牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第五章「ゴーストタウン」

代理のバーテン

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「ではそれぞれの報告を」
「カロンディア地区担当ハンズです。治安問題が懸念されていましたが、今の所は問題ありません。住人の皆様も毎週きちんと教会に通ってきていただいてます」
「ふむ、次」
「シャール地区担当のバルコスです。私の教会の付近にある川が増水し…」

 (はあ…めんどくさ…)

 周りに聞こえぬようひっそりとため息をつく。

 今、俺は牧師達による“定例報告会”に来ていた。目の前では、牧師服に身を包んだ男達が資料を見ながら話し合っている。会議といっても、各々の教会で起こったことをただダラダラと報告しているだけ。話し合ったところで教会本部から予算が出てないため何かできるわけでもない。全く意味のない会議。会議してますよと教会本部が自己満足するだけの、無駄な時間。

(さっさと終わってくれ)

 頬杖をつきそうになるのを必死に堪える。

「次、ルトハワード」
「はい」

 用意しておいた資料を淡々と読み上げていく。かなりの大嘘報告だが仕方ない。

 (本当のことなんか言えるわけないし)

 悪魔にとり憑かれた奴に襲われたり、悪魔に盲信してる奴がいたり…はたまた悪魔本人が教会に居着いていたり。きっとありのまま話したら、刺激が強すぎて、真面目でお堅い牧師様達はぶっ倒れてしまうだろう。

「ー以上です」

 そういって席に戻る。男達は特になにも言わず資料を見ている。ふと視線を感じて机の方に移せば、チラチラとこちらを見てくる者と目があった。すぐにそらされる。なんだろうと首を傾げていると、他の方向からも視線を感じた。皆、資料と俺を交互に見ては眉を寄せている。

 (なるほど、そういうことか)

 この場にいる牧師達は“呪われた教会”に配属された俺が、普通に生きて会議に参加している事が不思議で仕方ないのだろう。カラドリオスに送られた牧師は必ず死ぬ・・・いや、殺される。俺の担当した教会は、処刑台のようなものだった。

(呪い殺されるはずの牧師、か)

 確かにバンやザクがいなければ俺も殺されていただろう。

「…はあ」

 流石に耐え切れずため息を零した。ここで怒っても仕方ない。睨むだけに留めておくのだった。


 ***


 =いやー、長かったなあ~=

 赤毛の猫がひょっこりと顔を出す。会議は一日中続き、日の陰った夕方になりやっと解放された。へとへとだ。主に精神的に。

 =けけ、終わったってのに辛気臭い面だな=

 猫が壁から飛び降り近づいてくる。しかし、俺の足元まであと一歩、という所で足を止めた。どうやら会議場所であるこの教会はかなり力が強い場所らしく、未だ敷地内にいる俺には近づけないようだった。

(てことは・・・今日ずっと、外で待っていてくれたのかな)

 いやいやあの面倒くさがり屋が?ありえないだろ!と自分に突っ込む。

「ザク、なんでついてきたんだ」

 自らの複雑な心情を誤魔化すようにザクに尋ねた。

「お前、教会の悪魔像の代わりなんじゃないのか」
 =俺様は“お前”を守る約束をしてんだ。教会の守護は仕事じゃねー=
「…日ごろ守護されてる気しないんだけど」
 =っけけ!ルトが気づいてねーだけで俺様けっこう働いてんだぜ?=
「あ、そう」
 =つめたっ何かないわけ?お礼とかご褒美とかキスとか=
「ない」

 俺はため息をつきながら、教会の敷地を出た。それを合図に猫が肩に乗ってくる。深呼吸をして土くさい空気を思いっきり肺に入れた。ここはカラドリオスから半日かけて山を進んだ先にある、古き良き伝統の街アルガンダ。レンガ造りの建物が等間隔に立ち並び、大きめの自然公園が中心にある。

 (カラドリオスよりずっと落ち着いた雰囲気の街だな)

 すれ違う人たちも、カフェでゆったりと談笑を楽しんだり読書に耽っていたりと、皆物静かで柄の悪そうな人間は見かけない。活気はないが品のある街だと思った。教会の会議場所としてはぴったりだろう。若干外気温が低いのが嫌だけど、それ以外はとても過ごしやすい(ホテルも広々としてたし食事もまあまあだった)。

「それに、何よりここは悪魔の気配がしない」
 =だな~さすが洗礼地だぜ=
「ザク、この街の事知ってるのか」

 洗礼地の一つであるアルガンダは、古来から神聖な土地として知られている。そのおかげか、この街に入ってからは一度も嫌な気配を感じていない。

(例外が肩の上にいるけども)

