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不死鳥シリーズ
★ファンデ(グレイ+ライ)
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※六話読了推奨
※ライにつけられたキスマにファンデを塗る話
※ネコ(仮)+ネコ(仮)
「驚いたワ~まさかあんたから告白するなんてネ」
グレイが机に置かれたポーチを漁りながら呟いた。部屋で二人きりの状態で言われたため、無視するわけにもいかずそれとなく返した。
「…宙ぶらりんの関係も嫌だったし、色々あって、踏み出してみる事にした」
「ふふ、色々ネエ…」
意味深に笑いながらグレイが振り返ってくる。その手には丸い形の化粧品?が握られていた。
「ほんとにやる気かよ…」
「そんな状態じゃお客さんが困っちゃうモノ」
「はあ…」
俺は今グレイの部屋にいた。控え室の奥にある基本的には立ち入り禁止とされてる場所なのだが、昨夜フィンにつけられまくったキスマを消してもらうためにほぼ無理矢理押し込まれた。服でぎゅうぎゅう詰めのクローゼットに床に散らばる色んな下着(女物も男物もある)。大人の玩具やそういう小道具も普通に転がっててなかなかにカオスである。
(思った通りごちゃごちゃしてるな…)
ベッド横に置かれていたソファに腰掛け、気まずげに視線をさ迷わせているとグレイがくすりと笑いかけてくる。
「なに固くなってるノ。別にとって食ったりしないワヨ」
「わかってる。…普通に落ち着かねえだけだ」
「うふふ、普段は入らない場所だと緊張しちゃうわヨネ~。あたしも、店を長くやってるけど、ここに人を入れさせたのは数人しかいないし不思議な気分だワ」
「いいのかよ、キスマなんかの為にそんな大層な歴史を軽くしちまって」
「ライの事は信用してるし、何より店の中であんたを脱がせたらあの二人が落ち着かないデショ?だから特別ご招待❤」
「そりゃ恐悦至極だ…」
呆れつつ返せば、ソファの横にグレイが腰を下ろしてきた。化粧品を片手にくすりと笑う。
「じゃあ、早速だけど、襟を捲ってくれるカシラ?」
「…んー」
言われるままボタンを一つ外して襟を緩めた。確か首とうなじに何個かつけられてたはず、と思い出してると
ふぁさ
「っ!」
ファンデをのせた筆が首にふれてピクリと飛び上がる。
「あら、ゴメンナサイ。声かけた方がよかった?」
「いや…大丈夫」
「それにしても熱烈だコト。こんな濃いのつけちゃって…結構きつめに吸われたんじゃないノ?」
くすくすとからかうように笑われ、顔をしかめた。もしも同じことを他人に指摘されたら死にたくなっていただろう。グレイが性に関して緩いおかげでギリギリ耐えられた。俺はなるべく平静を保って返した。
「まあな。肩甲骨あたりとかは特に、…噛まれて普通に痛かった」
「んまー!激しい❤どれどれ…」
「おい!脱がすな!」
グレイが襟を後ろに引っ張って脱がそうとするので慌てて手首を掴んで止めさせた。
「あらあらおアツイこと❤」
だが服の隙間から見えてしまったらしく、グレイは笑いながら襟から手を離した。そして再びキスマ隠しの作業に戻る。たまに筆が皮膚の薄い部分をかすってゾクリとするがなるべく気にしないようにした。
「ちょっと捲るわヨー」
「んー」
「あら、ここもジャナイ、ふふっ」
「おいそんな奥はいいって、どうせ見えねえから」
「いいからいいから❤」
「何が良いんだ…」
ため息を吐きつつ、もうグレイの好きにさせた。
(今更裸を見られたところで全く気にならないしな…)
「ライはつけなかったノ?」
一通り隠し終えたかという所でグレイが尋ねてきた。
「え?」
「キスマ、フィンにお返しでつけなかったノ?」
「やってねえけど…え、こういうのってやり返すのが普通なのか?」
「絶対じゃないでしょうけどつけ合った方が燃えないカシラ?ライはつけたくならないタイプ?」
