短編

リナ

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不死鳥シリーズ

★モブ男くんは見た(フィン×ライ)

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 ※8話「痴漢ダメ絶対」まで読了推奨
 ※「痴漢ダメ絶対」の三時間ぐらい前の話
 ※モブ男目線
 ※色々注意(ストーカー、痴漢、複数…)





 上司に毎日詰められ、無理難題を押し付けられ、ノルマというプレッシャーで押し潰され…挙げ句の果てに同棲していた彼女が浮気男を家に呼んでいる現場に遭遇。残業で疲れはてた状態でNTR展開は普通に処理できない。

「最悪だ」

 昨日の事を思いだし深すぎるため息を吐いた。彼女は今朝荷物をまとめて出ていった。家に帰っても誰もいない。

「はあー…」

 三連休なのに休日出勤させられたことなんてどうでもよくなるぐらい落ち込む。仕事も恋人もうまくいかない俺って、生きてても意味ないんじゃないか。そう思えてくる。

 《白線の内側までお下がりください》

 プルルルル…

 この駅は都会へ繋がるターミナル駅の為、田舎にしては立派な方だ。しかし、飛び込み防止のゲートは設置されておらず、大きく一歩踏み出せば…線路へと転がり落ちることができる。

 (もう、このまま飛びこんじゃおうかな…)

 そんな事を思ったが

 《扉が開きます、ご注意ください》

 結局俺にはそんな度胸はなかった。無事に電車は停まり、目の前の扉が開く。すると

「ふぁ~ねみぃ~つーか腹減った」
「アラ、そうネ。乗り換えまで時間あるし何か食べまショ」

 田舎の駅にしか停まらず利用者もそんなにいない電車から、あり得ない程足が長く、顔も良く、なんと言うか…オーラのある男達がおりてきた。一番手前に柄と口も悪い猫背の若い男、続いて男女どちらと捉えるべきかわからないミステリアスな背の高い者、その後ろから…同じ男でも見惚れる程のスタイルと端正な顔立ちの白金の髪の男。ここはハリウッドのレッドカーペットか??と驚いていると、

 スタ、スタ、

 ド派手な三人の後ろから黒髪の男が出てくる。

 (…この人だけ雰囲気が違う…なんというか…普通だ)

 手前三人と比べればそこまで尖った要素はなく、イケメンなのは間違いないが、身に付けてるものも立ち居振る舞いも普通の範疇だ。少し目付きが厳しそうに見えたが眠そうな事もあってその雰囲気も和らいでいる。

 (前の三人とは別のグループか…?)

 そんな俺の予想を、イケメン集団は当たり前のように裏切ってきた。ド派手な三人が揃って黒髪の男の方へ顔を向ける。

「おーい、ライ、てめえ、何が食いたいんだ~?」
「…」
「ふふ、病み上がりだしうどんかお蕎麦がいいんジャナイ?もしくは和食?」
「…病み上がりって程病んでねえし。そもそも胃腸は弱ってねえからなんでも食える」
「そうかぁ?無理してぶっ倒れんじゃねえぞ~」
「…」
「なんかオレ…無視されてね?」
「あんたは少しは自分の行動を省みなサイ」
「アアンッ??」
「ライ、みてくれ。あそこにサツマイモの天ぷらがのったお蕎麦屋さんがあるぞ」
「!!」

 ド派手な三人は黒髪の男(黒髪くんでいいか)を取り囲んでわいわい騒いでいる。特に白金の男なんて、所作が紳士的なこともあって余計目立っていた。まるでお姫様を相手してるんじゃないかってレベルの扱い方だった。言っちゃなんだが俺よりも背が高いしイケメンの男にやる対応ではない。

「あまり騒ぐと迷惑になるぞ」

 黒髪くんは少し迷惑そうに顔をしかめ蕎麦屋の方へ歩いていく。三人もそれに続いた。まさか彼が集団のリーダーなのか。いや、話してる雰囲気では背の高い者が年長のようだが…。普通に過ごしてこんなにイケメンが揃うことなんてあるのだろうか。実は隠れてドラマの撮影をしてる、と言われた方がしっくりくる。

 (一体どんな集団なんだ…)

