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三話
未練
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「いらっしゃい」
商店街の裏道に入り何度か曲がった後、見るからに怪しい占い師のコーナーにたどり着いた。黒い布で覆われた一畳もない空間に椅子が二つ。占い師と客用の椅子だろう。奥に座る占い師の目がキラリと光っていた。
「やあ、グレイさん。今日は変わったの連れてるね」
「まあね。害はないから安心してチョーダイ。入っていいカシラ?」
「もちろん。あんたならいつでも歓迎さ」
占い師が歓迎すると言った瞬間、深い霧が出てくる。俺とフィンが警戒する前で、占い師の後方の壁がぐにゃりと曲がった。
「「!」」
壁だと思っていた所に木の扉が現れる。他の部分は霧でよく見えないがグレイが迷わず進んでいくのでついていった。俺もなかなかこっち系の適応力が上がってきたと思う。
「すげ…!」
中はかなり広い空間が広がっていた。壁を覆うように蔦が生えており、ところどころ鳥が止まっている。しかもその鳥は絵の具をそのまま塗ったような色鮮やかな色をしていた。中心部分には大きな噴水がありまるで屋外のようだが天井はちゃんとあるし床にはテーブルが置かれている。美しい自然を閉じ込めたような店内に言葉を失っていると前方から何かがぶつかってきた。
どん!
「コラー!人間がなんで入ってきてんのよ!人間は立ち入り禁止!!門番は何やってんのよ!!!ムキー!」
「うわ!…子供?」
「誰が子供よ!馬鹿にしないで!あたしはリリイ!ムキー!!!」
リリイと名乗った五歳ぐらいの子供がぽかぽかと殴ってくる。全く痛くないが状況に面食らって後ずさっていく。
「出てけ!人間は出てけー!!」
「人間はって、そっちも人間じゃねえのかよ……あ、ほら、なんか落としたぞ」
必死に腕を振り回す子供のポケットから何かが落ちた。子供用のメガネだった。拾ってかけてやる。
「ひゃ!…あ、あ…!!」
リリイは俺をみて絶句した。
「いっイケメン!!」
「へ?」
「やだ…なによ、優しくしないでよ…よく見たらイケメンだし…困るんですけど…でも人間よ、だめよ、だめなのよ、落ち着いて!だめよリリイ!」
「…」
子供は俺をみて赤面していた。よくわからないが嫌いなのか好きなのかハッキリしてほしい。
(この子供は迷子かなんかか?)
横にいたグレイに「助けてくれ」と視線を送る。グレイは俺達の様子に笑い転げており涙目だった。
「ハイハイ、リリイ。禁断の恋を中断しちゃって悪いけどそろそろ話しかけていいカシラ?」
「あ!グレイ姉様!」
リリイは目を輝かせながらグレイに駆け寄った。グレイはそれを片手で受け止めたあと軽々と肩車する。リリイは高いところが好きなのか嬉しそうに手を叩いていた。
「グレイ姉様、最近来てくれなくて寂しかったのよ!皆も心配してたわ!どうしてたのー?」
「うふふ、最近居候が増えて忙しかったのヨ」
「居候ってあの二人?」
ギロりと子供が睨んでくる。
「ただの人間と…なんか焦げ臭いし炎系の幻獣かしら?」
「まあそんな感じね」
ちょうどいいし紹介しちゃうわ、とグレイが振り向いてきた。
「この子はリリイ。人里に住んでるちょっと変わった人嫌いの妖精よ。幻獣と人間界の通貨を交換したり、珍しいものを売買してくれる…幻獣のコンビニみたいなとこね」
「姉様!コンビニだなんて!人間みたいな下賎な言い方しないでよ~」
「アラ、褒めてるのに」
「妖精?!」
流石の俺でも妖精ぐらいは知っている。虫みたいに小さくて人間の物を盗んだりするやつだろう。こんな可愛らしい子供とはイメージが異なる。
「ぬぬ!?」
リリイが鬼の形相でこちらを見てきた。
「人間!!あんた今バカにしたでしょ!!妖精のこと!!ムカつく!だから人間は嫌いなのよ!!ムキー!」
「はあ…?何いってんだ」
俺が不思議に思っているとグレイが説明に入ってくる。
「ライ。妖精は人の感情に敏感なの。細かい内容はわからなくても喜怒哀楽や誰に向けての感情かは感じ取れる。今のあんたの感情もリリイには筒抜けってことヨ」
「なっ…!」
「そうよ!お見通しよ!」
「別に貶してねえけど…悪かったって」
やけに嫌われてるっぽいし静かにしておこう。グレイが吹き出しそうになりながら肩に乗せたリリイに話しかけた。
「さあ、自己紹介も終わったし。リリイ、今日は換金してもらいたくて来たの。少し時間イイ?」
「換金?ええもちろん!真ん中のテーブルで話しましょ!」
そう言ってリリイがグレイの肩から立ち上がった。背が高いグレイの上にいるので更に高さが出る。しかも何を思ったのかリリイはそのままジャンプしたのだ。
「危ない!」
キャッチしようと腕を伸ばす。
とん!
