ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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九話

これからのコト

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「二人とも落ち着けって」

 フィンの胸板を押し、今にも殴りかかりそうな体を下がらせた。

「しかし、ライ」
「確かにユウキは色々やらかした。後輩…シュウの思惑に踊らされたとしても酷い事をやったと思う。でも、そんな敵視したら反省のしようがない。話ぐらいは聞いてやってくれ」
「…ライはそれでいいのか」
「ああ。俺とユウキの間ではケジメはつけてる。だから俺の為に怒らなくていい」
「……」

「えへへ、そうだよ~!俺ら仲直りしたもんね~!」

 がしっ

 後ろからユウキに抱きつかれ体がギクリと固まる。ユウキの匂いに包まれるとあの時刻まれた従属が顔を出す。
 (体が動かない…)
 引き剥がす事も暴れる事もできず呆然としてると

「ライ!」

 固まってしまった俺を見てフィンはすぐに引き剥がしてくれた。

「あーあ、取られちゃった」

 ユウキが残念そうな顔をして笑う。フィンは俺を背に隠しながらユウキに強い怒りを向けた。

「それで、秘伝羽織がどうとか言ってた話はよかったノ?」

 一触即発の険悪な雰囲気の中、グレイが助け舟を出してくれた。ユウキが「そうだった」と手を鳴らす。

「秘伝羽織!あの時ライに預けたままだったから回収しに来たんだ!ね、ライ、持ってる??」
「ああ…もちろん」

 ベッド横の棚から畳んで保管しておいた羽織を取り出す。

「よかったーこれ回収できなかったらマジで親父に殺されてた」

 ユウキは確認するように広げてから…何を思ったのか俺の肩にかけてきた。軽く羽織を叩くとぽふんと音を立てて

「!」

 目線がぐっと低くなる。まさかと手を広げ確認すればユウキの高校の制服が目に入る。
 (また学生姿になったのか…)
 背丈の感じ、多分俺のまま幼くされてる。

「うんうん、問題なく発動するね」

 ユウキが満足げに頷いている。動作確認はわかるが「なんでわざわざこの姿にする必要がある…」とげんなりしてるとおおーと周りから歓声が上がった。

「すげえ!こんな風にやってたのか!」

 ソルが近くに寄ってきた。当たり前だが見上げる形になる。ソルは幼い俺を見てニヤリと笑った。

「クソガキ姿もなかなか似合ってんぜ、ライ」
「全く嬉しくねえ」
「くくっ!おい、狐ヶ崎ユウキ!これは外側だけてめえの力で変えてんのか?」
「そうだよ~正しくは俺じゃなくて羽織の力ね」
「どんな姿にも変えられるのか??てめえみたいに化物になれんのか?」
「ううん、人間以外は狐一族じゃないと無理。でも人間の形ならショタでも老人でも…女の子にだって変えられるよ」
「マジかーーー!!」

 鼻息を荒くして詰め寄ってくる。それに恐怖を感じ後退りかけた所をユウキとソルに腕を掴まれた。

「は?!おいっ…」

 ソルがヒソヒソと耳打ちすると、ユウキはニヤリと笑って俺の肩を叩く。

 ぽふん

「?!」

 目線が戻り、服装はスーツになっていた。体感では普段とそこまで変わらないが、俺を囲む二人は目の色を変えて…食い入るように見てくる。

「うわー!ライ格好いい!大人っぽい!てかエローい!」
「色気半端ねえな。やべえー見てるだけで勃ちそ…」
「は…?ちょっお前ら近い!」
「なんかこのライなら抱かれたいかも…いや!やっぱ抱きたいっ!エロ格好いいライを泣かしたい!十年後のライたまらな~い!!!」
「くくっ、やっと気づいたかクソガキ。年を重ねねえと出せない色気があんだよ。それに年上のふんぞり返ってる奴を泣かすのも最高に楽しいんだぜ」
「勉強になります!先輩!」

 二人は謎に結束感を強め、肩を組みながら悪い顔をしていた。

「よーし、じゃあ次!女体化やってみろ!」
「先輩!任せてください!」

「はあ?!!おいっ、ばかっ!やめっ!」

「――コラ、やめなさい」

 落ち着いたトーンの声が響く。悪巧みするように群がっていた二人はギクリと体を固め、背後を見た。壁に背を預けていたはずのグレイがいつの間にか二人の背後に聳え立ち、穏やかな笑みと共に見下ろしてる。…その目は一切笑っていない。

