短編

リナ

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不死鳥シリーズ

“巨乳の美人OL"のライさん(山田+ライ)

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 ※八章読了推奨
 ※山田目線



「それでね~ライが寝落ちしちゃって~」
「ふーん」
「寝息しばらく聞いてたんだよね~」
「ふーん」

 目の前で楽しそうに話す男は少し前に親しくなったばかりのクラスメイト、狐ヶ崎ユウキだ。ヤクザ息子で学校内で知らない奴はいないぐらいの有名人。顔も良ければ人当たりも普通に良いから(皆から避けられてるだけでユウキ自身に敵意はない)影ではひっそりとファンクラブもあるという。当の本人は“巨乳の美人OL”に首ったけなのだが。

「あーあ、ライに早く会いたいな~」
「毎週電話してんのに会わねえの?」
「会いたいけど我慢してるの。タイミングをうまく読まないとただの当て馬…というか弟ポジションにされちゃうから。ちゃんと計画を練らないと」
「え、見向きもされてねえの?お前が??」

 認めるのは癪だが、ユウキは見た目と物腰だけは抜群に良い。それが見向きもされないってどんだけ高嶺の花なんだ。

「うーん、好かれてるとは思うんだけど子供にしか見られてないというかさあ」

 俺達は高校生、つまり未成年である。相手は成人してると言ってたし、未成年に手を出せば立派な犯罪だ。そこに愛があったとしても数年待つ必要がある。
 (なるほど、美人OLはある程度マトモな人なんだな)
 ユウキが好きになるぐらいだし相当狂ってるかヤバイ奴なのだろうと思っていたが案外違うらしい。未成年に手を出さずかといってユウキとの約束を律儀に守って電話に応じてる。マトモなのにユウキが気に入る人間ってどんな人なんだろう。一目ぐらい見てみたい気もする。

 (…まあ、接点もないしありえないんだが)

 そう思っていた俺の予想は見事に外れることになる。


 ***


 時は経ち、今回の騒動“ヘブン”事件が起きる。学校内の調査をした後、帰宅しようとユウキの車に乗ってると

「あ!柴沢そこ曲がって!」
「…はい」

 窓から歓楽街の様子を窺っていたユウキがおもむろに立ち上がった。

「煙が見える。あの方向…もしかしたら…」

 とある方角から煙が上がってるのが見えた。煙という事は火事か。知り合いがいる店なのか知らないが、歓楽街だしヤクザとして管轄内ではあるはず。
 (喧嘩か煙草の消し忘れか…とりあえずねみいな…)
 歓楽街で何が起きようと俺にとっては関係ないし、眠気もすごかった為、目を瞑ってさっさと寝てしまった。



 バタン

 扉の開閉音で目を覚ます。ユウキの後ろから見知らぬ男が入ってきた。スーツじゃない。

「あれ?誰、この人」

 尋ねるとユウキの体を避けるように前屈みになって男が顔を見せてきた。硬派な感じのイケメンでぱっと見ヤクザには見えない。火事にあった店の関係者だろうか。疑問に思ってるとあっちから自己紹介してくれた。

「ライだ。よろしくな」

 淡々と短めの挨拶だったが、衝撃は大きかった。一気に目が覚める。
 (え?ライ??ライって言った??)
 ユウキが車に乗せるなんて相当気を許してる相手だとは思ったがまさか例の“巨乳の美人OL”さんだったとは。とんでもないサプライズに反応しきれずにいると苦笑と共に握手された。

「ご期待に沿えず申し訳ねえけどただの男だ。あと彼女でもねえから、よろしく」

 今の台詞でユウキの立場を察した。
 (こりゃユウキのやつ、全然相手にされてねえわ)
 場にも立たされてないというか何というか…そもそもライさん男だし、めちゃくちゃカッケーし、なんか色気あるから多分恋人いるし、色々と無理だろ。青臭いだけの年下のガキに攻略できるタマじゃねえ。

 間に挟まれていたユウキが「でしょ?」と言うようにひっそりと肩をすくめてくる。俺はそれにため息で応えるのだった。




 その日の深夜二時頃。俺は謎の寒気に襲われ、ユウキの家の客間で、眠ったり起きたりを繰り返していた。多分だが発熱してる。熱ぐらいで死にはしないし横になって休むだけだが妙な心細さはあった。熱独特のあれである。

