び込んでくるから、見ていても飽きない。
 ただ、肉体的には相当疲れるが。

 ミリアにはどのくらい滞在するんだろうか。
 何週間かということは聞いているが、しばらくここに滞在したいな。
 まだ何もミリアについて知らない状態ではあるが、既に俺はこの街が好きだ。
 綺麗なのはもちろんのこと、こんなに人が多くて建物も多いのに、空気が淀んでいない。
 海が近いということも関係しているのかもしれないな。

 グレイス王国のアヴァンは、到底空気が美味しいとは言えない。
 なんというか、こう……淀んでるんだよ。

 それは置いておいてだな。
 俺は今、猛烈にエリーゼのことが気になっている。
 どうして、あんな塩対応をされてしまったのだろうか。
 何も悪いことをした覚えはないんだけどな。

 あれはその、なんというか、不可抗力であってだな。
 胸元が開いていたら、男ならだれでも視線を向けてしまうだろう。
 それを免罪符にするのはあまりよくないとは思うが。

「あ」

 やべ。
 お金を宿に忘れてきた。
 何か買おうと思って出てきたのに。
 財布を忘れて愉快なベルさんってか。
 字数が合わんな。

 うーむ。
 今から取りに帰るのは面倒だな。
 無理にものを買う必要はないか。
 いやでも、エリーゼが何か怒っているんだとしたら、
 申し訳程度にささやかなプレゼントをあげてみてもいいが……。

 金がない以上、どうすることもできないか。
 そのあたりに生えている適当な花でも摘んで帰るか。
 昔、母の日にタンポポを摘んで母にプレゼントしたことがあったな。

 今、彼女はどうしているのだろうか。
 日本にいる実の母親にしても、この世界での母親であるロトアにしても。
 なんとかどっちも、無事に生きていて欲しい。

「ギルドに行ってみるか」

 なんて独り言を吐いたものの。
 もちろん、ギルドの場所なんて知るはずもない。
 都市の全体図が描かれているところとかないのだろうか。
 探せばありそうではあるが。

 こんなに大きな都市なんだから、マップの一つや二つないと、新参者は生きていけないぞ。
 天大陸からの観光客も少なからず来るだろうし。

「あっ、あった」

 とか何とか言っているうちに、地図のようなものを見つけた。
 うわ、人間語を読むのは久しぶりだな。
 海外留学に行った後ってこんな感じなんだろうか。

「冒険者ギルド、冒険者ギルド……こっちか」

 入念に方向を確認し、宿までの道も記憶しつつ、ギルドへ向かった。



 数十分歩いて、辿り着いた。
 久々にこんなに足を動かしたから、既に足がパンパンだ。
 ここから宿まで一時間くらいかかるし。
 転移魔術みたいなものがあればな。
 もう全世界のいたるところに転移魔法陣を設置してくれ。
 世界旅行が楽になる。

「ちっ! どけ!」
「うわっ!?」

 なんだよ!
 急に飛び出してきたかと思えば、おもっくそ肩をぶつけてきやがった。
 ……なんだあれ。小さいな。
 子供か?
 いや、子供にしては声が低かったような。

 小人族ってやつか?
 いや、屈強そうに見えるからドワーフか。
 どっちでもいいが、気に食わん奴だな。
 別に、追いかけてどうこうするなんてことはしないけど。

「――いたぞ!」

 大きな男の声が、辺りに響き渡る。
 今度は何だ?
 盗みでも起こったのか?

 もしかして、さっきの小さい奴のことだろうか。
 俺に似た金髪に、灰色のローブ。

「あっちに行きましたよ」
「お前だな」
「……えっ?」

 小さな奴が逃げた方向を指さすと、鉄槍を持った衛兵が何人もやって来た。
 そして、俺を取り囲んだ。

「え? え?」
「ようやく観念したか」
「観念も何も、僕じゃありませ――」

 俺は言い訳をさせてもらう余地もなく、衛兵達に捕らえられた。
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