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38.バレた関係
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どうあがいても貴族どころか皇族と平民が結婚なんてできるはずがない。身分差がありすぎて誰も祝福どころか認めてもくれないだろう。自分達の身分は天と地ほどの差がありすぎているのだから。
「カーリィと離れ離れになるくらいなら……好きでも無い貴族女と見せかけだけの籍を入れて、一生世間に向けて仮面夫婦を演じる」
「そんな事……」
「皇帝に即位しても、妃を娶ったとしても、俺の心はずっとカーリィだけ。他の女なんてお飾りで充分だ」
相手の人があまりに不憫だ。私だってそんな立場は望んでない……と、そう突き放す言葉など言えるはずがない。
ノア君はとても寂しがり屋だ。それを痛いほど思い知った昨今、私自身も離れたくないし、ノア君を心から突き放せない。お互いにお互いを依存してしまっている手遅れな状態は、そう簡単に終わりを選ぶ事は容易ではない。
「カーリィが……俺のすべて」
その言葉を最後に、息もできないキスで求められた。
それがいけなかった。夢心地な幸せな気分に夢中で、周囲の気配を怠ってしまう。彼との一部始終を見られてしまっていた事に私は気づけなかったのだった。
「アラン様………あなたはその平民を………」
翌日、仕事中にもかかわらずにメイド長に呼び出しを受けた。すぐに行くようにと言われ、一旦仕事を中断して事務室へ向かうと、深刻そうな顔をしたメイド長と主任がいた。こちらの姿を見るなり、まるで探るような鋭い視線を向けられた。
「ぁ、あの……話というのは」
「ヒューズさん。あなた……アラン殿下と親密な関係だというのは本当かしら?」
「え……」
動揺して心臓がバクバクと高鳴る。私の顔色が悪くなったのを察した主任は深いため息を吐いた。
「事実なのね」
「っ……それは……」
目を彷徨わせて下を向く。あまりにわかりやすい自分の反応に、遅かれ早かれバレていた事だろう。隠し通せるわけなんてなかった。
「あなたと殿下の逢引きを見たという方がいらっしゃるの。その方は登城するようにと仰せつかり、用事でこちらの棟にいらっしゃったのだけど、その時にあなたと殿下が旧図書館で……という話らしいわ」
「よりにもよってアラン様の婚約者の前で……最悪ね」
私は言葉を失い、体をぶるりと震わせた。婚約者という事はあの令嬢に見られたのだ。昨日のノア君との時間を。
「あなたはとても仕事を真面目にこなしてくれていた。シフトの穴詰めもよくしてくれていた。だから、これからも働いてもらいたいと思っていたわ。ゆくゆくは私の右腕として。だけど、皇宮内での風紀を乱したあなたを雇い続ける事はできない」
メイド長の瞳に失望感が宿っている。
「っ……そう、ですよね……ははは……。いけない事を、したんですから……」
皇太子様をたぶらかした。そう言われても仕方のない事をしていたのだ。
「残念です。あなたには期待していたのに。やはり、あなたも女なのね」
主任の言葉はさらに刺々しかった。
「素敵な男性にいい寄られて嬉しかった?さぞや夢見心地だったでしょうに。だけれど、あなたはなんの後ろ盾もないただの平民。貴族でもないあなたが殿下と結ばれるはずがない。初めからわかっていた事でしょう?」
「……はい……」
私は青ざめながら消え入りそうな声で返事をする。
「たとえ本気で愛し合っていたとしても、そんな関係は長く続くはずがない。私は長年ここで働いてきて、そういう恋に溺れた若い彼女達を今まで何度も見て来たわ。あなたのように相手が皇太子様というのはさすがにないけれど、貴族と平民掃除婦の報われない縺れをね。そのほとんどが、上層部や相手親族からの圧力で無理やり引き離されて、身分差という壁の前で双方泣き崩れて終わる末路ばかり。あまりに手に余る場合だと、最終的に国外追放されて無理やり別の者と結婚させられた子もいる」
今までの悲しき掃除婦の報われない恋の話に、私は言葉を失う。
メイド長の言葉の節々に、傷ついてここを去って行く掃除婦を何度も見てきたのだろう。身分差という絶対的な壁がありながらも恋にのぼせ上り、その末路は悲しいものだって。
「貴族と平民は結ばれない。お互いの立場が違うから。その隔たりがある限り、絶対。皇太子相手だなんてもっとありえない事。それがわからない貴女じゃないはずでしょうに」
「はい……まことに、おっしゃる通りです……」
それでも、あの人が好きだから離れられなかった。ダメだと分かっていながらも寂しがるあの人を放っては置けなかった。
言い訳にもならない理由を述べたところでそんなものは通用しない。彼ら皇族や貴族には恋情など無意味なのだ。陛下の命令で好きでもない相手と婚約を契られて嫌々結ばれていく。平民のように、好きな人同士で結婚なんてできない。
私は先を見据えていなかった。今のノア君との幸せな時間を優先して、こうなる自分を想像したくなかった。
「とにかく、あなたはこの場にはいられない。数日付でこの皇宮から出て行ってもらいます。城下に顔を出すなら許されているけれど、この皇宮には二度と敷居をまたぐ事はゆるされない」
「………っ」
やっぱり、もうこの職場にはいられないのか……。
「それだけで済んだだけでもよかったと思いなさい。皇族相手なのだから、普通なら城下どころか国外追放も同然。下手をすれば重い刑罰が与えられることもあるのだから」
メイド長も大事な部下のクビを切る事を苦しく思っている様子だ。せっかく可愛がってもらったのにな。
