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2.婚約破棄と裏切り(1)
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パスカル・ベーカー(15)がレアオメガと判明した翌日、周りの人間関係を含めて人生が180度変わってしまった。
医者に間違いなのではないかと再検査を申し出たが、何度検査をしても同じだった。再検査むなしく、レアオメガという性別に絶望感を抱いた。
レアオメガというものがどれだけ大変でひどい差別を受けるかを知っている。心無いアルファやベータ達に罵られ、普通オメガからも下に見られる。差別や迫害されているのを何度も見た。
特に人間関係は露骨で、次の日からありとあらゆる知り合いから距離を置かれた。
「悲惨だよな。ベータだと思ってたパスカルがまさかのオメガだなんて。男でオメガとか、俺なら自殺するレベルでショックだぜ」
「オーガ君っ、そんな事を言うのはだめだよっ。パスカル君がオメガって事でいっぱい傷ついてるのに。めっだよ。私は恋人として力になってあげたいんだからっ」
オメガという事実が一気に広まったのか、曲がり角に差し掛かった時にそんな会話が聞こえてきた。しかもこの声は幼馴染であり近所に住む恋人のリリアと友人のオーガだった。
不幸中の幸いか、ただのオメガだと思われているらしい。それでも最悪だが。
「そうは言ってもよ、オメガだぜ?オメガ!そんな稀な性別だなんてある意味強運のようで超絶不幸じゃねえか。お前も恋人だなんて知られたら同類として見られて白目むかれるぞ」
「で、でもっ……これからの事を思うとパスカル君が可哀想だよっ」
「たしかに可哀想だがあいつと一緒にいると俺達も巻き添えを食う。ここは自分のためを思って身を引くのも大事だろ。パスカルだってそう思ってるよ。あいつは他人思いな奴だからな」
「オーガ君……」
「俺がお前を支えてやるから安心しろよ。アイツに代わってこれからは、な。だから、パスカルとは距離を置いた方がいい」
そして、なぜか二人は見つめ合い、抱きしめあった。その躊躇いのなさに違和感を覚えた。
もしかして、前から二人は浮気をしていたのか。恋人である自分を差し置いてリリアはオーガとそんな関係だったのか。
「お前ら、そんな関係だったのかよ!」
怒り心頭に飛び出した。
「っあ、ち、ちがうの!パスカル君っ!これには事情が……」
慌ててオーガから離れるリリアは弁解しようとするが「そうだよ」と、悪気もなく開き直ったオーガ。バレたなら仕方ないとでも言いそうな態度で仁王立つ。
「俺とリリアは前から付き合っていたんだ。リリアはお前より俺がいいんだって言ってたよ。それが答えだ」
「っ……ごめんね、パスカル君。私……オーガ君に好きだって言われて嬉しくなっちゃったの。最初はなんとなく流されてエッチしちゃったんだけどぉ、やっぱり好きだって改めて自覚したの。でも、パスカル君がいるからって思いながらもやめられなくてぇ、ズルズル関係を持っちゃってたの」
そう言いながら時々チラチラ見つめあって目配せしあう二人。頬を染め合ってのアイコンタクトを続けている。
一体自分は何を見せられているのだろう。リア充のバカップルぶりを見せつけられる拷問を受けているのか。反吐が出そうな気分だった。
「へぇ~好きって言われて流されて、ねぇ」
「リリアがなんとなく俺の方がいいって言動で気づいてよ、それで俺から告ったんだ。リリアの真の気持ちに気づいた俺って有能だろ?な、リリア」
「きゃっ、オーガ君たらっ」
きゅん。とでも聞こえてきそうなリリアのオーガを見る目が恋する乙女のそれだった。
なにが甲高い声で「きゃっ」だ。あざとさに呆れてジト目にもなる。ますます吐き気のようなものが止まらない。
「謝りもしないで開き直るとか最低だな。よくもぬけぬけとそんな事が言えるもんだよ」
「自分に魅力がないのを棚に上げて俺達のせいにもするなよな。お前がリリアに好かれるような魅力的な男にならなかったのが悪いんだろ。まあ、仮にお前が魅力的な男だったとしてもだ。最後には俺に運命の女神が微笑むのさ。俺という魅力的な男に。残念だったな、魅力ナシのダサ男クン」
見下すように嘲笑うオーガが友人とは思えなくなった。あまりな態度についに頭がカッとなる。
「お前っ!!」
オーガにつかみ掛かる。リリアにも腹が立つが、浮気の理由をこちらの魅力の有り無しで責任転嫁する所が甚だクズ男だ。そして、それに酔っている所も心底気持ちが悪いと思った。
「やめてパスカル君っ!私が悪いのっ!私がオーガ君を好きになっちゃったのが悪いのっ!私のために争わないでっ!」
涙目でパスカルとオーガの間を割って入るリリア。自分が悲劇のヒロインにでもなったつもりか、酔いしれた言い方にオーガと同様の気持ちの悪さを感じた。
「ほら、リリア。お前も言ってやれよ。こいつにはちゃんと短所を言ってやらないと通じないダサ男だからよ」
「オーガ君っ……でも」
「こいつのためになんねーからよ」
オーガに促されたリリアはパスカルの方をまっすぐに見た。
「ごめんねっ、パスカル君。私ね、パスカル君の事は優しくて誠実な人だと思ってる。でも、そういう所が無難すぎてどこか退屈だったの。つまらないっていうかぁ~……あ、ごめんなさい。ただ、一緒にいてスリルがなかったの。張り合いがなくて……それでオーガ君に目移りして気になり始めたの。大好きになっちゃったの。えへへ」
