牧師に飼われた悪魔様

リナ

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第十七章「死を告げる者」

オカルト雑誌

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 =はああ?遠征だと??!=

 猫ザクが、ありえない、と声を荒げる。近くのオープンカフェでカフェオレを飲みながら、簡単に、今回の出張について説明した。

 =こんな細っこい牧師にやらせる遠征ってなんだよ??人員不足なのかケチ性なのか知らねえけどいい加減にしろ?!=

 細っこいは余計だが、珍しくザクのシャウトに同意したくなった。何故俺なのか、訳がわからない。猫ザクはイライラと毛を逆立てながら床で爪を研ぎ始めた(器用だな)。

 =ったく!教会の奴ら何を考えてやがる!=
「俺にもわかんない。ただ…白服が出てくるってことは胡散臭いよな」

(それに、俺の勘でしかないけど、あのルドルフって人…あまりいい印象を受けなかった)

 =んなのやめとけ!行くな!断れ!=
「俺だって断りたいよ…」

 こっちには大人の都合ってものがあるんだ。教会本部は俺の上司のようなものだし命令は絶対だ。

 =いっそ教会なんてやめちまえばいいんじゃね?=
「やめる…そこまでのことじゃないだろ…」
 =……=

 ザクが心配そうに俺の方を見る。

「おや、そこにいるのはルト君ではありませんか」
「!」

 カフェのテーブルに突っ伏すように寝ていた俺は、顔を上げ、声の主を探す。するとカフェの店内から、コーヒーを片手に大量の新聞を抱えたラルクさんが近寄ってくるのが見えた。

「す、すごい量、隣しかないけど…座る?ラルクさん」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」

 椅子に腰掛け、ふうっと息を吐いている。あんだけすごい量の新聞を持っていればそりゃ疲れるだろう。

「ラルクさんもお茶しにきたのか?」
「いえ、私は落ち着いた空間を探してまして」
「ふーん、その新聞を読むため?」
「ええ、早朝新聞でちょっと気になる記事…、事件を見つけたんです」
「事件?まさかまたオカルト系?」
「もちろん。といってもカラドリオスではなく、シャール地区の話なんですが」
「シャール?!」

 びっくりして立ち上がってしまった。俺の慌てた様子にラルクさんも眼鏡を落としかける勢いで驚いている。しかし、こんなタイミングで同じ名前が出てくるものなのだろうか。

「シャール地区がどうされました?」
「あ、いや…」

 守秘義務のせいで何も言えず口ごもると、優雅にコーヒーを飲んでいたラルクさんが、とある記事を、俺に見えるように指差してきた。タイトルを見て目を見開く。

「“ナイトメアが街を襲った"…」
「はい。記事によると、街に現れ悪質なイタズラをしていく集団が現れたとのことでして、それがナイトメア、最近話題のテロ集団が関わってるのではないかと騒がれてます」
「そんな話、カラドリオスの新聞には書かれてなかったよな…?」
「私が読んでいるこれはある業界では有名な“オカルト雑誌”ですから、今回は異例として載りましたが、普通の出版物には書かれていないはずですよ」
「え?」
「どうやら最近の出版物には教会保安の手が入っているようで…。そうですね、大掛かりな情報規制がされている、といえばわかりやすいでしょうか」
「ええっ保安が情報規制?!」
「この街に限らず他の所でもこのようなネタの記事はもみ消されているようです。情報規制の有無はさておき、ナイトメアの活動が本当の事であれば、それはかなり大きな問題になります」
「だよな…普通は注意喚起すべき情報だし、なんで隠してるんだ…」
「単にオカルト系であるネタが面白くない、と教会本部が思っているのかもしれません。しかし、それ以上に問題がありまして、こちらを見てください」

 ラルクさんが記事をもう一度指差した。

「先程はイタズラ、と簡単に説明してしまったので少し詳しく話しますね。ついでに私の見解も、挟ませてもらいます」
「よ、よろしくお願いします」

 新聞を俺達の間に置いた状態で、一呼吸おき、ラルクさんが説明し始めた。

「被害にあった街はシャール地区にあるクアドルカという静かで、とても穏やかな街らしいです。現在の人口は数百人程度ですが、織物の生産が有名でかつてはそれなりに栄えていたそうです」
「そんな街で…ナイトメアが?」
「ええ、ナイトメアらしき集団が現れたのは一ヶ月ほど前、人の良さそうな青年が街を訪れてきて、用があるからと宿屋に何泊かしていったのですが…不思議なことにそれから毎晩…少年少女が急に姿を消していったのです」
「夜に、子供が?!」

 椅子から勢いよく立ち上がる。

(夜に子供が、人が消える…って!!)

 嫌な記憶が蘇ってきた。 


 初の出張で、レインと出会った街。

 あそこでも人が消えた。

 その時、人が消えたのは、レインが従えてる悪魔の仕業だった。


(じゃあ…まさか、これもレインが?)

 さっきラルクさんが話していた“人の良さそうな青年”って…レインのことじゃ…と青ざめる。レイン、という名を思い出しただけで嫌な記憶が、声が脳を埋め尽くしていく。ブルルっと身震いした。

「大丈夫ですか、ルト君」
「…な、なんでもない、大丈夫、続けてください」
「わかりました。あぁ、そうですね…子供たちといっても、時々成人している若い人も消えていったそうですよ」
「そ、そうなんだ…」

 子供がさらわれたと聞いて俺が動揺してると思ったのだろう。ラルクさんがフォローしてくれたが、そのせいでよりレインが怪しくなり、内心頭を抱えるのだった。

(子供だけなら、別件かと思ったけど…そうじゃないならまたレインたちの仕業…?)

 気が重いなんてレベルじゃない。肩を落としすっかり覚めてしまった飲み物を異に流し込む。

「と、それはいいとして。ここまでならただの人攫いかと思われそうですが。おかしなことに…その消えたはずの子供たちが数日後ひょっこり現れるのですよ」
「え…じゃあ、帰ってきたのか?いや、待て、帰ってきたのはバラバラになった状態で…とかそういうオチじゃないよな?!」
「ふふ、どんなホラー小説ですか。ご安心を、皆様五体満足、健康体で帰ってきましたよ」
「そっか、よかった…」

 少しだけ安心した。ほっと胸をなでおろす。

「あれ…?でもおかしいよな…。五体満足で帰ってきてるのなら、どうして、ナイトメアに繋がるんだ?」

 ふと浮かんできた疑問に首を傾げた。コーヒーを持ち上げたままそれをじーっと眺めるラルクさん。

「そうなのです。健康体と言いましたがそれは肉体面の話。帰ってきた者全員の性格が、豹変していたんです。急に暴れだしたり、叫んだり…錯乱状態の子もいたそうで。皆おかしくなっていたんですよ、“精神面"が」
「!!!そんな…どうして…っ」
「なんらかの方法で彼らの精神を破壊したのでしょう。洗脳や恐怖で支配するやり方なら人間にもできますが…あまりにも皆“症状が同じ"過ぎる。故に私は人間の仕業ではないと考えています」
「人間の仕業じゃない…」
「ええ、悪魔やそれに類する存在によって精神破壊をさせたのでしょう」

 そこでラルクさんは言葉を切った。俺はその続きを自ら口にして繋げる。

「それが…ナイトメア、だってこと?」
「…ええ」

 そこまで聞いて俺は、ぐったりと机に突っ伏した。
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