牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十一章「星砂の子守り唄」

嘘の匂い

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 そしてその影は手を振り上げ、ザントの頭に振り下ろした。

 ごちん!!

『アイタっ!!』
「てんめええええ!よくも俺様にこんなショボい魔法使いやがったな!」
『うわあ!悪魔!なんでここに!』

 ザクだった。かなり怒ってるようだが拳骨をお見舞いして少し落ち着いたようだ。俺の後ろにいたシータを蹴り飛ばし空いた椅子に腰掛ける。そういえばシータのやつ勤務中だろ。なにしれっと会話に参加してるんだか。

「ザク、起きたんだ。よかった」
「ああ!くそっつ俺様としたことが情けねえ」
「すやすや寝てたな」
「う゛っ、言うな...!!」

 はは。照れてるザクは珍しい。

「んで?俺様が寝てる間に大集合してるじゃねえか」

 キメラの双子に変態博士、蛇男に情報屋。ついでに星砂の妖精も。よく考えればカオスである。

「いや、なんか…成り行きで」
「ふーん。このショボ妖精と未だに一緒にいるのも成り行きなのかな~ルトちゃん?」
「ちゃんを付けるな!」
『そうだそうだ!ルトさんをイジメるなっす!』
「あ゛あ゛ん?!」
『ひゃええ~~悪魔め!あっち行け!』

 噛みつきそうな勢いのザクをいさめながら、ザントを後ろで庇う。

「コラ!ザク!店の中で喧嘩するな!迷惑になるだろ!ザントも砂を投げるな!誰かにかかったら大変だろっ!あーもう!」
「はは、なんかお母さんみたいになってるぞ、ルト」

 バンにまでからかわれてしまうし。俺は二人の間に立つのをやめて平和そうな空席に座った。食事に戻る。すると双子の片割れのリオがパンを差し出してきた。

「ルト、これ焼きたてだぞ」
「ありがとう、リオ。最近そっちはどうだ?」
「順調すぎるほどだ」
「はは、よかった。ラルクさんには迷惑かけてない?…いやラルクさんに変な事されてないか?」

 あの人悪魔とかそっち系に目がないからな。リオ達も変な事をされてないといいが。

 (ほら、実験とか…)

 ないとは思うがありえないと断言できないのがつらい所だ。

「いや大丈夫だ。掃除や家事をして支えさせてもらっている。カプラの悪戯に困らされてるが平和そのものだ」
「そっか」

 双子が人間として生活できることは俺としても嬉しい。これからも二人が健やかに過ごせるよう祈るばかりだ。

 すっ

 焼きたてのパンにバターをつける。バターは塗った所からすぐにとけていき美味しそうに光っていた。一口分ちぎって口に入れる。うん、うまい。

「ルト」

 バンが「これも食べるか」と皿を持ってきてくれた。魚料理に目を輝かせる俺。追加だよーとシータが俺の好物を持ってきた。リオが慣れた仕草で取り分けていく。横では、ザントとザクが睨み合いながらお互いの料理を取り合っているのが見えた。その隣ではラルクさんに妖精についての説明をされるカプラ(聞いてない)。みんな楽しそうにしながら一緒の机で食事をしてる。

(...なんかこういうの、いいな)

 こうやってワイワイしながら食べるのも悪くない。前なら誰かと食事するなんて息苦しくて絶対嫌だったけど。ここにいる奴らなら気を使わなくてもいい。それがとても楽で、心地よかった。一人で笑いそうになってると、ザクが近寄ってニヤリと笑いかけてきた。

「な~に笑ってんだルト」
「別に」

 そう言うと、さりげなく頬にキスをされる。今は誰も見てなかった。と、信じたい。

「ばか」

 頬を手で隠すようにして横を向く。ベランダ席のプランターに黄色の花が見えた。黒い模様が入った黄色の花は太陽の影になった所で静かに咲いている。

 (そういえば…)

 その花を見ながら思い出した。

(...エス、今頃何してるんだろうな)

 俺の疑問は誰に届く事もなく静かに消えていくのだった。


 ***


『さあ夜っすよ!』

 待ちに待ったというように仁王立ちのザント。呆れ顔の俺とザク。他の皆はあの後解散して帰っていった。残る俺達はザントが心配で見守ることになった。

 (流石にこのまま放っておくのはな…)

 本人に悪意はなさそうだが『絶滅した妖精』としての危なっかしさはある。大事にならないように見張りたいという気持ちもあった。

「っち、せっかく二人っきりになれる所だったのによぉ」

 ザクが横でむくれている。

 (でも文句言いつつ付き合ってくれるんだな)