「 ライが嫌がってるのが見えないの? 」

「「ひい!」」

 ドスのきいた声が響き、二人は飛び上がるようして床に正座した。まるで十日前の襲撃時のような恐ろしい雰囲気を纏ったグレイに震え上がる。

「ユウキくん、あまりうちの子達をからかわないで。今回の事であたしも反省させられた側だから、すでに起きた事に対して、あなたを責める立場にないわ。でもね、これから起きる事は別。この先またライを困らせるのなら…いくら平和主義のあたしでも、容赦しないわよ」

 “容赦しない”

 その言葉は高校襲撃で十分すぎる程の説得力を得てる。ユウキは珍しく焦りを前面に出し取り乱す。

「待って!待ってー!店長さん!!俺はあなたと喧嘩しに来たわけじゃなくて…っ!」

 オオオ…

 ユウキが弁明する間も、周囲には薄く霧が漂ってきた。まだ朝で外も晴れてるというのに室内はどんどん暗くなっていく。それを見たユウキは青ざめて叫ぶように言った。

「タンマタンマ!聞いてお願い!!お願いしますッ!!大事な話があるんです…!あなたのお店!スナックおとぎについての大事な話があるんです――っ!」
「…え?」

 お店と言われた瞬間、グレイはスウッと目を細めた。

「お店は現在、内装外装全て修理を終えて元通りになってます!今はうちが管理してますが、もし店長さんが嫌でなければあの店をもう一度あなたにお任せしたいなと思ってましてっ」
「…どういう事?あたしは狐ヶ崎組にとって結構大変な事をやらかしたはずよ」

 狐ヶ崎のまさかの提案にグレイの瞳は大きく揺れ動く。あんな事があったし…てっきり治療が終わり次第狐ヶ崎の領地から追い出されるのかと思っていたが。
 (もう一度グレイがあの店で働けるのか…?)
 ユウキは全員に見えるように力強く頷いて見せた。

「親父の意向です。あなたがやりたいと願う間は任せたいと。その代わりあなたの霧は例の“副業”以外では使わないようにと。シマの外では勝手にしていいそうですが…。ちょっとあれは危険すぎるのでなるべく使わない方が良いと個人的には思ってます…」
「…霧を取り上げるだけでいいの?」
「はい、親父が良いと言ったので、親父の決定は組としての決定です。文句はありません。ちなみに店の修理費やここでの治療費は今回ご迷惑をおかけしたので全てうちが持ちます。店長さんには何の負担もかからない状態で引き継ぎますから、ご安心ください」
「それはまぁ…至れり尽くせりね…」

 グレイは突然降って沸いた話にどうしたらいいのかと戸惑いを隠せずにいる。普通であれば金をむしり取られてもおかしくないレベルの騒動を起こした。正しくは起こさせられた…のだが。どちらにせよ、こうも美味しい話があっていいのだろうか。

「オレは反対だぜ」

 ふと、ソルが口を挟んできた。まだ正座は続けてるが、その表情は冷静そのものだった。

「わざわざ面倒を起こした場所で店構えなくてもいいだろ。今回の事でオレらを快く思わねえ奴も出てきただろうし、金だけもらって別の場所で店開いた方がどう考えてもいいに決まってる」
「ソル…」
「もちろん組としてはそれでも構いません。金でも場所でも、損のないよう手配しますので」

 “店長さんの好きな方を選んでください”

 そう言われて更に難しい顔をして考え込むグレイ。今回の事でグレイ一派は各方面から目を付けられた。あそこで店を続ければ様々なリスクが付きまとう。危害が加えられる可能性もゼロじゃない。ソルの言う通り金を受け取って狐ヶ崎のシマから離れるのが最善策だろう。
 (だけど…)

「あそこは、あんたにとって特別な場所なんじゃねえの?」

 俺の言葉にグレイがはっと顔を上げる。グレイには多くの常連客がついてる。あんな歓楽街の奥まった場所じゃなく表通りの利益が出やすい場所に移動すれば、もっと効率よく稼ぐことだってできるはずだ。なのに、あえて不便な場所で営業し続けたのは…きっとその場所や店に思い入れがあるから。
 (それこそ…初恋の人絡みとか…)
 流石にそれは言えない為、口をつぐみ俯いてると

