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不死鳥シリーズ
★「出会う順番が違っていれば」バレンタイン ソルジ編🐺
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※本編「出会う順番が違っていれば」シリーズ🐺
※本編→おまけ→バレンタイン(今回)
※ちょっと襲われるので★つき
※本編より二人の親密度(友人としての)が高い、故にライも辛辣
二月に入ってすぐの事だった。
「オレはチョコマカロンがいい」
聞いてもないのにそんなことを言われ、俺はリビングのカーペットで爪を切っていたのでソルの方を見る事なく「そうかー」と生返事をする。
「ンだその反応!ちゃんと聞いてんのか!!」
「聞いてるよ」
パチパチと広告用紙の上で切っていくと、背後のソファにどすっ!とソルが座ってきた。そしてゲシゲシ!と背中を蹴ってくる。
「チョーコーマーカーロン!!」
「おい、やめろ、あぶねえって。あんたがマカロン好きなのはわかったから足をどけろ」
「てめえ何もわかってねえじゃねえか!オレは別にスイーツの好みの話をしてんじゃねえ!バレンタインに作れって話をしてんだよ!!」
「…いや、それもなんとなくわかってるけどさ…」
なんであんたに作る必要があるんだ?俺らただの同居人(友人)だろ?と半目になっていると、当然のようにソルは胸を張って「オレが食いたいからだ!」と言った。なんだコイツ。
「じゃあ自分で作りゃいいじゃん、あんた料理できるんだし」
ソルは面倒くさがってあまりやらないがたまにめちゃくちゃ機嫌が良い日は料理を振る舞ってくれる事がある。美味しいし結構丁寧な料理を作るので毎回驚かされるのだが、その腕があればお菓子作りも問題なくやれるはずだ。
「誰が虚しくて自分でバレンタインチョコ作る奴がいるよ!!」
「虚しくねえし食べたいなら自分で作れ。男同士で、しかも友人同士で作るとか、そっちの方がよっぽど虚しいって」
「おいてめえ全国の友チョコ作り合ってるキショ野郎共に謝れや!!!」
「…あんたもキショいって言ってるけど」
そうツッコミながら広告用紙を畳み、ゴミ箱に捨てた。視線を感じて振り向くと、じっと銀色の瞳が見下ろしてくる。
(あれ?ソルってこんな瞳の色だったっけ…?)
黒くも茶色くもない印象ではあったが、こんなシルバー系だったっけ?カラコン?と首を傾げる。
「おい!おいライ!聞いてんのか!!」
「…あ、悪い、聞いてねえ。何の話だった?」
「てめえそろそろブチ犯すぞぉッ!!!」
「ごめんって」
(ソルのやつ機嫌悪いな…)
最近うまく寝付けないと言っていたし睡眠不足でイライラしているのだろう。
「仕方ねえな。わかったよ。そんだけ言うなら今からチョコマカロン作ってやる(八つ当たりされんのめんどいし)」
「マジか!!!…ん?いや待てよ、今日はバレンタインじゃねえぞ?今日と当日で二回作るってことか?」
「馬鹿言うな。作るのは今日の一回だけだ。マカロンとか絶対作るの大変だし、バレンタイン当日は仕事だから作る気力なんて残ってねえよ」
「チッ…」
先月やっと見つけた新しい仕事はまだ慣れていないし、ソルもそれはわかっているのか、舌打ちをするだけで文句は言ってこなかった。
スーパーに行って必要な材料を入手した後、俺は早速マカロンの生地を作り…そして焼きで失敗した。オーブンを覗き込み、膨らまなかった生地を見つめてため息を吐く。
「やっぱだめか。ネットのレシピ通りにやったのにな…」
「てえへんだなぁ~」
俺が頭を悩ませていると、キッチンカウンターに頬杖をついたソルが茶々を入れてきた。誰のせいでこんな苦労をさせられているんだと睨みつけるとケラケラ笑われた。
「よっしゃ、てめえの苦労する姿を肴に飲むかね~」
プシュッ
当然のように酎ハイを開けるソルにぎょっとする。
「ちょ、おい、あんた…下戸だろ」
「そこまで弱くねえっつの」
「ええ…」
ゴクゴク