 俺は知的好奇心に負け、彼らの後を追うことにした。念のため言っておくがストーカーではない。俺も、サツマイモの天ぷら蕎麦が食べたかったのである。



 ずるるっ

 ホームの中にある小さな蕎麦屋のカウンター席。そこで俺は奇跡的に黒髪くんの横に座って蕎麦を食べていた(俺、黒髪、白金、長身、猫背の並びだ)。

 ずるる、もぐもぐ

 黒髪くんは黙々と食べ進めていて、表情筋も仕事を放棄した状態だ。大の男が黙々と食べる姿なんて見ても楽しいものではないはずなのに、なのにだ。

 ごくん…

 どうしてか、彼が嚥下する仕草にドキリとしてしまう。口に蕎麦が入っていく瞬間、その赤い舌が見えようものなら…酷くそわそわした。俺と年も近そうだし同期を見てるのとそう変わらないはずなのになんだこれは。心臓がバクバクとうるさいし、目が奪われるし、

 (…この人、色っぽいな…)

 そこまで考えてハッと我に返る。

 ズルルッ

 慌てて蕎麦を口に運ぶ。あまり見てると変に思われてしまう。焦って食べ進めていく…が、その心配はいらなかった。

 ぼー…

「病み上がり」の彼はボンヤリと蕎麦を口に運んでは黙々と咀嚼していた。あまり周りを気にしていられる状態ではなさそうだ。怪しまれてないことにホッと胸を撫で下ろすが、それと同時に「体調は大丈夫だろうか…」と心配になる。

「ライ」

 黒髪くんの横にいた白金の男が心配するように呼んだ。

「ライ、大丈夫か。眠いのか?」
「眠くは…うん、ちょっと眠いわ…」

 ふあーあ…と欠伸した。色っぽい雰囲気にあどけなさが混じる。うん、なんか良いな。ん…?良いなってなんだ、良いなって。何が良いんだ。

 (落ち着け、西南さいなん つとむ)

 俺は女の子が好きだ。可愛い女の子。小さくて守りたくなるような女の子が大好きで一度だって男に興味が湧いたことは

 ガタッ

「顔洗ってくる」

 蕎麦を食べ終えた黒髪くんが立ち上がる。

「お!トイレかあ?オレも行ーー」
「お前は来んな」
「アアン!?トイレ行くのは基本的人権のッ…って、あ!ちょっ!無視すんなゴラア!」

 猫背の男が速攻袖にされ、まだ粘ろうとしたところを左右にいた男に肩を掴まれ引き止められる。喧嘩中なのだろうか。

 そそ…

 俺も目立たないように気を付けながら会計をすませ、黒髪くんの後を追った。ちなみに俺もトイレに行きたかったのである。決してストーカーでは(以下略)



 ジャバババ

 改築されたばかりで比較的綺麗な駅のトイレ。そこで黒髪くんは水が散らないように気を付けつつ顔を近づけて洗っていた(俺は用を足しながら眺めている)。

「はあ…」

 ぼんやりとしていた黒髪くんの顔が少しだけシャキッとして、荒々しく前髪をかきあげる仕草をする。水も滴る良い男、を地でいく彼はハンカチで軽く顔を拭いた後、あろうことか俺の横に並んできた。

 (え、ちょ、待って)

 と、トイレするの?どどどどうしよう。黒髪くんの下見ちゃっていいのか。いいのかってなんだ。いいのかって。同性だし見てもいいだろ。その発言の方がよっぽどヘンタイだって。

 ポタタ…

「あ」

 気づけば鼻血が出ていた。まだ黒髪くんはベルトに手を掛けただけ。キョトンとこちらを見ていた。ひいっ!初めて目が!目があってしまった!!悪いことをしてた自覚がある分(ストーカーしてましたゴメンナサイ!!)、その目を真っ直ぐ向けられた瞬間竦み上がって、

「ひゃわあーー!!!」

 叫んでた。いやなんで俺が悲鳴あげてんだよ。悲鳴あげたいのはどう考えても黒髪くんだろ。不審者すぎて通報案件だぞ西南勤。

「大丈夫ですか」

 しかし黒髪くんは突然鼻血を出して挙動不審になった俺に対して、引くでもなく、逃げるでもなく…優しくティッシュを渡してくれた。俺はティッシュと黒髪くんの顔を交互に見て、