「…タイプも何も相手につけた事ねえわ」
「へ」
今まで一回もないの、と確認するように言われ、コクリと頷く。
「なんですってえええーー!!??」
ソファから転げ落ちそうな程驚くグレイ。まるで幽霊にでもあったみたいな反応をされ、普通に戸惑った。真人と付き合うまでは心の底から愛せる奴なんていなかったし、そんな真人相手だってつけたいとは思わなかった。良くも悪くもスポーツ感覚のようなセックスでねちっこさは皆無だったのである。
(しかし、よく考えたら恥ずかしいよな…)
この年でキスマも知らねえとか、何やってたんだよってレベルだ。そもそも他人に聞かせる話ではない。今更になって羞恥心で悶えているとグレイがくすくすと笑った。
「やだ、ライってば~!キスマつけた事ないノ~???こんなに自分はつけられてんのに…カワイイじゃないノ~❤」
「うるせえ…」
「うふふ、照れなくていいのヨ!キスマなんて簡単❤あたしが教えてあげル❤」
「いやいいって…困ってねえし…」
実際つけたいと思ったこともなければつけれなくて困ったこともない。今回の俺みたいに、翌日服で隠せない場所につけて困らせてしまうぐらいなら、もうこのまま知らない方が良い気がする。
「ダメよ!キスマはマーキング!一種の愛情表現!愛情表現はいくらでも…どんな形のものでもやれた方が良いワ!」
「…そうかもしれねえが…」
「フィンだってライに噛まれたら喜ぶわヨ~❤心配性の欲しがりさんなんだから、テンション上がる事間違いなし❤がぶってやってあげなさイ~❤」
「がぶって…」
そんな勢いでつけようものなら倍返しにされて全身真っ赤に染められる気がする。…うん、ダメだ。あまりにも行動と結果が見合ってない。
(丁重にお断りしよう…)
「グレイ俺…」
「さあ、どこで練習しようカシラ。あたしの腕だと吸われる強さがわからないしやっぱりライの体を使った方が合理的よネ❤」
俺が及び腰なのに対し、グレイはやけに乗り気で、すでに化粧品はどこかへと消えていた。両手を解放しじりじりとにじり寄ってくる。
「ちょっ、冗談じゃねえぞ」
逃げようとソファから腰を上げれば
ガシッ
速攻手首を捕まれた。
「!!」
「うん、こっちの腕はそこまでついてなかったし、見せやすいからちょうどいいワネ!」
そう言って我が物顔で俺の手首を捻ったと思えば皮膚の薄い裏側を天井に向けさせられた。
「おい、グレイ!」
肩を掴んで下がらせようとするが例のごとくあり得ない程の馬鹿力を発揮し無効化された。そして、グレイはさも当たり前のように手首に近づき、ぺろりと舌を這わせてくる。
「っ…!やべえって…!ソルにキレられるぞ…!」
善意での実践講習なのはわかってるが…互いに相手がいるのだから余計な火種は作るべきではない。焦って止めさせようとするとグレイはくすりと妖艶に笑った。
「あたし達の心配をしてくれるノ?ソルとはただのセフレだし互いに遊びまくってるから大丈夫ヨ❤」
「何がどう大丈夫なんだそれは…」
「うふふ、体が満たされれば問題なしってコト❤」
「…」
あんたらは獣なのか?と冷めた目でツッコんだ。
「まあ、一途なライには一生理解できない感覚かもネ❤」
「…フィンもこっち派だと思うが」
「フィンは、あんたにキスマつけてもらえるメリットを説明すれば許してくれると思うワ!」
「説明してまでしてこんなしょーもない事をやりてえのか…あんたは…」
「だぁってぇ❤あたしが相手する子達みんな慣れてる子ばっかだから、こんなカワイイ事言ってくれる子なんていないのヨ~!若い子に手を出すのは色々ほら、ご時世的に、あれでショ?うふふ、だからテンション上がっちゃうワケ~~❤」
「いやいや…って、おい…っ、」
まだ話の途中なのにグレイは手首に再び顔を近づけていた。慌ててその口を手で覆おうとしたら、
ぬるっ
「ッ…!」
濡れた舌に掌を舐められる。ぞくりと鳥肌を立て逃げるように腕を引くと、グレイは改めて手首に口を付けた。今度はねっとりと舐めてから、かぷっと肌を捕らえ吸いついてくる。