ソルが喉を鳴らして飲み進めるのを見て「あーあ」と呟いた。ソルとは一度晩酌をしたことがあるが(仕事決まった時に)、一缶でガッツリ酔っぱらい速攻寝落ちたのは記憶に色濃く残っている。
「…ほどほどにしとけよ、って、もう遅いか」
「るへぇ、ひっく、オレはよってねぇ!」
「酔ってないっていう奴ほど酔ってんだよ」
顔を赤くしてしゃっくりをするソルは完全に出来上がっていた。酎ハイ一缶でそれって…。
ゴツン
呆れているうちに更にアルコールが回ったのか、固い音を立ててソルの頭がテーブルにぶつかり動かなくなった。どうやら寝落ちたようだ。
「…ったく」
俺はキッチンカウンターを回り込み、ソルの体に腕を回して引き上げる。かなり重かったが、横のソファまでなんとか運び、寝かせた。部屋から適当な毛布を持ってきてそれをかけるが…その間もソルの瞼はピクリともせず深い眠りに入っている。
「やれやれ、いい気なもんだ」
呆れつつ、俺はキッチンに戻った。
ジャー…
流しで洗い物をしながら時々オーブンを見つめる。要望を出してきた当の本人が潰れて一時間ほど経つが、俺はずっとマカロン作りと格闘していた。乾燥具合なのか、混ぜ具合なのか、オーブンの温度なのか、なかなか理想の膨らみにならず失敗を繰り返し、とうとう三回目の挑戦(オーブン焼き)となっていた。
「ふあ~あ…そろそろ寝ねえとな」
時刻はすでに深夜となり、眠さも限界に来ていた。これでダメだったら諦めよう、そんな風に思っていると、
ドン
何やらリビングの方で重い物が落ちる音がした。たぶんソルが寝ぼけてソファから落ちたのだろうが、あれはそんなに高さもないし怪我をする事はないだろう。そう結論付け、再びマカロン作りに集中しようとする。
ぺたぺた
「え」
足音がするな…と思っていると、次の瞬間、犬耳と尻尾の生えたソルがひょっこりと現れた。
「ソル、あんたそれ…またなってるのか」
「…」
「てか今すげえ音してたけど大丈夫か?」
「…」
ソルは全てスルーしてズカズカとキッチンの中に入ってくる。
「お、おい、ソル…」
真顔で迫られるせいでちょっと怖い。後退ろうとするがその分ソルが距離を詰めてきて、
ドン!
「うわっ」
肩を掴まれ、壁に体を押し付けられた。ソルは口は乱暴でも、実際に手を出してくる事はない。こんな風に力任せに行動を起こす事など以ての外だ。突然のことに俺は目を白黒させ、抵抗するのも忘れて棒立ちになる。
「ちょ、なに、怖いんだけど…は!?」
言葉の途中で服を脱がされそうになり更に驚く。流石にこれ以上はと慌ててソルの手首を掴むが、物凄い力で掴まれており引き剥がせない。
(嘘だろ…)
普段のソルの力を知っているのでその馬鹿力がありえないものだとすぐにわかった。まさか、耳と尻尾が生えた状態だと、体の中も変わっていたりするのだろうか(筋肉の質が違う、とか)。質の悪い夢遊病だと思いたいが色々と現実的でない事が起こり過ぎている。
(よくわかんねえけど、とにかくソルを正気に戻さねえと!)
「ソル!おいソル!起きろ!」
大声で呼びかけて肩を揺さぶるが、ソルは全く反応せず、こちらを見もしない。ただ黙々と俺のTシャツをめくり、胸に吸いついてくる。
「うっ、く、ほん、と…意味わかん、ねえ…からっ!」
胸は元々感じないタイプだからよかったが、正気を失ったソルとこんな事をするなんて冗談じゃなかった。…こうなれば仕方ない。股間を蹴って無理矢理下がらせるしかない。内心謝りながら足を振り上げた。
ガッ!!
動きを読んでいたのか、ソルは俺の膝を掴み、捻りながら持ち上げた。
「うわっ」
バランスを崩し床に倒れこむ。すぐに腰辺りにソルが乗ってきて身動きが取れなくなった。この体勢はマズイ。
「ソルっ!あんた、酔ってるからって、こんなっ、友人を襲ってんじゃねえ!…ひっ!聞いてんのか!!」
俺が口で訴えるのも完全スルーして、胸をペロペロ舐めてくる。しかも手は俺のズボンの前に置かれ、優しく撫でられるその感触にゾクゾクと悪い震えが走った。
「ッ~~…!」
ソル相手なのに、思わず身体が反応しかけて泣きそうになる。俺の涙目をソルは不思議そうに見て、首を傾げ、体を倒してきた。
(キスされる…!)