俺の頭に何かが跳ねた。上をみれば、美しい羽を生やしたリリイが頭上を飛んでいた。透け感のある蝶々の羽を背中に生やしている。まるでティンカー○ルだ。
「ほんとに、妖精…なのか…」
俺が呟いてる間にリリイはふわりとテーブルの椅子に降りていく。
(飛んだ…すげえ…)
あまりの衝撃映像に腕を伸ばしたまま動きを止めてしまう。今は羽が消えてただの子供に戻っていたが、飛んでる姿は本当に妖精そのものだった。美しく神秘的な存在だ。俺と目があったリリイがニヤリと笑う。今度は貶されたと思わなかったらしい。
「で、姉様、換金させたい物をここに並べてもらえる?」
「わかったワ」
テーブルにヴォルドから受け取った宝石や石を並べていく。俺のもらった琥珀色の石は少し離れたところに置いてあった。
「へー結構綺麗ね。純度が高そう。これは100ぐらいかなーこっちのは20で」
リリイは虫眼鏡を使って宝石をじっくりと見ていく。俺の琥珀色の石も手に取ったが興味なさそうにすぐに目を離した。
「ふむふむ、ざっとまとめて…500ぐらいかしら」
「あら、もう少しいくかと思ったけド」
「プラスでのせたいのはやまやまだけど、最近とある噂で流通が滞っちゃってて…手元に用意できないのよ」
「噂って?」
「ドッペルゲンガーの噂よ」
ドッペルゲンガー。そういえばグレイも言ってたな。
「噂ごときで流通が滞るわけないって言いたそうね?人間」
「タダの噂だろ?何が怖いんだ」
「タダの噂ですってー!?自分のそっくりさん、いえドッペルゲンガーに出会ったら死ぬのよ!近づくまでわからないしほぼ即死級じゃない!!死んだらどうすんのよ!!」
「どうせ都市伝説だろ?それに自分たちだってすごい能力持ってるじゃねえか」
飛んだり記憶消したり炎だしたり。人間の俺からするとそっちの方がよっぽどすごいし怖いと思うが。
「あのねえ…幻獣はすごく臆病なの。グレイ姉様やそっちの炎の男みたいに強い能力を持っていたら別だけど。皆が警戒するのも当然の流れ。物流は完全停止状態!お分かり?!!」
「なるほど…」
「リリイはこの店から出たくな…出られないし。他のお客さんに助けを求めようにも来店ゼロじゃどうしようもなくて。本当に困ってた所だったの。でも、ちょうどよかったわ!」
ちょうどよかった、という響きに嫌な予感がした。俺が顔をしかめるより先にリリイが高らかに宣言する。
「てなわけで、ドッペルゲンガーをどうにかしてくれたら500+αにして換金してあげる!だから人間!今から退治してきて!!」
「はあ?!」
「それはいいわネ~!あたしとリリイはここでお茶してるから、あんた達で早めに片付けてきてチョーダイ」
「はああ???(二回目)」
「大丈夫大丈夫!フィンがいればなんとかなるワヨ」
「そういう問題じゃ…!!」
「じゃーねー!人間!!」
文句を言う間もなかった。妖精が手を振った瞬間、俺とフィンの周りに木の枝が伸びてくる。
シュルルル
「うわっ!!」
視界を覆うほどの枝に包まれたかと思えば、突然消えて、視界が開ける。
「!!」
商店街の裏道に戻ってきていた。今までいた幻想的な店の面影はなく、ゴミだらけの暗い裏道だ。フィンと俺はポカンと呆けた後、辺りを見回す。先ほどいたはずの占い師は姿を消していた。
「追い出されてしまったみたいだな…ライ」
「ったく、何がドッペルゲンガーを倒せだ。厄介事押し付けやがって」
「妖精は気まぐれだが約束は必ず守るぞ」
「…金は保証されてるって事か」
「ああ。グレイも待ってることだし言われた通りドッペルゲンガーを倒すのが良いだろう。容易では…なさそうだがな」
