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不死鳥シリーズ
★「出会う順番が違っていれば」バレンタイン ユウキ編🦊
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※「出会う順番が違っていれば」シリーズ🦊
※本編→バレンタイン(今回)→おまけ→???(今回)
※狐ヶ崎組から脱走したくなったライさんのお話
※明るく始まるけど、ちゃんとBADEND
狐ヶ崎組に入れられてから約一カ月。
俺は“ヤクザの世界”でずっと、家事をしていた。
それはもうずっと、家事に…追われていた。
意味がわからないと思うが聞いて欲しい。
一日の流れを簡単に説明すると…早朝起床→朝ご飯作る→ユウキと食べる→玄関まで見送る→ユウキの部屋を掃除して洗濯回す→待ってる間に水回りの掃除する→洗濯物干す→必要であれば柴沢と買い出しに行く→昼ご飯と一緒に夕飯の支度もする→ちょっと自由時間→ユウキが帰ってきたら出迎える→一緒に夕飯食べる→風呂入る→ユウキの部屋で勉強を見たり雑談する→自室に戻って寝る…
「って、俺はユウキの嫁か??!!!!」
流石にこれはツッコまずにいられないだろう。
なんでこんな三十路近い男が学生の為に専業主夫をしないといけないのか。そりゃ生きていられるだけありがたいが、狐ヶ崎組にはいくらでも世話人を任せられる人間がいるし、狐ヶ崎に縛られるのは俺の意思にも反している。
(自由以外のほぼ全てが手に入る状況だから人によっては天国かもしれないけど)
終わりの見えない軟禁生活は俺にとって苦痛でしかない。
「よし、脱走しよう」
俺は前々から考えていた“狐ヶ崎(ユウキ)からの脱走"を決意するのだった。
***
下見もかねて玄関に行くと下っ端の構成員が立っていた。俺の姿を捉えると構成員は「なんでここにいる」と睨んできた。
「お前は坊ちゃんの部屋に戻れ」
別に俺は一日中ユウキの部屋で過ごしているわけではないのだが、他の奴らからはそう見えているのだろう。更に惨めさに襲われるが、ここで目立つわけにはいかないのですぐに屋敷に戻った。ついでに屋敷の外側をぐるりと一周してみる。
「…この屋敷って広いわりに出入り口少ねえんだよな」
出入り口は表と裏の二つのみ。防犯上、導線を絞りたいのかもしれないが、こういう時に困るから止めてほしい。…ああ、俺みたいな脱走を防ぐ為でもあるのか、と妙な悟りを得ながらキッチンに戻る。今の時間はキッチン付近には誰もいないので聞き耳を立てられる心配はない。ブツブツと独り言をしながら整理する。
「表は構成員が二人いて厳しいし、出入口を使うなら裏しかない…。一番楽で確実なのは柴沢さんと買い出しに行ってる間に逃げる案だけど、それじゃ柴沢さんに迷惑かかる…」
狐ヶ崎の唯一の良心である柴沢には迷惑をかけられない。この一か月で何度も相談に乗ってもらったし、ずっと心の支えになってくれた柴沢に、恩を仇で返すわけにはいかない。
「…やっぱり裏から出よう」
歩いていく姿が防犯カメラに映ってしまうしすぐに追っ手は来るだろうが、掃除している風で扉に近づけば今すぐに止められる事はない。屋敷から出てしまえばこっちのものだ。走るなりタクシーを拾うなりして交番に逃げ込もう。
「いや…交番もずっとは保護してもらえねえだろうし…、外に出た瞬間捕まるよな…」
俺は屋敷から脱出した後、どこへ逃げたらいいのだろう。
「…まあ、ひとまずセツを頼るか」