「ふふ…」

 グレイは小さく笑った。チラリと見れば、さっきまでの殺気だった様子が嘘のように優しい笑みを浮かべていた。

「あんたに言われると説得力が違うわね」

 そう言って微笑まれる。俺ではない誰かに向けたその微笑みに、胸がぎゅっと締め付けられる。

「そう…そうよ、あたしはあそこが良い。あそこじゃないとダメなの」

 呟くように言った後、俺の目の前にやってきた。肩を掴まれる。

「グレイ…」
「人生には刺激がないと…どんどんボケちゃうからね。きっとしばらくは大変でしょうけど、これくらい張り合いがある方がちょうどいいわ」
「腹刺されて刺激的で済ますのはあんたぐらいだと思うが」
「ふふ、ミステリアスで素敵デショ。ねえ、ライはどうする?これからも一緒に手伝ってくれるノ?」

 前に店に誘われた時は、俺の意見なんてほとんどないようなものだった。グレイの強引さに乗っかる形で、生きる為に必要だったから手を伸ばしたに過ぎない。でも…今は違う。自分に判断を託してもらえてる。目の前の個性豊かな男達の中身を知った上で自分で選べるのだ。

 (俺は…)

「…ああ、俺もやるよ。あんたが無茶しないように見ててやる」

 俺はここがいい。刺激的で、でも実は優しいコイツらがいる場所で生きたい。軽く笑いながら包帯の上をなぞってやると、点滴のないほう方の腕でぎゅうっと抱きしめられた。

「決まりネ!じゃあ、ユウキくん、そういう事だから…またやらせてもらえるカシラ」
「はい、もちろんです。お店の事でいくつか渡す書類があるので、後で下の者に持って来させますね」
「ありがとう、改めてよろしくネ。今度お父様にも会いに行くワ」
「お待ちしてます。きっと親父も喜びます」

 二人は握手をして頷き合う。ソルは呆れ顔で「勝手にしやがれ」とぼやきベッドに転がりにいった。どうやらグレイもソルも大分ユウキに対しての警戒が解けたようだ。
 (グレイは店、ソルは羽織で距離を縮めたか…)
 流石ユウキ。メンタルの強さもあるが立ち回るのが上手い。感心しているとふとユウキが俺の方を見てきた。

「店長さん、ライを雇うという事ですが」
「アラ、何か問題でモ?」
「いえ…お店の事は全て店長さんにお任せするので従業員の采配に口は出しません。ただ、ライにとってより良い環境を作る為に、俺から一つ、条件をつけさせてください」

 和らぎ始めた空気が再びピリッとひりつく。

「…どんな条件カシラ?」

 いくらなんでも大盤振る舞いすぎると思えばやはり来たか。グレイが警戒するように腕を組む。ユウキはそれを解すようにニコニコと人懐っこい笑みを浮かべた。

「条件は簡単です、ライを週一で買わせてください」

「「「!?」」」

 凍りつく。その場にいた全員が言葉を失った。

「買うって言っても変な意味じゃないですよ。家庭教師として一日貸して欲しいんです」
「家庭教師…?」
「はい、卒業までの間は全科目を対象に教えてもらおうかなと。卒業したら喧嘩の指南でも面白そうですが…とにかく週一で店から連れ出させてください」
「失礼を承知で言わせてもらうけど、前科がありすぎるあなたに預けようとは思えないワヨ…?」
「わかってます。なので、家庭教師中は必ず柴沢か山田を同伴させます。絶対に二人きりにはさせません。自分の事なのにさせませんって変な言い方ですけど。ああ、お店にはライが不在分のお金を支払いますし、ライにもちゃんと家庭教師代を渡します。誰も損をしないよう配慮しますから」
「損はないって、…あなたが二倍払うことになる事は損じゃないノ?毎週やってたら結構良い額になるし…お父様が許してくれるとは思えないワ」
「大丈夫です。俺の自腹なんで文句は言わせません」
「アラまぁ…すごい熱意だコト。どうしちゃったノ??」
「俺はずっと、ライとお店のパワーバランスが良くないと思ってました。住み込みで逃げ場もなく、金も住む場所も全てを握られた状態。しかも店の中に恋人がいるんだから、私生活すら支配されてるレベルだ」

 ユウキは真剣な表情で訴えてくる。そこにからかう様子はなく、純粋な心配の色がうかがえた。

「内々的な組織は自制心を失いやすい。それは支配する側される側両方に言える事です。店の為に我慢を強いられたり、上手くやろうとするうちに自分の意に反した事をやるようになる。…温泉旅行の事がちょうどいい例だ」