あの人混みだ。やみくもに歩いても意味はない。ただ歩くだけでは何も得られないのは目に見えてる。
「そもそもドッペルゲンガーを倒すって目標がふわふわしてるんだよな。ドッペルゲンガーって都市伝説だろ?倒せる実体はあるのか??」
「幻獣の中には姿を変えられるものがいる。近くにいた人間の姿を片っ端から真似て歩き回った結果今回の噂を作ってしまったとすれば…その幻獣を倒せば問題解決となるだろう」
「なるほど。真似てる幻獣を探せばいいんだな」
流石詳しい。さっきよりは目標がしっかりした気がする。
(にしても化けてる状態をどうやって見極めるか)
倒すより探すことの方が難しそうだ。
「…とりあえず表通りに戻るか」
「そうしよう」
一時間後…
「はあ、ハア、ぜんっぜん見つからねえ!!」
幻獣らしき存在を必死に探してるが人を避けながら歩くので精一杯だった。人を観察するどころではない。
「ライ、すまない…気持ち悪くなってきた…」
「どこかで休むか。待ってろ」
比較的人通りが少ない店が視界に入り、そこまで連れていく。フランチャイズの家具屋らしい。様々な家具が置かれている。
「ライ、これは座ってもいいのだろうか」
フィンが店頭に展示されているソファベッドを指差した。座ってお確かめください、と書いてある。値段が高いため誰も座ろうとしないようだ。
「少しなら大丈夫だろ。何か言われたら事情を話すから」
「すまない…」
フィンは深く腰掛けたあと深呼吸を繰り返した。相当人混みでやられたらしい。
(こんな人混みの中で歩くことはなかっただろうし…耐性がないんだな)
背中をさすってやる。
「ライに情けない姿を見せてしまったな…」
「人混みは誰だってきついだろ。それに今座ったこのソファベッド、結構良くないか?控室に置くのにさ」
「確かに」
フィンが腰かけるまで忘れていたが本来の目的はこっちだ。俺とフィンの健やかな関係のための寝具探し。短い休憩の時は座って利用できるしサイズも問題ない。もうこれでいいだろう。
「ギリ予算以内だし第一候補にしとこうぜ」
「ああ、わかった。一緒に寝られなくなるのは寂しいが…ライが必要というんだから仕方ないな…」
「全然納得してねえ顔で言うな」
「だって…」
「俺はなし崩し的な形で関係を深めたくねえんだよ。ちゃんと相手を大切にした上で好きになりたい」
「…ライ」
「なんだよ、文句あるか」
「ライは意外にロマンチストなんだな」
「うるせえ!」
そんなことを話していたら喉が乾いてきた。色々後回しにしていたが長期戦になりそうだし水分補給しておこう。
「俺なんか飲み物買ってくるわ。ちょっと待っててくれ」
「え、ライ?!」
「すぐ戻る」
立ち上がろうとしたフィンの肩を掴み押し戻す。それから自販機を探しに人混みのなかに戻った。
「あったあった」
少し進むと店と店の間のところに自販機が置かれていた。ズボンのポケットには小銭がいくつか入っている。ズボンをまさぐった時にグレイが入れたんだろう。なかなか手癖が悪い。内心文句を言いつつありがたく使わせてもらった。水とスポーツ飲料を購入する。
ガタタン、ゴトン
固い音と共にペットボトルが落ちてきた。それを拾ったあと来た道の方を確認する。ここから人混みの流れを割いて進むのは大変だが行くしかない。
「よし…」
そう意気込んだ時だった。
ひらり
目の前を見慣れた顔が横切っていく。心臓が止まるかと思った。俺はその顔をとっさに目で追いかける。大量の顔の中にいてもすぐにわかった。
「真人…!」
考えるより先に体が動いていた。