それだけは嫌だ、と顔を背けて拒んだ。
グルル…
するとソルはまるで野生の獣のように唸って、鋭い爪でTシャツの前を引き裂いていく。皮膚まで引っ掻かれはしないが、その爪がかする度に体がひくついた。
ビリリッ
「あっ…、あんた、本当に…どうしちゃったんだよ…っ」
怖かった。獣のようになってしまったソルも、襲われそうになってる状況も、そして、もうソルと元の関係に戻れなくなるかもしれないという事も、全てが怖かった。俺は恐怖に震えながらその名を、縋るように呼んだ。
「ソル…っ」
「!」
「俺、こんな事で、あんたのこと、嫌いになりたくねえ…っ」
ぴたり
ふと、そこでソルの動きが止まった。ハッと顔を前に戻せばソルが目をぱちくりとさせて俺を見下ろしている。その銀色の瞳にはさっきまでなかった正気の色が垣間見えて…
「アア?…こりゃ、どんな状況だぁ?」
「そ、ソル…!!」
不思議そうに首を傾げるソルの姿に、俺はぶわっと涙がこみ上げた。
「あんた元に戻ったんだな…!!!」
「はあ? 戻ったって何の話…つーかてめえ、それ、どうした?」
ズボンを脱がされ、Tシャツも引き裂かれ“襲われました”感満載の俺を訝しげに見てくる。
「どうしたもこうしたも、酔って潰れたはずのあんたが動き出して…あれ夢遊病っていうのか?とにかく、あんたに襲われたんだよ!声かけても反応しねえし、犬の耳は生えてるし、力もすげえ強いしで…全然抵抗できなくてかなり怖かったんだからな!」
今はすっかり耳も尻尾も消え、元通りになっていたから証明のしようもないが、俺の表情で色々悟ったのか「マジか…」とソルは神妙な顔をして謝ってくる。
「悪い…全然記憶ねえわ」
「…だろうな。何度呼んでも反応しなかったし、…」
「……」
「…とりあえず、どいてくれ…」
重いし、ほぼ裸の状態で乗っかられると流石に友人相手でも身の危険を感じる。ソルは「悪い悪い」と謝りながら腰を浮かせた。起き上がろうと後ろ手をつくと、俺の上半身を横で眺めていたソルが顔を寄せてくる。
「? なに…」
ソルはペロッと舌を出して、唾液で濡れたままの胸の中心を舐めてきた。
ぬるり
「んぃっ?!」
「お、可愛い声」
「~~~!!!あんたなぁ!!!」
「イででででッ髪抜けるッハゲるハゲるッ!!」
犬化して襲われている時はなんとも思わなかった胸への刺激が、ソルにやられると何倍もくすぐったくて居たたまれなくて、全然違う感覚だった。ほんのちょっとだけ感じてしまった自分が許せなくて、俺は目の前の銀色の髪を思いっきり引っ張って体に灯りかけた熱をどうにか忘れるのだった。
***
翌日…
「ライ、昨日は怖がらせて悪かった。もう襲わねえから出て行かねえでください」
ははーっと廊下で待機していたソルが正座のまま深々と頭を下げてくる。
「あのなぁ…あんたが誓ったところで、昨日みたいに意識がぶっ飛んだらコントロールしようがないだろ。いつ暴走するかわかんねえ男と一緒に住めると思うか(とか言いつつ昨晩は自室でぐっすり寝れちまったけど)」
「ンな冷てえ事言うなよ。オレらの仲だろ?それに夢遊病はオレにもどうしようもねえんだって」
「…、わかってるけどさ」
ソルにだって理解不能なのも、困らせられているのもわかっている。目のクマは日に日に酷くなっているし、睡眠不足でイライラする事も増えてきた。こんな状態のソルを置いて出て行きたくはなかったが、俺だって自分の身を危険に晒すつもりはない。今は定職にもついているし一人暮らしも可能だ。
「隣の部屋借りるとかは」
「却下だ!!てめえぜってえ必要最小限の接触しかしなくなるだろが!!」
「友人は必要最小限で充分だろ?」
「よくねえわ!!」
お互い譲れない状態でしばらく言い合っていると「じゃあ!!」とやけくそのようにソルが言った。
「こうなったら、アイツの所に行くぞ!」