「ううっ…ありが、ど、ござ、びっ」
「ええ?!」

 号泣した。



「…なるほど、散々な日でしたね」

 ホームの端っこのベンチに移動した俺と黒髪くんは外の景色を眺めながら話していた。黒髪くんは接客業でもやってるのか話を聞き出すのがうまくて、ついつい昨日の事を話してしまった。こんな見ず知らずの男の愚痴なんて興味ないだろうに、黒髪くんは静かに聞いてくれていて、なんて良い人なんだろうと更に涙が浮かぶ。

「ぐすっ、い、イケメンのっ、君は、浮気なんて、されないだろうけど、さっ、俺は、俺はなんもできないから…っ」
「俺もされましたよ」
「へ」
「浮気…というか寝とられ?やられました。だからわかります。その散々な気持ちは…」
「なっ…」

 こんなイケメンでもNTRされちゃうのか。マジか。この世界ハードモードすぎる。互いに妙な共通点を見つけ同士を見つけたような気分になる。黒髪くんも近い気持ちだったのか、今までのよそよそしい態度ではなく、気さくに笑いかけてくれた。それがまたイケメンすぎて、惚れそうだった。いや惚れてんのかな俺…。

「お互い、頑張りましょ」

 ぽんっと俺の肩を叩いて黒髪くんが立ち上がる。視線の先には白金の髪の男が立っていた。男は不審なものでも見るように俺を睨み付けてきて、その視線があまりにも鋭いもんだから、秒で涙が引っ込んだ。なにあれこわい。王子様の甘いマスクはどこいった。黒髪くんが軽く手を振って去っていく。俺は会釈に留めてその背中を見送った。

 (ああ、あの人と会えてよかった)

 頑張ろう。辛いのは俺だけじゃない。皆どこか苦しみながら生きてるんだ。頑張って生きてるんだ。一緒に頑張ろうと言ってくれた黒髪くんの為にも死ぬなんて絶対ダメだ。

 (帰ろう)

 そして黒髪系の…AV探そう。



 ガタタン、ガタン

 ターミナル駅から都会へ向かう電車に乗りこみ、何駅か止まると満員電車になった。流石三連休最終日。足の踏み場がないぐらいのぎゅうぎゅう詰めである。痴漢と疑われたくない俺は扉に顔をくっ付けて、鞄を抱き締める形で両手を固定して腹で潰していた。

 (あー満員電車は疲れるなあ…)

 独特のくぐもった熱気に包まれ、人波に押されて必死に踏ん張って耐える。壁にくっついてるから大分楽だが、左右の揺れはどうしようもない。あと十五分はこのままかな…とか思ってると、

 ガタタンッ

 電車が大きく揺れ、隣の男と肩がぶつかった。謝るのもあれだがなんとなく確認しようと横をみたら

 (え!!!!)

 ターミナル駅で別れたはずの黒髪くんが立っていた。しかも、俺の真横に。こんな運命的なことありえるのだろうか。信じてもらえないだろうが俺はあの後彼らをストーキングしてない。普通に何も考えず帰宅するために電車に乗ったのだ。それなのに、  

 (まさかまた会えるなんて…)

 と歓喜する。いっそ声でもかけようかと思ったが、

 スッ

 俺と黒髪くんの間に腕が現れた。何かと思えば黒髪くんの前に立っていた白金の男が…壁ドンの形で前のめりになったのだ。満員電車だしその距離感も姿勢もなんとか理解できるが…白金の男の口元に怪しい笑みが浮かんでいた。

「っ…おいっ」

 黒髪くんが声を潜めて何かを訴える。どうしたのだろうと横目でひっそりと見てると、奥の手すり側に立っていた猫背の男が黒髪くんの背中に手をいれていた。

「ん、っ…、はあ、…お、ま、っ」

 耐えるように喘ぐ黒髪くん。待って待って。ちょっと待って、頭が追い付かない。猫背の男が黒髪くんの背中に手をいれてて、黒髪くんが喘いでて、え?何してるの彼らは?まさか、まさかなあ…と、もう一度顔を向けて確認すると

「ライ、」

 白金の男が、黒髪くんの耳元で何かを囁いた。

「~!!!」

 途端に黒髪くんの顔が赤く染まる。慌てて俯くが耳まで真っ赤になった姿は隠しようがない。なんだよ今の反応。可愛すぎる。イケメンを可愛いと思う日が来るなんて思わなかった。ヤバい。こっちまで心臓がドキドキしてきた。

