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十一話
第二の母
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結局、グレイはその一時間後ぐらいに帰ってきて、地下室のベッドで瀕死となっている俺と、その反対側の壁で手錠をかけられニヤニヤしているソル、そしてソルの横で見張りに立つ笑顔のフィンを見て色々察したのか、すぐに霧を出して“寝かしつけ"てくれた。この時は「普通量の霧で」かつ「俺も添い寝してなかった」が、ソルとロウは変に起き出してくれることもなかった。多分ロウが満足していれば今まで通りの流れで眠れるのだ。それがわかっただけでもかなりの収穫だろう。
(やっとこれで…ソル達の一件も解決か…)
俺はソル達が眠るのを見守ってから、フィンの腕の中で気を失うように眠りにつくのだった。
***
翌日。
ピッピッピッピッ
ホイッスルの音と共にアヒルとヒヨコの行進が始まる。途端に、観客席から割れんばかりの歓声と拍手が響き渡った。今日は日曜日なので芝生の丘ステージも満席状態。立ち見ができるほどだった。俺とソルはその一番後ろの列に並び、周囲の客に怯えられながらバードショーを眺める。
「今日は特別ゲスト…いねえんだな」
「…ん」
ソルの呟きに頷いて応え、チラリと盗み見ると、ソルはとても真剣な顔でショーを見ていた。
「ん?」
ふと、俺の視線に気付いたソルがこっちを向く。
ぱっ
即座に俺は前を向いた。
「ったく、まだ怒ってんのかよ」
「…」
「言っとくが、てめえらがオレのベッドでやり倒してたんだからな?こっちは気持ちよく寝てたっつーのに。なんで叩き起こされた被害者側のオレが気遣わなきゃいけねえんだ」
「…わかってるよ」
俺達が悪いのはわかってるし申し訳ないとも思ってるが、昨日あんな姿を見られたのにどんな顔をしたらいいのかさっぱりわからなかった。
(むしろあんたがいつも通り過ぎてこえぇよ…)
俺が居たたまれなさに顔をしかめていると、ソルはくくっと喉で笑った。
「イキ顔の一つや二つ晒したぐらいで照れ屋さんかよ」
「…るせぇ、絶対俺の感性の方が一般的だからな」
聞いてられないと席を立てば少し距離を開けてソルもついてくる。バードショーを後にした俺達は黙ってとある場所へ向かった。
「よう、お二人さん」
ガラスハウスに着くと、入り口に立っていたセツが俺達に気付き近寄ってくる。
「バードショーは見れたか?ベルが大事にしてたショーなんだろ?」
「…ああ、今日も盛況だったよ」
「そりゃ何よりだ。…ハウスの中に入るなら誰も見られていないうちに頼むぜ。この中は今、民間人立ち入り禁止なんだからな」
「うん、わかってる」
セツの横をそそくさと通り過ぎて、俺とソルはハウス内へと踏み入った。
「こっちだな」
ソルがくんくんと匂いを嗅ぎ、ジャングルのような木々の中を我が物顔で進んでいく。噴水の休憩エリアを通過して、ハウスで一番背の高い大木の所まで来た。ここはロウと俺が仲直りした思い出深い場所だが、大木の根本には昨日なかったものがいくつも並べられている。
ピンク色のリボンと、たくさんの花束、そして引っ掻き傷のついた鯖缶。
そう、ここは…ベルの墓地なのだ。
今朝セツから「ベルの遺書が見つかって、ケット・シーと埋めに行く事になった」と連絡があり俺はすぐにソルを叩き起こした。本当なら昨夜のやらかしもあるしこのタイミングでのソルとの二人きりは避けたかったが、フィンやグレイはベルの事を知らないし、昨日ソルだけベルの最後に立ち会えていない為…どうにかして会わせてやりたかった。
スッ…
ソルは道中の花屋で買った花を花束の山に置き、軽く目を瞑る。しばらく黙祷してから口を開いた。
「なんつーか、…第二の母を失った気分だわ」
「…うん」
