婚約者と従妹に裏切られましたが、私の『呪われた耳』は全ての嘘をお見通しです

法華

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10話

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 国王主催の夜会は、王都中の貴族が集う、一年で最も華やかな社交の場だ。アランとセリーナは、この夜会でリディアを社会的に抹殺し、婚約破棄を決定的なものにする最後の計画を実行に移そうとしていた。

 ホールの中央で、アランはわざとらしく心配そうな顔で周囲に語りかけている。

「近頃、婚約者のリディアの様子がおかしくてね。どうやら、従妹のセリーナに酷い嫉妬を抱いているようなんだ。可憐なセリーナが不憫でならない」

 その言葉に、セリーナは待っていましたとばかりに、目に涙を溜めてアランの腕にすがりついた。

「アラン様……。いいのです、私が我慢すれば……。お姉様は、きっと私がいなければ、もっと幸せになれるはずですわ……」

 健気に耐える心優しい少女。その見事な演技に、周囲の貴族たちから同情的な囁きが広がる。リディアに向けられる視線は、非難と軽蔑の色を帯びていた。これこそが、二人が描いた筋書きだった。
 やがて、セリーナは震える声で、皆に聞こえるように叫んだ。

「リディアお姉様! どうして、私をそんなに憎むのですか!? 私はただ、お姉様と仲良くしたいだけなのに……!」

 悲劇のヒロインを演じる彼女の嘘の告発に、ホールは水を打ったように静まり返る。すべての視線が、遅れてホールに入ってきたリディアに注がれた。

 さあ、絶望し、うろたえるがいい。アランとセリーナは、心の中でほくそ笑んだ。
 だが、リディアは動じなかった。
 彼女は静かに、そして堂々とホールの中央へと歩みを進める。その隣には、予想だにしなかった人物がいた。

「――氷の辺境伯!?」
「なぜ、ヴァレンシュタイン伯がクラウゼル令嬢のエスコートを……?」

 エスコート役としてリディアの隣に立つレオニード・フォン・ヴァレンシュタインの姿に、会場は騒然となった。彼の存在は、リディアが孤立無援であるというアランたちの計画の前提を、根底から覆した。
 アランとセリーナの顔から、余裕の笑みが消える。特にアランは、あの人間嫌いの辺境伯がなぜ、と内心の動揺を隠せない。

「な……どういうことですの、お姉様……」

 セリーナの声が、かすかに震える。
 対決の舞台は整った。だが、その主導権は、もはやアランたちの手にはなかった。リディアはレオニードという最強の支援者を得て、静かに反撃の口火を切ろうとしていた。
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