なんだそれ。意味が分からない。
スリルが欲しくてオーガに乗り換えたというのか。呆れを通り越して乾いた笑いすら出てきそうだ。
医者に間違いなのではないかと再検査を申し出たが、何度検査をしても同じだった。再検査むなしく、レアオメガという性別に絶望感を抱いた。
レアオメガというものがどれだけ大変でひどい差別を受けるかを知っている。心無いアルファやベータ達に罵られ、普通オメガからも下に見られる。差別や迫害されているのを何度も見た。
特に人間関係は露骨で、次の日からありとあらゆる知り合いから距離を置かれた。
「悲惨だよな。ベータだと思ってたパスカルがまさかのオメガだなんて。男でオメガとか、俺なら自殺するレベルでショックだぜ」
「オーガ君っ、そんな事を言うのはだめだよっ。パスカル君がオメガって事でいっぱい傷ついてるのに。めっだよ。私は恋人として力になってあげたいんだからっ」
オメガという事実が一気に広まったのか、曲がり角に差し掛かった時にそんな会話が聞こえてきた。しかもこの声は幼馴染であり近所に住む恋人のリリアと友人のオーガだった。
不幸中の幸いか、ただのオメガだと思われているらしい。それでも最悪だが。
「そうは言ってもよ、オメガだぜ?オメガ!そんな稀な性別だなんてある意味強運のようで超絶不幸じゃねえか。お前も恋人だなんて知られたら同類として見られて白目むかれるぞ」
「で、でもっ……これからの事を思うとパスカル君が可哀想だよっ」
「たしかに可哀想だがあいつと一緒にいると俺達も巻き添えを食う。ここは自分のためを思って身を引くのも大事だろ。パスカルだってそう思ってるよ。あいつは他人思いな奴だからな」
「オーガ君……」
「俺がお前を支えてやるから安心しろよ。アイツに代わってこれからは、な。だから、パスカルとは距離を置いた方がいい」
そして、なぜか二人は見つめ合い、抱きしめあった。その躊躇いのなさに違和感を覚えた。
もしかして、前から二人は浮気をしていたのか。恋人である自分を差し置いてリリアはオーガとそんな関係だったのか。
「お前ら、そんな関係だったのかよ!」
怒り心頭に飛び出した。
「っあ、ち、ちがうの!パスカル君っ!これには事情が……」
慌ててオーガから離れるリリアは弁解しようとするが「そうだよ」と、悪気もなく開き直ったオーガ。バレたなら仕方ないとでも言いそうな態度で仁王立つ。
「俺とリリアは前から付き合っていたんだ。リリアはお前より俺がいいんだって言ってたよ。それが答えだ」
「っ……ごめんね、パスカル君。私……オーガ君に好きだって言われて嬉しくなっちゃったの。最初はなんとなく流されてエッチしちゃったんだけどぉ、やっぱり好きだって改めて自覚したの。でも、パスカル君がいるからって思いながらもやめられなくてぇ、ズルズル関係を持っちゃってたの」
そう言いながら時々チラチラ見つめあって目配せしあう二人。頬を染め合ってのアイコンタクトを続けている。
一体自分は何を見せられているのだろう。リア充のバカップルぶりを見せつけられる拷問を受けているのか。反吐が出そうな気分だった。
「へぇ~好きって言われて流されて、ねぇ」
「リリアがなんとなく俺の方がいいって言動で気づいてよ、それで俺から告ったんだ。リリアの真の気持ちに気づいた俺って有能だろ?な、リリア」
「きゃっ、オーガ君たらっ」
きゅん。とでも聞こえてきそうなリリアのオーガを見る目が恋する乙女のそれだった。
なにが甲高い声で「きゃっ」だ。あざとさに呆れてジト目にもなる。ますます吐き気のようなものが止まらない。
「謝りもしないで開き直るとか最低だな。よくもぬけぬけとそんな事が言えるもんだよ」
「自分に魅力がないのを棚に上げて俺達のせいにもするなよな。お前がリリアに好かれるような魅力的な男にならなかったのが悪いんだろ。まあ、仮にお前が魅力的な男だったとしてもだ。最後には俺に運命の女神が微笑むのさ。俺という魅力的な男に。残念だったな、魅力ナシのダサ男クン」
見下すように嘲笑うオーガが友人とは思えなくなった。あまりな態度についに頭がカッとなる。
「お前っ!!」
オーガにつかみ掛かる。リリアにも腹が立つが、浮気の理由をこちらの魅力の有り無しで責任転嫁する所が甚だクズ男だ。そして、それに酔っている所も心底気持ちが悪いと思った。
「やめてパスカル君っ!私が悪いのっ!私がオーガ君を好きになっちゃったのが悪いのっ!私のために争わないでっ!」
涙目でパスカルとオーガの間を割って入るリリア。自分が悲劇のヒロインにでもなったつもりか、酔いしれた言い方にオーガと同様の気持ちの悪さを感じた。
「ほら、リリア。お前も言ってやれよ。こいつにはちゃんと短所を言ってやらないと通じないダサ男だからよ」
「オーガ君っ……でも」
「こいつのためになんねーからよ」
オーガに促されたリリアはパスカルの方をまっすぐに見た。
「ごめんねっ、パスカル君。私ね、パスカル君の事は優しくて誠実な人だと思ってる。でも、そういう所が無難すぎてどこか退屈だったの。つまらないっていうかぁ~……あ、ごめんなさい。ただ、一緒にいてスリルがなかったの。張り合いがなくて……それでオーガ君に目移りして気になり始めたの。大好きになっちゃったの。えへへ」
なんだそれ。意味が分からない。
スリルが欲しくてオーガに乗り換えたというのか。呆れを通り越して乾いた笑いすら出てきそうだ。
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