 すたすた

 ユウキや組の者達は足音がしない。上の立場の者になればなるほど気配が感じ取りにくくなるのだが、この足音の主は何も隠す気がないのか普通に俺が寝かされている客間まで近づいてきた。それから

「おーい、起きてるかー?ライだけど」

 声をかけてきた。まさかの相手すぎて体のだるさが吹き飛んだ。飛び起きて障子を開けに行く。するとお盆を持ったライが立っていた。

「夜中にごめん。ユウキが叩いても起きなかったって言うから体調でも悪いのかと思って…少し持ってきたんだ」

 経口補水液と野菜炒めの皿を見せてくる。車で会って以来接触はなかったはずだが俺の為にどうして?と驚きを隠せなかった。

「体調はどうだ?」
「少しダルいぐらいっす。あの、それライさんが作ったんすか?」
「ああ、味付けは薄目にしてあるけど…食欲なかったら冷蔵庫に戻すから、気にせず言ってくれ」
「いや俺…」

 ぐうううう…

 腹が代わりに応えてくれた。ライは目をぱちくりとさせた後柔らかい笑みを浮かべる。人の良さが滲み出てる笑い方だった。

「はは、食えそうだな」
「…うす」
「じゃあ食ったらお盆廊下に置いといてくれ。風呂行った帰りに回収してくから」

 じゃあなと廊下に戻ろうとしたライの背に、とっさに声をかけていた。

「あの!」
「ん?」
「ちょっと、話していっすか」
「…もちろん」

 ライは特段驚きもせず普通に部屋の中に入ってくる。それから布団の横に腰を下ろした。俺はその正面の布団の上に胡座をかいて「いただきます」と手を合わせた。

「さっき夜食作ってる時に聞いたよ。ユウキに付き合って色々やらされてるんだってな」
「はい、まあ大したことはできてねえすけど」
「無理やりやらされてねえか?」
「全然す。逆に俺が勝手に追いかけてる感じなんで」

 ユウキは基本、誰に対しても期待しない。組合員を足として使う事はあっても、思考して判断するのは全て一人だ。だから見ててすごく危なっかしい時がある。それを眺めてるだけなのは俺の性分が許さなかった。

「なるほど、山田がセーブしてくれてるってわけか」
「ほとんどおまけ程度っすけど」
「そんなことはねえって。ユウキ、山田の事すげえ信頼してるっぽかったし、これからもユウキのことよろしくな」
「…その台詞、完全に保護者目線じゃないすか」
「保護者…まあ兄貴分ぐらいの気持ちだし間違ってはねえけど」
「ユウキ泣くっすよ」
「泣く?」

 一瞬言うか迷ったが、そのまま続ける事にした。

「ガチ惚れしてる相手に男として見られてねえのは悲しいすよ」
「ああ…そういう…」

 ライは眉を少しだけひそめた後、うーんと腕を組んで唸った。

「いやーユウキのあれって憧れに近いと思うんだよな…」
「憧れ…俺にはそんな風には見えないすけどね」
「じゃあどう見えてんだ?」
「……ユウキの名誉のために黙っときます」
「はは、そっちは伏せるのか」

 嬉しそうに目を細めて笑ってる。こうして笑ってると「格好良い」より「綺麗」な印象の方が勝る。同じ男なのに見れば見るほどドキドキするってどういうことだ。熱のせいで心臓もエラーを起こしてる気がする。

「…ライさんはユウキの事どう思ってんすか?」
「んー近所の生意気なガキ…と言いたいところだが、すごく懐いてくれてる従兄弟、ぐらいかな」
「従兄弟…」

 従兄弟っておいおい。こりゃもう勝率低いどころじゃない。ほぼ負け確だ。大人びたアイツが唯一ガキみたいに馬鹿になって夢中になれる相手なのに、ここまで絶望的な状況とは思わなかった。はあ…と肩を落とした後、最後の一口を食べ終えて「ご馳走さまっす」と手を合わせた。

「お粗末様。全部食ってくれてありがとな」
「マジ美味かったす。手料理なんて久しぶりに食べました」
「そりゃ何よりだ」

 わしゃわしゃ

 頭を撫でられた。大型犬を相手した時みたいな雑な手つきだったが、それはとても暖かいもので、暴れていた心臓が少しずつ落ち着いていくのがわかる。まるで心まで満たしてくれるような撫で方に、兄貴がいたらこんな感じなのだろうか…と一人妄想してしまった。

