【完】眼鏡の中の秘密

近所のひと

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眼鏡の中の秘密3

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 図書館で俺と三隅は静かに勉強を始めた。テーブルには借りてきた参考書とノートを開く。
 今の三隅は学校でのガリ勉風な態度じゃなくて、ワイルドな三隅だ。誰も知らない彼の素の一面は、性格も話し方も変わっている。あの抑揚のない声根じゃなくて、感情移入されている声質。
 先ほどから通りすがりの女が誰もが振り返っている気がする。地味な自分でさえ、今の三隅といるだけでとても目立つほどだ。たしかにこんなイケメンが場違いな図書館にいちゃあいろんな意味で目についてしまう。

「何?」
 こっそり見つめていた視線に気が付く三隅。
「……いや、ホント別人だなあって。なんか信じられないっていうか」
「しばらくだけだ。もうこんな一面学校で見せるつもりねーし」
「ふーん。なら、俺といる前だけ素でいてよ。肩っ苦しいお前、俺苦手だったんだ」
 どうせなら、ずっと学校でもそれでいればいいのに……。
「……別にいいけど…だれにも言うなよ」
「わ、わかってるって」

 三隅良哉はガリ勉で、クソ真面目で、冷たい印象で、それほど好きになれそうもないと思っていたけど、本当の三隅の事は苦手意識を感じない。むしろ目で追ってしまう。
 ギャップがありすぎて驚きと同時に、やっぱり綺麗な容姿だからつい見惚れちまう。

 しばらく勉強を進めて、そろそろお昼に差し掛かった頃。俺の腹が丁度よく鳴った。
 俺は頬を染めて腹を押さえた。恥ずかしい。三隅の前でこんな。

「腹減ったのか?」
「あ、あ、うん。朝あまり食べてこなかったのもあるしー」
「じゃあ、メシでも食べに行くか」
「なら、近くにおいしいラーメン屋あるんだけど三隅は……どう?って……金持ちだからラーメンなんて縁がないよな。食べた事あまりないよな。うん、いやならいいんだけどうん」
 俺は独りでに諦め半分で言うと、
「……いいぜ。麺類好きだから」

 三隅は目を伏せて優しく微笑んだ。
 俺の思考回路は一瞬滞った。見たことがない彼の微笑みつい目を奪われてドキンとしてしまったのだ。
 笑う時も綺麗だなんて反則だ。どんな女もころって落ちてしまいかねない。

「ほ、ほんとか!ならすぐに行こっ!本当においしくって……あ」
 つい気を良くしてしまい、三隅の手を握っていた。
「ご、ごめん」
 すぐに手を放そうとする。が、逆に握り返された。
 俺は呆然としている。
「じゃあ行こうか」
「っ……う、うん!」

 まさか握り返されるなんて思わなかった。
 三隅の手は大きくて、たくましい。だけど思ったより冷たい。まるで冷えているように。
 いや、その前に彼は俺の事を男だとわかっているのだろうか。男が男相手に手をつなぐなんてどう考えても変だし、いや変と言うか違和感があっても不思議じゃないし、それらは男女の恋人同士がするものだってこの世で教えられているもので、俺達は変人……いや、やめよう。そんな事考えてもこの状況をうまく説明なんてできない。
 どうであれ、なんであれ、こうしているの嫌じゃないし。

 同性相手なのに。三隅相手なのに。
 恥ずかしいのに……この手を放したくないんだ。俺、変だ。
 
「お前の手、暖かいな」
「え……あ、そうかな。み、三隅の手は冷たいや。へへへへ」

 顔が熱い。
 こんなにもドキドキしてるなんて変だ。
 どうしちまったんだ俺。

「どうした?」
「い、いや……」

 なんかドキドキして顔、まともにみれないや。
 男にドキドキとかおかしいのに。
 それに、握り合ってる手が自然と汗ばんで熱がこもってる。
 めちゃくちゃ緊張しているの、ばれちまうかも。心臓の音すごいし。さっきまでなんともなかったのに、なんで意識してんだろ。

「ほ、ほら、あ、ああれが評判がいいラーメン屋!い、いこうぜ」

 俺はなるべく三隅の顔を見ないようにしながら、駆け足で前を突き進んだ。


「おいしいな。ここの店の。隠れた名店てやつか」
 三隅は満足そうに言った。
 テーブルの前には醤油ラーメンが二つ並んでいる。絶品と評判の。
「でしょ?最近見つけた店なんだ。でもまさか、三隅とくるなんて想像もしなかったけどね」
「……副島」

 親友の鉄男と遊んだお昼にでも行くつもりだったけれど、今はこの三隅といる。
 なんか信じられないや。

「本当はここ、友人と来るつもりだったんだけど、あんたで最初なんだぜ」
 何気なく言った台詞に、三隅の顔が曇る。
「……いや、だったか?」
「あ、い、いやじゃないよ。だってあんたの本当の姿を知れたし、結果的にあんたと友人みたいに仲良くなれたじゃんか」
「……友人みたいに、仲良く、ねぇ」
 三隅は頬杖をついて何かを言いたそうである。不満げに見えるのは気のせいだろうか。
「三隅?」
「ま……午後もビシビシ教えてやるから覚悟しとけよ」
「あ、ああ」


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