「真人!真人っ」
先ほどのゲーセン近くで見かけた真人に似た人物は本物だったのだ。
(なんでこんな所に真人がいるんだよ!?)
人混み嫌いの真人がわざわざ「一人」で「用もなく」商店街にくるとは思えない。ひょっとして俺を探してくれてたりするのだろうか。仕事をやめ家を失い…失踪した俺を心配してくれてるのでは?
「…馬鹿か俺は」
静かに吐き捨てる。都合のいいように考えてしまう自分にイライラした。真人が俺を探すなんてあるわけない。真人は俺のことを捨てた…新人を選んだのだ。捨てた存在をわざわざ苦労して探すわけがない。ありえない願望を抱いてしまう弱すぎる自分に吐き気がした。
「くそっ…!!」
それでも俺は真人を追いかけていた。もう訳がわからない。わからないが…ここで見失ったら二度と会えない気がして縋るように追いかけた。
「ーー真人っ!!」
「!」
真人の腕を掴む。振り向いた真人と目があった。それだけでドキリと胸が高鳴る。また会えたという喜びに震える体に、内心舌打ちした。
「はあ、はあっ…真人、どうしてここに…!」
「えっと…誰だっけ?」
「!!」
真人がとぼけた顔で見てくる。
(誰だ?だって?)
何を言われるのかと色々覚悟していたがまさか「誰だ」と言われるとは思わなかった。あまりのことに放心してしまう。掴んでいた腕は指からスルリと抜けていく。
「…俺とはもう、…話したくもねえってか…」
項垂れてぼそりと呟けば真人が顔を近付けてくる。
「なに?聞こえないって」
「…」
「おーい。聞いてる?用がないならもう行くけど」
あくまで俺のことは知らないという体でいきたいらしい。真人はさっさと背を向け去っていく。
「っ…!!」
どんどん小さくなる背中にすがりそうになった。
(だめだ、ここで追いかけても傷つくだけだ…!)
頭ではわかっていても体は真人を追いかけようと必死だった。もう吹っ切れたと思っていたのに心は真人と会えたことで喜んでいる。俺が躊躇っていると真人が振り返って戻ってきた。
「はあ、…こっちきて」
「?!」
手を掴まれた。俺のよく知る真人の手だ。
(この手は…真人だ)
何もかも俺が知ってるままの姿。疑う余地はなかった。でもどうして戻ってきたのだろうか。
「そんな顔されたら置いてけないでしょ」
「真人…」
「ほらおいで」
一緒に行こうと腕を引かれ…俺は断ることができなかった。
商店街の裏道に入り何度か曲がった後、見るからに怪しい占い師のコーナーにたどり着いた。黒い布で覆われた一畳もない空間に椅子が二つ。占い師と客用の椅子だろう。奥に座る占い師の目がキラリと光っていた。
「やあ、グレイさん。今日は変わったの連れてるね」
「まあね。害はないから安心してチョーダイ。入っていいカシラ?」
「もちろん。あんたならいつでも歓迎さ」
占い師が歓迎すると言った瞬間、深い霧が出てくる。俺とフィンが警戒する前で、占い師の後方の壁がぐにゃりと曲がった。
「「!」」
壁だと思っていた所に木の扉が現れる。他の部分は霧でよく見えないがグレイが迷わず進んでいくのでついていった。俺もなかなかこっち系の適応力が上がってきたと思う。
「すげ…!」
中はかなり広い空間が広がっていた。壁を覆うように蔦が生えており、ところどころ鳥が止まっている。しかもその鳥は絵の具をそのまま塗ったような色鮮やかな色をしていた。中心部分には大きな噴水がありまるで屋外のようだが天井はちゃんとあるし床にはテーブルが置かれている。美しい自然を閉じ込めたような店内に言葉を失っていると前方から何かがぶつかってきた。
どん!