そこまで導きだしたところで俺は裏口に向かった。いつものように掃除道具を持ってゆっくりと歩き、そして近くに誰もいないのを確認してから裏口の鍵を開ける。
ガチャン
拍子抜けするほどあっさりと、屋敷から出られてしまった。一瞬、呆けかけて、すぐに我に返る。ここからは時間との勝負だ。俺は小走りで裏の竹を抜けて駐車場のある場所まで行った。ここまではユウキと歩いた事があるので知っている。そしてその先の道路を道なりに下りていけば町に戻れる事も、その時確認していた。
「よし…」
***
一時間以上かかったが、追っ手に捕まる事なく下山できた。
「…すげえ」
久しぶりの単独での町歩きは泣けるほど嬉しかった。このまま元の生活に戻れたらと願わずにいられないが…移動しないと話にならないので俺は変装用の服を買うべくすぐ横の商業施設に寄った。普段は選ばない服や目深にかぶれる帽子を入手して施設から退出しようとした時、ふと…一階の催事コーナーが目に入る。
「バレンタインイベント…そっか、世間はバレンタインか」
ずっと狐ヶ崎の屋敷で同じこと(家事)を繰り返しているので季節感覚がなくなっていたが、世の中はバレンタイン一色だった。チョコやお菓子がずらりと並べられる催事コーナーは華やかさがあり、ついつい引き寄せられてしまう。
「今年はカヌレが流行ってたのか…」
「そうみたいだね~」
「!!!」
親しげに声をかけられ、ギクリとする。恐る恐る振り返ると、学生服のユウキと柴沢が催事コーナーの外で立っていた。
(い、いつの間に…?!)
慌てて左右を確認するが、見た事のあるスーツ姿の男達が要所要所に立っており、逃げた先で捕まる“完全に詰み”な配置だとすぐさま悟った。俺が顔を真っ青にしながら正面に顔を戻すと、ユウキは怒った様子もなくニコニコと笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「もーライってばこんな所で何してんのさー」
「…っ」
「庭で迷子になった…にしては遠出しすぎだし、プチ家出ってことにしとく?それもそれで笑えるけど」
「ゆ、ユウキ…」
「そんなに怯えた顔しないで。別に怒ってないし、柴沢にずっと張らせてたからどっちにしろライは逃げられなかったよ」
「!!」
やけにすんなり逃げられたと思ったが、まさか後ろに見張りがついていたなんて。とんだ脱走ごっこである。
「全然…気付かなかった…」
「あはは、柴沢のスニークスキルを舐めちゃダメだよ~俺だって気付けないんだから」
「…」
「それで? ライ、俺に言いたい事はあるかな~?」
ユウキが上目遣いで見つめてくる。んー?と首を傾げる姿は幼さが残ってる事も相まって可愛いが、今の俺には悪魔にしか見えなかった。
「ライ?」
「……いや、…その、勝手に屋敷から出て…悪かった」
「家出はもうしない?」
「ああ、もう…二度としない」
「ふっふっふ、よろしい」
ユウキは俺の誓いを聞いて満面の笑みを浮かべる。パチンと軽く手を合わせるのを合図に商業施設に張られていた構成員が姿を消した。
「ま、そろそろライも嫌になってくる頃合いだと思ってたし驚きはないよ」
「…」
「少し気分転換したかったんだよね」
ユウキの言葉に視線だけで応えた。確かに朝から晩までヤクザの屋敷で過ごし、常に見張りがつく生活は気が滅入る。だがそれよりも「ここを出たら」「前の生活なら」という希望が胸をかすめる方がキツかった。そういう面では「もう逃げられない」と諦められたのは大きい。今後はもっと見張りが厳しくなるだろうし、裏口も見張りが立つようになる。
(…もう俺一人では逃げられない)