「じゃ、眠いと思うしそろそろ行くわ」

 ライが空になった皿を回収して立ち上がる。それから思い出したかのように膝をついて目を合わせてきた。

「あ、ここだけの話だけど、ユウキの事を見守ってくれんのは嬉しいが、お前自身の安全もしっかり確保しろよ。アイツ子供に見えてもちゃんとヤクザだから深入りしすぎると巻き込まれるぞ」
「…俺の事、心配してくれるんすか」
「そりゃ心配するだろ。こうして知り合えたのも何かの縁だ」
「…」
「ユウキの事だしちゃんとその辺はわかってくれてると思うが、念のためにな。自分で判断する事は忘れるなよ」
「…うす、あざす」

 不良である自分は“看病されたり”、“心配される”経験は今までほとんどなかった。酷くくすぐったい気持ちになる。
 (なるほどな…)
 ユウキがガチ惚れするのがわかった。アイツはこういう純粋な優しさとは無縁な人生を歩んできただろうから、この人の存在は救いであり…拠り所でもあるはず。

「…」
「じゃ今度こそまたな、おやすみ」
「…うす、おやすみなさい」

 部屋を出ていく背中を見守りながらため息を吐いた。まだ巨乳の美人OLであってくれた方が落としやすかっただろうに。友人を憂いながら再び布団の中へと戻っていく山田なのであった。


 ***


 翌朝。更にだるくなっていた体を引きずって廊下を進む。

「「あ」」

 トイレに向かう道中でばったりとユウキと遭遇した。俺に気付いたユウキが眠そうに欠伸をしつつ近寄ってくる。

「山田じゃん。なんか顔赤くね?大丈夫?」

 心配するように近づいてきたユウキの肩を掴んだ。両手で。

 がしっ

「は?山田?何してんの?頭大丈夫?」
「…俺ぐらいは、お前の肩もってやるよ。お前の味方少なそうだし」
「はあ?何の話?物理的にってことなら全然需要ないから離してくれる?」
「当て馬の話」
「うわ、なんかムカつく。てかそゆこと?」

 手を払いのけつつ俺の言葉で色々と察したらしい。にししと悪戯っぽく笑うユウキ。

「あー、さてはライの魅力に気付いちゃったか~」
「…男だし恋愛対象にはならねえけど普通にいい人だと思うわ」
「でしょでしょ~胸ないし固いしでかいのになんかたまに腰にグッとくるんだから不思議~」
「お前の下半身事情は知らねえ」
「うっわ!ひど!」
「知らねえが、協力はしてやる」

 きっとユウキが一番まっすぐ生きられる道が、あの人との道なのだ。何となく昨日、それだけは悟った。なら、俺が友人としてやれることは一つだろう。俺の決意を感じ取ったのかユウキは苦笑いを浮かべて、それから呆れたという顔で見てくる。

「ほんと山田って山田だよね~…ま、頼りにしてないけど頼らせてもらうよ」
「素直にありがとって言え。で、確認なんだが、あの人って恋人いんのか?最低限そこはおさえとかねえと」
「…いる。ちょー重そうな奴」
「やっぱいるのか。てかお前より重い奴なんて想像つかねえんだけど」
「俺がチワワであっちがゴールデンレトリバー」
「どっちも地味に可愛い犬種で例えるんじゃねえ。てかお前がチワワって、相手どんだけヤバイ奴なんだよ」
「世の中には色んな人がいるんだよ」
「はあ…あの人の事が心配になってきたわ…」

 どっちに転んでもあの人が幸せになれる気がしない。本人の人柄の良さを知ってしまった分余計複雑な気持ちになった。

「あはは、ライって山田が思ってるよりは強いから、安心して」
「ならいいが…、くれぐれもやり方を考えろよ」
「大丈夫大丈夫」
「ほんとにわかってんのかお前…はあ、頭いてえ…部屋帰る」

 色々考えてたら頭痛がひどくなってきた。さっさとトイレに行って寝てしまおう。ユウキに背を向けて歩いていく。




 山田が廊下の角を曲がるのを見届けた後、ユウキは一人呟いた。

「肩を持つかあ…」

 腕を組み、少し思案したと思えばニヤリと笑う。それから部下へと電話をかけた。

「あ、もしもし?すぐ車だしてくれる?山田が体調不良っぽくてさ…うん、うん…インフルってことにして突っ込んどいてくれればいいから…うん、よろしくね」

 早速頼らさせてもらおうかな、とユウキは呟くのだった。


 end
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