じゅるっ
軽い痛みと共に痺れるようなむず痒さが広がる。
「ぁ…!う、グレイ…」
「…ぷは、こんなもんカシラ」
グレイが顔を離すと手首に赤い痕がついていた。…いや、消す為に部屋に連れ込まれたのになんで追加されてんだよ、と頭を抱える。とにかくこれ以上続けられるのを避ける為「十分わかりましたからもう勘弁してください」としきりに頷いた。しかし当の本人はノリノリのまま説明してくる。
「今の感じで大体わかったと思うケド、唇をあてて、少し強めに吸ってちょっとキープね」
「…はい…」
「薄かったらもう一回同じ場所に重ねてやってみるといいワ」
「うん…」
グレイの目を直視できず斜め下を向きながら頷く。自分の手首につけられた新しいキスマはやけに赤く見えて恥ずかしかった。頼むからもう解放してくれと扉の方を見るが、侵入者を封じる為か扉には内鍵がかけられていた。助けは期待できないらしい。
「言っておくけどこれは内出血だから人によっては一週間ぐらい消えない子もいるノ。くれぐれも場所には気をつけるように…ってこの注意は今のあんたにはいらないワネ。ふふっ」
くすくすと笑い声が響く。ああそうですとも。現在進行形でキスマの場所で困らされてますから。
(つける時は絶対服で隠れる所にしよう…)
「ふふ、まあフィン相手じゃ一日もせずに治癒しちゃうでしょうケドネ」
「それってマジでやる意味あんのか…?」
流石に不特定多数に見せつけたいとは思ってないが本人に気付かれず(見せず)に終わるのならやる意味はない気がする。
「大アリよ!愛情表現は過程こそ大事なんだカラ!」
「過程…」
「そうそう、俺のだ~って求められるの嬉しいデショ❤」
「…」
「わからんでもないって顔ね、素直でよろしい❤その調子でフィンにつけてあげなさいネ❤」
「…気が向いたらな」
襟を戻して立ち上がろうとすると再び腕を掴まれた。
「待ちなさい、ライ」
「…なんだよ?首周りのキスマは隠してくれたんだろ?」
首さえなんとかなれば、客に見られる部分はとりあえず隠せたはずだ。しかしグレイは首を振って俺を再びソファに座らせた。
「隠す方は終わったワ。でも、最後の仕上げがまだヨ」
「仕上げ?」
「“講習"の方の仕上げ」
そういってグレイは悪戯っぽく笑う。
「確認もかねて、最後にライもやってみまショ!」
「はあ?」
「自分の腕にやるのは恥ずかしいでしょうし、あたしにつけてみなサイ❤」
「はああッ??」
気は確かかと目を見開く。だがグレイは全くもって正気らしく、妖艶な笑みを浮かべて服を脱ぎだした。おいおいおいとその手を掴む。
「待て待て!なぜそうなる!」
「だってこれじゃつまらな…じゃなくて、あたしタダ働きになっちゃうし~等価交換じゃないワ~」
「う…」
「従業員立ち入り禁止の部屋に入れて、ファンデで隠してあげて、キスマ講習もしてあげたのにサ~~?(まあライの体にキスマつけて遊べたから損したとは全然思ってないケド❤)」
「…」
幻獣は等価交換を重んじると言っていた。
(…グレイには日頃から助けられてるし、ここは従っとくか…)
だからってキスマの付け合いはおかしいが。頭の隅で呟かれた冷静なツッコみはこの際聞こえないフリをした。彼らと過ごす上で細かいことを気にしていたらこっちが疲弊してしまうのは重々承知してる。さっさと従って満足してもらおう。
「本当にソルは気にしねえのか?」
「ええ、誓ってもいいぐらい、お互い気にしないカラ。色々今更だしネ、ふふっ❤だからライも思い切って好きな場所につけてご覧なさイ❤」
どこでもどうぞと体を差し出されるが、服に隠れない場所は論外として、セックスしてて目に入る場所も避けたいなと思った。となるとどこだろうと首を傾げていると
「案外ないもんだな…」
「無難な所でも探してるノ?ふふ、ないワヨ~どこについてても見つけた瞬間ドキってするカラ❤」
「…」