協力者も…スマホを奪われている以上外部に助けを求められないから、現れることはない。
“どうあっても無理だ”
そう諦めた瞬間、なんだか一つ、俺の胸をつかえていたものが取れて、心が軽くなった気がする。代わりに何か大切なものを失った気がするが…あまり深く考えると落ち込みそうなので今は考えないでおく。
「ねえねえ、ライ、熱心にバレンタインコーナー見てたけど、そんなに甘い物たべたかったの? 言ってくれたら買って帰ったのに」
「…いや、食いたいっつーか…」
なんとなく目に入っただけだし深い意味はない。強いて言えば“外への憧れ"に吸い寄せられていたのかもしれないが、俺が言い淀むのを見てユウキはにししと笑った。
「わかったぞ!俺にチョコを作る為に下見してくれてたんでしょ!」
「ちげえわ」
「え~~? そこはうんって可愛く言っときなよ~そしたら家出したお仕置き軽くしてあげるのに~~」
「は…? お仕置きって…冗談だろ?」
「あはは、残念だけど冗談じゃないよ。ライは俺の所有物なんだから、俺の命令を無視したりオイタをしたら躾するのが当然で――…」
「…待ってくれ。わかった。今のは嘘だ。お前用のチョコを作る為に家出したから、…だから刑は軽くしてくれ」
恥を忍んで頼み込めば、ユウキはご機嫌に笑った。
「美味しいの作ってね?」
その日から、ユウキの“お願い”は、俺にとっての“命令”となった。
***
一年後…
「ライ、ライ…起きて」
ぺちぺちと頬を叩かれる感覚で目を覚ます。体が重いし、頭も痛い。このまま眠りの中に戻りたかったが、ズルリと体の中から抜け出て行く感覚がして無理矢理叩き起こされた。
「んあぁッ…はぁ、あっ…」
うつ伏せのまま体を震わせ、なんとか背後を見ると、ユウキが覆いかぶさってくるのが見えた。お互いドロドロに汚れていて、赤い痕だらけだ。俺はそれ以上顔を上げていられず、吐息を漏らしながら枕に顔を埋めた。
ぐちゅり
「ああッ…! くぅ、んん…ユ、ウキ…!」
再び挿入され、俺は弛緩していた体を仰け反らせる。そのまま無理矢理後ろを向かされ、唇が重なり、ぬるりと舌が入ってきた。痺れの残る舌でそれに応えていると、しばらくしてゴロリと固い物体が口内に入ってくる。
「んん? ん、ううっ…、ふ、ん…っ」
飲み込まないように舌の上で留めていると、それは段々と唾液で溶かされ…甘くて苦い味が口内に広がっていく。その味のせいでズキリと頭痛が酷くなったが、
ゴリッ
「ンぐうっ…!」
体の奥をユウキので突かれるともう耐えられなかった。生存本能につられてごくりと嚥下し、揺さぶられながら何度も咽せ込む。
「けほけほっ、はっ、げほっ」
「ライ、美味しかった?」
「ケホッ…今の…、なん…だよ…」
「あれれ、ライってば味覚なくなっちゃたの? チョコだよ、チョコ」
「!」
そういえばチョコはこんな味をしていたっけ、とぼんやりとした思考の中で思い出した。最近はお粥とか怪しい液体しか飲んでいないから正しい味覚を感じる機会がなくなってしまった。それに気付いても悲しむ感情が浮かばない俺は色々と手遅れなのだろう。
「去年は俺がもらったからね。今年は俺からライに美味しいチョコをプレゼントしてあげる」
ぎゅっと抱きしめられると、体内に入れられたユウキのが深く刺さり酷く気持ちがよかった。頭の奥は常に霞んだ状態なのに、体の火照りやユウキのを感じる部分だけは妙にハッキリと感覚が残っているから不思議だ。むしろ、焦燥感を煽るぐらい強くそこだけ意識を残していて
「気持ちいいね、ライ」
「は、はぁ…、ん…」
息も絶え絶えに、頷いた。