「コラー!人間がなんで入ってきてんのよ!人間は立ち入り禁止!!門番は何やってんのよ!!!ムキー!」
「うわ!…子供?」
「誰が子供よ!馬鹿にしないで!あたしはリリイ!ムキー!!!」
リリイと名乗った五歳ぐらいの子供がぽかぽかと殴ってくる。全く痛くないが状況に面食らって後ずさっていく。
「出てけ!人間は出てけー!!」
「人間はって、そっちも人間じゃねえのかよ……あ、ほら、なんか落としたぞ」
必死に腕を振り回す子供のポケットから何かが落ちた。子供用のメガネだった。拾ってかけてやる。
「ひゃ!…あ、あ…!!」
リリイは俺をみて絶句した。
「いっイケメン!!」
「へ?」
「やだ…なによ、優しくしないでよ…よく見たらイケメンだし…困るんですけど…でも人間よ、だめよ、だめなのよ、落ち着いて!だめよリリイ!」
「…」
子供は俺をみて赤面していた。よくわからないが嫌いなのか好きなのかハッキリしてほしい。
(この子供は迷子かなんかか?)
横にいたグレイに「助けてくれ」と視線を送る。グレイは俺達の様子に笑い転げており涙目だった。
「ハイハイ、リリイ。禁断の恋を中断しちゃって悪いけどそろそろ話しかけていいカシラ?」
「あ!グレイ姉様!」
リリイは目を輝かせながらグレイに駆け寄った。グレイはそれを片手で受け止めたあと軽々と肩車する。リリイは高いところが好きなのか嬉しそうに手を叩いていた。
「グレイ姉様、最近来てくれなくて寂しかったのよ!皆も心配してたわ!どうしてたのー?」
「うふふ、最近居候が増えて忙しかったのヨ」
「居候ってあの二人?」
ギロりと子供が睨んでくる。
「ただの人間と…なんか焦げ臭いし炎系の幻獣かしら?」
「まあそんな感じね」
ちょうどいいし紹介しちゃうわ、とグレイが振り向いてきた。
「この子はリリイ。人里に住んでるちょっと変わった人嫌いの妖精よ。幻獣と人間界の通貨を交換したり、珍しいものを売買してくれる…幻獣のコンビニみたいなとこね」
「姉様!コンビニだなんて!人間みたいな下賎な言い方しないでよ~」
「アラ、褒めてるのに」
「妖精?!」
流石の俺でも妖精ぐらいは知っている。虫みたいに小さくて人間の物を盗んだりするやつだろう。こんな可愛らしい子供とはイメージが異なる。
「ぬぬ!?」
リリイが鬼の形相でこちらを見てきた。
「人間!!あんた今バカにしたでしょ!!妖精のこと!!ムカつく!だから人間は嫌いなのよ!!ムキー!」
「はあ…?何いってんだ」
俺が不思議に思っているとグレイが説明に入ってくる。
「ライ。妖精は人の感情に敏感なの。細かい内容はわからなくても喜怒哀楽や誰に向けての感情かは感じ取れる。今のあんたの感情もリリイには筒抜けってことヨ」
「なっ…!」
「そうよ!お見通しよ!」
「別に貶してねえけど…悪かったって」
やけに嫌われてるっぽいし静かにしておこう。グレイが吹き出しそうになりながら肩に乗せたリリイに話しかけた。
「さあ、自己紹介も終わったし。リリイ、今日は換金してもらいたくて来たの。少し時間イイ?」
「換金?ええもちろん!真ん中のテーブルで話しましょ!」
そう言ってリリイがグレイの肩から立ち上がった。背が高いグレイの上にいるので更に高さが出る。しかも何を思ったのかリリイはそのままジャンプしたのだ。
「危ない!」
キャッチしようと腕を伸ばす。
とん!