無理ゲーじゃねえかと顔をしかめ、ならば、と上の服をずらして肩を露出させた。普段あまり気にした事がなかったがグレイは肩幅が結構ある。筋肉も均等につき、鎖骨がくっきり浮き出ている肩は同じ男から見てもなかなか美しい。
(背が高いグレイなら上から見られる事は少ねえよな)
セックスの体位によってはここも丸見えになるだろうが普通に過ごす分には影響は少ないだろう。
(よし)
ソファの上で軽く膝立ちになり、からかわれる前に…と意を決し、噛みついた。
「ふふ」
肌と唇が触れた瞬間、耳のすぐ横で笑われ、くすぐったくなる。
(変な気分になるって…)
気恥ずかしさに心拍数を上げながら、早く終わらせようとさっきグレイがやったみたいに唇をあてて
ちゅるっ
結構強めに吸ってみた。
(こ…こんなもんか…?)
恐る恐る口を離して確認してみると、ほんのり色づくだけで、痕と言えるものはついてなかった。マジか。驚くと同時に昨日の俺はどんだけ強く噛まれて吸われてたんだと内心ビビった。
(必死になってて気づかなかった…)
俺が戸惑っている事に気付いたのかグレイが腰を抱くように腕を回してくる。それからトントンと背中を叩いてくる。
「ライ、もっと強くやらないと」
「…でも」
「もう一度あたしにつけられないと思い出せない?」
「…ッ!!」
いえ、やります。やらせてください。即答するように目の前の肩に噛みついた。さっき遠慮してしまった分、もうやり直しは嫌だと、思いっきり吸ってみた。
じゅるっ
卑猥な音が部屋に響いて恥ずかしくなる。だが、ここまできてビビる方が格好悪い。目を瞑り耐えていると耳元で低く囁かれた。
「もっと」
色っぽい催促に、ドキリとする。その声を聞いてるだけで頭の奥が痺れてくる感じがした。
(もっと、か…)
ぼーっとしつつも言われるまま強く吸い…歯を立てた。
「…、ふふ」
上出来だと言われるように背中をさすられる。トントンとリズミカルに叩かれたと思えば腰を掴まれ引き剥がされた。
「あ…」
自分でも信じられないが、吸いついていた肩に名残惜しさを感じていた。もっと噛んでいたかった、なんて死んでも言えないが。自分の衝動に驚きを隠せずにいると、グレイが俺を見上げながら笑った。
「ちょっと酔っちゃったカシラ、ふふ」
グレイはくすりと妖艶に笑って俺の唇を指先で拭ってくる。なんとも甘い空気に耐え切れず、目をそらし、代わりに自分の服でグレイの肩を拭った。それからくっきりと赤い痕がついた肩を隠すように、ぐいっと服を引っ張ってやれば
「コラ、伸びちゃうデショ❤」
「…わり」
「それにせっかくライの初キスマなんだから、記念に撮っとかないと!」
「いッ…絶対やめろ!」
キッと睨みつけた所でコンコンと扉がノックされた。
「おいゴラァ、グレイ」
外からソルの不機嫌そうな声がする。関係性を知らない状態で聞けば喧嘩でもしにきたのかと思われても仕方ない治安の悪い呼びかけである。グレイは立ち上がり、化粧品をポーチに戻していく。
「あらあら、わんこを寝かしつける時間みたいネ」
「…みたいだな」
俺が急いで身なりを整え立ち上がるのを見届けてから、グレイは扉を開けた。
ガチャ
「んぁ?」
ソルが、部屋の中に俺がいるのを見て、目を丸くする。
「なんだぁ、人を部屋にいれるなんて珍しいじゃねえの。とうとうライも食ったのかよ」
「ふふ、ファンデで痕を隠しただけヨ」
「…ふーん。ま、そらそうか。大事な従業員だもんなぁ」
言っててありえないと思ったのか、銀色の瞳はすぐに眠そうに半目となり、欠伸と共に閉じられる。俺はその横を通って廊下にでた。ソルは乱雑な奴だが勘が鋭い。
(変に勘繰られる前に退散するに限る)
「じゃあ俺は店内の掃除するわ」
「アリガトウ❤この子寝かしたらそっち行くワネ」
「んー」
生返事で応え、そそくさと歩き出せば「ライ」と呼ばれた。チラリと首だけで振り返る。
「腕、捲っちゃだめヨ?❤」
「!!」
(そうだ…!グレイにつけられた手首のキスマ、残ってんじゃねえか…!)
