128 / 168
第十七章「死を告げる者」
オカルト雑誌
しおりを挟む
=はああ?遠征だと??!=
猫ザクが、ありえない、と声を荒げる。近くのオープンカフェでカフェオレを飲みながら、簡単に、今回の出張について説明した。
=こんな細っこい牧師にやらせる遠征ってなんだよ??人員不足なのかケチ性なのか知らねえけどいい加減にしろ?!=
細っこいは余計だが、珍しくザクのシャウトに同意したくなった。何故俺なのか、訳がわからない。猫ザクはイライラと毛を逆立てながら床で爪を研ぎ始めた(器用だな)。
=ったく!教会の奴ら何を考えてやがる!=
「俺にもわかんない。ただ…白服が出てくるってことは胡散臭いよな」
(それに、俺の勘でしかないけど、あのルドルフって人…あまりいい印象を受けなかった)
=んなのやめとけ!行くな!断れ!=
「俺だって断りたいよ…」
こっちには大人の都合ってものがあるんだ。教会本部は俺の上司のようなものだし命令は絶対だ。
=いっそ教会なんてやめちまえばいいんじゃね?=
「やめる…そこまでのことじゃないだろ…」
=……=
ザクが心配そうに俺の方を見る。
「おや、そこにいるのはルト君ではありませんか」
「!」
カフェのテーブルに突っ伏すように寝ていた俺は、顔を上げ、声の主を探す。するとカフェの店内から、コーヒーを片手に大量の新聞を抱えたラルクさんが近寄ってくるのが見えた。
「す、すごい量、隣しかないけど…座る?ラルクさん」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
椅子に腰掛け、ふうっと息を吐いている。あんだけすごい量の新聞を持っていればそりゃ疲れるだろう。
「ラルクさんもお茶しにきたのか?」
「いえ、私は落ち着いた空間を探してまして」
「ふーん、その新聞を読むため?」
「ええ、早朝新聞でちょっと気になる記事…、事件を見つけたんです」
「事件?まさかまたオカルト系?」
「もちろん。といってもカラドリオスではなく、シャール地区の話なんですが」
「シャール?!」
びっくりして立ち上がってしまった。俺の慌てた様子にラルクさんも眼鏡を落としかける勢いで驚いている。しかし、こんなタイミングで同じ名前が出てくるものなのだろうか。
「シャール地区がどうされました?」
「あ、いや…」
守秘義務のせいで何も言えず口ごもると、優雅にコーヒーを飲んでいたラルクさんが、とある記事を、俺に見えるように指差してきた。タイトルを見て目を見開く。
「“ナイトメアが街を襲った"…」
「はい。記事によると、街に現れ悪質なイタズラをしていく集団が現れたとのことでして、それがナイトメア、最近話題のテロ集団が関わってるのではないかと騒がれてます」
「そんな話、カラドリオスの新聞には書かれてなかったよな…?」
「私が読んでいるこれはある業界では有名な“オカルト雑誌”ですから、今回は異例として載りましたが、普通の出版物には書かれていないはずですよ」
「え?」
「どうやら最近の出版物には教会保安の手が入っているようで…。そうですね、大掛かりな情報規制がされている、といえばわかりやすいでしょうか」
「ええっ保安が情報規制?!」
「この街に限らず他の所でもこのようなネタの記事はもみ消されているようです。情報規制の有無はさておき、ナイトメアの活動が本当の事であれば、それはかなり大きな問題になります」
「だよな…普通は注意喚起すべき情報だし、なんで隠してるんだ…」
「単にオカルト系であるネタが面白くない、と教会本部が思っているのかもしれません。しかし、それ以上に問題がありまして、こちらを見てください」
ラルクさんが記事をもう一度指差した。
「先程はイタズラ、と簡単に説明してしまったので少し詳しく話しますね。ついでに私の見解も、挟ませてもらいます」
「よ、よろしくお願いします」
新聞を俺達の間に置いた状態で、一呼吸おき、ラルクさんが説明し始めた。
「被害にあった街はシャール地区にあるクアドルカという静かで、とても穏やかな街らしいです。現在の人口は数百人程度ですが、織物の生産が有名でかつてはそれなりに栄えていたそうです」
「そんな街で…ナイトメアが?」
「ええ、ナイトメアらしき集団が現れたのは一ヶ月ほど前、人の良さそうな青年が街を訪れてきて、用があるからと宿屋に何泊かしていったのですが…不思議なことにそれから毎晩…少年少女が急に姿を消していったのです」
「夜に、子供が?!」
椅子から勢いよく立ち上がる。
(夜に子供が、人が消える…って!!)