 ユウキの言葉にグレイとソル、フィンも考え込むような表情をした。

「本当はライがうちのマンションに住んでくれたら一番なんですけど…絶対嫌がるのがわかってるんで。だから週に一度だけ外に逃がす、何か無理強いをされても通報できる場所・人との関りを作る。これが妥協案かなと」
「ちょっと待ってくれ。俺はそんな告げ口みたいな事しねえし、必要も」

 言葉の途中で、グレイの手によって制止された。

「彼の言う事は一理あるワ。あたし達、ライの事が大好きだから…暴走しかけるかもしれない。そんな時、ライが狐ヶ崎と繋がってる…そう意識できるだけで牽制になる。効果があると思うワ」
「でも…」
「そうだよ、ライ。店の風通しをよくすれば誰も不要なトラブルを起こさなくなる。店全体の為になるんだ。ライが健やかに過ごす為にも…考えてみてくれないかな?」
「…ユウキ」

 二人の言葉で、文句を飲み込まされる。俺は迷いに迷った後絞り出すように言った。

「あの屋敷でやるのか…?」

 あそこは嫌な思い出が多すぎる、というかトラウマだらけで勉強どころじゃない。ユウキは俺の言いたいことがわかったのか苦笑を浮かべた。

「大丈夫、屋敷ではやらないよ。組のマンションを使う。そこも嫌だったらカフェとかカラオケとか、人のいる所でやろう。とにかくライが嫌がる事はしないから」
「…」
「あ、お金が気になるなら二倍払ってもいいよ。山田もすごく会いたがってたし、きっとライが家庭教師してくれたらめちゃくちゃ喜ぶよ」
「…はあ」

 言いくるめるように立て続けに言われ、俺はため息を吐いた。

「…ユウキ、約束忘れてねえだろうな」

 欺くな、という約束。ユウキは「もちろん」と力強く頷いてくる。

「覚えてる。誓って言うけど、家庭教師中は絶対手を出さない。指一本振れないよ。これはライが店で過ごしやすくする為の話だし…俺の願望が入る余地はない。ちゃんと弁えてる」

 強い意志を宿した栗色の瞳が「この言葉は絶対嘘にはしない」と告げていた。教室で約束した時と全く同じ真剣さだった。これなら大丈夫だと思えた。

「…ならわかった。家庭教師受けてや――」

「ダメだ」

「!」

 ずっと黙っていたフィンが唸るように言った。

「奴とライを週一で会わせるだと?…しかも一日中?ありえない。考えるだけで腸が煮えくり返りそうだ」
「フィン…」
「フィン、ちょっと落ち着きなさい。気持ちはわかるケド、あたし達は少し距離が近すぎるワ。ライだけ一人人間だし、外部の空気を入れるべきってのはあたしも同感」
「だとしても、奴である必要はない。もっとやり方は他にも…」

「じゃあ時雨さんを呼んでみる?」

 ユウキが暗い目をして笑う。

 ぴくり

 体が反応する。あの目はユウキの隣で過ごしていた時に何度も見た。ユウキの感情が表に出てきた時の目。
 (ユウキがイラついてる…)

「あんたら化物揃いを牽制できる一般人なんているわけないでしょ?だったらヤクザに頼むしかない。週一で通える距離のヤクザで、事情を把握してるのは時雨さんぐらいだ」
「…」
「きっとあの人ならライを可愛がってくれるだろうね。俺より刺激的な事を求められて、もしかしたら帰されない日もあるかもしれないなぁ。あーこわいこわい」

 悪い顔をして笑うユウキ。それをフィンは冷たい顔で睨みつけた。

「いい加減にしろよ、恋人サマ。余裕がねえのがバレバレだぜぇ?」

 ソルがベッドでスマホを弄りなから加勢してくる。

「ライはやるっつったんだ。横からごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ、みっともねえ。…やらかしてる自覚があるからそんなに不安になるんだぜ?」
「…」
「それにな、てめえの習性の事だってフェアじゃねえだろうが。ライにとっちゃ我慢させられっぱなし。てめえはその間浮気し放題。こんな無茶を受け入れさせといて、週一家庭教師やらせるのは渋るって、ケツの穴が小さすぎだぜ」
「…」
「つーわけで、てめえもちったー我慢しな、くくっ」

 そこまで言って再びスマホへと視線を戻す。フィンは静かに拳を握りしめ床を睨みつけた。不死身からくる習性は…フィンのせいではない。なのにまるでフィン本人が悪いのだと責められる状況は可哀想に思えた。