俺の頭に何かが跳ねた。上をみれば、美しい羽を生やしたリリイが頭上を飛んでいた。透け感のある蝶々の羽を背中に生やしている。まるでティンカー○ルだ。
「ほんとに、妖精…なのか…」
俺が呟いてる間にリリイはふわりとテーブルの椅子に降りていく。
(飛んだ…すげえ…)
あまりの衝撃映像に腕を伸ばしたまま動きを止めてしまう。今は羽が消えてただの子供に戻っていたが、飛んでる姿は本当に妖精そのものだった。美しく神秘的な存在だ。俺と目があったリリイがニヤリと笑う。今度は貶されたと思わなかったらしい。
「で、姉様、換金させたい物をここに並べてもらえる?」
「わかったワ」
テーブルにヴォルドから受け取った宝石や石を並べていく。俺のもらった琥珀色の石は少し離れたところに置いてあった。
「へー結構綺麗ね。純度が高そう。これは100ぐらいかなーこっちのは20で」
リリイは虫眼鏡を使って宝石をじっくりと見ていく。俺の琥珀色の石も手に取ったが興味なさそうにすぐに目を離した。
「ふむふむ、ざっとまとめて…500ぐらいかしら」
「あら、もう少しいくかと思ったけド」
「プラスでのせたいのはやまやまだけど、最近とある噂で流通が滞っちゃってて…手元に用意できないのよ」
「噂って?」
「ドッペルゲンガーの噂よ」
ドッペルゲンガー。そういえばグレイも言ってたな。
「噂ごときで流通が滞るわけないって言いたそうね?人間」
「タダの噂だろ?何が怖いんだ」
「タダの噂ですってー!?自分のそっくりさん、いえドッペルゲンガーに出会ったら死ぬのよ!近づくまでわからないしほぼ即死級じゃない!!死んだらどうすんのよ!!」
「どうせ都市伝説だろ?それに自分たちだってすごい能力持ってるじゃねえか」
飛んだり記憶消したり炎だしたり。人間の俺からするとそっちの方がよっぽどすごいし怖いと思うが。
「あのねえ…幻獣はすごく臆病なの。グレイ姉様やそっちの炎の男みたいに強い能力を持っていたら別だけど。皆が警戒するのも当然の流れ。物流は完全停止状態!お分かり?!!」
「なるほど…」
「リリイはこの店から出たくな…出られないし。他のお客さんに助けを求めようにも来店ゼロじゃどうしようもなくて。本当に困ってた所だったの。でも、ちょうどよかったわ!」
ちょうどよかった、という響きに嫌な予感がした。俺が顔をしかめるより先にリリイが高らかに宣言する。
「てなわけで、ドッペルゲンガーをどうにかしてくれたら500+αにして換金してあげる!だから人間!今から退治してきて!!」
「はあ?!」
「それはいいわネ~!あたしとリリイはここでお茶してるから、あんた達で早めに片付けてきてチョーダイ」
「はああ???(二回目)」
「大丈夫大丈夫!フィンがいればなんとかなるワヨ」
「そういう問題じゃ…!!」
「じゃーねー!人間!!」
文句を言う間もなかった。妖精が手を振った瞬間、俺とフィンの周りに木の枝が伸びてくる。
シュルルル
「うわっ!!」
視界を覆うほどの枝に包まれたかと思えば、突然消えて、視界が開ける。
「!!」
商店街の裏道に戻ってきていた。今までいた幻想的な店の面影はなく、ゴミだらけの暗い裏道だ。フィンと俺はポカンと呆けた後、辺りを見回す。先ほどいたはずの占い師は姿を消していた。
「追い出されてしまったみたいだな…ライ」
「ったく、何がドッペルゲンガーを倒せだ。厄介事押し付けやがって」
「妖精は気まぐれだが約束は必ず守るぞ」
「…金は保証されてるって事か」
「ああ。グレイも待ってることだし言われた通りドッペルゲンガーを倒すのが良いだろう。容易では…なさそうだがな」
