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22.一途
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ノア君は柔らかいソファーに座りながらあの時の事を語る。
あの十年前、ノア君が仮に皇太子と知ったとしても、私は態度を変えなかったと思うよ。だってあの時はまだ子供だったし、皇太子って聞いてもよくわかんなかったと思うんだ。読み書きもできなかったし、普通の子供と何が違うのかもわかっていなかったから。田舎者特有の純朴さと無知ってやつ。
「ずっと、お前にあいたかった。何度も何度もオリーブ山に行こうと思ってた。でも、自由のない今の状況から抜け出せなくて、ズルズル月日だけが流れてしまっていた」
「ノア君……」
「俺は、今でもお前が好きだよ。十年もお前への想いをこじらせてきた」
私を真剣な目で見つめてきて息を飲んだ。紛れもない歓喜の心が広がる。それと同時に、確かな不安も渦巻いている。
「身分なんてどうでもいいくらい。ずっとずっとお前を想ってきた」
「でも、あなたは皇族。私は、平民。一緒になる事なんて……」
「なれるさ」
「え……」
「いくらでも工夫すれば、お前と一緒にいられる。約束しただろう?嫁にもらいにくるって」
別れ際『私の事をずっと好きでいてくれたら嫁になってあげてもいい』と言った、あの時の光景がよみがえる。あの時はよく考えていなかった。本当にそうなったらいいなって思っていて、貴族と平民との身分差の壁が高い事を知らないでいた。とんでもない無知だった。何も知らなかった自分がどれだけ能天気だったか。その壁がどれだけ高いか今の生活でよくわかってしまった。
「あの時は、よく考えていなかったから……」
「お前はよく考えないで嫁にもらう事を了承したのか」
ぎろって鋭く睨まれて思わずすくみ上がってしまう。怒りを孕んでいるのを感じて慌てて弁解する。
「そ、そういうわけじゃない。嬉しかったよ。キミに子供の時でもあんなプロポーズみたいな事言われて。ノア君こそ、私でいいのかな」
「いいも何も、あの時からずっと決めていた。お前じゃないと嫌だって」
ノア君がいつの間にか私のそばに寄っていて、私の頬をそっとなでる。それにびくりとして、反射的に彼の視線に目をあわせた。
「カーリィ……」
「ノア、くん……」
本当に綺麗な顔の人。平凡顔で女の自分が悲しくなるくらいに非の打ち所がない造形美。こんな人に私は初恋をこじらせていたんだ……。身の程知らずなんじゃないかって思うくらい自分との差が歴然で、比較対象にもならない。私ごときが彼のそばにいてもいいのかな。
それでも彼は私を求めてくれる。穏やかな瞳でじっと見つめて離さない。そんな熱を含んだ視線に耐えきれなくなって目をそらそうとすると、すぐに降ってきた柔らかい唇の感触に茫然とした。
「……っ」
驚いて反射的に逃れようとするも、後頭部と腰をがっちり押さえられていて退けられない。馬鹿力だ。あの時の馬鹿力が再来して逃れられない。
「んん、……っ……ふ」
動揺している間もなくノア君の舌の侵入を許してしまい、口内で私の舌を強引に絡めてきた。唾液が注がれて、クチュクチュと粘膜音と唇のリップ音が生々しく響き渡る。蠢くノア君の舌先が、まるでどこが反応するかを熟知しているかのように這いずり、背筋がビクビクする。
やだ……キスだけで私、おかしくなる。感じちゃう。気持ちよくなっちまう。
その手に関してよくわからない私でも、手慣れている感じがこの舌先の動きでよくわかる。その気にさせるキスがとても巧い。数をこなしているのかな。私以外の人と……辞めていった子ともこんな事をよくしていたのかな。考えるだけで気持ちがいいのに胸の方が痛くなってくる。嫉妬心で辛くなってくる。
「カーリィ、鼻で息をしろよ」
時々唇を離しながら言葉を発するノア君。唾液が端からこぼれてしまう。
「は、っ……んんん……」
逃れられないと諦めを悟り、しばらくずっと私はノア君に口の中の隅から隅まで堪能され尽くされてしまった。そんな私の表情はノア君からすればすごい顔だったらしくて、とても物欲しそうに見えたんだとか。
