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6話
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王太子殿下の誕生を祝う夜会は、これまで以上に盛大で、王宮のホールは着飾った貴族たちで埋め尽くされていた。その中でも、ひときわ注目を集めているのは、やはり異母姉のイザベラだった。
「まあ、イザベラ様、なんて素敵なドレス! まるで炎の女神のようだわ!」
「今日の主役は、殿下ではなくあなたですわね!」
彼女が身に纏っているのは、私が用意したマダム・ロアン作のドレス。燃えるような真紅のシルクに、金の刺繍がふんだんに施された、確かに見栄えのする一着だ。得意満面のイザベラは、取り巻きたちに囲まれ、女王のように振る舞っている。ハイルも、満更でもない顔で彼女の隣に寄り添っていた。
私はいつも通り壁際に立ち、その光景を静かに観察していた。隣には、いつの間にかレオンが立っている。
「うまくいったようだな。見事に舞台の中央に立っている。あとは、もう一人の主役の登場を待つだけか」
「ええ。手は打ってありますわ。もうすぐ、幕が上がります」
私の視線の先、ホールの入り口がにわかに騒がしくなった。外交使節団として招かれていた隣国の伯爵一行が、今しも到着したのだ。その中に、標的の令嬢――リリアーナ伯爵令嬢の姿があった。
彼女こそ、イザベラが着ているドレスの、本来のデザイナーの娘であり、オリジナルのドレスの所有者だ。私がレオンを通じて、彼女が今夜の夜会に出席するという情報を掴み、ささやかな「招待状」を送っておいたのだ。『貴女の母親のデザインを盗んだ者が、今宵の夜会にそのドレスを着て現れる』と。
リリアーナ嬢はホールに入ると、すぐにイザベラの姿を認め、その場で凍りついた。彼女の目が、信じられないものを見るように大きく見開かれる。そして、その表情はみるみるうちに怒りへと変わっていった。
「……なんてこと。あの方がお召しになっているのは、母が私のためにデザインしてくれた、世界に一着しかないはずのドレス……!」
彼女の悲痛な呟きは、周囲の貴族たちの耳にも届いた。ざわめきが波のように広がっていく。何事かと、人々の視線がイザベラとリリアーナ嬢の間を往復する。
状況を理解できないイザベラは、戸惑ったように眉を寄せた。
「な、何ですの? 皆さん、わたくしの顔に何かついていて?」
その時、リリアーナ嬢がイザベラのもとへ、怒りを湛えた足取りで歩み寄った。
「失礼ながら、お尋ねいたしますわ、お嬢様。そのドレスは、いったいどこで手に入れられたのですか!」
「な、なんですの、いきなり。これは高名なデザイナー、マダム・ロアンに作っていただいたものですけれど!」
「マダム・ロアンですって!? やはり、あの女の仕業だったのね! そのデザインは、私の母が考案したものです! それを盗むなんて、許せませんわ! この国は、盗人を侯爵令嬢として遇するのですか!」
リリアーナ嬢の激しい告発に、ホールは水を打ったように静まり返る。盗作。社交界において、これほど不名誉なことはない。
イザベラの顔から、さっと血の気が引いていく。
「と、盗作ですって……? そ、そんなはずは……だって、これはサラが……」
狼狽したイザベラが助けを求めるように私に視線を向けたが、私はただ悲しげに首を横に振るだけだ。
「お姉様……。わたくしは、ただお姉様に喜んでいただきたくて、評判のデザイナーの方にお願いしただけなのに……。まさか、そんな曰く付きのドレスだったなんて……」
私は目に涙を溜めて、か弱く演じてみせる。周囲からは同情的な視線が私に、そして軽蔑的な視線がイザベラに注がれた。
醜聞は瞬く間に広まり、イザベラと、彼女を監督できなかったヴェルフェン侯爵家は、社交界中の笑いものとなった。
婚約者であるハイルは、公爵家の名誉を汚されたことに激怒し、その場でイザベラを冷たく突き放したという。「君の浅はかさにはうんざりだ」と。
