149 / 173
終章/恋人以上家族未満
母親2
しおりを挟む
そんな日々を過ごして一年後――……
ついに正之が直を矢崎グループの立派な社長として認め、直を実の母親と逢わせてもいいというお許しが出た。
甲斐はこの日が来るのをずっと待っていた。
それは本日の直の22歳の誕生日のこと。
前日には盛大な誕生パーティーが社交の場で行われたが、本日は身内だけで行う非公式の小さな誕生会。この帝都クラウンホテルの応接間の一室で。
「22歳おめでとう、直」
「……サンキュー」
直は照れたように甲斐に礼を言う。
他の四天王や妹の友里香と未来、元開星のOBたちを招き、昨日行われた社交の場でのツマラナイ誕生パーティーより全然楽しいものになりそうである。
「照れる直っちってなんかキモいよね」
「だよねー。甲斐君が照れたら可愛いけど直君が照れてもゲロ吐くほど鳥肌立つし」
「本当に吐きそうなほど気持ちが悪いから困る」
「貴様らうるせぇ。黙れ」
四天王同士の漫才みたいなやりとりは健在で、周りからは笑いがどっと起こる。
「それでさ、直」
「ん…」
「今日、お前にあわせたい人がいるんだ」
「……あわせたい人…?」
「お前の、本当のお母さんに」
途端、直の眼が大きく見開かれる。
「いきなりで驚くかもしれない。でも、これだけはわかってほしい。決して、お前のお母さんはお前を捨てたわけじゃないって事を」
「甲斐……お前、どこまで知って……」
「ごめんな、直…。ずっと、知ってた事黙ってて。お前の生い立ちの事は全部知ってた。だけど、この日が来るまで言えなかったんだ。決して、わざと黙ってたわけじゃない事もわかってほしい」
愛する甲斐がそう言うのだから、話すと長くなるようないろんな事情があったのだろう。
それに今考えると、母親がなぜ自分に逢いに来なかったのか、いや、逢いに来れなかったのかという事情が薄々読めてくる。
おそらく、圧力か……。
そう察すると、矢崎家全体にまた大きく憎しみがわくが、今は母親という存在がどんな人物か見てみよう…、そう思った直。
そしてついに――……
「久しぶりね」
目の前には見たことがある若作りの女性がやってきていた。
この人は確か甲斐の母親代わりの人で……
この人が……オレの………母親?
本当に……?
「立派になったのね……あの頃から、本当に」
女性は瞳に涙を浮かべながら柔和に微笑んでいる。
「……あなたが、早苗さんが……オレの……母親……なの、ですか…?」
恐る恐る訊ねる直に、彼女は、早苗はゆっくり頷く。
「ずっと、20年以上……あなたの事を考えない日はなかったわ。私の…大事な大事な長男なんですもの」
「…っ…」
「直、ごめんね……今まで、逢ってあげられなくて。母親として、守ってあげられなくて。こんな不甲斐ない母親で許してほしいなんて言えないけれど、私は……」
「お……お、かあ、さん……」と、咄嗟にそうこぼす直。
「直…っ!わ、私を……母って呼んでくれるの?」
それに対して直は下の方に視線を移しながらこう言う。
「……最初は、オレを捨てた母親なんてどうでもいいと思っていました。一度だって逢いに来てくれないロクでもない母親だって。けど、もしあなたが母親なら…素直に嬉しいと今思いました。あなたは……オレを捨てるような人じゃないって知ってるから…」
あの四年前に出会った時、すごく温かい人だと思っていた。人付き合いが嫌いな自分がいい人だなって思えるほど、優しい母親という立場の女性だと思っていた。
「早苗さんが、あなたが母親で……嬉しいです。オレ…。信じられないくらいに」
「直……ありがとう。そう言ってくれて…」
母と子はどちらからともなく強く抱きしめあう。そして、20年以上の空白を埋めるようにして再会を喜び、涙をこぼしあった。
「よかったな、直……」
甲斐は涙ぐみながらいつまでも見守っていた。他の皆もそれを感慨深い顔で見つめていたのであった。
ついに正之が直を矢崎グループの立派な社長として認め、直を実の母親と逢わせてもいいというお許しが出た。