ユウキの奴隷のようになってから半年が経った。
俺はすっかり“セックス依存症”になっていた。
もちろんそうさせたのはユウキだし「薬にハマるよりはマシだよ」と言われるが、数時間セックスしないだけで正常な思考力が奪われ暴れそうになる俺はとっくに人間以下の存在だろう。もう戻れはしないとわかっていても、一年前の脱走しようとした自分が輝かしく思えた。
「このチョコ、食べると気持ちよくなれる成分が入ってるんだって」
「はあ…、はぁ…」
「でも、依存性も高いから…食べ過ぎたらダメだよ?」
そう言いながらもユウキはまた口移しでチョコを与えてくる。今度は俺も素直に飲み込んだ。褒めるようにユウキが俺の好きな所を抉ってくる。気持ちが良い。もっと欲しい。
「アアッ、はっ、あ、んああッ、そこ…ッ」
求めて、与えられ、更に依存は深まっていく。
「ライ、こっち向いて、」
震える手で床を押し、体をひっくり返すと、ユウキと向き合う形になる。ドロドロに思考を溶かされた俺を正面から眺めてユウキは満足げに笑い、ぺろりと舌なめずりをした。腰の動きは止めずに、手だけ伸ばして俺の胸に触れてくる。
「今度、ここにピアスをつけようか。刺青も、俺が高校卒業したら一緒にいれようね。絵は鏡合わせで対になる感じにしたいんだけど、どう?」
恐ろしい事を言われている気がするが俺はほとんど聞こえてなかった。ただただ快感に喘いで、動きが鈍くなったユウキの首に腕を回し「もっと」と浅ましく催促する。ユウキはくすりと笑って頬に吸い付いてきた。
「もう、ちゃんと聞いてよ。ライは入れたい物ないの?」
「入れたい、もの…」
「そう、好きな物があればそれで希望を出してあげてもいいけど、変なのはダメだよ、一生物なんだから…しっかり考えてね」
「…俺は…ユウキが、いい…」
刺青の話なのだと今の蕩けた俺の頭ではわかるわけもなく、欲望に押されるまま言葉にする。ユウキが欲しい。早く中を、体の奥をもっとユウキで埋め尽くしてほしい。快感を、セックスを与えてくれ。そうせがむと、ユウキはきょとんと目を見開いてから、ぐんっと中のものを大きくさせた。
「はは、ライは俺がいいんだ。そうだね…俺と一緒にしようか」
「ん…」
「全部…俺が決めてあげるからね。ライは何も考えなくていいよ。俺だけ見てて?」
「ゆぅ…き…」
「ん、わかってる」
すぐあげるから、とユウキが動き出した。俺は再び強まった刺激に喜びを感じ、ユウキの首に回していた腕を、右手だけ背中に移す。見えはしないが、まだ白いままの背中を想像し…そこに思いっきり爪を立てた。
ガリッ
俺に引っ掛かれてユウキが痛みに顔を歪めた。
「っ…!!」
息を詰めるのと同時にびしゃりと体の奥に熱いものがぶちまけられる。それを感じて俺は口角を上げた。
俺は狐ヶ崎に来て、色々なものを失ったが…
一つだけ、得たものもある。
それはこの…絶対離れていかない、俺だけの温もりだ。
おわり🦊
🐺<おいおいライがメンヘラ落ちしてんじゃねか
🦊<あはは、ソルジさん知らないんですか~? メンヘラとヤンデレって相性良いんですよ~★ ちなみにこの後はほぼBADENDルートと同じみたいですね~
🐺<つまりBADENDって事じゃねえか
🦊<※ただし愛がある※
🐺<注釈つけようが手遅れだわ。つーかアイツラどこ行った?
🦊<なんか途中で出て行ってましたよ。寂しいな~俺のルートも弄ってほしいな~
🐺<てめえに一番効くのは無視だって判断したんだろ。オレもライの濡れ場見て満足したし次のとこ行くわ
🦊<え~~~~~!!!待ってくださいよ~!