「アイツって?」
「元カレ」
「はあ…?」
余計俺が関わりにくい場所じゃねえかと顔をしかめているとソルはニヤりと笑った。
「アイツこういう超常現象に詳しいから、オレの夢遊病もどきも治せるかもしれねえ」
「ふーん、すごいじゃん」
「ってわけで一緒に行こうぜ」
「え、なんで。一人で行けよ(元カレに睨まれるだろ…)」
「アア?!そっちがなんでだよ!!オレはてめえが職失ってた時支えてやったんだぞ!今度はてめえがオレを助ける番だろうが!」
「うぐ…」
それを出されるとこちらは何も言えない。一応家事やら何やらを担当して支え合う形にしていたが、助けられていたのは間違いないので俺は口を閉じて唸った。
「ってわけで、よろしく頼むぜ!相棒!」
「はあ…ほんとあんたって、調子いいよな…」
「くくっ、クソお人好しネガティブのてめえとバランスいいだろ?」
「誰がクソお人好しネガティブだ」
俺はため息と共にキッチンに向かった。おーいどうしたーとソルが声をかけてくるのを無視して冷蔵庫から目的のモノを取り出す。
「!」
「…はい。色々あったけど、最後のは成功してたから」
手作りのチョコマカロンを皿に並べてソルに持っていった。ソルはそれを見た瞬間、それはそれは嬉しそうに尻尾を揺らして「最高かよぉ!!」と飛びついてきた。
「って、あんた尻尾ッッ!!!」
おわり🐺
🚬・🦊・🐥<おおー(拍手)
🐺<なんで拍手
🦊<三本目にしてやっと手が出せましたね!イケイケ×奥手キャラっていう謎ポジからの卒業おめでとうございます!
🐺<アア?!そういう拍手かよぶっ殺すぞ!!
🦊<あはは
🚬<ふふ、一度友人枠にいっちゃうと攻略が格段に難しくなるから仕方ないワ
🐥<手を出したと言ってもほぼ無意識下での行動だから“チキン”だという事に変わりないがな
🐺<おい、チキンがチキン言うんじゃねえ!
※本編→おまけ→バレンタイン(今回)
※ちょっと襲われるので★つき
※本編より二人の親密度(友人としての)が高い、故にライも辛辣
二月に入ってすぐの事だった。
「オレはチョコマカロンがいい」
聞いてもないのにそんなことを言われ、俺はリビングのカーペットで爪を切っていたのでソルの方を見る事なく「そうかー」と生返事をする。
「ンだその反応!ちゃんと聞いてんのか!!」
「聞いてるよ」
パチパチと広告用紙の上で切っていくと、背後のソファにどすっ!とソルが座ってきた。そしてゲシゲシ!と背中を蹴ってくる。
「チョーコーマーカーロン!!」
「おい、やめろ、あぶねえって。あんたがマカロン好きなのはわかったから足をどけろ」
「てめえ何もわかってねえじゃねえか!オレは別にスイーツの好みの話をしてんじゃねえ!バレンタインに作れって話をしてんだよ!!」
「…いや、それもなんとなくわかってるけどさ…」
なんであんたに作る必要があるんだ?俺らただの同居人(友人)だろ?と半目になっていると、当然のようにソルは胸を張って「オレが食いたいからだ!」と言った。なんだコイツ。
「じゃあ自分で作りゃいいじゃん、あんた料理できるんだし」
ソルは面倒くさがってあまりやらないがたまにめちゃくちゃ機嫌が良い日は料理を振る舞ってくれる事がある。美味しいし結構丁寧な料理を作るので毎回驚かされるのだが、その腕があればお菓子作りも問題なくやれるはずだ。
「誰が虚しくて自分でバレンタインチョコ作る奴がいるよ!!」
「虚しくねえし食べたいなら自分で作れ。男同士で、しかも友人同士で作るとか、そっちの方がよっぽど虚しいって」
「おいてめえ全国の友チョコ作り合ってるキショ野郎共に謝れや!!!」
「…あんたもキショいって言ってるけど」
そうツッコミながら広告用紙を畳み、ゴミ箱に捨てた。視線を感じて振り向くと、じっと銀色の瞳が見下ろしてくる。
(あれ?ソルってこんな瞳の色だったっけ…?)