嫌な記憶が蘇ってきた。
初の出張で、レインと出会った街。
あそこでも人が消えた。
その時、人が消えたのは、レインが従えてる悪魔の仕業だった。
(じゃあ…まさか、これもレインが?)
さっきラルクさんが話していた“人の良さそうな青年”って…レインのことじゃ…と青ざめる。レイン、という名を思い出しただけで嫌な記憶が、声が脳を埋め尽くしていく。ブルルっと身震いした。
「大丈夫ですか、ルト君」
「…な、なんでもない、大丈夫、続けてください」
「わかりました。あぁ、そうですね…子供たちといっても、時々成人している若い人も消えていったそうですよ」
「そ、そうなんだ…」
子供がさらわれたと聞いて俺が動揺してると思ったのだろう。ラルクさんがフォローしてくれたが、そのせいでよりレインが怪しくなり、内心頭を抱えるのだった。
(子供だけなら、別件かと思ったけど…そうじゃないならまたレインたちの仕業…?)
気が重いなんてレベルじゃない。肩を落としすっかり覚めてしまった飲み物を異に流し込む。
「と、それはいいとして。ここまでならただの人攫いかと思われそうですが。おかしなことに…その消えたはずの子供たちが数日後ひょっこり現れるのですよ」
「え…じゃあ、帰ってきたのか?いや、待て、帰ってきたのはバラバラになった状態で…とかそういうオチじゃないよな?!」
「ふふ、どんなホラー小説ですか。ご安心を、皆様五体満足、健康体で帰ってきましたよ」
「そっか、よかった…」
少しだけ安心した。ほっと胸をなでおろす。
「あれ…?でもおかしいよな…。五体満足で帰ってきてるのなら、どうして、ナイトメアに繋がるんだ?」
ふと浮かんできた疑問に首を傾げた。コーヒーを持ち上げたままそれをじーっと眺めるラルクさん。
「そうなのです。健康体と言いましたがそれは肉体面の話。帰ってきた者全員の性格が、豹変していたんです。急に暴れだしたり、叫んだり…錯乱状態の子もいたそうで。皆おかしくなっていたんですよ、“精神面"が」
「!!!そんな…どうして…っ」
「なんらかの方法で彼らの精神を破壊したのでしょう。洗脳や恐怖で支配するやり方なら人間にもできますが…あまりにも皆“症状が同じ"過ぎる。故に私は人間の仕業ではないと考えています」
「人間の仕業じゃない…」
「ええ、悪魔やそれに類する存在によって精神破壊をさせたのでしょう」
そこでラルクさんは言葉を切った。俺はその続きを自ら口にして繋げる。
「それが…ナイトメア、だってこと?」
「…ええ」
そこまで聞いて俺は、ぐったりと机に突っ伏した。
猫ザクが、ありえない、と声を荒げる。近くのオープンカフェでカフェオレを飲みながら、簡単に、今回の出張について説明した。
=こんな細っこい牧師にやらせる遠征ってなんだよ??人員不足なのかケチ性なのか知らねえけどいい加減にしろ?!=
細っこいは余計だが、珍しくザクのシャウトに同意したくなった。何故俺なのか、訳がわからない。猫ザクはイライラと毛を逆立てながら床で爪を研ぎ始めた(器用だな)。
=ったく!教会の奴ら何を考えてやがる!=
「俺にもわかんない。ただ…白服が出てくるってことは胡散臭いよな」
(それに、俺の勘でしかないけど、あのルドルフって人…あまりいい印象を受けなかった)
=んなのやめとけ!行くな!断れ!=
「俺だって断りたいよ…」
こっちには大人の都合ってものがあるんだ。教会本部は俺の上司のようなものだし命令は絶対だ。
=いっそ教会なんてやめちまえばいいんじゃね?=
「やめる…そこまでのことじゃないだろ…」
=……=
ザクが心配そうに俺の方を見る。
「おや、そこにいるのはルト君ではありませんか」
「!」
カフェのテーブルに突っ伏すように寝ていた俺は、顔を上げ、声の主を探す。するとカフェの店内から、コーヒーを片手に大量の新聞を抱えたラルクさんが近寄ってくるのが見えた。
「す、すごい量、隣しかないけど…座る?ラルクさん」
「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて」
椅子に腰掛け、ふうっと息を吐いている。あんだけすごい量の新聞を持っていればそりゃ疲れるだろう。
「ラルクさんもお茶しにきたのか?」
「いえ、私は落ち着いた空間を探してまして」
「ふーん、その新聞を読むため?」
「ええ、早朝新聞でちょっと気になる記事…、事件を見つけたんです」
「事件?まさかまたオカルト系?」
「もちろん。といってもカラドリオスではなく、シャール地区の話なんですが」
「シャール?!」
びっくりして立ち上がってしまった。俺の慌てた様子にラルクさんも眼鏡を落としかける勢いで驚いている。しかし、こんなタイミングで同じ名前が出てくるものなのだろうか。
「シャール地区がどうされました?」
「あ、いや…」
守秘義務のせいで何も言えず口ごもると、優雅にコーヒーを飲んでいたラルクさんが、とある記事を、俺に見えるように指差してきた。タイトルを見て目を見開く。
「“ナイトメアが街を襲った"…」
「はい。記事によると、街に現れ悪質なイタズラをしていく集団が現れたとのことでして、それがナイトメア、最近話題のテロ集団が関わってるのではないかと騒がれてます」
「そんな話、カラドリオスの新聞には書かれてなかったよな…?」
「私が読んでいるこれはある業界では有名な“オカルト雑誌”ですから、今回は異例として載りましたが、普通の出版物には書かれていないはずですよ」
「え?」
「どうやら最近の出版物には教会保安の手が入っているようで…。そうですね、大掛かりな情報規制がされている、といえばわかりやすいでしょうか」
「ええっ保安が情報規制?!」
「この街に限らず他の所でもこのようなネタの記事はもみ消されているようです。情報規制の有無はさておき、ナイトメアの活動が本当の事であれば、それはかなり大きな問題になります」
「だよな…普通は注意喚起すべき情報だし、なんで隠してるんだ…」
「単にオカルト系であるネタが面白くない、と教会本部が思っているのかもしれません。しかし、それ以上に問題がありまして、こちらを見てください」
ラルクさんが記事をもう一度指差した。
「先程はイタズラ、と簡単に説明してしまったので少し詳しく話しますね。ついでに私の見解も、挟ませてもらいます」
「よ、よろしくお願いします」
新聞を俺達の間に置いた状態で、一呼吸おき、ラルクさんが説明し始めた。
「被害にあった街はシャール地区にあるクアドルカという静かで、とても穏やかな街らしいです。現在の人口は数百人程度ですが、織物の生産が有名でかつてはそれなりに栄えていたそうです」
「そんな街で…ナイトメアが?」
「ええ、ナイトメアらしき集団が現れたのは一ヶ月ほど前、人の良さそうな青年が街を訪れてきて、用があるからと宿屋に何泊かしていったのですが…不思議なことにそれから毎晩…少年少女が急に姿を消していったのです」
「夜に、子供が?!」
椅子から勢いよく立ち上がる。
(夜に子供が、人が消える…って!!)