「何回人生繰り返したらあの領域に行くんだろうなぁ。会ったばかりのオレらを家族同然に扱って、無償の愛?ってゆーの?をくれてさ。オレら天涯孤独組には…ベルママの愛情深さは染みるよなぁ」
「ほんとにな…」
俺達がとっくの昔に失った“家族の愛情”をベルは優しく与えてくれた。それは喜びと共に切なさも生み、今の俺達にしんみりとした空気感を作っている。
「…オレがあんな事言い出さなきゃ、もう少し生きてられたんかねぇ」
「あんな事?」
「“クー”を助ける為に手を貸せって持ちかけた事だよ。オレと狼の野郎だけでつっこめば確実に消防側に被害が出るしオレらも無事ではいられなかった。良い塩梅で立ち回れたのはベルママのフォローあってこそだ」
確かにベルがいなければ状況はもっと酷いものになっていただろう。死者も…出ていたかもしれない。
「おかげでうまく事は進んだが…その代わりにベルママが死んでちゃ意味ねえんだよ…」
「……ベルの最後の言葉に後悔は一つもなかった。きっとベルも満足してくれていると思う」
「…だといいけどよ」
ソルはベルの墓にもう一度頭を下げてからゆっくりと立ち上がった。俺はそこでずっと気になっていた事を尋ねる。
「…そういえばさ、あんたらよく首輪の毒に抗えたよな。クマに使う毒、とかセツ言ってたけど…ハッキングしてやばい毒ってのは知ってたんだろ?よく狼化しようとしたよな…」
「あーまぁー毒の情報はわりと簡単に入手できたんだけどよぉ、問題は首輪の取り方でな…。どう頑張っても首輪の解除には実物の鍵が必要で、しかも解毒剤の入手にもかなりの時間がかかるときた。あのまま籠城してても結局いつかは消防に捕まっちまうし、それなら、今ここで生存率50%の大博打に出てケット・シーを助けに行くのも悪くねえって思ったわけだ」
「生存率50%?!」
けろりととんでもない事を言われ絶句してしまう。
「あの時の狼化ってそんなにヤバイ賭けだったのか??」
「くくっ、そうだぜー?毒の種類にもよるが、基本的に体重に合わせて毒は作られるからな。クマを殺せる毒=人間の体で受けたら確実に死ぬ量だ。ただ、裏を返せばオオカミの体なら受け皿が大きくなる分毒の効果が弱まるって事でもある。狼男としての回復力も込みで考えて、首輪の毒が打ち込まれる前に狼化しきれば存命できるだろ、って判断した」
「でも…狼化する途中で首輪の毒が打ちこまれていたら…」
「そうなりゃ即死だ。運が良くても植物状態だな」
「嘘だろ…」
あんな威勢よく生存率50%の博打に出られるなんてどんな神経してるんだ…と顔を引きつらせる。俺の反応を見たソルはニンマリと笑って得意げに胸を張った。
「オレはこういう時引きがいいんだよ」
「あんたな…」
「くくっ、てのは冗談で、ハッキングした時に首輪の強度や毒の発動条件も洗っといたんだわ。で、それらの情報をギリギリまで解析かけた結果“多分首輪は狼化に耐えうる(その後毒が使用される)”って結論が出たから試す事にしたわけだ」
「数字を信用したってわけか」
「そういうこった。このオレがンな考えなしに特攻するわけねえだろ?」
「…だな、それ聞けて…ちょっと安心した」
「はは、相変わらずのクソお人好しですコト」
ソルはグレイの言い方を真似してニヤリと笑い、来た道を戻り始める。もうベルの人払いはかかっていないので自由にガラスハウスを行き来できる。また一つベルのいなくなった証を見つけてしまい切なくなる。俺もソルもなんとなく落ち込んだままガラスハウスの唯一の出入り口から外に出ると、
「オオカミさんだ!」
「「!」」
元気な子供の声がして、ハッとさせられた。
(今の声…)
見れば、ガラスハウスの入り口に見覚えのある親子が立っていた。一昨日セツと行った団子屋の親子で、
(あの子…ミオだっけ?どうしてあの子がここに…)
しかも今“オオカミさん”って言ったよな…?