🐶<柴沢です。この度はユウキさんが申し訳ありませんでした。ちなみにこちらのユウキさんは一度も浮気をせず添い遂げて亡くなるそうです。こちらの、というか全てのユウキさんがそうだとは思いますが…。一応それだけは知っておいていただけると幸いです。では、失礼しました。
※本編→バレンタイン(今回)→おまけ→???(今回)
※狐ヶ崎組から脱走したくなったライさんのお話
※明るく始まるけど、ちゃんとBADEND
狐ヶ崎組に入れられてから約一カ月。
俺は“ヤクザの世界”でずっと、家事をしていた。
それはもうずっと、家事に…追われていた。
意味がわからないと思うが聞いて欲しい。
一日の流れを簡単に説明すると…早朝起床→朝ご飯作る→ユウキと食べる→玄関まで見送る→ユウキの部屋を掃除して洗濯回す→待ってる間に水回りの掃除する→洗濯物干す→必要であれば柴沢と買い出しに行く→昼ご飯と一緒に夕飯の支度もする→ちょっと自由時間→ユウキが帰ってきたら出迎える→一緒に夕飯食べる→風呂入る→ユウキの部屋で勉強を見たり雑談する→自室に戻って寝る…
「って、俺はユウキの嫁か??!!!!」
流石にこれはツッコまずにいられないだろう。
なんでこんな三十路近い男が学生の為に専業主夫をしないといけないのか。そりゃ生きていられるだけありがたいが、狐ヶ崎組にはいくらでも世話人を任せられる人間がいるし、狐ヶ崎に縛られるのは俺の意思にも反している。
(自由以外のほぼ全てが手に入る状況だから人によっては天国かもしれないけど)
終わりの見えない軟禁生活は俺にとって苦痛でしかない。
「よし、脱走しよう」
俺は前々から考えていた“狐ヶ崎(ユウキ)からの脱走"を決意するのだった。
***
下見もかねて玄関に行くと下っ端の構成員が立っていた。俺の姿を捉えると構成員は「なんでここにいる」と睨んできた。
「お前は坊ちゃんの部屋に戻れ」
別に俺は一日中ユウキの部屋で過ごしているわけではないのだが、他の奴らからはそう見えているのだろう。更に惨めさに襲われるが、ここで目立つわけにはいかないのですぐに屋敷に戻った。ついでに屋敷の外側をぐるりと一周してみる。
「…この屋敷って広いわりに出入り口少ねえんだよな」
出入り口は表と裏の二つのみ。防犯上、導線を絞りたいのかもしれないが、こういう時に困るから止めてほしい。…ああ、俺みたいな脱走を防ぐ為でもあるのか、と妙な悟りを得ながらキッチンに戻る。今の時間はキッチン付近には誰もいないので聞き耳を立てられる心配はない。ブツブツと独り言をしながら整理する。
「表は構成員が二人いて厳しいし、出入口を使うなら裏しかない…。一番楽で確実なのは柴沢さんと買い出しに行ってる間に逃げる案だけど、それじゃ柴沢さんに迷惑かかる…」
狐ヶ崎の唯一の良心である柴沢には迷惑をかけられない。この一か月で何度も相談に乗ってもらったし、ずっと心の支えになってくれた柴沢に、恩を仇で返すわけにはいかない。
「…やっぱり裏から出よう」
歩いていく姿が防犯カメラに映ってしまうしすぐに追っ手は来るだろうが、掃除している風で扉に近づけば今すぐに止められる事はない。屋敷から出てしまえばこっちのものだ。走るなりタクシーを拾うなりして交番に逃げ込もう。
「いや…交番もずっとは保護してもらえねえだろうし…、外に出た瞬間捕まるよな…」
俺は屋敷から脱出した後、どこへ逃げたらいいのだろう。
「…まあ、ひとまずセツを頼るか」
そこまで導きだしたところで俺は裏口に向かった。いつものように掃除道具を持ってゆっくりと歩き、そして近くに誰もいないのを確認してから裏口の鍵を開ける。
ガチャン