甲斐はこの日が来るのをずっと待っていた。
それは本日の直の22歳の誕生日のこと。
前日には盛大な誕生パーティーが社交の場で行われたが、本日は身内だけで行う非公式の小さな誕生会。この帝都クラウンホテルの応接間の一室で。
「22歳おめでとう、直」
「……サンキュー」
直は照れたように甲斐に礼を言う。
他の四天王や妹の友里香と未来、元開星のOBたちを招き、昨日行われた社交の場でのツマラナイ誕生パーティーより全然楽しいものになりそうである。
「照れる直っちってなんかキモいよね」
「だよねー。甲斐君が照れたら可愛いけど直君が照れてもゲロ吐くほど鳥肌立つし」
「本当に吐きそうなほど気持ちが悪いから困る」
「貴様らうるせぇ。黙れ」
四天王同士の漫才みたいなやりとりは健在で、周りからは笑いがどっと起こる。
「それでさ、直」
「ん…」
「今日、お前にあわせたい人がいるんだ」
「……あわせたい人…?」
「お前の、本当のお母さんに」
途端、直の眼が大きく見開かれる。
「いきなりで驚くかもしれない。でも、これだけはわかってほしい。決して、お前のお母さんはお前を捨てたわけじゃないって事を」
「甲斐……お前、どこまで知って……」
「ごめんな、直…。ずっと、知ってた事黙ってて。お前の生い立ちの事は全部知ってた。だけど、この日が来るまで言えなかったんだ。決して、わざと黙ってたわけじゃない事もわかってほしい」
愛する甲斐がそう言うのだから、話すと長くなるようないろんな事情があったのだろう。
それに今考えると、母親がなぜ自分に逢いに来なかったのか、いや、逢いに来れなかったのかという事情が薄々読めてくる。
おそらく、圧力か……。
そう察すると、矢崎家全体にまた大きく憎しみがわくが、今は母親という存在がどんな人物か見てみよう…、そう思った直。
そしてついに――……
「久しぶりね」
目の前には見たことがある若作りの女性がやってきていた。
この人は確か甲斐の母親代わりの人で……
この人が……オレの………母親?
本当に……?
「立派になったのね……あの頃から、本当に」
女性は瞳に涙を浮かべながら柔和に微笑んでいる。
「……あなたが、早苗さんが……オレの……母親……なの、ですか…?」
恐る恐る訊ねる直に、彼女は、早苗はゆっくり頷く。
「ずっと、20年以上……あなたの事を考えない日はなかったわ。私の…大事な大事な長男なんですもの」
「…っ…」
「直、ごめんね……今まで、逢ってあげられなくて。母親として、守ってあげられなくて。こんな不甲斐ない母親で許してほしいなんて言えないけれど、私は……」
「お……お、かあ、さん……」と、咄嗟にそうこぼす直。
「直…っ!わ、私を……母って呼んでくれるの?」
それに対して直は下の方に視線を移しながらこう言う。
「……最初は、オレを捨てた母親なんてどうでもいいと思っていました。一度だって逢いに来てくれないロクでもない母親だって。けど、もしあなたが母親なら…素直に嬉しいと今思いました。あなたは……オレを捨てるような人じゃないって知ってるから…」
あの四年前に出会った時、すごく温かい人だと思っていた。人付き合いが嫌いな自分がいい人だなって思えるほど、優しい母親という立場の女性だと思っていた。
「早苗さんが、あなたが母親で……嬉しいです。オレ…。信じられないくらいに」
「直……ありがとう。そう言ってくれて…」
母と子はどちらからともなく強く抱きしめあう。そして、20年以上の空白を埋めるようにして再会を喜び、涙をこぼしあった。
「よかったな、直……」
甲斐は涙ぐみながらいつまでも見守っていた。他の皆もそれを感慨深い顔で見つめていたのであった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
477
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる