ヤンデレ不死鳥の恩返し

リナ

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十話

町内会議

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「ご馳走様でした~!じゃあ、ライ達、お大事に~!また来るねー」

 昼食をとったユウキ達は大人しく帰り支度をした。店の前まで見送ってやると「あ」とユウキだけが振り返って近寄ってくる。

「大事な事言い忘れてた。ライ、今週は祭りがあるから家庭教師は無しだよ」
「そっか、シマ内の祭りだし狐ヶ崎も忙しいか」
「うん、鈴凪祭りの運営体制はしっかりしててほとんどやる事ないんだけど、一応目を光らせておくのが恒例になってるみたいで、ま、この辺りってお世辞にも治安が良いとは言えないし仕方ないね」
「わかった、そっちも頑張れよ」
「ありがとう。はあ~記念すべき初回の家庭教師が延期…幸先悪いなぁ」
「一週間なんてあっという間だって」
「ぶー!学生の一週間はすげー長いんだから~!」

 ぷんぷんと怒りつつユウキは車に入っていった。そうして車は三人を乗せ走り出し、角を曲がり見えなくなる。
 (嵐のようだったな…)
 店に戻るとフィンが皿を棚に戻していた。

「フィン、皿ありがと」
「いや…奴らは帰ったか」
「うん。ユウキが今週は家庭教師は無しだって言ってたぜ」
「それは何よりだ。奴とはなるべく関わりたくない」
「…」

 (さっきよりはマシだけど、やっぱ怒ってんな…)
 フィンは龍矢に追われている身だ。龍矢は龍神組と組んでいると見て間違いないし、そうなると俺とフィンでは到底渡り合えない。俺は俺で後輩(シュウ)に恨まれているし、もし仮に二人で駆け落ちしようものなら平和とは無縁の逃亡生活が始まるだろう。グレイと狐ヶ崎の保護下に入る事が現状では一番お互いの幸せを叶えられる。そうわかってるからこそフィンも“ユウキとの共存”を受け入れたのだ。この通り怒りは抱き続けたままだが。
 (…そっとしておこう…)
 フィンから視線を外し、買い出しメモでも書くか…と冷蔵庫横の棚に近づくと

 プルルル

「!」

 店の固定電話が鳴った。フィンと顔を見合わせた後、近くにいた俺が受話器を取った。

「もしもし」
 <…あぁ、グレイさんとこのスタッフさんかぃ?>

 男の嗄れた声が聞こえた。かなり高齢なのか「えーっと」と繰り返して必死に話す内容を思い出してる。それを気長に待っているとやっと男は話し出した。

 <昨日連絡のあった町内会議の日時だけどねぇ、ごめんね、グレイさん閉店してるって聞いてて連絡し忘れてたんだ、うんうん。…で、えっと、そうそう…日時ね、今日の十六時、鈴凪神社でやるから…えーっと、よろしくね、うん>
「わかりました。十六時に鈴凪神社ですね、伝えておきます」
 <うんうん、あぁ、パトロールの方もよろしくねぇ、それじゃあね、うん>

 そういって切られた。十六時。なんとも微妙な時間に設定されたものだと思ってるとフィンが「誰からだ?」と近づいてきた。電話の内容を伝えると考え込むように腕を組んだ。

「フィン?」
「いや…昨日グレイは私が起きる頃…早朝に帰ってきてな」
「そっか、つじつま合わせが立て込んでるんだもんな。じゃあ、町内会議は俺が行ってくるよ」
「!」
「病み上がりで無茶させたくねえし、あんたは祭りに備えた大々的なパトロールが夕方からあるだろ?十六時じゃちょうどかぶっちまうし。他に動けるとしたらソルだけど…あいつもグレイと同じタイミングで寝てるだろうからさ」
「しかし…鈴凪神社は何かと物騒だ。あそこにライを一人では行かせたくない…」
「物騒って言っても、昼間だろ?大丈夫だって」