拍子抜けするほどあっさりと、屋敷から出られてしまった。一瞬、呆けかけて、すぐに我に返る。ここからは時間との勝負だ。俺は小走りで裏の竹を抜けて駐車場のある場所まで行った。ここまではユウキと歩いた事があるので知っている。そしてその先の道路を道なりに下りていけば町に戻れる事も、その時確認していた。
「よし…」
***
一時間以上かかったが、追っ手に捕まる事なく下山できた。
「…すげえ」
久しぶりの単独での町歩きは泣けるほど嬉しかった。このまま元の生活に戻れたらと願わずにいられないが…移動しないと話にならないので俺は変装用の服を買うべくすぐ横の商業施設に寄った。普段は選ばない服や目深にかぶれる帽子を入手して施設から退出しようとした時、ふと…一階の催事コーナーが目に入る。
「バレンタインイベント…そっか、世間はバレンタインか」
ずっと狐ヶ崎の屋敷で同じこと(家事)を繰り返しているので季節感覚がなくなっていたが、世の中はバレンタイン一色だった。チョコやお菓子がずらりと並べられる催事コーナーは華やかさがあり、ついつい引き寄せられてしまう。
「今年はカヌレが流行ってたのか…」
「そうみたいだね~」
「!!!」
親しげに声をかけられ、ギクリとする。恐る恐る振り返ると、学生服のユウキと柴沢が催事コーナーの外で立っていた。
(い、いつの間に…?!)
慌てて左右を確認するが、見た事のあるスーツ姿の男達が要所要所に立っており、逃げた先で捕まる“完全に詰み”な配置だとすぐさま悟った。俺が顔を真っ青にしながら正面に顔を戻すと、ユウキは怒った様子もなくニコニコと笑みを浮かべながら近寄ってくる。
「もーライってばこんな所で何してんのさー」
「…っ」
「庭で迷子になった…にしては遠出しすぎだし、プチ家出ってことにしとく?それもそれで笑えるけど」
「ゆ、ユウキ…」
「そんなに怯えた顔しないで。別に怒ってないし、柴沢にずっと張らせてたからどっちにしろライは逃げられなかったよ」
「!!」
やけにすんなり逃げられたと思ったが、まさか後ろに見張りがついていたなんて。とんだ脱走ごっこである。
「全然…気付かなかった…」
「あはは、柴沢のスニークスキルを舐めちゃダメだよ~俺だって気付けないんだから」
「…」
「それで? ライ、俺に言いたい事はあるかな~?」
ユウキが上目遣いで見つめてくる。んー?と首を傾げる姿は幼さが残ってる事も相まって可愛いが、今の俺には悪魔にしか見えなかった。
「ライ?」
「……いや、…その、勝手に屋敷から出て…悪かった」
「家出はもうしない?」
「ああ、もう…二度としない」
「ふっふっふ、よろしい」
ユウキは俺の誓いを聞いて満面の笑みを浮かべる。パチンと軽く手を合わせるのを合図に商業施設に張られていた構成員が姿を消した。
「ま、そろそろライも嫌になってくる頃合いだと思ってたし驚きはないよ」
「…」
「少し気分転換したかったんだよね」
ユウキの言葉に視線だけで応えた。確かに朝から晩までヤクザの屋敷で過ごし、常に見張りがつく生活は気が滅入る。だがそれよりも「ここを出たら」「前の生活なら」という希望が胸をかすめる方がキツかった。そういう面では「もう逃げられない」と諦められたのは大きい。今後はもっと見張りが厳しくなるだろうし、裏口も見張りが立つようになる。
(…もう俺一人では逃げられない)
協力者も…スマホを奪われている以上外部に助けを求められないから、現れることはない。
“どうあっても無理だ”
そう諦めた瞬間、なんだか一つ、俺の胸をつかえていたものが取れて、心が軽くなった気がする。代わりに何か大切なものを失った気がするが…あまり深く考えると落ち込みそうなので今は考えないでおく。
