虐げられ令嬢の武器は、完璧すぎる記憶力でした~婚約者の嘘も家の不正も、全部覚えてます~

法華

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7話

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 イザベラへの復讐は成功した。だが、私の心は晴れなかった。彼女を陥れるために母の形見の宝石を使ったことで、私は再び、亡き母の記憶と向き合わざるを得なくなっていたからだ。
 母は私が十歳の頃、長い闘病の末に亡くなった。病弱ではあったが、いつも穏やかで、優しい人だった。平民出身というだけで辛く当たられていたこの屋敷で、私の髪を撫で、「サラは私の宝物よ」と微笑んでくれた、唯一の光だった。

(お母様……)

 書庫の片隅で、私は母が遺した古い日記を手に取っていた。そこには、衰弱していく日々の様子が、か細い文字で綴られている。薬の名前、日々の体調の変化……。その文字をなぞるたびに、日に日に痩せていく母の姿が目に浮かび、胸が締め付けられる。
 その何気ない記述を読んでいた私の脳裏に、ふと、ある記憶が蘇った。それは、かつて暇つぶしに読んだ薬草学の専門書の一節だった。埃をかぶったその本の、特定のページが、鮮明に思い出されたのだ。

『……薬草Aと薬草Bは、それぞれ単体では滋養強壮の効果を持つが、同時に長期間服用した場合、ごく稀に、緩やかに身体機能を低下させる毒性を発揮することが報告されている。特に心臓に疾患を持つ者には禁忌である……』

 私ははっとして、母の日記を読み返した。そこには、侍医から処方された薬として、まさにその薬草Aと薬草Bの名前が記されていた。母は、生まれつき心臓が弱かった。

(まさか……。そんな偶然が……。いいえ、これは偶然などではない)

 心臓が嫌な音を立てて脈打つ。私の完璧な記憶が、日記の記述と専門書の内容を照合し、恐ろしい可能性を導き出していた。
 母の死は、病死ではなかったのかもしれない。誰かが意図的に、緩やかに作用する毒を盛っていたのだとしたら?
 脳裏に浮かんだのは、いつも母を目の敵にし、その死を誰よりも喜んでいた、継母の顔だった。

「……レオン」

 翌日、王立図書館で会ったレオンに、私は震える声でこの疑惑を打ち明けた。私の話を聞き終えたレオンの表情から、いつもの飄々とした雰囲気は消えていた。

「……それは、単なる憶測とは言えないな。十分な動機と可能性がある。許しがたいことだ」
「お願いがあります。当時の侍医と、薬を調合した薬師を探し出してはいただけないでしょうか。母の死の真相を、どうしても知りたいのです。このままでは、母は浮かばれない」

 私の必死の訴えに、レオンは力強く頷いた。

「わかった。僕の人脈を使えば、当時の関係者を見つけ出すことは可能だろう。少し時間はかかるかもしれないが、必ず突き止めてみせる。君の母親の無念は、僕が晴らす手伝いをする」

 レオンに調査を依頼してから数週間後、彼は深刻な顔で私の前に現れた。

「……見つかったよ、サラ。当時の侍医はすでに亡くなっていたが、薬師はまだ王都で店を営んでいた」
「それで……!?」
「薬師の証言によれば、君の母親に処方されていた薬の調合を指示したのは、侍医ではなく、君の継母だったそうだ。彼女は侍医の名を騙り、『特別な滋養薬だ』と言って、問題の薬草を組み合わせるよう、繰り返し指示していたらしい」

 レオンが差し出したのは、薬師が保管していた当時の処方箋の写しだった。そこには、間違いなく継母の筆跡で、二つの薬草の名前が記されていた。
 全身の血が凍りつくような感覚。怒りと悲しみで、目の前が真っ赤に染まる。

(お母様を……殺したのは、やはりあの女だったのね……!)

 母の優しい笑顔が脳裏に浮かび、涙が溢れて止まらなかった。これはもう、復讐ではない。母の無念を晴らすための、正当な裁きだ。
 私は涙を拭うと、固い決意を瞳に宿して顔を上げた。

「レオン。証拠は、揃いましたわ。あの女を、決して許さない」

 継母への断罪の時は、近い。私は心の奥底で、母の名を呼んだ。もう二度と、あの女の好きにはさせないと誓いながら。
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