あの場所では腕を捲るどころか少し袖がずれただけでも見えてしまうだろう。恥ずかしさと怒りが浮かぶが、ソルの前で責めるわけにもいかず、
「わかってる!」
俺は熱くなった顔を隠すように背を向ける事しかできなかった。
スタスタ!
「あら、行っちゃった」
「…てめえやっぱ食ったろ」
「食ってないってば❤」
end
※ライにつけられたキスマにファンデを塗る話
※ネコ(仮)+ネコ(仮)
「驚いたワ~まさかあんたから告白するなんてネ」
グレイが机に置かれたポーチを漁りながら呟いた。部屋で二人きりの状態で言われたため、無視するわけにもいかずそれとなく返した。
「…宙ぶらりんの関係も嫌だったし、色々あって、踏み出してみる事にした」
「ふふ、色々ネエ…」
意味深に笑いながらグレイが振り返ってくる。その手には丸い形の化粧品?が握られていた。
「ほんとにやる気かよ…」
「そんな状態じゃお客さんが困っちゃうモノ」
「はあ…」
俺は今グレイの部屋にいた。控え室の奥にある基本的には立ち入り禁止とされてる場所なのだが、昨夜フィンにつけられまくったキスマを消してもらうためにほぼ無理矢理押し込まれた。服でぎゅうぎゅう詰めのクローゼットに床に散らばる色んな下着(女物も男物もある)。大人の玩具やそういう小道具も普通に転がっててなかなかにカオスである。
(思った通りごちゃごちゃしてるな…)
ベッド横に置かれていたソファに腰掛け、気まずげに視線をさ迷わせているとグレイがくすりと笑いかけてくる。
「なに固くなってるノ。別にとって食ったりしないワヨ」
「わかってる。…普通に落ち着かねえだけだ」
「うふふ、普段は入らない場所だと緊張しちゃうわヨネ~。あたしも、店を長くやってるけど、ここに人を入れさせたのは数人しかいないし不思議な気分だワ」
「いいのかよ、キスマなんかの為にそんな大層な歴史を軽くしちまって」
「ライの事は信用してるし、何より店の中であんたを脱がせたらあの二人が落ち着かないデショ?だから特別ご招待❤」
「そりゃ恐悦至極だ…」
呆れつつ返せば、ソファの横にグレイが腰を下ろしてきた。化粧品を片手にくすりと笑う。
「じゃあ、早速だけど、襟を捲ってくれるカシラ?」
「…んー」
言われるままボタンを一つ外して襟を緩めた。確か首とうなじに何個かつけられてたはず、と思い出してると
ふぁさ
「っ!」
ファンデをのせた筆が首にふれてピクリと飛び上がる。
「あら、ゴメンナサイ。声かけた方がよかった?」
「いや…大丈夫」
「それにしても熱烈だコト。こんな濃いのつけちゃって…結構きつめに吸われたんじゃないノ?」
くすくすとからかうように笑われ、顔をしかめた。もしも同じことを他人に指摘されたら死にたくなっていただろう。グレイが性に関して緩いおかげでギリギリ耐えられた。俺はなるべく平静を保って返した。
「まあな。肩甲骨あたりとかは特に、…噛まれて普通に痛かった」
「んまー!激しい❤どれどれ…」
「おい!脱がすな!」
グレイが襟を後ろに引っ張って脱がそうとするので慌てて手首を掴んで止めさせた。
「あらあらおアツイこと❤」
だが服の隙間から見えてしまったらしく、グレイは笑いながら襟から手を離した。そして再びキスマ隠しの作業に戻る。たまに筆が皮膚の薄い部分をかすってゾクリとするがなるべく気にしないようにした。
「ちょっと捲るわヨー」
「んー」
「あら、ここもジャナイ、ふふっ」