 とザクを半目で睨めば

 =悪魔は基本臆病な生き物だからな、危険な事・場所・ものには詳しいんだよ。まあ、俺様にとってはこのぐらい屁でもないがな=
「図太いやつめ」
 =っけけ=

 そんな事を話しながら街を進んでいく。

(宿の食堂で夕食をとってもいいけど、気分転換に店に入るのも悪くない)

 会議のせいで色々むしゃくしゃしてるしな。美味しいものでも食べてストレス発散しよう。ということで良さげな飲食店を探しキョロキョロと見回す。だが、どうやらこの辺りは本屋や雑貨店などが多いらしく飲食店はなさげだった。

「んー」
 =居酒屋にしようぜ~=
「・・・却下」
 =え~~=

 居酒屋は、嫌な思い出があるし変な男に絡まれるかもしれない。いくら三日間の短い滞在とはいえ、できるだけトラブルは起こしたくない。それに、外出先ではなるべく人に関わりたくない、というのが本音だった。

(ここはやはり、カフェとかで軽く済ますのが一番か・・・)

 ちなみに、リリは教会に置いてきた。長時間の馬車移動は体に堪えるだろうし、会議の間放っておくわけにはいかない。バンに頼んで預かってもらうことにしたのだ。別れるときのあの寂しそうな瞳を思い出すだけで胸がいたい。

 (早く帰ろう…お土産いっぱい買おう…)

「ああ、癒しがほしい…」
 =酒~~=
「却下」
 =~!あ、じゃあ女の子見に行こうぜ!!=
「…はあ?!」
 =癒されるし、酒もでる!素晴らしい!=
「ふーん、いいじゃん」
 =おお!なんだかんだ言って興味あんのかルt=
「いいけど、ザク一人で行ってこいよ」
 =ふぁっΣ(´Д` )=
「俺はカフェでいいし」
 =えー誰が金払うんだよ~!=
「金はやるからさっさと行け」
 =え~嫌がるお前を連れてきたい~=
「結局それかよ!」

 呆れてしまう。俺は大通りを見回し、それらしい通りを見つけた。そのまま入っていくと、一気に街に似合わないネオンカラーの看板が増えてくる。

(どこの街でもこういう所はあるもんだな・・・)

 突っ立ってるのもあれなので早足でネオン通りを歩く。

「ねえねえ坊や~ちょっとどうかしら~?」

 胸元のあいた服を着た女性に声をかけられるがもちろんスルー。

 =うはあ~天国だぜ~=

 いつのまにか肩からおりたザクが女性たちに囲まれ全身を撫でてもらっている。

 (うし、これでいっか)

 ザクはここにおいてって俺はカフェを見つけてこよう。きっとザクなら離れていても俺のいる場所がわかるはずだし、別れて行動するのも悪くない。と、納得して元来た道に戻ろうとした時だった。

「おお~?」

 横を通り過ぎかけたおっさんが俺の顔を見て目を見開く。それから隣にいる連れの肩を叩いた。叩かれた方も俺の顔を見て、ニヤニヤと笑い口笛を吹く。

(うわ、嫌な予感)

 ぐいっ

 思ったとおり男たちは俺の腕を掴んで不躾に声をかけてきた。

「なああんた、いくらだ」
「は?」

 どうやら俺を売人と間違えてるようだ。まあ、こんな場所で一人で歩いてたらそう思われても仕方ないだろう。ため息をつき、手を払い除ける。

「俺はそういうのじゃない。他を当たれ」
「おいおい、つれねーじゃないの、もう少し考えてくれよ」

 歩きだそうとしたら再び肩を掴まれ、今度はもう一人の方が背後にまわってきた。そしてあっという間に逃げ道をふさがれてしまう。

 (ああもう、穏便に済ませたかったのに・・・)

 面倒くさいしザクを呼んでしまおうか、ととっさに考えた。

 だが、ここで助けてもらっても結局は「お前のせいで俺様の大事なウハウハ時間がー!お前の体で払えこんちきしょー!」とか言われそうで、結果は同じな気がする。

(うむむ、どうしたものか)

 腕を組み悩んでいると、痺れを切らした男が声をかけてきた。

「なあ、おれら別にどぎついSMプレイをしたいとか変態プレイを求めてる訳じゃねーんだ、ちょっと触って入れさしてくれれば」

 じゅうぶん嫌だっての!ハゲが!とキレそうになった時だった。

「俺の店の前でやめてください」
「!?」

 ネオン通りの店のひとつ。といってもここだけ質素・・・落ち着いてる外装をした店があった。店の前には、バーテンダーが立っている。すらりと手足が長くてスタイルのいいバーテンダーはどこか不思議な色気があった(女性にモテそうなイケメンだ)。この辺りで客引きをしてるどの男よりもかっこいいと素直に思う。その顔でにこりと笑った。路地の端にいた客引きの女がキャーと悲鳴をあげる。

