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七章/合同体育祭

妹と百合ノ宮会長

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「矢崎…お前…」

 そういやあこいつが俺のペアの相手だったんだ。
 たしかに白と赤を基調とした貴族の服は似合うけど、この男はどちらかといえば黒の衣装っつうか魔王の格好の方が似合いそうな気が……おっと口が滑りそうになった。

「架谷…いや、カイ姫。もう審査員がこちらを見ているから言動には気をつけた方がいいぞ」と、ハル。
「げ…もう試合は始まってんの…じゃなくて始まっていらっしゃるのですか?お、俺…いや、わたくし驚きですわぁ!」

 さっきバ会長の金玉を蹴りあげたせいで大幅に減点されただろうな。あれはお姫様らしからぬお下劣行為であったと自分でも思うよ。
 だがしかし、あのバ会長にキスされるくらいなら大幅減点された方が全然マシだ。俺はそっちの趣味はねぇ。よって、奴へのち○ぽ末代祟り攻撃は正当防衛なのだ。許せ審査員どもよ。

「直ー!ここにいたのか!なんで俺から逃げるんだよ!俺と直は両想いだって言ってんだろ!」
 そこへ、このカオスな状況を作り上げた一番の元凶がとうとうやって来た。
「両想い?へえ、そうなのですか。わたくし大層驚きましたわ。ナオ王子様が日下部姫と、ねぇ…それはおめでとうございますぅ」

 と、わざとらしく王子…いや矢崎の方を冷やかすように見上げれば、恐ろしい顔で睨まれた。矢崎もさすがにKY日下部姫とは御免こうむりの助のようである。

「あーお前甲斐か!?すげー綺麗な女顔してる割に言動は男みたいでキモいんだぞ」
「キモくてわるかったn…じゃなくて悪かったですわね。わたくしは女々しい事が嫌いなのですのことよ!今日の競技も仕方なく、ですのことよ!」
「なら、直を俺にくれよ!俺は直とペアがいいんだぞ」
「あなたは無才でしょう?敵同士と組むわけにはいかないでしょう。王子様を交換するだなんてパラレルワールドになってしまいますわ」
「パラレルワールドでもいいんだぞ!俺と直は結ばれる運命だからな!」

 どんな運命だよどんな。矢崎相手とはいえ、こいつに付きまとわれるようになった矢崎に同情したくなるよ。

「何!?天弥が矢崎と組むだと!?なら、俺が架谷甲斐と組んでやってもいいぜ!」

 いつの間にか復活したバ会長が名乗りをあげた。
 クソっ。もう復活したのか。コイツの金玉どうなってんだよ。意外に強靭だな。競技が始まるまで寝てりゃあいいのによ…話がややこしくなんだろ。

「貴様ら……」

 そんな中、今まで黙って見ていた直にイライラの我慢の限界がきたらしく、近くにいた甲斐を引き寄せて軽々横抱きにして持ち上げた。

「ひ…!?」

 油断していたため、甲斐は抵抗する暇もなく直によって運ばれて行く。
 周囲には嫉妬する悲鳴がわきあがり、生徒会や他四天王達も同じ気持ちでこちらを驚きに見ている。後ろの方で日下部が怒りに何かを叫んでいるが、直は無視してどんどん突き進んだ。

「てめえ…!何しやがるんですか!!おろしやがれですわ!まだ競技が始まっていないですのにこの抱き方は周りに誤解を与えますわ!」
「うるせえ、黙れ。お前は無自覚にアイツらを引き寄せやがって…腹立つッ」
 直は下唇を噛みしめて、苛立ちに眉間にしわを寄せた顔をしている。
「引き寄せたつもりなんてないですわ!あいつらが勝手にくっついてくるんですわ。開星にいるドMなチワワ並みにウザいのでどうしたらいいか悩んでいたのです」
「それが無自覚タラシ野郎というんだ、カイ姫」
「だったらなんだと言うのですかナオ王子様。あなたには関係ない事です。何を怒っていらっしゃるの。たしかにKY日下部姫に纏わりつかれて腹が立っているご様子ですが、私のためにそこまで怒る必要なんてございませんでしょ。あの無粋な連中共は私が撒いた種なんですから」
「あなたを奪おうとするあいつらに嫉妬しているからです、姫」
「……は」