 前のザクなら酒飲みにいくか女遊びに行ってそうだが、少し変わったのかもしれない。

『ん!あっちに人影が!』

 突然ザントが走り出した。俺たちも慌てて追いかける。

「おいザント!言っとくけど街を歩いてる人間を突然眠らせるとかはダメだぞ!」
『わかってるっす!子ども達にだけっすよねー!!』
「いや、それもちょっと語弊があるんだよな...」
「あのショボ妖精、ロリコンなのか?」

 ザクがドン引きしてる。いやロリコンでもないしショタコンでもない。「夜更かしをさせないように寝かしつけをする」という目的の睡眠導入ならギリセーフかもしれないが、そんな状況に出くわす事はまずない。

 (色々心配だけど、まあ今は横にザクがいるしな)

 いざとなったら止めに入ってもらおう。ふと、俺は先ほどのことを思い出した。

「そういえばザク。さっき店を去るときラルクさんと何を話してたんだ?」
「んあ?あーあれか」

 店を出るときザクとラルクさんが立ち話をしていたのだ。この二人が並ぶのは珍しくて話の内容が気になったんだが。

(結構真剣な顔だったし…何話してたんだ?)

 ザクはちょっと考えた後、少し濁しながら答えた。

「えっと...街について聞いてた」
「え?」
「いや、俺様が解任されたってことは新しい奴が来るだろうし先手を打っておきたいしな」
「…??新しい奴?解任?」
「けけ。とにかく元悪魔として聞いておきたいことがあったんだよ」
「ふーん...」

 よくわからない。でもザクなりに考えているというのはわかった。

「それって悪魔をやめた理由と関係あるのか」
「関係なくはないな」
「そっか。…あんま無理するなよ」

 ぼそっという。ザクのあんなボロボロな姿、もう二度と見たくない。見舞いに来てくれたアイザックさん曰く、彼らをかばっての怪我らしいけど。それでもやっぱりザクが寝込んでる姿なんて見たくなかった。

「けけけ!」

 笑いながら頭を撫でてくる。

「なにっするんだよっ」

 くしゃくしゃにされた髪を抑えた。手を振り払う。

「ま!俺様に任しとけ!ルトには指一本触れさせねえからさ」
「俺じゃなくてザクが」

『うわあ!ルトさん!あれを見てくださいっす!』

 ザントが悲鳴のような声をあげる。視線の先には路地で絡まる男女の姿があった。下半身が繋がっている。つまり行為中。路地裏とはいえよくやるな、と感心してしまう。隣のザクが口笛を吹いた。

『ええ?ん~?』

 ザントは男女の横に移動して不思議そうに眺めてる。答えを求めて俺たちの方を見てきた。

『ルトさん。これは、何をやってるんすかね?って…何隠れてるんすか』
「バカ...こんなん他人が見るものじゃないから!」
『あ、そうなんすか』
「ほらいくぞ!あっちを探そう」
『ええー、うっすー』

 ザクがニシシと笑いながらついてくる。イイモノ見たなと言いたげだ。良い趣味してる。



 それから1、2時間ほど。俺たちは街を歩き回り、時刻は12時を過ぎた。その頃にはもう俺は疲れ果てて、げんなりと項垂れていた。

『ルトさん!あそこに女の人が立ってるっす!』
「あれは客引きだから、子供は近くにいないって…」
『そうなんすか…』

 毎度突っ込む側にもなって欲しい。俺は噴水広場のベンチに座り一息ついた。隣に腕を組んだザクが立っている。退屈そうに欠伸している。ザントは少し先の道路でキョロキョロしていた。

『あーあ。全然いないっすね、夜更しをする子...』
「そんなに眠らしたいのか?別の方法を考えてもいいんじゃ…」
『ダメっすよ!おれのできることなんて眠らせるぐらいだし!子供にはいっぱい寝てもらいたいし!』
「でもなあ…」
「つーか。こんなことして本当に意味あんのか?」

 ザクが意地悪をするように笑った。ザントを見下しながら続ける。

「自分たちを忘れ去られて、でもできる事がないから、人間の街を歩きながら駄々こねてる。その程度の行為だろ?これは」
『ちっ違うっスよ!!』

 声を荒げるザント。その様子には図星という言葉がぴったりだった。酷く焦りながら、視線を揺らしている。

『おれは...おれは...っじいじの約束をっ』
「あーめんどくせえ。お前自身は何がしてえんだ?ハッキリしろよ」
「ザク、言いすぎだ」
「俺様もルトも暇じゃねえんだぜ。こうして話してる間にもルトといちゃつく時間が減ってくんだからな。一分一秒惜しーイテッ」