信じられない気持ちで見ていると、その横にいたセツがポリポリと頭を掻いた。
(やっとこれで…ソル達の一件も解決か…)
俺はソル達が眠るのを見守ってから、フィンの腕の中で気を失うように眠りにつくのだった。
***
翌日。
ピッピッピッピッ
ホイッスルの音と共にアヒルとヒヨコの行進が始まる。途端に、観客席から割れんばかりの歓声と拍手が響き渡った。今日は日曜日なので芝生の丘ステージも満席状態。立ち見ができるほどだった。俺とソルはその一番後ろの列に並び、周囲の客に怯えられながらバードショーを眺める。
「今日は特別ゲスト…いねえんだな」
「…ん」
ソルの呟きに頷いて応え、チラリと盗み見ると、ソルはとても真剣な顔でショーを見ていた。
「ん?」
ふと、俺の視線に気付いたソルがこっちを向く。
ぱっ
即座に俺は前を向いた。
「ったく、まだ怒ってんのかよ」
「…」
「言っとくが、てめえらがオレのベッドでやり倒してたんだからな?こっちは気持ちよく寝てたっつーのに。なんで叩き起こされた被害者側のオレが気遣わなきゃいけねえんだ」
「…わかってるよ」
俺達が悪いのはわかってるし申し訳ないとも思ってるが、昨日あんな姿を見られたのにどんな顔をしたらいいのかさっぱりわからなかった。
(むしろあんたがいつも通り過ぎてこえぇよ…)
俺が居たたまれなさに顔をしかめていると、ソルはくくっと喉で笑った。
「イキ顔の一つや二つ晒したぐらいで照れ屋さんかよ」
「…るせぇ、絶対俺の感性の方が一般的だからな」
聞いてられないと席を立てば少し距離を開けてソルもついてくる。バードショーを後にした俺達は黙ってとある場所へ向かった。
「よう、お二人さん」
ガラスハウスに着くと、入り口に立っていたセツが俺達に気付き近寄ってくる。
「バードショーは見れたか?ベルが大事にしてたショーなんだろ?」
「…ああ、今日も盛況だったよ」
「そりゃ何よりだ。…ハウスの中に入るなら誰も見られていないうちに頼むぜ。この中は今、民間人立ち入り禁止なんだからな」
「うん、わかってる」
セツの横をそそくさと通り過ぎて、俺とソルはハウス内へと踏み入った。
「こっちだな」
ソルがくんくんと匂いを嗅ぎ、ジャングルのような木々の中を我が物顔で進んでいく。噴水の休憩エリアを通過して、ハウスで一番背の高い大木の所まで来た。ここはロウと俺が仲直りした思い出深い場所だが、大木の根本には昨日なかったものがいくつも並べられている。
ピンク色のリボンと、たくさんの花束、そして引っ掻き傷のついた鯖缶。
そう、ここは…ベルの墓地なのだ。
今朝セツから「ベルの遺書が見つかって、ケット・シーと埋めに行く事になった」と連絡があり俺はすぐにソルを叩き起こした。本当なら昨夜のやらかしもあるしこのタイミングでのソルとの二人きりは避けたかったが、フィンやグレイはベルの事を知らないし、昨日ソルだけベルの最後に立ち会えていない為…どうにかして会わせてやりたかった。
スッ…
ソルは道中の花屋で買った花を花束の山に置き、軽く目を瞑る。しばらく黙祷してから口を開いた。
「なんつーか、…第二の母を失った気分だわ」
「…うん」
「何回人生繰り返したらあの領域に行くんだろうなぁ。会ったばかりのオレらを家族同然に扱って、無償の愛?ってゆーの?をくれてさ。オレら天涯孤独組には…ベルママの愛情深さは染みるよなぁ」
「ほんとにな…」
俺達がとっくの昔に失った“家族の愛情”をベルは優しく与えてくれた。それは喜びと共に切なさも生み、今の俺達にしんみりとした空気感を作っている。
「…オレがあんな事言い出さなきゃ、もう少し生きてられたんかねぇ」