黒くも茶色くもない印象ではあったが、こんなシルバー系だったっけ?カラコン?と首を傾げる。
「おい!おいライ!聞いてんのか!!」
「…あ、悪い、聞いてねえ。何の話だった?」
「てめえそろそろブチ犯すぞぉッ!!!」
「ごめんって」
(ソルのやつ機嫌悪いな…)
最近うまく寝付けないと言っていたし睡眠不足でイライラしているのだろう。
「仕方ねえな。わかったよ。そんだけ言うなら今からチョコマカロン作ってやる(八つ当たりされんのめんどいし)」
「マジか!!!…ん?いや待てよ、今日はバレンタインじゃねえぞ?今日と当日で二回作るってことか?」
「馬鹿言うな。作るのは今日の一回だけだ。マカロンとか絶対作るの大変だし、バレンタイン当日は仕事だから作る気力なんて残ってねえよ」
「チッ…」
先月やっと見つけた新しい仕事はまだ慣れていないし、ソルもそれはわかっているのか、舌打ちをするだけで文句は言ってこなかった。
スーパーに行って必要な材料を入手した後、俺は早速マカロンの生地を作り…そして焼きで失敗した。オーブンを覗き込み、膨らまなかった生地を見つめてため息を吐く。
「やっぱだめか。ネットのレシピ通りにやったのにな…」
「てえへんだなぁ~」
俺が頭を悩ませていると、キッチンカウンターに頬杖をついたソルが茶々を入れてきた。誰のせいでこんな苦労をさせられているんだと睨みつけるとケラケラ笑われた。
「よっしゃ、てめえの苦労する姿を肴に飲むかね~」
プシュッ
当然のように酎ハイを開けるソルにぎょっとする。
「ちょ、おい、あんた…下戸だろ」
「そこまで弱くねえっつの」
「ええ…」
ゴクゴク
ソルが喉を鳴らして飲み進めるのを見て「あーあ」と呟いた。ソルとは一度晩酌をしたことがあるが(仕事決まった時に)、一缶でガッツリ酔っぱらい速攻寝落ちたのは記憶に色濃く残っている。
「…ほどほどにしとけよ、って、もう遅いか」
「るへぇ、ひっく、オレはよってねぇ!」
「酔ってないっていう奴ほど酔ってんだよ」
顔を赤くしてしゃっくりをするソルは完全に出来上がっていた。酎ハイ一缶でそれって…。
ゴツン
呆れているうちに更にアルコールが回ったのか、固い音を立ててソルの頭がテーブルにぶつかり動かなくなった。どうやら寝落ちたようだ。
「…ったく」
俺はキッチンカウンターを回り込み、ソルの体に腕を回して引き上げる。かなり重かったが、横のソファまでなんとか運び、寝かせた。部屋から適当な毛布を持ってきてそれをかけるが…その間もソルの瞼はピクリともせず深い眠りに入っている。
「やれやれ、いい気なもんだ」
呆れつつ、俺はキッチンに戻った。
ジャー…
流しで洗い物をしながら時々オーブンを見つめる。要望を出してきた当の本人が潰れて一時間ほど経つが、俺はずっとマカロン作りと格闘していた。乾燥具合なのか、混ぜ具合なのか、オーブンの温度なのか、なかなか理想の膨らみにならず失敗を繰り返し、とうとう三回目の挑戦(オーブン焼き)となっていた。
「ふあ~あ…そろそろ寝ねえとな」
時刻はすでに深夜となり、眠さも限界に来ていた。これでダメだったら諦めよう、そんな風に思っていると、
ドン
何やらリビングの方で重い物が落ちる音がした。たぶんソルが寝ぼけてソファから落ちたのだろうが、あれはそんなに高さもないし怪我をする事はないだろう。そう結論付け、再びマカロン作りに集中しようとする。
ぺたぺた
「え」
足音がするな…と思っていると、次の瞬間、犬耳と尻尾の生えたソルがひょっこりと現れた。
「ソル、あんたそれ…またなってるのか」
「…」
「てか今すげえ音してたけど大丈夫か?」
「…」
ソルは全てスルーしてズカズカとキッチンの中に入ってくる。
「お、おい、ソル…」
真顔で迫られるせいでちょっと怖い。後退ろうとするがその分ソルが距離を詰めてきて、
ドン!