 昼間の出歩きまで心配されたら何もできない。これでは本当に“か弱い乙女”だ。モヤモヤする気持ちをぐっと堪え「昼間なら人目もあるし滅多な事は起きないはずだ」と冷静に返した。

「…わかった」

 フィンは納得のいってない顔で渋々引いていく。なんだかんだグレイを無茶させたくないというのは共通認識のようで安心したが、なんとなく気まずい空気に包まれた俺達は互いのやるべき事をこなして忘れておくことにした。

 そうこうしているうちにあっという間に時間は過ぎ、出掛ける時間になる。

「ライ、何かあれば連絡するんだぞ。絶対に危ない事には顔を突っ込まない事。誰かが困っていても通報するか人を呼ぶんだ。わかったか?」
「わかってるって、もう何度目だよ」

 三歳児のおつかいじゃないんだ、一度言われたらわかる。過剰なほどの心配を少し鬱陶しく感じながらもはいはいと頷いた。それでもフィンは心配なのか真剣な顔で詰め寄ってくる。

「電話がむりならめっせーじでもいい。とにかく一人で抱えないように…」
「ちゃんとわかってるから、ほら遅刻するぞ」

 説教モードになりそうなフィンの背中を押してメイン通りへ向かわせた。フィンは何度も振り返り心配そうに見てくるがそれに手を振って応えてやればしゅんと肩を落とした。その弱弱しい背中を見てると追いかけてハグしてやりたくなったが、あいにくそんな時間はない。…帰ったらすぐにハグしてやろう。そう結論付け小走りで神社へと向かった。


 ***


 鈴凪神社に着くとチラホラと年配の人達が立っていた。皆祭りの法被を着ていて、顔見知り同士会話に花を咲かせているようだ。知り合いのいない俺はそれらを素通りして社の前に移動した。するとしわしわで腰の曲がった老人(80代ぐらいか…?)と神主の孫の鳴海が立っていて声をかけられる。

「あ!ライさん!」
「鳴海、昨日ぶり。そっか、神社が会場ならあんたも出席になるよな」
「はい~親父もばっちゃんも祭りの準備で出れないんでヒキニートの俺が代わりに~」
「ヒキニートって…ま、知り合いがいてよかったわ。そういや、昨日はあれから異常はなかったか?」
「はいっす!悲鳴も通報もなく平和に眠れました!やっぱり歓楽街の騒ぎ声と間違えたみたいっすね~!」
「…ならよかった」

 (神隠しなんてやっぱりありえねえよな)
 悲鳴のことはまだ若干引っ掛かるが…歓楽街の騒ぎを聞き間違えたと言い聞かせておくとする。

「おや、やけに若い男の人だねぇ。どこかの代理で来てくれたのかぃ?」

 しわしわの老人が白く濁りかけた目でこちらを見てくる。すかさず鳴海が大きめの声で答えた。

鷲野わしのさん!この人はグレイさんとこのスタッフさんですよ~~ライさんです!」
「へえ、あいさんって言うのかい?やけに可愛い名前だね」
「ライさんです~~~!!ライ~~!!」
「ああ、ライさんね、うんうん、何度もごめんね」

 かなりの大声で言われてやっと聞こえたのか、鷲野が懐から名簿をとりだし、震える手で丸を描いていく。

「えーっと、うん、これで揃ったね。じゃあ、そろそろ始めようか、うん」

 鷲野の言葉を待っていたのか神社に散らばっていた人が集まってくる。大体三十人ぐらいで、ぱっと見、平均年齢は六十を超えそうだ。俺と鳴海だけが若くて浮いてる。

「皆さーん、こっちっすよ~」

 会議は昨日俺とフィンが通された社務所の一室でやるらしい。鳴海が冴えない足取りで案内していく。俺は下座のほとんど廊下にはみ出た場所で正座した。ちょうど角に当たる所で薄暗かったが、でかくて邪魔になるだけの俺はここが最適だと思った。
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