「なにあのバーテン、かっこいいー!」
「あんな人いたっけ!!」
「さあ…ここは入れ替わりはげしいもんね~!」

 会話に耳をすましていると、おっさんにぐいっと手を引かれた。

「えっうわ?!」

 そのまま肩を抱かれる。

「ちょっ何すっ!」
「いいから」

 いたずらっぽくウィンクされた。

「っち、ちげえよ!おれらは元々そういう約束をしてたんだってー、そうだよな、な??」

 苦し紛れの言い訳をするおっさん。同意を求めるように視線を送ってきた。

(んなわけあるか)

 冷たい目でおっさんを睨んでいると、横にいたバーテンがふわりと微笑んできた。俺に向けて。

 ―――え?俺?

「違うでしょ、この子は俺と約束してたんだ、そうだろ?」

 バーテンに極上の笑みを向けられドギマギしつつ、俺の口は勝手に動いていた。

「あ・・・うん」

 口から出てきたのは肯定の言葉。いや、聞いてくれ。あの笑顔で笑いかけられたら断れないって。俺が女だったらコロッと落ちてるレベル。

「はあ?!・・・んだよ、しらけんなー」

 おっさんはそれを見てやっと諦めてくれたようだ。連れの男と共に、騒ぎに集まった客引きに話しかけにいってる。懲りないやつだ。

「はあ・・・」

 チラッと上を見る。バーテンもこっちを見ていたらしくバッチリ目があってしまった。

「!!・・・あ、あの・・・ありがとう」

 とりあえずそうとだけ言った。

「いや、いいさ。どっちにしたって店の前にいられちゃ困るしね」

 あはは、と何でもなさそうに笑っている。ふと、バーテンの顔が何かに気づいたかのような表情になった。

「そうだ、立ち話もなんだし店でお茶でもしていく?」
「いや、俺は」

 ぐきゅるるるるっ

 盛大に、腹の虫が鳴った。路地に響き渡るレベルの音量だった。

「っっっっ」

 恥ずかしくて死にそう。身悶える俺を見下ろすバーテンは何事もなかったように腕を組み、考え込むような仕草をする。

「そういえば俺、今日新作メニューを作ってみたんだけど、作りすぎちゃってね」
「?」
「よかったら試食がてら消費してくれないかな」

 今思い出したかのように手を叩き、店の扉に手をかけた。にこりと笑う。

「どうする?」

 蕩けるような甘い笑顔を向けられ、俺の断りの言葉は喉の奥へと飲み込まれた。

「い、いただきます…」

 そんなわけで俺は、謎のバーテンにご馳走になることになったのだった。


 ***


「どうぞ」

 お洒落なバーに似合わない普通のご飯が出てくる。俺もよく作る、ここらの地域で有名な魚料理だった。味も濃くなく薄くなく好みの味つけだ。もぐもぐと一心不乱に食べる。

「・・・」

 そんな俺の様子をバーテンは優しい眼差しで見守っている。俺が食べ終えたのを確認してからバーテンは口を開いた。

「お口にあったかな」
「…美味しい、です」

 ボソボソっと呟いた。それで十分伝わったようで嬉しそうにしてる。照れ臭さから俺はうつむいたままだ。

「君、ここの人じゃないでしょ」
「えっ」

 手元のコップを拭いていたバーテンがおもむろに聞いてきた。図星で驚きの声をあげてしまう。

「な、なんでそれ」
「外見的にここの土地っぽくないからね」
「あー・・・」

 白髪、白い肌、青い瞳はこの辺りでも珍しいのか。自分の体を見下ろしながら一人頷く。

「そうだったんだ・・・」
「うん、それにこの街の住人はここに来ようとしないし、特に君のような若者はね」
「・・・なる、ほど」

 ここ、とはネオン通りのことだろうか。確かに街からこの通りに向かう人は俺たち以外にいなかった。てことはここの通りにいる奴は皆よそ者とか変人なのか。

「はは、そうなると俺も変人か」

 どうやら脳内に浮かんだ疑問を口に出していたらしい、バーテンが困ったように笑った。俺は焦って訂正する。

「あっ、そういう意味で言ったんじゃ!」
「わかってる、それに俺はこの街の住人じゃないから、君の指摘はあながち間違ってない」
「えっ!住人じゃないのか?」
「ああ、ここのマスターが倒れて今だけ代わりに立ってるんだよ。俺はよそ者さ。」