「はあっ、ッ、く、ぁ…っ、はっ、うぁ」

 必死に声を殺してるが段々とそれに色がついていくのがわかる。幸いにも満員電車の中は無音ではなかった。酔っぱらいやJKがいる為普段よりざわついてるぐらいで。

「ッ、ンン、ぅ…、っん」

 おかげで黒髪くんの喘ぎに気付いてる者はいなかった。視覚的な話でいっても、俺と白金の男と猫背の男が囲んでて周りからは見えてないはずだ。つまりバレる事はない(俺にはバレてるけど)。完全犯罪とわかってて男達は手を出してるのだろうか。ド派手な見た目を裏切らない思いきった行動に感動…じゃなくて、驚きを隠せなかった。

「はあ、はっ、…ふ、ぃんっ、…、ッ」

 名前を呼びながら白金の服を掴む。白金は黒髪くんの耳にガブリと噛みついて吸った。赤くなっていた耳が更に染まる。

「ンァあ…っ」
「!!」

 小さく抑えられていても隠しきれない、その甘く絞り出された声に、腰がゾクリと震えた。

 (なんだ、今の…っ)

 色っぽいなんてレベルじゃない。自分に言われたわけではないのに「誘われた」と体が誤認してしまう。俺はほとんど無意識に黒髪くんへと手を伸ばしていた。

 ギロリ

「ひっ…!!?」

 俺の不埒な手を阻むように白金の腕が黒髪くんの腰へ移動した。慌てて顔を上げると、オレンジの瞳がジッとこちらに向けられていて

 “サワルナ"

 殺気混じりに睨まれた。

「ッ!!!」

 あまりにも、あまりにも、恐ろしい瞳で牽制された俺は半泣きで腕を戻した。殺されたくない。その一心で自分の欲望を押し殺す。いくら昼間までは自殺願望がちらついていたとはいえこんな形で殺されたくはない。

「……」

 俺が黒髪くんに触る気がないとわかると、オレンジの瞳は再び黒髪くんの方へと戻った。み、見逃してくれたか。ホッとしたのも束の間、黒髪くんの喘ぎが再開する。

「あぁ、や、ふぃ、ん…はぁ、んぅ、くっ、アァ、やっ、めっ」 

 しかも見るからに激しさが増していて、まるで見せつけるかのように白金は欲望のまま黒髪くんに触れた。昼間のお姫様扱いが嘘のように容赦がない。

 (あれじゃ野獣だ…)

 白金も、猫背も、嬉々とした様子で黒髪くんをいたぶってる。黒髪くんは騒ぎにしたくないのか静かに耐えるだけで、なんだか可哀想に思えてきた。まさか黒髪くん、一人だけ毛色が違ったのはこんな事をさせられる為だったのか?とあらぬことを考えてしまう。

 (どうにか助けてあげられないかな…)

 スマホを取り出した。撮ったら怒られるだろうが、牽制にはなる気がする。黒髪くんには昼間慰めてもらったし何かしてあげたい。意を決してカメラを構えた。

 ピコン

「?」

 エアドロの通知がくる。満員電車だし送り先を間違えたのだろうかと不思議に思いつつ軽く開いてみた。すると

 “黙って観客してんならイイモン見せてやんぜ"

 黒背景に白文字でそう書かれた画像が現れた。なんだこれ、と瞬きを繰り返してると

 コツコツ

 固い音が扉の振動を通して聞こえてくる。音の方を見てみれば、黒髪くんの奥、手すりを背に立ってる猫背の男が扉をノックしていた。その手にはスマホがある。まさか、彼が今の画像を送ってきたのだろうか。猫背はニヤリと笑って黒髪くんの首に掌をのせた。スルリと撫でたと思えば髪の毛をかきあげて…赤く染まったうなじを見せてくる。

 (うわわわわ!!!禁断すぎる!!)