 すっ

 フィンの手をとり、両手で握りしめる。

「フィン、俺やっぱ家庭教師は止めとく。あんたを不安にはさせたくねえし…」
「…ライ」
「だからそんな顔すんなよ、な?」

 俺にとって今一番優先すべきなのはフィンだ。その為なら俺が少し窮屈に思うことぐらいどうってことない。ソルやグレイが暴走した所で自分でやり返せばいい話なのだし。
 (俺が弱いだけだってのに…皆大げさなんだよ)

 ぎゅっ

 フィンが強く握り返してくる。その表情は…苦しげなままだった。

「フィン…?」
「こういう事なんだろうな」

 ボソッと短く呟き、深いため息を吐く。

「…わかった。週一で貸し出すのを許そう」
「!」

 苦渋の判断、といった感じで恨めしそうに言った。

「…その代わり私も同伴する。これは絶対に守ってもらう。のめなければこの話は無しだ」
「えー?柴沢も山田もいるのに?」
「その者達がいてもいなくても関係ない。私がお前を見張る」
「はあー…じゃあ、せめて勉強中は席外してくれる?隣の部屋か廊下でもいいからどっか行ってて。あんたがべったりじゃ本来の目的を果たせない。俺が言ってる意味わかるよね?」
「ああ、密室にならないのなら許す。その代わりライが嫌がる素振りを見せたり、お前が妙な動きを見せたらすぐに連れ帰る。そして二度とお前とは会わせない」
「はーーめんどくさぁ」

 ユウキはガシガシと勢いよく頭を掻いた。面倒くさそうにしてるが、この辺りで手を打つしかないと察したのか「もうそれでいいよ」と呟いた。

「じゃあそれで。ごちゃごちゃ揉めたくないから文書でも契約書を作るから。契約を結んだらもうグチグチ文句言わないでね」
「そちらこそ」

 バチバチと睨み合った後、ユウキは、廊下から顔を出しずっとハラハラと見守っていた下っぱを呼びつけた。指示を受けた下っぱはすぐに廊下へと姿を消す。

「さてと、書類を持ってきてもらうまで一時間ぐらいあるから、ゲームでもする?ナンジャムンジャ持ってきたよ」

 じゃじゃーん、とユウキがカードゲームを掲げた。

「狐ヶ崎ユウキ」

 フィンがピリピリと怒りを滲ませながらユウキの正面に対峙する。ユウキはフィンの剝き出しの敵意に「はいはい」と苦笑した。

「本題の後は次はそっちね」
「…ここでは迷惑になる。出るぞ」
「わかってるよ」

 二人はそのまま出ていってしまった。慌てて追いかけようとしたらグレイに止められる。

「放っときなサイ」
「なんでだよ!絶対あれ殴り合いになるぞ!」
「いいのヨ。先に今後の話を取り付けたんだから二人とも理性は欠いてないワ。殺し合いに発展しないのなら好きにやらせとけばいいノ」
「んな事言って万が一」
「ユウキくんだってそれなりの覚悟をして恋人のいるあんたに手を出したんでしょうし、負い目を感じる必要はないワヨ。さ、あたし達はこれで遊んでまショ~」

 グレイはぽんぽんと肩を叩きユウキが置いていったカードを手にもった。

「ナンジャムンジャって言ってたけど何かしらこれ…やり方知らないのだけど…あんた知ってル?ソル」
「あぁ?んなのも知らねえのか、名前つけんだよ」
「へぇ、あら、なかなか特徴的な見た目ネ」
「ちょっとてめえに似てんな…イッデェ!」
「誰がこんなに細長いですってー!」
「そっくりじゃねえか、うわ馬鹿!その勢いで抉られたら死ぬわ!!」

 カードをベッドに広げ楽しそうに騒ぐ二人。それを見て、ふと、聞こうと思っていた事を思い出した。

「なあ、あんたらに聞きたいことがあるんだけど」
「アア?」
「なーに~?」
「俺がいない時に…フィンの奴、時雨に殺されたんだよな」
「アラ、それも聞いたのネ」
「ああ。で、その時さ…フィンに…おかしな様子はなかったか?」
「「?」」