「ねえねえ、ライ、熱心にバレンタインコーナー見てたけど、そんなに甘い物たべたかったの? 言ってくれたら買って帰ったのに」
「…いや、食いたいっつーか…」
なんとなく目に入っただけだし深い意味はない。強いて言えば“外への憧れ"に吸い寄せられていたのかもしれないが、俺が言い淀むのを見てユウキはにししと笑った。
「わかったぞ!俺にチョコを作る為に下見してくれてたんでしょ!」
「ちげえわ」
「え~~? そこはうんって可愛く言っときなよ~そしたら家出したお仕置き軽くしてあげるのに~~」
「は…? お仕置きって…冗談だろ?」
「あはは、残念だけど冗談じゃないよ。ライは俺の所有物なんだから、俺の命令を無視したりオイタをしたら躾するのが当然で――…」
「…待ってくれ。わかった。今のは嘘だ。お前用のチョコを作る為に家出したから、…だから刑は軽くしてくれ」
恥を忍んで頼み込めば、ユウキはご機嫌に笑った。
「美味しいの作ってね?」
その日から、ユウキの“お願い”は、俺にとっての“命令”となった。
***
一年後…
「ライ、ライ…起きて」
ぺちぺちと頬を叩かれる感覚で目を覚ます。体が重いし、頭も痛い。このまま眠りの中に戻りたかったが、ズルリと体の中から抜け出て行く感覚がして無理矢理叩き起こされた。
「んあぁッ…はぁ、あっ…」
うつ伏せのまま体を震わせ、なんとか背後を見ると、ユウキが覆いかぶさってくるのが見えた。お互いドロドロに汚れていて、赤い痕だらけだ。俺はそれ以上顔を上げていられず、吐息を漏らしながら枕に顔を埋めた。
ぐちゅり
「ああッ…! くぅ、んん…ユ、ウキ…!」
再び挿入され、俺は弛緩していた体を仰け反らせる。そのまま無理矢理後ろを向かされ、唇が重なり、ぬるりと舌が入ってきた。痺れの残る舌でそれに応えていると、しばらくしてゴロリと固い物体が口内に入ってくる。
「んん? ん、ううっ…、ふ、ん…っ」
飲み込まないように舌の上で留めていると、それは段々と唾液で溶かされ…甘くて苦い味が口内に広がっていく。その味のせいでズキリと頭痛が酷くなったが、
ゴリッ
「ンぐうっ…!」
体の奥をユウキので突かれるともう耐えられなかった。生存本能につられてごくりと嚥下し、揺さぶられながら何度も咽せ込む。
「けほけほっ、はっ、げほっ」
「ライ、美味しかった?」
「ケホッ…今の…、なん…だよ…」
「あれれ、ライってば味覚なくなっちゃたの? チョコだよ、チョコ」
「!」
そういえばチョコはこんな味をしていたっけ、とぼんやりとした思考の中で思い出した。最近はお粥とか怪しい液体しか飲んでいないから正しい味覚を感じる機会がなくなってしまった。それに気付いても悲しむ感情が浮かばない俺は色々と手遅れなのだろう。
「去年は俺がもらったからね。今年は俺からライに美味しいチョコをプレゼントしてあげる」
ぎゅっと抱きしめられると、体内に入れられたユウキのが深く刺さり酷く気持ちがよかった。頭の奥は常に霞んだ状態なのに、体の火照りやユウキのを感じる部分だけは妙にハッキリと感覚が残っているから不思議だ。むしろ、焦燥感を煽るぐらい強くそこだけ意識を残していて
「気持ちいいね、ライ」
「は、はぁ…、ん…」
息も絶え絶えに、頷いた。
ユウキの奴隷のようになってから半年が経った。
俺はすっかり“セックス依存症”になっていた。
もちろんそうさせたのはユウキだし「薬にハマるよりはマシだよ」と言われるが、数時間セックスしないだけで正常な思考力が奪われ暴れそうになる俺はとっくに人間以下の存在だろう。もう戻れはしないとわかっていても、一年前の脱走しようとした自分が輝かしく思えた。