 何バカな事を言ってるんだとふくらはぎを蹴った。しかしザントには十分だったのか

『っわかってるっすよ!どうせ...!今のおれの行動に意味がないってことは!』
「ザント…」
『人間たちはもう!おれたちのことなんて忘れちゃってるんだって!』

 そう言って走っていってしまう。俺は追いかけようとして足を止めた。

(今追いかけて、俺はなんて声をかけたらいいんだ)

「ちっ、あんな半端なやつ相手にしてられっかよ」

 ザクが腕を下しながら舌打ちする。俺はそれをチラッと見てため息をついた。

「馬鹿ザク。お前にしては珍しく正論だけど…ザントはザントなりに考えての事だろ。もう少し見守ってやろうよ」
「ルト……」

 一度捨てた人間の世界に戻ってくるには相当の勇気がいるはずだ。仲間たちからもきっと反対されたはず。それでも一人で来たんだ。カラドリオスに来たばかりの頃を思い出す。あの時感じた不安な気持ち、少し今のザントと近いんじゃないだろうか。

(ザント・・・)

 夕方の迷子の親子の事を思い出す。彼らを見つめるザントは本当に嬉しそうだった。本当に子供が、人間が好きなんだとわかった。ズレてる所もあるけど人間への優しい気持ちは伝わってくる。

 (でもどれだけザントが好きでも、人間側はザントマンを覚えてないんだよな)

「俺、ザントに何をしてやれるんだろ...」

 パン!パン!

「?!」

 突然の銃声に凍りつく。それはザントが去っていった方(旧市街地)から聞こえた。複数の銃声がしたあと広場は静まり返った。ザクと顔を見合わせた。

「まさかっザントのやつ、撃たれたりしてないよな...!」
「おいルト!待て!先に行くんじゃねえ!」

 立ち上がり旧市街地に向かって走り出す。後方からザクの焦った声が聞こえてきた。それでも足は止めない。嫌な予感がした。

「ハア...!ハア...?!」

 しばらく走ると辺りが一気に暗くなった。大きな道路から離れたせいもあるが旧市街地は特に明かりが少なく治安が悪い。

「ルト!面倒事に巻き込まれたらどうすんだ。お前は普通にしてても絡まれやすいんだぜ??」

 守る方の身にもなってくれと肩をすくめて見せる。

「じゃあお前だけ帰れ」
「俺様だけ帰るわけねえだろ?!...はあ、わかったって付き合えばいいんだろ」

 仕方なくという様子でザクが追いかけてきた。なんだかんだで俺もザクがいると心強い。この前悪魔をやめたと宣言していたが、悪魔の力自体は残っているし何か起きても対処してくれるだろう。

 ザッ

「お前たち何者だ!」
「!?」

 急にハキハキとした堅苦しい声がした。何事かと振り向く。次の瞬間、目の前に銃口が向けられた。

「ルト!」

 焦ったザクの声が響く。その声で銃の持ち主がぴくりと反応した。

「ルト…と言いましたか?」

 確認するように呟いた後、俺たちの姿を確認してくる。

「なんと!?ルト殿でありますか?」
「その声は...えっと」
「ルッダ地区担当の教会支部保安官、マック・アーサーであります!」

 マック・アーサー。どこかで聞いた名前だな。

 (そうだ、双子キメラ事件の時の…!)

 教会支部保安官という名前で思い出した。保安官と言う名前だけで言えば、俺が牧師見習いの時とある街を滅ぼした白服たちと同じ所属に当たる。

(ザクを触れただけで寝込ませた生粋の聖職者だ)

 俺が思い出した頃、マックはビシッと姿勢を正し、銃を下した。

「失礼しました!ルト殿とは知らずご無礼を!しかし、このような場所に牧師であるあなたがどうしていらっしゃるのでしょうか?」
「...保安官は、休暇中の行動に指図されるのですか」
「いっいえ!そうではなく...ただ、この辺りは厳重警戒地域になっております」

 (厳重警戒?ザントが何かしたのか?)

 いや流石に早すぎるだろう。ザントの話が正しければまだ街に来て一日程度しか経ってないはず。なのに保安官に警戒されるなんてありえないだろう。

 (じゃあ今の銃声はザントに向けられてないって事か??)