「おいそんな奥はいいって、どうせ見えねえから」
「いいからいいから❤」
「何が良いんだ…」
ため息を吐きつつ、もうグレイの好きにさせた。
(今更裸を見られたところで全く気にならないしな…)
「ライはつけなかったノ?」
一通り隠し終えたかという所でグレイが尋ねてきた。
「え?」
「キスマ、フィンにお返しでつけなかったノ?」
「やってねえけど…え、こういうのってやり返すのが普通なのか?」
「絶対じゃないでしょうけどつけ合った方が燃えないカシラ?ライはつけたくならないタイプ?」
「…タイプも何も相手につけた事ねえわ」
「へ」
今まで一回もないの、と確認するように言われ、コクリと頷く。
「なんですってえええーー!!??」
ソファから転げ落ちそうな程驚くグレイ。まるで幽霊にでもあったみたいな反応をされ、普通に戸惑った。真人と付き合うまでは心の底から愛せる奴なんていなかったし、そんな真人相手だってつけたいとは思わなかった。良くも悪くもスポーツ感覚のようなセックスでねちっこさは皆無だったのである。
(しかし、よく考えたら恥ずかしいよな…)
この年でキスマも知らねえとか、何やってたんだよってレベルだ。そもそも他人に聞かせる話ではない。今更になって羞恥心で悶えているとグレイがくすくすと笑った。
「やだ、ライってば~!キスマつけた事ないノ~???こんなに自分はつけられてんのに…カワイイじゃないノ~❤」
「うるせえ…」
「うふふ、照れなくていいのヨ!キスマなんて簡単❤あたしが教えてあげル❤」
「いやいいって…困ってねえし…」
実際つけたいと思ったこともなければつけれなくて困ったこともない。今回の俺みたいに、翌日服で隠せない場所につけて困らせてしまうぐらいなら、もうこのまま知らない方が良い気がする。
「ダメよ!キスマはマーキング!一種の愛情表現!愛情表現はいくらでも…どんな形のものでもやれた方が良いワ!」
「…そうかもしれねえが…」
「フィンだってライに噛まれたら喜ぶわヨ~❤心配性の欲しがりさんなんだから、テンション上がる事間違いなし❤がぶってやってあげなさイ~❤」
「がぶって…」
そんな勢いでつけようものなら倍返しにされて全身真っ赤に染められる気がする。…うん、ダメだ。あまりにも行動と結果が見合ってない。
(丁重にお断りしよう…)
「グレイ俺…」
「さあ、どこで練習しようカシラ。あたしの腕だと吸われる強さがわからないしやっぱりライの体を使った方が合理的よネ❤」
俺が及び腰なのに対し、グレイはやけに乗り気で、すでに化粧品はどこかへと消えていた。両手を解放しじりじりとにじり寄ってくる。
「ちょっ、冗談じゃねえぞ」
逃げようとソファから腰を上げれば
ガシッ
速攻手首を捕まれた。
「!!」
「うん、こっちの腕はそこまでついてなかったし、見せやすいからちょうどいいワネ!」
そう言って我が物顔で俺の手首を捻ったと思えば皮膚の薄い裏側を天井に向けさせられた。
「おい、グレイ!」
肩を掴んで下がらせようとするが例のごとくあり得ない程の馬鹿力を発揮し無効化された。そして、グレイはさも当たり前のように手首に近づき、ぺろりと舌を這わせてくる。
「っ…!やべえって…!ソルにキレられるぞ…!」
善意での実践講習なのはわかってるが…互いに相手がいるのだから余計な火種は作るべきではない。焦って止めさせようとするとグレイはくすりと妖艶に笑った。