「あんな事?」
「“クー”を助ける為に手を貸せって持ちかけた事だよ。オレと狼の野郎だけでつっこめば確実に消防側に被害が出るしオレらも無事ではいられなかった。良い塩梅で立ち回れたのはベルママのフォローあってこそだ」
確かにベルがいなければ状況はもっと酷いものになっていただろう。死者も…出ていたかもしれない。
「おかげでうまく事は進んだが…その代わりにベルママが死んでちゃ意味ねえんだよ…」
「……ベルの最後の言葉に後悔は一つもなかった。きっとベルも満足してくれていると思う」
「…だといいけどよ」
ソルはベルの墓にもう一度頭を下げてからゆっくりと立ち上がった。俺はそこでずっと気になっていた事を尋ねる。
「…そういえばさ、あんたらよく首輪の毒に抗えたよな。クマに使う毒、とかセツ言ってたけど…ハッキングしてやばい毒ってのは知ってたんだろ?よく狼化しようとしたよな…」
「あーまぁー毒の情報はわりと簡単に入手できたんだけどよぉ、問題は首輪の取り方でな…。どう頑張っても首輪の解除には実物の鍵が必要で、しかも解毒剤の入手にもかなりの時間がかかるときた。あのまま籠城してても結局いつかは消防に捕まっちまうし、それなら、今ここで生存率50%の大博打に出てケット・シーを助けに行くのも悪くねえって思ったわけだ」
「生存率50%?!」
けろりととんでもない事を言われ絶句してしまう。
「あの時の狼化ってそんなにヤバイ賭けだったのか??」
「くくっ、そうだぜー?毒の種類にもよるが、基本的に体重に合わせて毒は作られるからな。クマを殺せる毒=人間の体で受けたら確実に死ぬ量だ。ただ、裏を返せばオオカミの体なら受け皿が大きくなる分毒の効果が弱まるって事でもある。狼男としての回復力も込みで考えて、首輪の毒が打ち込まれる前に狼化しきれば存命できるだろ、って判断した」
「でも…狼化する途中で首輪の毒が打ちこまれていたら…」
「そうなりゃ即死だ。運が良くても植物状態だな」
「嘘だろ…」
あんな威勢よく生存率50%の博打に出られるなんてどんな神経してるんだ…と顔を引きつらせる。俺の反応を見たソルはニンマリと笑って得意げに胸を張った。
「オレはこういう時引きがいいんだよ」
「あんたな…」
「くくっ、てのは冗談で、ハッキングした時に首輪の強度や毒の発動条件も洗っといたんだわ。で、それらの情報をギリギリまで解析かけた結果“多分首輪は狼化に耐えうる(その後毒が使用される)”って結論が出たから試す事にしたわけだ」
「数字を信用したってわけか」
「そういうこった。このオレがンな考えなしに特攻するわけねえだろ?」
「…だな、それ聞けて…ちょっと安心した」
「はは、相変わらずのクソお人好しですコト」
ソルはグレイの言い方を真似してニヤリと笑い、来た道を戻り始める。もうベルの人払いはかかっていないので自由にガラスハウスを行き来できる。また一つベルのいなくなった証を見つけてしまい切なくなる。俺もソルもなんとなく落ち込んだままガラスハウスの唯一の出入り口から外に出ると、
「オオカミさんだ!」
「「!」」
元気な子供の声がして、ハッとさせられた。
(今の声…)
見れば、ガラスハウスの入り口に見覚えのある親子が立っていた。一昨日セツと行った団子屋の親子で、
(あの子…ミオだっけ?どうしてあの子がここに…)
しかも今“オオカミさん”って言ったよな…?
信じられない気持ちで見ていると、その横にいたセツがポリポリと頭を掻いた。
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