「このチョコ、食べると気持ちよくなれる成分が入ってるんだって」
「はあ…、はぁ…」
「でも、依存性も高いから…食べ過ぎたらダメだよ?」
そう言いながらもユウキはまた口移しでチョコを与えてくる。今度は俺も素直に飲み込んだ。褒めるようにユウキが俺の好きな所を抉ってくる。気持ちが良い。もっと欲しい。
「アアッ、はっ、あ、んああッ、そこ…ッ」
求めて、与えられ、更に依存は深まっていく。
「ライ、こっち向いて、」
震える手で床を押し、体をひっくり返すと、ユウキと向き合う形になる。ドロドロに思考を溶かされた俺を正面から眺めてユウキは満足げに笑い、ぺろりと舌なめずりをした。腰の動きは止めずに、手だけ伸ばして俺の胸に触れてくる。
「今度、ここにピアスをつけようか。刺青も、俺が高校卒業したら一緒にいれようね。絵は鏡合わせで対になる感じにしたいんだけど、どう?」
恐ろしい事を言われている気がするが俺はほとんど聞こえてなかった。ただただ快感に喘いで、動きが鈍くなったユウキの首に腕を回し「もっと」と浅ましく催促する。ユウキはくすりと笑って頬に吸い付いてきた。
「もう、ちゃんと聞いてよ。ライは入れたい物ないの?」
「入れたい、もの…」
「そう、好きな物があればそれで希望を出してあげてもいいけど、変なのはダメだよ、一生物なんだから…しっかり考えてね」
「…俺は…ユウキが、いい…」
刺青の話なのだと今の蕩けた俺の頭ではわかるわけもなく、欲望に押されるまま言葉にする。ユウキが欲しい。早く中を、体の奥をもっとユウキで埋め尽くしてほしい。快感を、セックスを与えてくれ。そうせがむと、ユウキはきょとんと目を見開いてから、ぐんっと中のものを大きくさせた。
「はは、ライは俺がいいんだ。そうだね…俺と一緒にしようか」
「ん…」
「全部…俺が決めてあげるからね。ライは何も考えなくていいよ。俺だけ見てて?」
「ゆぅ…き…」
「ん、わかってる」
すぐあげるから、とユウキが動き出した。俺は再び強まった刺激に喜びを感じ、ユウキの首に回していた腕を、右手だけ背中に移す。見えはしないが、まだ白いままの背中を想像し…そこに思いっきり爪を立てた。
ガリッ
俺に引っ掛かれてユウキが痛みに顔を歪めた。
「っ…!!」
息を詰めるのと同時にびしゃりと体の奥に熱いものがぶちまけられる。それを感じて俺は口角を上げた。
俺は狐ヶ崎に来て、色々なものを失ったが…
一つだけ、得たものもある。
それはこの…絶対離れていかない、俺だけの温もりだ。
おわり🦊
🐺<おいおいライがメンヘラ落ちしてんじゃねか
🦊<あはは、ソルジさん知らないんですか~? メンヘラとヤンデレって相性良いんですよ~★ ちなみにこの後はほぼBADENDルートと同じみたいですね~
🐺<つまりBADENDって事じゃねえか
🦊<※ただし愛がある※
🐺<注釈つけようが手遅れだわ。つーかアイツラどこ行った?
🦊<なんか途中で出て行ってましたよ。寂しいな~俺のルートも弄ってほしいな~
🐺<てめえに一番効くのは無視だって判断したんだろ。オレもライの濡れ場見て満足したし次のとこ行くわ
🦊<え~~~~~!!!待ってくださいよ~!
🐶<柴沢です。この度はユウキさんが申し訳ありませんでした。ちなみにこちらのユウキさんは一度も浮気をせず添い遂げて亡くなるそうです。こちらの、というか全てのユウキさんがそうだとは思いますが…。一応それだけは知っておいていただけると幸いです。では、失礼しました。
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