嫌な記憶が蘇ってきた。
初の出張で、レインと出会った街。
あそこでも人が消えた。
その時、人が消えたのは、レインが従えてる悪魔の仕業だった。
(じゃあ…まさか、これもレインが?)
さっきラルクさんが話していた“人の良さそうな青年”って…レインのことじゃ…と青ざめる。レイン、という名を思い出しただけで嫌な記憶が、声が脳を埋め尽くしていく。ブルルっと身震いした。
「大丈夫ですか、ルト君」
「…な、なんでもない、大丈夫、続けてください」
「わかりました。あぁ、そうですね…子供たちといっても、時々成人している若い人も消えていったそうですよ」
「そ、そうなんだ…」
子供がさらわれたと聞いて俺が動揺してると思ったのだろう。ラルクさんがフォローしてくれたが、そのせいでよりレインが怪しくなり、内心頭を抱えるのだった。
(子供だけなら、別件かと思ったけど…そうじゃないならまたレインたちの仕業…?)
気が重いなんてレベルじゃない。肩を落としすっかり覚めてしまった飲み物を異に流し込む。
「と、それはいいとして。ここまでならただの人攫いかと思われそうですが。おかしなことに…その消えたはずの子供たちが数日後ひょっこり現れるのですよ」
「え…じゃあ、帰ってきたのか?いや、待て、帰ってきたのはバラバラになった状態で…とかそういうオチじゃないよな?!」
「ふふ、どんなホラー小説ですか。ご安心を、皆様五体満足、健康体で帰ってきましたよ」
「そっか、よかった…」
少しだけ安心した。ほっと胸をなでおろす。
「あれ…?でもおかしいよな…。五体満足で帰ってきてるのなら、どうして、ナイトメアに繋がるんだ?」
ふと浮かんできた疑問に首を傾げた。コーヒーを持ち上げたままそれをじーっと眺めるラルクさん。
「そうなのです。健康体と言いましたがそれは肉体面の話。帰ってきた者全員の性格が、豹変していたんです。急に暴れだしたり、叫んだり…錯乱状態の子もいたそうで。皆おかしくなっていたんですよ、“精神面"が」
「!!!そんな…どうして…っ」
「なんらかの方法で彼らの精神を破壊したのでしょう。洗脳や恐怖で支配するやり方なら人間にもできますが…あまりにも皆“症状が同じ"過ぎる。故に私は人間の仕業ではないと考えています」
「人間の仕業じゃない…」
「ええ、悪魔やそれに類する存在によって精神破壊をさせたのでしょう」
そこでラルクさんは言葉を切った。俺はその続きを自ら口にして繋げる。
「それが…ナイトメア、だってこと?」
「…ええ」
そこまで聞いて俺は、ぐったりと机に突っ伏した。
0
あなたにおすすめの小説
守り守られ
ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師
患者 瀬咲朔
腸疾患・排泄障害・下肢不自由
看護師
ベテラン山添さん
準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん
木島 尚久 真幌の恋人同棲中
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
最終17位でした!応援ありがとうございます!
あらすじ
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
俺は夜、社長の猫になる
衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。
ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。
言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。
タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。
けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
【BL】捨てられたSubが甘やかされる話
橘スミレ
BL
渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。
もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。
オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。
ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。
特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。
でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。
理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。
そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!
アルファポリス限定で連載中
余命半年の俺を、手酷く振ったはずの元カレ二人が手を組んで逃がしてくれません
ユッキー
BL
半年以内に俺は一人寂しく死ぬ。そんな未来を視た。きっと誰も悲しむ人は居ないだろう。そう思っていたから何も怖くなかった。なのにそんな俺の元に過去手酷く振り、今では世界的スターとなった元カレ二人がやってきた。彼らは全てを知っていた。俺がどうして彼らを振ったのか、そして俺の余命も。
全てを諦めた主人公と、主人公を諦めきれないイケメンサッカー選手とシンガーソングライターの再会が導く未来は?
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる