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第十七章「死を告げる者」
遠征任務
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それは、教会本部からの突然の命令だった。
「え?遠征、ですか…?」
朝早く教会支部保安官、マック・アーサーが教会に訪れて来た。「とりあえず来てください」といわれ、俺は訳もわからず説明も大してないまま、ここ、カラドリオス支部会議所に連れてこられたのである。
カラドリオス支部会議所というのは街の中心にある、教会本部との連絡や教会系のもろもろの用事をこなす場所のことで、マックさんなどの保安官は皆大半がここで仕事してるらしい。石造りでがっちりと守られた建物の周りにはこの街にしては珍しく念入りな魔よけが施されている。さすが教会本部という感じがした。
おかげでいつもべったりとついてくるはずのザクが、魔よけのせいで入れず外で待たされる形になっていた。
「こちらであります」
縦横10mはありそうな、無駄に広い部屋に通される。部屋には横に長いテーブルがあり、その末端(誕生日椅子?)に座るよう促された。あまりにも手持ち無沙汰で耐えきれず、壁側で待機していたマックさんに視線を送る。
「えっと、マックさんすみません。もう一度…説明してもらってもいいですか」
「はい、もちろんです」
マックさんが前に出てくる。手には新聞があり、それを見せてきた。
「詳しいことは上の者がお伝えすると思うのでありますが。一昨日、シャール地区を跨ぐ形で立っているウーラ山で大掛かりな雪崩が起こりました。原因は不明、普段は雪崩など起きない地区と聞いております」
「え…じゃあどうして雪崩なんか…」
「それは自分にもわかりません」
マックさんが、すみませんと申し訳なさそうに謝ってくる。
「お力になれず申し訳ないであります…」
「あ、いや!マックさんが悪いわけじゃないですよ!こっちこそ、…困らせてすみません」
「…やはりお優しいでありますな」
「え?そうですか…?よく冷たいって言われますが」
「そんなわけが――」
バタン、と扉が開く。そこから白い制服を着た男達が入ってきた。歩く姿を見ただけでわかる。
(こいつら…普通じゃない)
隙がないというか、常に警戒してるような印象を受けた。瞳も研がれた剣のように鋭い光を放っていて、今までの俺の経験と勘から察するに、彼らは教会本部の“実働隊"なのだろう。
(つまり、実力は…最初の街で見たあの殲滅隊ぐらい…か)
非人道的な作戦。無慈悲で一方的な殲滅。それを思い出し無意識に体に緊張が走る。隣のマックさんも緊張した面持ちで敬礼した。
「貴方がルト牧師か」
男たちの中でも偉そうな、背の高い男が握手を求めてくる。すかさず立ち上がり彼の前に移動した。
「は、はい…」
「私はアイクラッド・ルドルフ。教会本部からやって参りました。階級は保安官官長、マックの上官に当たります。名前は呼びやすい形でご自由にお呼びください」
「…わかりました」
握手を交わし、どうぞと部屋の椅子を促される。先程と同じ場所に腰を下ろし、テーブルを挟んでルドルフ官長と向き合う。彼の斜め後ろにマックさんが姿勢を正して立っている。
(なんだこの物々しい感じ…落ち着かない…)
出入り口はルドルフ官長と一緒に入ってきた男達が立ち塞がるように立っているし、ただ座っているだけなのに緊張で息が詰まりそうだった。ザクと物理的に離れてるというのも大きいかもしれない。
「さて、ルト牧師、マックからどの程度聞かれましたか」
「あ、えっと…シャール地区で雪崩が起きたというところまでは」
「なるほど、ではその続きをお話します。今回貴方には雪崩の起きたシャール地区に向かってもらいます。…遠征という形で」
「遠征…」
「はい。どうやらその雪崩にとある旅団が巻き込まれたらしく、その様子を調べてきてほしいのです。もちろんあの辺りは治安もそれほど良くないため、我々の精鋭部隊から護衛をつけさせます。安全は保証しますのでご安心ください」
「ちょ、ちょっと待ってください」
驚く、というより動揺していた。
(急に何が起こってるんだ…俺が遠征?ただの牧師に過ぎない俺がどうして遠く離れた土地の調査をしないといけないんだ…)
俺の戸惑いにルドルフ官長は表情を変えず応えた。
「どうかされましたか、ルト牧師」
「ど…どうして…俺が…遠征に指名されたんですか」
大して功績も立ててない俺なんかに何故白羽の矢が立つのだ。凄腕の牧師ならまだしも、俺はただの、呪われた教会(元の話だけど)を担当してる牧師でしかない。選ばれる意味がわからないのだ。
「シャール地区の牧師は今別件で動けません。近隣の牧師も様々な理由を鑑みて遠征は不可能だと本部が判断しました。そこであなたならと話が上がりまして」
(なんだよそれ…また何か面倒くさいことを押し付けられたんじゃないだろうな…)
さすがにそう言えるわけもなく、俺は黙り込む事しかできなかった。それを肯定と受け取ったのか、ルドルフ官長は遠征ついての説明をどんどん進めていく。
「…これで説明は以上です。問題がなければ一週間ほどで終わる遠征なので、それほど構える必要はありません」
「…」
「遠征中は我々が教会を担います。牧師業は休みで構いませんのでそのあたりもご安心を。…ああ、ただし、今回の遠征についてはご家族含めて誰にも他言無用ですので、ご注意ください」
「他言無用…い、一応、聞きたいんですけど、遠征を拒否することって」
「できません」
「…」
やはりか、と肩を落とす。
「そこまで深く考えなくて大丈夫です。実質的な調査はあっちの保安官が行いますから」
(なら俺いらないじゃん!)