 二人とも俺の質問に首を傾げている。

「おかしな…というかずっとおかしかったぜ。シュウにべったりでキモかったし、言動も結構変わってた。別人みたいだったぜぇ」
「ええ、でも雛の習性の範囲内だと思うワ。特別おかしな事はなかったと思ったけど…それがどうかしたノ?」
「…いや、何もないならいいんだ」

 俺の答えに怪訝な顔をしてくる。変な空気になってしまったのを誤魔化すように俺もベッドに近づきカードを拾い上げた。

「カード、俺がきるわ」

 散らばっていたカードを拾い上げ無心で切っていく。

 “お前とフェニックスに関わる大事な話だ"

 脳内でとある男の声が木霊した。大雨の中囁かれた時雨の不穏な言葉。それはずっと俺の中で重くのしかかり続けていた。

 “不死鳥は生き返る度に記憶を失っていく"

 “ただの単語の時もあれば、思い出の一つ、運が悪ければ…知り合いの存在を丸ごと忘れてしまう事もある"

 “龍矢いわく、脳の再構成時に起きるデータ移行のエラーらしい。だから…奴と少しでも長く愛し合いたいなら、なるべく殺すな"

 時雨はそう言って立ち去った。

 (なるべく…殺すな、か)

 切り終えたカードを三人の中心に置き、順番を決める為にじゃんけんをする。

 (時雨が嘘をついてないのなら、フィンは生き返る度に何かを忘れていく事になる)

 今回は“フィン”として大きな変化は起きない些細なものが対象だったみたいだが、次はどうかわからない。そう考えた瞬間、もう一つの声が頭で響き始める。

 “ライ…愛してる、…"

 フィンと抱き合えたあの日。意識を溶かしながら言われた囁きだ。それには続きがあった。

 “ずっと、愛してる…、ずっと…私があり続けるまで…"

 ずっと。
 あり続けるまで。

 とんだ矛盾だなと、思った。









 ***


 ドカッ!!

「っ…!」

 病院の駐車場の隅で二人の男が立っていた。片方は殴り付けられ病院の壁に派手に体をぶつけ倒れ込む。

「はは…気は、晴れた?」
「晴れるわけがないだろう。ここでお前を殺せたらどれだけよかったか…人間社会の複雑さが憎い」
「はは、社会性に救われるなんてヤクザ失格だね」
「誰がヤクザだ。お前はまだヤクザではないだろう。そもそも目指してるかも不明だったのではないか?」
「…気が変わったんだよ」

 ヤクザではないと指摘されたユウキは、血の混じった唾を吐き、荒々しく口元を拭った。

「ライを守る為には力がいる。俺だけじゃ、あんたや他の面倒な奴から守ることはできないって…今回のヘブンで痛感させられた」
「だから血を利用すると」
「そうだよ。誰にも文句を言わせないような力をつけてみせる。だからあんたも精々それまで楽しんどきなよ。十年後、俺が拐いにいくからさ」
「…言ってろ」

 フィンが冷たい表情のまま背を向けた。その背中にユウキは声をかけた。

「今回のヘブンさー、六島が一人で仕掛けたみたいになってるけど、その裏には時雨や龍神組の協力があったはずなんだよねー」

 フィンは足を止めない。それでもユウキは続けた。

「狐ヶ崎と龍神組はそれなりに仲良くやってるけど、仲が悪い奴らも多い。ヘブンを使って龍神組が俺達を疲弊させようとしたってのも動機としては不自然さはない。六島も、ライへの執着心があったみたいだし巻き込もうとしたのも理解できる。でもさ、…おかしいんだよね」

 おかしい、と言った瞬間、フィンの足がぴたりと止まった。

「龍神組や六島は、俺…狐ヶ崎ユウキがライに特別な気持ちを抱いてる事は知らない。知りえないはずだ。事が起きるまでは狐ヶ崎でも限られた人しか知らなかったんだから」
「…」
「なのに俺の想いをうまく利用して六島はあんた達を分断させた。つまり、龍神組に俺の事をバラした奴がいるんだよ。ねえ、…それって誰だろうね?」

 龍神組と関わりがあって、狐ヶ崎ユウキの想い人を知ってる人間。そう指摘すると、フィンは首だけで振り返り、

「さあ?誰だろうな」

 淡く微笑えむ。そしてすぐに首を戻し歩き出す。一人残されたユウキは自分に言い聞かせるように言った。

「俺は…見てるからね」















 <そう。上々だね。引き続き頼んだよ。ああ、領収書?じゃあ…龍矢って書いといて。うん、そろそろこっちも動くから、よろしくね>


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