「あたし達の心配をしてくれるノ?ソルとはただのセフレだし互いに遊びまくってるから大丈夫ヨ❤」
「何がどう大丈夫なんだそれは…」
「うふふ、体が満たされれば問題なしってコト❤」
「…」
あんたらは獣なのか?と冷めた目でツッコんだ。
「まあ、一途なライには一生理解できない感覚かもネ❤」
「…フィンもこっち派だと思うが」
「フィンは、あんたにキスマつけてもらえるメリットを説明すれば許してくれると思うワ!」
「説明してまでしてこんなしょーもない事をやりてえのか…あんたは…」
「だぁってぇ❤あたしが相手する子達みんな慣れてる子ばっかだから、こんなカワイイ事言ってくれる子なんていないのヨ~!若い子に手を出すのは色々ほら、ご時世的に、あれでショ?うふふ、だからテンション上がっちゃうワケ~~❤」
「いやいや…って、おい…っ、」
まだ話の途中なのにグレイは手首に再び顔を近づけていた。慌ててその口を手で覆おうとしたら、
ぬるっ
「ッ…!」
濡れた舌に掌を舐められる。ぞくりと鳥肌を立て逃げるように腕を引くと、グレイは改めて手首に口を付けた。今度はねっとりと舐めてから、かぷっと肌を捕らえ吸いついてくる。
じゅるっ
軽い痛みと共に痺れるようなむず痒さが広がる。
「ぁ…!う、グレイ…」
「…ぷは、こんなもんカシラ」
グレイが顔を離すと手首に赤い痕がついていた。…いや、消す為に部屋に連れ込まれたのになんで追加されてんだよ、と頭を抱える。とにかくこれ以上続けられるのを避ける為「十分わかりましたからもう勘弁してください」としきりに頷いた。しかし当の本人はノリノリのまま説明してくる。
「今の感じで大体わかったと思うケド、唇をあてて、少し強めに吸ってちょっとキープね」
「…はい…」
「薄かったらもう一回同じ場所に重ねてやってみるといいワ」
「うん…」
グレイの目を直視できず斜め下を向きながら頷く。自分の手首につけられた新しいキスマはやけに赤く見えて恥ずかしかった。頼むからもう解放してくれと扉の方を見るが、侵入者を封じる為か扉には内鍵がかけられていた。助けは期待できないらしい。
「言っておくけどこれは内出血だから人によっては一週間ぐらい消えない子もいるノ。くれぐれも場所には気をつけるように…ってこの注意は今のあんたにはいらないワネ。ふふっ」
くすくすと笑い声が響く。ああそうですとも。現在進行形でキスマの場所で困らされてますから。
(つける時は絶対服で隠れる所にしよう…)
「ふふ、まあフィン相手じゃ一日もせずに治癒しちゃうでしょうケドネ」
「それってマジでやる意味あんのか…?」
流石に不特定多数に見せつけたいとは思ってないが本人に気付かれず(見せず)に終わるのならやる意味はない気がする。
「大アリよ!愛情表現は過程こそ大事なんだカラ!」
「過程…」
「そうそう、俺のだ~って求められるの嬉しいデショ❤」
「…」
「わからんでもないって顔ね、素直でよろしい❤その調子でフィンにつけてあげなさいネ❤」
「…気が向いたらな」
襟を戻して立ち上がろうとすると再び腕を掴まれた。
「待ちなさい、ライ」
「…なんだよ?首周りのキスマは隠してくれたんだろ?」
首さえなんとかなれば、客に見られる部分はとりあえず隠せたはずだ。しかしグレイは首を振って俺を再びソファに座らせた。
「隠す方は終わったワ。でも、最後の仕上げがまだヨ」
「仕上げ?」
「“講習"の方の仕上げ」