 急に真剣な顔をされて不意にドキッとした。

「私だけを見てほしいのです…」
「王、子」
「少しでもいいから…心を開いてほしい。たとえ、あなたが私を嫌いでも…私はあなたのそばにいたい……一緒にいたいんです」
 寂しげで切ない直の表情に、甲斐は目を奪われたままごくりと喉を動かした。

 え、これ…演技、だよな?ほら、審査員がじっとこちらを見ているし…。
 うん、演技だ演技。
 今までの事を考えれば、この男が本気でこんな事を言うはずないんだから。
 散々俺の事バカにして、罵ってきたくせに、いきなり求愛するみたいな台詞――…ありえない。きっと俺をその気にさせて騙そうとしているんだ。そんで、騙して笑う気だろ?
 でも、こっちだってそう簡単に騙されやしない。騙そうったってそうは問屋がおろさねーんだよ。俺はあんたが以前言ったように疑り深い性格だからな。

「あーお兄ちゃん姫はっけーん!」
「未来!」

 ナオ王子に横抱きにされたまま振り返ると、妹の未来もドレス姿でやってきた。
 白を基調としたドレスはとても綺麗で、まるで妹が嫁入り前みたいな姿に見えてしまったのは兄補正のせいだろうか。
 その隣には百合ノ宮の生徒会長の柚木桜子もいて、彼女の格好は麗しい王子様姿であった。普段とちがって中性的な男装姿はタカラヅカのようである。

「お兄ちゃんその姿ちょー似合ってんじゃん。可愛いよ」
「うるせ。無理やり着せられたんだよ」
「そう言う割にはナオ王子様とお似合いだね。お姫様抱っこされてるし」
「こ、これにはいろいろと事情があんだよ。決して変な意味じゃあないからな」

 ナオ王子はやっと俺を横抱きから解放しておろした。クソ恥ずかしかった。
 それにしても、いつの間に未来は百合ノ宮の会長と仲良くなったんだか。
 ちゃっかり腕を組みあってくっついているし。しかも相当仲良さげにほっぺにチューとかしあっているしよ。
 これ演技なのだろうか…?
 そもそも学校違う同士なのにペアになってるけどいいのかこれ。

「あーら、どっかのバカ財閥様じゃないですか。馬子にも衣装と言う感じでよくお似合いで。大魔王らしさが出ていてぴったりです事」
 高飛車な態度の柚木生徒会長。直の姿を嘲笑う。
「桜子さま、直様は大魔王じゃなくて王子様だと思うけど…」と、フォローを入れる未来。
「あ~ら、そうなの。てっきり溢れ出る負のオーラから大魔王だと思っちゃったわ。ごめんあそばせ~」
 皮肉を言うと、ナオ王子の顔に鋭さが増す。

「何のご用ですかな、クソ女王子」と、キレているナオ王子。
「別にご用なんてないのですよ。未来姫の兄上様がどーんな人か見に来ただけなのです。あなたになんて用はないんだから」
「あ、そ。なら私の前に姿を見せないでいただきたい。クソうぜえ。目障りだ」
「だったらあなたが消えれば済むことでしょ。あんたこそ目障りですわ」
「お前が消えろよ」
「だからあんたが…「まあまあ。仲良くしましょうよ二人とも」と、間に割って入る未来。
 この二人もなんでかしらんが相当仲悪そうである。

「桜子さま、この人が私のお兄ちゃんだよ。ちょっとおっちょこちょいで頭悪いとこあるけど、頼りになる自慢の兄ちゃんなんだ~」
 
 未来が柚木会長に改めて俺を紹介する。頭悪いはともかくとして、おっちょこちょいは余計だっての。

「はじめまして。あなたが未来ちゃんのお兄さんの架谷甲斐君さんね?未来ちゃんから噂は兼ね兼ねきいていますわ」
「そ、そうっすか。…まあ、噂通りの者ですよ」

 近くで見ると本当に綺麗な人だなァ。
 絶世の美女ってこういう人の事を言うんだろうな。

「知ってると思うけど、百合ノ宮学園の二年の柚木桜子です。未来ちゃんとは先日の体育祭の練習で知り合って仲良くなったの。どうぞよろしくね。兄上様」
「よ、よろしく」

 とりあえず握手をかわす。
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