「やらしい顔。続き……したい?」
「しませんっ!バカ!」
あの十年前、ノア君が仮に皇太子と知ったとしても、私は態度を変えなかったと思うよ。だってあの時はまだ子供だったし、皇太子って聞いてもよくわかんなかったと思うんだ。読み書きもできなかったし、普通の子供と何が違うのかもわかっていなかったから。田舎者特有の純朴さと無知ってやつ。
「ずっと、お前にあいたかった。何度も何度もオリーブ山に行こうと思ってた。でも、自由のない今の状況から抜け出せなくて、ズルズル月日だけが流れてしまっていた」
「ノア君……」
「俺は、今でもお前が好きだよ。十年もお前への想いをこじらせてきた」
私を真剣な目で見つめてきて息を飲んだ。紛れもない歓喜の心が広がる。それと同時に、確かな不安も渦巻いている。
「身分なんてどうでもいいくらい。ずっとずっとお前を想ってきた」
「でも、あなたは皇族。私は、平民。一緒になる事なんて……」
「なれるさ」
「え……」
「いくらでも工夫すれば、お前と一緒にいられる。約束しただろう?嫁にもらいにくるって」
別れ際『私の事をずっと好きでいてくれたら嫁になってあげてもいい』と言った、あの時の光景がよみがえる。あの時はよく考えていなかった。本当にそうなったらいいなって思っていて、貴族と平民との身分差の壁が高い事を知らないでいた。とんでもない無知だった。何も知らなかった自分がどれだけ能天気だったか。その壁がどれだけ高いか今の生活でよくわかってしまった。
「あの時は、よく考えていなかったから……」
「お前はよく考えないで嫁にもらう事を了承したのか」
ぎろって鋭く睨まれて思わずすくみ上がってしまう。怒りを孕んでいるのを感じて慌てて弁解する。
「そ、そういうわけじゃない。嬉しかったよ。キミに子供の時でもあんなプロポーズみたいな事言われて。ノア君こそ、私でいいのかな」
「いいも何も、あの時からずっと決めていた。お前じゃないと嫌だって」
ノア君がいつの間にか私のそばに寄っていて、私の頬をそっとなでる。それにびくりとして、反射的に彼の視線に目をあわせた。
「カーリィ……」
「ノア、くん……」
本当に綺麗な顔の人。平凡顔で女の自分が悲しくなるくらいに非の打ち所がない造形美。こんな人に私は初恋をこじらせていたんだ……。身の程知らずなんじゃないかって思うくらい自分との差が歴然で、比較対象にもならない。私ごときが彼のそばにいてもいいのかな。
それでも彼は私を求めてくれる。穏やかな瞳でじっと見つめて離さない。そんな熱を含んだ視線に耐えきれなくなって目をそらそうとすると、すぐに降ってきた柔らかい唇の感触に茫然とした。
「……っ」
驚いて反射的に逃れようとするも、後頭部と腰をがっちり押さえられていて退けられない。馬鹿力だ。あの時の馬鹿力が再来して逃れられない。
「んん、……っ……ふ」
動揺している間もなくノア君の舌の侵入を許してしまい、口内で私の舌を強引に絡めてきた。唾液が注がれて、クチュクチュと粘膜音と唇のリップ音が生々しく響き渡る。蠢くノア君の舌先が、まるでどこが反応するかを熟知しているかのように這いずり、背筋がビクビクする。
やだ……キスだけで私、おかしくなる。感じちゃう。気持ちよくなっちまう。
その手に関してよくわからない私でも、手慣れている感じがこの舌先の動きでよくわかる。その気にさせるキスがとても巧い。数をこなしているのかな。私以外の人と……辞めていった子ともこんな事をよくしていたのかな。考えるだけで気持ちがいいのに胸の方が痛くなってくる。嫉妬心で辛くなってくる。
「カーリィ、鼻で息をしろよ」
時々唇を離しながら言葉を発するノア君。唾液が端からこぼれてしまう。
「は、っ……んんん……」
逃れられないと諦めを悟り、しばらくずっと私はノア君に口の中の隅から隅まで堪能され尽くされてしまった。そんな私の表情はノア君からすればすごい顔だったらしくて、とても物欲しそうに見えたんだとか。
「やらしい顔。続き……したい?」
「しませんっ!バカ!」
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