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第4章 Open Your Eyes For The Elf's Past

閑話 エルフの過去 その3 ~悲しい事だけじゃない~

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「ちょ、ちょっと! どこ行くの!」
「いいから、もうすぐ!」

 森を駆け抜け、私は誘導されている。
 しばらくすると、森の奥に光が差し込んでいるのが見えた。
 リンはそれに怖気つくことなく、進み続けた。
 ……森の中を抜け、光の奥に行くのは、そう時間は掛からなかった。
 私は眩しさから目を守るため……瞼を閉じた。
 ……瞼を閉じたときは真っ暗だったが、一瞬にして、それが真っ赤になった。

「……さ、着いたよ! ……って、目開けなよ」

リンは、私の肩を揺さぶり、目を開けるよう促す。
私は恐怖を感じつつゆっくりと目を開けると……そこには。

「……綺麗」
「でしょ?」

 ……まるで虹のように色鮮やかな花畑が広がっていた。
 私はその風景に圧巻した。
 私が想像する「外」というのは、悲鳴が絶えず、死体が転がり、暗い物だった。
 しかし、ここは違った。

 悲鳴ではなく、小鳥のさえずりが響き渡り、芸術作品のような花々が咲き誇り、太陽がそれらを輝かせていた。

「……ね? 楽しいことだってあるでしょ?」
「うん……」

 確かに、悲しい事ばかりではなかった。
 私も知らなかった、楽しい事、美しい事、そういうのもあるのだと理解した。

「アタシね、将来的にこの花畑みたいな、バリ楽しい事を守っていきたいと思うんだ」
「楽しい事を……守る?」
「うん! 確かにオブオブの言う通り、バリ悲しい事だってある……だからこそ、数少ない楽しいことを守りたいんだ!」
「……でも、そんなの、貴方だけが背負う必要はないんじゃない?」
「アタシだけが背負う必要は無いか……でも、他の誰かがその責任を負うくらいなら、アタシがやりたいな!」
「……」

 私はその言葉を聞いて……考えた。
 私はリンと出会うまでは、楽しい事なんて経験したことも無かった。
 いつも、氏族の長としての教育ばかり……悲鳴や死体の山を見たり聞いたりするばかりで、そういうのに縁が無かった。
 でも、リンのおかげで、そんな楽しい事を知ることができた。
 ……私も、楽しい事を守りたい。

「ねぇ、リン」
「何?」
「私も……守りたいな、楽しい事」
「……オブオブ」
「だから……私に……守り方を教えて!」
「……うん! 一緒に守ろう!」

 私はリンと握手をし……一緒に守る決意を固めた。

「これからよろしくね!」
「うん、よろし……んん!?」

 これからよろしく、そう言おうとした矢先、リンが私の唇を抑えつけた……「自分の唇で」
 こ、これは……き、キス!? な、なんで突然!?
 し、しかもこれ……私の……ファースト……。

「えへへ! よろしくね! オブオブ!」
「ちょ、ちょっと……なんで突然キスなんか……」
「え? 別に普通でしょ?」
「……」

 彼女の氏族では普通なのか? 全く……。

「じゃ、早速向こうまで競争だ!」
「え、ちょっと待ってよ!」

 私はキスの恥ずかしさを隠しつつ、リンを追いかけた。
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