 なるほど、道理で店を持つには若すぎると思った。物腰は大人っぽいけど年齢的にはバンと同じぐらいに見える。バーテンは俺の視線を受けながら、拭きおわったコップをバーにおき、次のコップに手を伸ばす。

「マスターには色々助けてもらったんだ、きちんと恩を返したくてね」
「…」

 ネオン通りと似合わないこの青年がどうしてこんな場所で働いていたのか謎だったが、そうか、恩返しのためだったのか。と普通に感心する。

 (若いのに苦労してるんだな…年下の俺が言うのも変だけど)

 気遣うように視線を送った。

「...マスター、大丈夫なのか?」
「ああ、来週には復帰できるみたいだから俺も今週いっぱいで元の店に戻るよ」
「結局自分の店を持ってるのか、すごいな」
「ははっここほど広くはないから全然さ」
「広い狭いは関係ない。自分の信念があってそれを貫いてるあんたはすごいと思う」
「…」

 バーテンは目を丸くして俺の言葉を黙って聞いている。そのあと、突然吹き出した。

「ぷっ、ははっ!まさか子供に諭されちゃうとはね」
「子供じゃない」
「ああ、つい…子供扱いしてごめん。」

 よしよしと頭を撫でられる。やっぱり子供扱いしてるじゃないか。

「怒ってる?」
「怒ってない」
「なら、いいけど。あ、そろそろ宿に戻ったほうがいいよ。もう遅い時間だから」
「あっ」

 ほんとだ。時計を見るとすでに十時を回っていた。バーテンは何を思ったのか、店の奥へと消えていってしまう。

(?)

 その背中をボーッと眺めていると、バーテンが戻ってきて俺に手招きしてくる。

「なにしてんの、ついてきて」
「え、でも出入り口は」

 そっちじゃないだろ?俺が疑問に思ってるとそれを察したのかバーテンが説明してくれた。

「遅い時間にあの通りを歩かない方がいい。店の裏から大通りに戻れるからこっちから行きな」
「なるほど」

 それは助かるな。しかし裏から行って道がわかるかなと不安に思ってると隣からガチャガチャという音が聞こえてきた。バーテンが裏口の鍵を閉めてる。

「わかりにくいから、大通りまで案内するよ」
「ええっそこまで世話には」
「ここまで来たら遠慮することない。すぐそこだから」
「でも、店…開ける時間だろ??」
「この時間じゃまだ客なんて来ないよ」
「…」

 鍵をポケットに入れてる。俺はバーテンの後ろ姿を見てから、頭を横に振った。

「やっぱいいよ」
「遠慮なんか」
「違う。ここは、恩人に任された大事な店だろ。よくも知らない俺なんかのために半端な扱いをするのはよくない、と思う、…ます」

 言いながら恥ずかしくなり、語尾だけ敬語になる。

「・・・」

 バーテンは俺の顔をジーっと見つめてきた。それから少し間をおいてから口を開く。

「そうだね、君の言う通りだ。」

 真剣な顔で頷く。

「大事なこと、見失っちゃうとこだったな。ありがとう…えっと、名前を聞いてもいい?」
「ルト、牧師だ」
「俺はレイン、別れ際に言うのも変だけど・・・よろしく、ルト」

 軽く握手をして、フフっと笑いかけられた。

「ルトは可愛い見た目に寄らず、芯がしっかりしてるんだな」
「かわいい・・・?」
「もし、もう少しここに滞在するつもりならまた顔を出してよ」
「うん・・・まあ時間があれば」

 昼間は会議があるけど、夜とかなら行けると思う。・・・はずだけど束縛されるのは嫌だからそれは言わないでおいた。

「わかった」

 俺の意図が伝わったのかレインはそれ以上深く聞いてこなかった。

「でも、来てくれたら、すごく嬉しいよ」

 にこりと、極上の笑みで笑いかけてくる。

 やっぱモテそうだよな…距離感をわかっているというかなんというか。ごり押ししないで俺に選択を託すとこが余裕がある。まあ、ただ単に俺に興味がないだけかもしんないけどさ。

「じゃあ、ここをできるだけまっすぐ進んで。そしたら大通りに出られるから。」

 こくりと頷く。

「じゃあおやすみ、ルト」
「…ん、レインも仕事がんばれよ」

 それだけいって俺は暗い裏道を歩き出した。

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