と言えるわけもなく。俺は、不気味すぎる遠征任務を押し付けられてしまうのだった。
「え?遠征、ですか…?」
朝早く教会支部保安官、マック・アーサーが教会に訪れて来た。「とりあえず来てください」といわれ、俺は訳もわからず説明も大してないまま、ここ、カラドリオス支部会議所に連れてこられたのである。
カラドリオス支部会議所というのは街の中心にある、教会本部との連絡や教会系のもろもろの用事をこなす場所のことで、マックさんなどの保安官は皆大半がここで仕事してるらしい。石造りでがっちりと守られた建物の周りにはこの街にしては珍しく念入りな魔よけが施されている。さすが教会本部という感じがした。
おかげでいつもべったりとついてくるはずのザクが、魔よけのせいで入れず外で待たされる形になっていた。
「こちらであります」
縦横10mはありそうな、無駄に広い部屋に通される。部屋には横に長いテーブルがあり、その末端(誕生日椅子?)に座るよう促された。あまりにも手持ち無沙汰で耐えきれず、壁側で待機していたマックさんに視線を送る。
「えっと、マックさんすみません。もう一度…説明してもらってもいいですか」
「はい、もちろんです」
マックさんが前に出てくる。手には新聞があり、それを見せてきた。
「詳しいことは上の者がお伝えすると思うのでありますが。一昨日、シャール地区を跨ぐ形で立っているウーラ山で大掛かりな雪崩が起こりました。原因は不明、普段は雪崩など起きない地区と聞いております」
「え…じゃあどうして雪崩なんか…」
「それは自分にもわかりません」
マックさんが、すみませんと申し訳なさそうに謝ってくる。
「お力になれず申し訳ないであります…」
「あ、いや!マックさんが悪いわけじゃないですよ!こっちこそ、…困らせてすみません」
「…やはりお優しいでありますな」
「え?そうですか…?よく冷たいって言われますが」
「そんなわけが――」
バタン、と扉が開く。そこから白い制服を着た男達が入ってきた。歩く姿を見ただけでわかる。
(こいつら…普通じゃない)
隙がないというか、常に警戒してるような印象を受けた。瞳も研がれた剣のように鋭い光を放っていて、今までの俺の経験と勘から察するに、彼らは教会本部の“実働隊"なのだろう。
(つまり、実力は…最初の街で見たあの殲滅隊ぐらい…か)
非人道的な作戦。無慈悲で一方的な殲滅。それを思い出し無意識に体に緊張が走る。隣のマックさんも緊張した面持ちで敬礼した。
「貴方がルト牧師か」
男たちの中でも偉そうな、背の高い男が握手を求めてくる。すかさず立ち上がり彼の前に移動した。
「は、はい…」
「私はアイクラッド・ルドルフ。教会本部からやって参りました。階級は保安官官長、マックの上官に当たります。名前は呼びやすい形でご自由にお呼びください」
「…わかりました」
握手を交わし、どうぞと部屋の椅子を促される。先程と同じ場所に腰を下ろし、テーブルを挟んでルドルフ官長と向き合う。彼の斜め後ろにマックさんが姿勢を正して立っている。
(なんだこの物々しい感じ…落ち着かない…)
出入り口はルドルフ官長と一緒に入ってきた男達が立ち塞がるように立っているし、ただ座っているだけなのに緊張で息が詰まりそうだった。ザクと物理的に離れてるというのも大きいかもしれない。
「さて、ルト牧師、マックからどの程度聞かれましたか」
「あ、えっと…シャール地区で雪崩が起きたというところまでは」
「なるほど、ではその続きをお話します。今回貴方には雪崩の起きたシャール地区に向かってもらいます。…遠征という形で」
「遠征…」
「はい。どうやらその雪崩にとある旅団が巻き込まれたらしく、その様子を調べてきてほしいのです。もちろんあの辺りは治安もそれほど良くないため、我々の精鋭部隊から護衛をつけさせます。安全は保証しますのでご安心ください」
「ちょ、ちょっと待ってください」
驚く、というより動揺していた。
(急に何が起こってるんだ…俺が遠征?ただの牧師に過ぎない俺がどうして遠く離れた土地の調査をしないといけないんだ…)
俺の戸惑いにルドルフ官長は表情を変えず応えた。
「どうかされましたか、ルト牧師」
「ど…どうして…俺が…遠征に指名されたんですか」
大して功績も立ててない俺なんかに何故白羽の矢が立つのだ。凄腕の牧師ならまだしも、俺はただの、呪われた教会(元の話だけど)を担当してる牧師でしかない。選ばれる意味がわからないのだ。
「シャール地区の牧師は今別件で動けません。近隣の牧師も様々な理由を鑑みて遠征は不可能だと本部が判断しました。そこであなたならと話が上がりまして」
(なんだよそれ…また何か面倒くさいことを押し付けられたんじゃないだろうな…)
さすがにそう言えるわけもなく、俺は黙り込む事しかできなかった。それを肯定と受け取ったのか、ルドルフ官長は遠征ついての説明をどんどん進めていく。
「…これで説明は以上です。問題がなければ一週間ほどで終わる遠征なので、それほど構える必要はありません」
「…」
「遠征中は我々が教会を担います。牧師業は休みで構いませんのでそのあたりもご安心を。…ああ、ただし、今回の遠征についてはご家族含めて誰にも他言無用ですので、ご注意ください」
「他言無用…い、一応、聞きたいんですけど、遠征を拒否することって」
「できません」
「…」
やはりか、と肩を落とす。
「そこまで深く考えなくて大丈夫です。実質的な調査はあっちの保安官が行いますから」
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と言えるわけもなく。俺は、不気味すぎる遠征任務を押し付けられてしまうのだった。
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