あの人混みだ。やみくもに歩いても意味はない。ただ歩くだけでは何も得られないのは目に見えてる。
「そもそもドッペルゲンガーを倒すって目標がふわふわしてるんだよな。ドッペルゲンガーって都市伝説だろ?倒せる実体はあるのか??」
「幻獣の中には姿を変えられるものがいる。近くにいた人間の姿を片っ端から真似て歩き回った結果今回の噂を作ってしまったとすれば…その幻獣を倒せば問題解決となるだろう」
「なるほど。真似てる幻獣を探せばいいんだな」
流石詳しい。さっきよりは目標がしっかりした気がする。
(にしても化けてる状態をどうやって見極めるか)
倒すより探すことの方が難しそうだ。
「…とりあえず表通りに戻るか」
「そうしよう」
一時間後…
「はあ、ハア、ぜんっぜん見つからねえ!!」
幻獣らしき存在を必死に探してるが人を避けながら歩くので精一杯だった。人を観察するどころではない。
「ライ、すまない…気持ち悪くなってきた…」
「どこかで休むか。待ってろ」
比較的人通りが少ない店が視界に入り、そこまで連れていく。フランチャイズの家具屋らしい。様々な家具が置かれている。
「ライ、これは座ってもいいのだろうか」
フィンが店頭に展示されているソファベッドを指差した。座ってお確かめください、と書いてある。値段が高いため誰も座ろうとしないようだ。
「少しなら大丈夫だろ。何か言われたら事情を話すから」
「すまない…」
フィンは深く腰掛けたあと深呼吸を繰り返した。相当人混みでやられたらしい。
(こんな人混みの中で歩くことはなかっただろうし…耐性がないんだな)
背中をさすってやる。
「ライに情けない姿を見せてしまったな…」
「人混みは誰だってきついだろ。それに今座ったこのソファベッド、結構良くないか?控室に置くのにさ」
「確かに」
フィンが腰かけるまで忘れていたが本来の目的はこっちだ。俺とフィンの健やかな関係のための寝具探し。短い休憩の時は座って利用できるしサイズも問題ない。もうこれでいいだろう。
「ギリ予算以内だし第一候補にしとこうぜ」
「ああ、わかった。一緒に寝られなくなるのは寂しいが…ライが必要というんだから仕方ないな…」
「全然納得してねえ顔で言うな」
「だって…」
「俺はなし崩し的な形で関係を深めたくねえんだよ。ちゃんと相手を大切にした上で好きになりたい」
「…ライ」
「なんだよ、文句あるか」
「ライは意外にロマンチストなんだな」
「うるせえ!」
そんなことを話していたら喉が乾いてきた。色々後回しにしていたが長期戦になりそうだし水分補給しておこう。
「俺なんか飲み物買ってくるわ。ちょっと待っててくれ」
「え、ライ?!」
「すぐ戻る」
立ち上がろうとしたフィンの肩を掴み押し戻す。それから自販機を探しに人混みのなかに戻った。
「あったあった」
少し進むと店と店の間のところに自販機が置かれていた。ズボンのポケットには小銭がいくつか入っている。ズボンをまさぐった時にグレイが入れたんだろう。なかなか手癖が悪い。内心文句を言いつつありがたく使わせてもらった。水とスポーツ飲料を購入する。
ガタタン、ゴトン
固い音と共にペットボトルが落ちてきた。それを拾ったあと来た道の方を確認する。ここから人混みの流れを割いて進むのは大変だが行くしかない。
「よし…」
そう意気込んだ時だった。
ひらり
目の前を見慣れた顔が横切っていく。心臓が止まるかと思った。俺はその顔をとっさに目で追いかける。大量の顔の中にいてもすぐにわかった。
「真人…!」
考えるより先に体が動いていた。
「真人!真人っ」
先ほどのゲーセン近くで見かけた真人に似た人物は本物だったのだ。
(なんでこんな所に真人がいるんだよ!?)