「うわっ」
肩を掴まれ、壁に体を押し付けられた。ソルは口は乱暴でも、実際に手を出してくる事はない。こんな風に力任せに行動を起こす事など以ての外だ。突然のことに俺は目を白黒させ、抵抗するのも忘れて棒立ちになる。
「ちょ、なに、怖いんだけど…は!?」
言葉の途中で服を脱がされそうになり更に驚く。流石にこれ以上はと慌ててソルの手首を掴むが、物凄い力で掴まれており引き剥がせない。
(嘘だろ…)
普段のソルの力を知っているのでその馬鹿力がありえないものだとすぐにわかった。まさか、耳と尻尾が生えた状態だと、体の中も変わっていたりするのだろうか(筋肉の質が違う、とか)。質の悪い夢遊病だと思いたいが色々と現実的でない事が起こり過ぎている。
(よくわかんねえけど、とにかくソルを正気に戻さねえと!)
「ソル!おいソル!起きろ!」
大声で呼びかけて肩を揺さぶるが、ソルは全く反応せず、こちらを見もしない。ただ黙々と俺のTシャツをめくり、胸に吸いついてくる。
「うっ、く、ほん、と…意味わかん、ねえ…からっ!」
胸は元々感じないタイプだからよかったが、正気を失ったソルとこんな事をするなんて冗談じゃなかった。…こうなれば仕方ない。股間を蹴って無理矢理下がらせるしかない。内心謝りながら足を振り上げた。
ガッ!!
動きを読んでいたのか、ソルは俺の膝を掴み、捻りながら持ち上げた。
「うわっ」
バランスを崩し床に倒れこむ。すぐに腰辺りにソルが乗ってきて身動きが取れなくなった。この体勢はマズイ。
「ソルっ!あんた、酔ってるからって、こんなっ、友人を襲ってんじゃねえ!…ひっ!聞いてんのか!!」
俺が口で訴えるのも完全スルーして、胸をペロペロ舐めてくる。しかも手は俺のズボンの前に置かれ、優しく撫でられるその感触にゾクゾクと悪い震えが走った。
「ッ~~…!」
ソル相手なのに、思わず身体が反応しかけて泣きそうになる。俺の涙目をソルは不思議そうに見て、首を傾げ、体を倒してきた。
(キスされる…!)
それだけは嫌だ、と顔を背けて拒んだ。
グルル…
するとソルはまるで野生の獣のように唸って、鋭い爪でTシャツの前を引き裂いていく。皮膚まで引っ掻かれはしないが、その爪がかする度に体がひくついた。
ビリリッ
「あっ…、あんた、本当に…どうしちゃったんだよ…っ」
怖かった。獣のようになってしまったソルも、襲われそうになってる状況も、そして、もうソルと元の関係に戻れなくなるかもしれないという事も、全てが怖かった。俺は恐怖に震えながらその名を、縋るように呼んだ。
「ソル…っ」
「!」
「俺、こんな事で、あんたのこと、嫌いになりたくねえ…っ」
ぴたり
ふと、そこでソルの動きが止まった。ハッと顔を前に戻せばソルが目をぱちくりとさせて俺を見下ろしている。その銀色の瞳にはさっきまでなかった正気の色が垣間見えて…
「アア?…こりゃ、どんな状況だぁ?」
「そ、ソル…!!」
不思議そうに首を傾げるソルの姿に、俺はぶわっと涙がこみ上げた。
「あんた元に戻ったんだな…!!!」
「はあ? 戻ったって何の話…つーかてめえ、それ、どうした?」
ズボンを脱がされ、Tシャツも引き裂かれ“襲われました”感満載の俺を訝しげに見てくる。
「どうしたもこうしたも、酔って潰れたはずのあんたが動き出して…あれ夢遊病っていうのか?とにかく、あんたに襲われたんだよ!声かけても反応しねえし、犬の耳は生えてるし、力もすげえ強いしで…全然抵抗できなくてかなり怖かったんだからな!」
今はすっかり耳も尻尾も消え、元通りになっていたから証明のしようもないが、俺の表情で色々悟ったのか「マジか…」とソルは神妙な顔をして謝ってくる。
「悪い…全然記憶ねえわ」
「…だろうな。何度呼んでも反応しなかったし、…」
「……」
「…とりあえず、どいてくれ…」