彼らの間に生まれた亀裂が、修復不可能なほど深くなるのを、私は静かな満足感と共に感じていた。
「まあ、イザベラ様、なんて素敵なドレス! まるで炎の女神のようだわ!」
「今日の主役は、殿下ではなくあなたですわね!」
彼女が身に纏っているのは、私が用意したマダム・ロアン作のドレス。燃えるような真紅のシルクに、金の刺繍がふんだんに施された、確かに見栄えのする一着だ。得意満面のイザベラは、取り巻きたちに囲まれ、女王のように振る舞っている。ハイルも、満更でもない顔で彼女の隣に寄り添っていた。
私はいつも通り壁際に立ち、その光景を静かに観察していた。隣には、いつの間にかレオンが立っている。
「うまくいったようだな。見事に舞台の中央に立っている。あとは、もう一人の主役の登場を待つだけか」
「ええ。手は打ってありますわ。もうすぐ、幕が上がります」
私の視線の先、ホールの入り口がにわかに騒がしくなった。外交使節団として招かれていた隣国の伯爵一行が、今しも到着したのだ。その中に、標的の令嬢――リリアーナ伯爵令嬢の姿があった。
彼女こそ、イザベラが着ているドレスの、本来のデザイナーの娘であり、オリジナルのドレスの所有者だ。私がレオンを通じて、彼女が今夜の夜会に出席するという情報を掴み、ささやかな「招待状」を送っておいたのだ。『貴女の母親のデザインを盗んだ者が、今宵の夜会にそのドレスを着て現れる』と。
リリアーナ嬢はホールに入ると、すぐにイザベラの姿を認め、その場で凍りついた。彼女の目が、信じられないものを見るように大きく見開かれる。そして、その表情はみるみるうちに怒りへと変わっていった。
「……なんてこと。あの方がお召しになっているのは、母が私のためにデザインしてくれた、世界に一着しかないはずのドレス……!」
彼女の悲痛な呟きは、周囲の貴族たちの耳にも届いた。ざわめきが波のように広がっていく。何事かと、人々の視線がイザベラとリリアーナ嬢の間を往復する。
状況を理解できないイザベラは、戸惑ったように眉を寄せた。
「な、何ですの? 皆さん、わたくしの顔に何かついていて?」
その時、リリアーナ嬢がイザベラのもとへ、怒りを湛えた足取りで歩み寄った。
「失礼ながら、お尋ねいたしますわ、お嬢様。そのドレスは、いったいどこで手に入れられたのですか!」
「な、なんですの、いきなり。これは高名なデザイナー、マダム・ロアンに作っていただいたものですけれど!」
「マダム・ロアンですって!? やはり、あの女の仕業だったのね! そのデザインは、私の母が考案したものです! それを盗むなんて、許せませんわ! この国は、盗人を侯爵令嬢として遇するのですか!」
リリアーナ嬢の激しい告発に、ホールは水を打ったように静まり返る。盗作。社交界において、これほど不名誉なことはない。
イザベラの顔から、さっと血の気が引いていく。
「と、盗作ですって……? そ、そんなはずは……だって、これはサラが……」
狼狽したイザベラが助けを求めるように私に視線を向けたが、私はただ悲しげに首を横に振るだけだ。
「お姉様……。わたくしは、ただお姉様に喜んでいただきたくて、評判のデザイナーの方にお願いしただけなのに……。まさか、そんな曰く付きのドレスだったなんて……」
私は目に涙を溜めて、か弱く演じてみせる。周囲からは同情的な視線が私に、そして軽蔑的な視線がイザベラに注がれた。
醜聞は瞬く間に広まり、イザベラと、彼女を監督できなかったヴェルフェン侯爵家は、社交界中の笑いものとなった。
婚約者であるハイルは、公爵家の名誉を汚されたことに激怒し、その場でイザベラを冷たく突き放したという。「君の浅はかさにはうんざりだ」と。
彼らの間に生まれた亀裂が、修復不可能なほど深くなるのを、私は静かな満足感と共に感じていた。
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