人混み嫌いの真人がわざわざ「一人」で「用もなく」商店街にくるとは思えない。ひょっとして俺を探してくれてたりするのだろうか。仕事をやめ家を失い…失踪した俺を心配してくれてるのでは?
「…馬鹿か俺は」
静かに吐き捨てる。都合のいいように考えてしまう自分にイライラした。真人が俺を探すなんてあるわけない。真人は俺のことを捨てた…新人を選んだのだ。捨てた存在をわざわざ苦労して探すわけがない。ありえない願望を抱いてしまう弱すぎる自分に吐き気がした。
「くそっ…!!」
それでも俺は真人を追いかけていた。もう訳がわからない。わからないが…ここで見失ったら二度と会えない気がして縋るように追いかけた。
「ーー真人っ!!」
「!」
真人の腕を掴む。振り向いた真人と目があった。それだけでドキリと胸が高鳴る。また会えたという喜びに震える体に、内心舌打ちした。
「はあ、はあっ…真人、どうしてここに…!」
「えっと…誰だっけ?」
「!!」
真人がとぼけた顔で見てくる。
(誰だ?だって?)
何を言われるのかと色々覚悟していたがまさか「誰だ」と言われるとは思わなかった。あまりのことに放心してしまう。掴んでいた腕は指からスルリと抜けていく。
「…俺とはもう、…話したくもねえってか…」
項垂れてぼそりと呟けば真人が顔を近付けてくる。
「なに?聞こえないって」
「…」
「おーい。聞いてる?用がないならもう行くけど」
あくまで俺のことは知らないという体でいきたいらしい。真人はさっさと背を向け去っていく。
「っ…!!」
どんどん小さくなる背中にすがりそうになった。
(だめだ、ここで追いかけても傷つくだけだ…!)
頭ではわかっていても体は真人を追いかけようと必死だった。もう吹っ切れたと思っていたのに心は真人と会えたことで喜んでいる。俺が躊躇っていると真人が振り返って戻ってきた。
「はあ、…こっちきて」
「?!」
手を掴まれた。俺のよく知る真人の手だ。
(この手は…真人だ)
何もかも俺が知ってるままの姿。疑う余地はなかった。でもどうして戻ってきたのだろうか。
「そんな顔されたら置いてけないでしょ」
「真人…」
「ほらおいで」
一緒に行こうと腕を引かれ…俺は断ることができなかった。
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居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
こわがりオメガは溺愛アルファ様と毎日おいかけっこ♡
なお
BL
政略結婚(?)したアルファの旦那様をこわがってるオメガ。
あまり近付かないようにしようと逃げ回っている。発情期も結婚してから来ないし、番になってない。このままじゃ離婚になるかもしれない…。
♡♡♡
恐いけど、きっと旦那様のことは好いてるのかな?なオメガ受けちゃん。ちゃんとアルファ旦那攻め様に甘々どろどろに溺愛されて、たまに垣間見えるアルファの執着も楽しめるように書きたいところだけ書くみたいになるかもしれないのでストーリーは面白くないかもです!!!ごめんなさい!!!
相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~
柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】
人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。
その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。
完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。
ところがある日。
篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。
「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」
一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。
いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。
合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)
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