重いし、ほぼ裸の状態で乗っかられると流石に友人相手でも身の危険を感じる。ソルは「悪い悪い」と謝りながら腰を浮かせた。起き上がろうと後ろ手をつくと、俺の上半身を横で眺めていたソルが顔を寄せてくる。
「? なに…」
ソルはペロッと舌を出して、唾液で濡れたままの胸の中心を舐めてきた。
ぬるり
「んぃっ?!」
「お、可愛い声」
「~~~!!!あんたなぁ!!!」
「イででででッ髪抜けるッハゲるハゲるッ!!」
犬化して襲われている時はなんとも思わなかった胸への刺激が、ソルにやられると何倍もくすぐったくて居たたまれなくて、全然違う感覚だった。ほんのちょっとだけ感じてしまった自分が許せなくて、俺は目の前の銀色の髪を思いっきり引っ張って体に灯りかけた熱をどうにか忘れるのだった。
***
翌日…
「ライ、昨日は怖がらせて悪かった。もう襲わねえから出て行かねえでください」
ははーっと廊下で待機していたソルが正座のまま深々と頭を下げてくる。
「あのなぁ…あんたが誓ったところで、昨日みたいに意識がぶっ飛んだらコントロールしようがないだろ。いつ暴走するかわかんねえ男と一緒に住めると思うか(とか言いつつ昨晩は自室でぐっすり寝れちまったけど)」
「ンな冷てえ事言うなよ。オレらの仲だろ?それに夢遊病はオレにもどうしようもねえんだって」
「…、わかってるけどさ」
ソルにだって理解不能なのも、困らせられているのもわかっている。目のクマは日に日に酷くなっているし、睡眠不足でイライラする事も増えてきた。こんな状態のソルを置いて出て行きたくはなかったが、俺だって自分の身を危険に晒すつもりはない。今は定職にもついているし一人暮らしも可能だ。
「隣の部屋借りるとかは」
「却下だ!!てめえぜってえ必要最小限の接触しかしなくなるだろが!!」
「友人は必要最小限で充分だろ?」
「よくねえわ!!」
お互い譲れない状態でしばらく言い合っていると「じゃあ!!」とやけくそのようにソルが言った。
「こうなったら、アイツの所に行くぞ!」
「アイツって?」
「元カレ」
「はあ…?」
余計俺が関わりにくい場所じゃねえかと顔をしかめているとソルはニヤりと笑った。
「アイツこういう超常現象に詳しいから、オレの夢遊病もどきも治せるかもしれねえ」
「ふーん、すごいじゃん」
「ってわけで一緒に行こうぜ」
「え、なんで。一人で行けよ(元カレに睨まれるだろ…)」
「アア?!そっちがなんでだよ!!オレはてめえが職失ってた時支えてやったんだぞ!今度はてめえがオレを助ける番だろうが!」
「うぐ…」
それを出されるとこちらは何も言えない。一応家事やら何やらを担当して支え合う形にしていたが、助けられていたのは間違いないので俺は口を閉じて唸った。
「ってわけで、よろしく頼むぜ!相棒!」
「はあ…ほんとあんたって、調子いいよな…」
「くくっ、クソお人好しネガティブのてめえとバランスいいだろ?」
「誰がクソお人好しネガティブだ」
俺はため息と共にキッチンに向かった。おーいどうしたーとソルが声をかけてくるのを無視して冷蔵庫から目的のモノを取り出す。
「!」
「…はい。色々あったけど、最後のは成功してたから」
手作りのチョコマカロンを皿に並べてソルに持っていった。ソルはそれを見た瞬間、それはそれは嬉しそうに尻尾を揺らして「最高かよぉ!!」と飛びついてきた。
「って、あんた尻尾ッッ!!!」
おわり🐺
🚬・🦊・🐥<おおー(拍手)
🐺<なんで拍手
🦊<三本目にしてやっと手が出せましたね!イケイケ×奥手キャラっていう謎ポジからの卒業おめでとうございます!
🐺<アア?!そういう拍手かよぶっ殺すぞ!!
🦊<あはは
🚬<ふふ、一度友人枠にいっちゃうと攻略が格段に難しくなるから仕方ないワ
🐥<手を出したと言ってもほぼ無意識下での行動だから“チキン”だという事に変わりないがな
🐺<おい、チキンがチキン言うんじゃねえ!
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