 思考がぐるぐると巡る。

「少し前、この辺りで悪魔の目撃情報があったのです。以来、警戒地域として指定してます!」
「なるほど…」
「加えて気象状況と関係のない落雷の報告がありましたので、そちらも合わせて調査中であります!」
「悪魔と落雷が関連してるんですか…?」
「はい。無関係とは考えにくいというのが上の判断です」

 ちらっとザクを見た。ザク自身は俺たちではなく、壁の向こうを見てる。その方向は、ボロボロのザクを見つけた場所だ。

 (まさかザク、落雷を起こした他の悪魔と接触したのか?)

 ザクが悪魔をやめる事になったのもその悪魔が関係してるんじゃないのだろうか。ザクがなかなか話してくれない為余計気になってくる。

 (あの事件の時はレインも現場にいたよな…)

 レインの顔が浮かぶ。レインは使い魔として悪魔を使役していた。そいつらとぶつかった可能性もあるわけで。

「何か知っているのでありますか?」

 俺が悩んでいると心配するようにマックが覗き込んでくる。悟られないよう、すぐに笑顔を貼り付けた。

「いえ、何も。物騒だなと思っただけです」
「そうですね!ルト殿もお気を付けくださいませ!」
「はい...あの、もう一つ質問があって」
「なんでしょう?」
「先程こちらから銃声が聞こえたのですが」
「申し訳ありません…。それ以上は任務の為言えません。ですがご安心ください。人間に向けての発砲ではありませんので!」

(だからこそ心配なんだよ!)

 人間以外というのが確定したとなると、ザントかザント以外の人外がここにいるという事になる。後者であってほしいが、とにかくザントを早く見つけてここを離れないと色んな面で危険すぎる。白服たちが手加減をしない事は今までの経験で痛いほど知っている。

「わかりました、引き返します」
「それがいいでありますね!皆には伝えておきますのでなるべく早くお帰りください!」

 マックがうんうんと嬉しそうに頷いてる。俺が元来た道を行こうと足を出したとき

「あの!ルト殿!」
「...はい?」
「こ、今度一緒に食事でも行きませんか?」
「...考えておきます」

 ニコッと笑ってそのまま歩き出す。横を通る時ザクが保安官を睨みつけていた。やめとけ、と肘で小突くと追いかけてくる。

「けt!ルトを口説こうとしやがって、ムカつくぜ。聖職者は聖職者らしく禁欲生活でもしてやがれってんだ!」
「ザク」
「ああ??」
「調査されてる落雷の悪魔ってお前の知り合い?」
「...いや、知り合いつーか、弟だわ」
「弟?!お前兄弟いたのか?!」

 初耳である。飛び上がりかけた。

 (ま、まじかあ…)

 ザクがお兄さんをしてる姿を想像できない。

「ついでに言うと腹に穴あけたのも弟な」
「どんな兄弟だよ...いや悪魔と人間じゃそういう概念も違うのかもな」
「けけ、その通りだ。血の繋がりがあるってだけだな。しかしルト一個気づいたことがあるぜ」
「気づいたこと?」
「匂うぜ、あの聖職者。嘘の匂いがする」

 ザクがにやりと笑って後ろを見る。未だにこっちを見てる保安官。ザクは後方を顎でさしてから腕を組んだ。

「何か隠してるな、あれは」
「マックさんが...」

 マックはともあれ、白服はいいイメージがない。何かを隠されてると聞いても大して驚かなかった。

「うーん。嘘というのも内容次第だしな...どういう嘘かは、わかるか?」
「落雷の悪魔のことは本当だ。んで調査してる、というのもな。ただ、悪魔の事を調査してるってのは怪しいな」
「となると」

 悪魔の調査を外面に、他のなにかを調査してると。

「ああ、多分な」

 そこでお互い足を止めた。すでに角を曲がっていてマックからは見えない場所になっている。

「...ザク、俺をマックさん達が見張ってる先に運べるか」
「できると思うが色々やべーんじゃねえの?」
「...」

 確かに、ここが境界線なのかもしれない。知らないほうがいい事というのは世の中結構ある。身内である牧師の俺に隠すこととはなんだ。

 (街の人に黙って何をしようとしている?)

 知ってはいけない事に、今、俺たちは触れようとしてるのだ。

 (でも…)

「この街は、胡散臭い事が多すぎる。悪魔や人外の事件が、他の街より格段に多いのも前々から気になっていた。もしもその原因を白服たちが知ってて隠してるなら…暴くべきだ」
「けけ、格好いいなあ~ルト」
「馬鹿にしてるだろ…」
「してねえって。惚れちゃうぜって褒めてる」

 そう言って俺を姫抱きする。ちゅっと頬にキスをされたが今回は誰にも見られてないので俺も気にしなかった。

「…ばかザク」
「へいへい。じゃあさっさと聖職者の嘘を暴きにいきますかねえ」
「ああ」
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