「そうよ。メイド長が必死で頭を下げてくれたから仕事をクビになるだけで済んだの。温情に感謝なさい」
刺々しい主任の態度に私は重々しく頭を下げる。
「……ありがとう……ございます……」
「カーリィと離れ離れになるくらいなら……好きでも無い貴族女と見せかけだけの籍を入れて、一生世間に向けて仮面夫婦を演じる」
「そんな事……」
「皇帝に即位しても、妃を娶ったとしても、俺の心はずっとカーリィだけ。他の女なんてお飾りで充分だ」
相手の人があまりに不憫だ。私だってそんな立場は望んでない……と、そう突き放す言葉など言えるはずがない。
ノア君はとても寂しがり屋だ。それを痛いほど思い知った昨今、私自身も離れたくないし、ノア君を心から突き放せない。お互いにお互いを依存してしまっている手遅れな状態は、そう簡単に終わりを選ぶ事は容易ではない。
「カーリィが……俺のすべて」
その言葉を最後に、息もできないキスで求められた。
それがいけなかった。夢心地な幸せな気分に夢中で、周囲の気配を怠ってしまう。彼との一部始終を見られてしまっていた事に私は気づけなかったのだった。
「アラン様………あなたはその平民を………」
翌日、仕事中にもかかわらずにメイド長に呼び出しを受けた。すぐに行くようにと言われ、一旦仕事を中断して事務室へ向かうと、深刻そうな顔をしたメイド長と主任がいた。こちらの姿を見るなり、まるで探るような鋭い視線を向けられた。
「ぁ、あの……話というのは」
「ヒューズさん。あなた……アラン殿下と親密な関係だというのは本当かしら?」
「え……」
動揺して心臓がバクバクと高鳴る。私の顔色が悪くなったのを察した主任は深いため息を吐いた。
「事実なのね」
「っ……それは……」
目を彷徨わせて下を向く。あまりにわかりやすい自分の反応に、遅かれ早かれバレていた事だろう。隠し通せるわけなんてなかった。
「あなたと殿下の逢引きを見たという方がいらっしゃるの。その方は登城するようにと仰せつかり、用事でこちらの棟にいらっしゃったのだけど、その時にあなたと殿下が旧図書館で……という話らしいわ」
「よりにもよってアラン様の婚約者の前で……最悪ね」
私は言葉を失い、体をぶるりと震わせた。婚約者という事はあの令嬢に見られたのだ。昨日のノア君との時間を。
「あなたはとても仕事を真面目にこなしてくれていた。シフトの穴詰めもよくしてくれていた。だから、これからも働いてもらいたいと思っていたわ。ゆくゆくは私の右腕として。だけど、皇宮内での風紀を乱したあなたを雇い続ける事はできない」
メイド長の瞳に失望感が宿っている。
「っ……そう、ですよね……ははは……。いけない事を、したんですから……」
皇太子様をたぶらかした。そう言われても仕方のない事をしていたのだ。
「残念です。あなたには期待していたのに。やはり、あなたも女なのね」
主任の言葉はさらに刺々しかった。
「素敵な男性にいい寄られて嬉しかった?さぞや夢見心地だったでしょうに。だけれど、あなたはなんの後ろ盾もないただの平民。貴族でもないあなたが殿下と結ばれるはずがない。初めからわかっていた事でしょう?」
「……はい……」
私は青ざめながら消え入りそうな声で返事をする。
「たとえ本気で愛し合っていたとしても、そんな関係は長く続くはずがない。私は長年ここで働いてきて、そういう恋に溺れた若い彼女達を今まで何度も見て来たわ。あなたのように相手が皇太子様というのはさすがにないけれど、貴族と平民掃除婦の報われない縺れをね。そのほとんどが、上層部や相手親族からの圧力で無理やり引き離されて、身分差という壁の前で双方泣き崩れて終わる末路ばかり。あまりに手に余る場合だと、最終的に国外追放されて無理やり別の者と結婚させられた子もいる」
今までの悲しき掃除婦の報われない恋の話に、私は言葉を失う。
メイド長の言葉の節々に、傷ついてここを去って行く掃除婦を何度も見てきたのだろう。身分差という絶対的な壁がありながらも恋にのぼせ上り、その末路は悲しいものだって。
「貴族と平民は結ばれない。お互いの立場が違うから。その隔たりがある限り、絶対。皇太子相手だなんてもっとありえない事。それがわからない貴女じゃないはずでしょうに」
「はい……まことに、おっしゃる通りです……」
それでも、あの人が好きだから離れられなかった。ダメだと分かっていながらも寂しがるあの人を放っては置けなかった。
言い訳にもならない理由を述べたところでそんなものは通用しない。彼ら皇族や貴族には恋情など無意味なのだ。陛下の命令で好きでもない相手と婚約を契られて嫌々結ばれていく。平民のように、好きな人同士で結婚なんてできない。
私は先を見据えていなかった。今のノア君との幸せな時間を優先して、こうなる自分を想像したくなかった。
「とにかく、あなたはこの場にはいられない。数日付でこの皇宮から出て行ってもらいます。城下に顔を出すなら許されているけれど、この皇宮には二度と敷居をまたぐ事はゆるされない」
「………っ」
やっぱり、もうこの職場にはいられないのか……。
「それだけで済んだだけでもよかったと思いなさい。皇族相手なのだから、普通なら城下どころか国外追放も同然。下手をすれば重い刑罰が与えられることもあるのだから」
メイド長も大事な部下のクビを切る事を苦しく思っている様子だ。せっかく可愛がってもらったのにな。
「そうよ。メイド長が必死で頭を下げてくれたから仕事をクビになるだけで済んだの。温情に感謝なさい」
刺々しい主任の態度に私は重々しく頭を下げる。
「……ありがとう……ございます……」
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