 うなじなんて別に性的な箇所でも何でもないはずなのに。スーツでも見慣れてるはずなのに。どうして黒髪くんのうなじはこんなに美味しそうなんだ??と混乱した。目が離せない。

「そ、るっ、ンッ、な、にしっ」

 黒髪くんがなんとか腕を払おうとするが、白金の責めによって無駄な足掻きになってしまう。

「良い子にしてろって」

 猫背が獰猛に笑った。昼間彼らが一緒に過ごしてる姿を見てなかったら普通に「痴漢の加害者と被害者」として通報してただろう。というか、まあ、間違ってないし通報すべきなんだろうけど、でも俺は

 (も、もう少しだけ…見ていたい…)

 ゴクリと生唾を飲み込みながら黒髪くんを見つめた。俺の視線を捉えた猫背はペロリと舌なめずりして、見せつけるように黒髪くんの襟を後ろにずらしてくる。二人の男に責められ興奮に赤く染まる背中がチラリと見えた。ダメだ。これ以上見てると本当に俺まで催してしまう。というか、催してた。懺悔します。俺、男に欲情してます。勃ってます。

「っ、…っ、んくっ、ふ…、ん…」

 耐えきれず黒髪くんは手で口を覆って息を漏らすだけになる。だが、その苦悶する顔にはありありと興奮の色が映っていて、腰がぐつぐつと煮え立つようだった。

 スルリ

 ふと白金の掌が黒髪くんのズボンの前側を撫でる。すでに形を作っていたそこは痛いほど張りつめていて、撫でられるだけで黒髪くんはイきそうになっていた。白金は優しい笑みのまま黒髪くんの様子を見下ろしてる。この人、綺麗な顔に反して大胆すぎる(いいぞもっとやれ)。

「っー!!…うっっ、ぁっ…」

 黒髪くんが目を見開き、キッと強めに睨み付けた。涙目ということもあって威力は半減している。白金は色気の漂う笑みを浮かべて躱し、少し強めに掌を擦った。

「んん…、ッッ…!!」

 頭を横に振ってやめろと意思表示してる。あまり動くと周囲に気付かれてしまうがそれすらどうでもよくなるほど限界なのだろうか。

「ライ、」
「んっ…!!!」

 無理!!と黒髪くんの心の声が聞こえた気がする。白金はすぐそこにあった耳たぶにかじりついて構わず続けた。

「一回だけだ」

 イって見せてくれ、そう言うように白金の男が微笑む。黒髪くんは涙目のまま白金を見上げ動揺を伝える。しかし白金にとってそれは「お誘い」にしか見えずグリっと強めに押した。

「~ーッッ!!」

 イイ所をかすったのか、黒髪くんが前のめりになる。そこでちょうど電車の揺れもあり

 ガタタンッ!!

 大きく車内が揺れて、黒髪くんが白金の腕に倒れこんだ。ビクリと肩を震わせる。

「ふっ、あぁ…っ…!!」

 吐息と共にかすれた声を漏らして黒髪くんがイった。トロンと目が蕩けて、白金の男の肩に額をのせ、呆然としてる。猫背が「おいおい捕まんぜ?」と笑って、手にもっていた黒いスマホを黒髪くんのズボン(後ろポケット)に差し込む。先ほどエアドロを送りつけてきたスマホだった。

 (あれ?あのスマホは猫背の男のものではなかったのか?)

 不思議に思ってスマホを見つめていると猫背の男がシーっと口の前で人差し指を立ててくる。まるで俺も一緒に悪巧みをしたかのようなノリで笑いかけられドキりとした。

 <次は○○駅にとまります。お出口は左側です>

 そんなこんなでカオスな満員電車が終了したのであった。


 ***


「お前ら信じらんねえ!!どうかしてる!!!」

 先ほどまでふにゃふにゃに蕩けた顔をしていたライが、トイレを出た後、憤慨した様子で駅の改札を抜けていく。「ああ!ちょっと待ちなサイ!どうしたのヨー!」と慌ててグレイが追いかけた。

「あーあ、怒っちまった、てめえのせいだぞ」

 狼男が私の横に立ち笑っている。

「元はといえばお前が始めた事だろう」
「悪ノリして泣かしたのは誰だよ?綺麗な面してほんとクズだよなあ、恐れ入るぜ」
「…」
「隣で巻き込まれたアイツも今頃どっかでマスかいてんだろうなあ。どー見てもノンケなのにライは罪な男だぜ」
「アイツ?」
「てめえの横にいた男だよ。ライに触ろうとして、てめえがおっそろしい顔で睨み付けてだろが。もう忘れたのかあ?」
「ああ、…あれか」

 ライに触れようとした恥知らず。もはや顔すら思い出せないがそんな者がいた気がする。

「アイツがノンケじゃなくなるか賭けようぜ」
「…賭けにならんな」
「くくっ!たーしかにぃ?」

 哀れなモブ野郎だぜ。そう言って狼男がケラケラと笑った。



 end
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