そういってグレイは悪戯っぽく笑う。
「確認もかねて、最後にライもやってみまショ!」
「はあ?」
「自分の腕にやるのは恥ずかしいでしょうし、あたしにつけてみなサイ❤」
「はああッ??」
気は確かかと目を見開く。だがグレイは全くもって正気らしく、妖艶な笑みを浮かべて服を脱ぎだした。おいおいおいとその手を掴む。
「待て待て!なぜそうなる!」
「だってこれじゃつまらな…じゃなくて、あたしタダ働きになっちゃうし~等価交換じゃないワ~」
「う…」
「従業員立ち入り禁止の部屋に入れて、ファンデで隠してあげて、キスマ講習もしてあげたのにサ~~?(まあライの体にキスマつけて遊べたから損したとは全然思ってないケド❤)」
「…」
幻獣は等価交換を重んじると言っていた。
(…グレイには日頃から助けられてるし、ここは従っとくか…)
だからってキスマの付け合いはおかしいが。頭の隅で呟かれた冷静なツッコみはこの際聞こえないフリをした。彼らと過ごす上で細かいことを気にしていたらこっちが疲弊してしまうのは重々承知してる。さっさと従って満足してもらおう。
「本当にソルは気にしねえのか?」
「ええ、誓ってもいいぐらい、お互い気にしないカラ。色々今更だしネ、ふふっ❤だからライも思い切って好きな場所につけてご覧なさイ❤」
どこでもどうぞと体を差し出されるが、服に隠れない場所は論外として、セックスしてて目に入る場所も避けたいなと思った。となるとどこだろうと首を傾げていると
「案外ないもんだな…」
「無難な所でも探してるノ?ふふ、ないワヨ~どこについてても見つけた瞬間ドキってするカラ❤」
「…」
無理ゲーじゃねえかと顔をしかめ、ならば、と上の服をずらして肩を露出させた。普段あまり気にした事がなかったがグレイは肩幅が結構ある。筋肉も均等につき、鎖骨がくっきり浮き出ている肩は同じ男から見てもなかなか美しい。
(背が高いグレイなら上から見られる事は少ねえよな)
セックスの体位によってはここも丸見えになるだろうが普通に過ごす分には影響は少ないだろう。
(よし)
ソファの上で軽く膝立ちになり、からかわれる前に…と意を決し、噛みついた。
「ふふ」
肌と唇が触れた瞬間、耳のすぐ横で笑われ、くすぐったくなる。
(変な気分になるって…)
気恥ずかしさに心拍数を上げながら、早く終わらせようとさっきグレイがやったみたいに唇をあてて
ちゅるっ
結構強めに吸ってみた。
(こ…こんなもんか…?)
恐る恐る口を離して確認してみると、ほんのり色づくだけで、痕と言えるものはついてなかった。マジか。驚くと同時に昨日の俺はどんだけ強く噛まれて吸われてたんだと内心ビビった。
(必死になってて気づかなかった…)
俺が戸惑っている事に気付いたのかグレイが腰を抱くように腕を回してくる。それからトントンと背中を叩いてくる。
「ライ、もっと強くやらないと」
「…でも」
「もう一度あたしにつけられないと思い出せない?」
「…ッ!!」
いえ、やります。やらせてください。即答するように目の前の肩に噛みついた。さっき遠慮してしまった分、もうやり直しは嫌だと、思いっきり吸ってみた。
じゅるっ
卑猥な音が部屋に響いて恥ずかしくなる。だが、ここまできてビビる方が格好悪い。目を瞑り耐えていると耳元で低く囁かれた。
「もっと」
色っぽい催促に、ドキリとする。その声を聞いてるだけで頭の奥が痺れてくる感じがした。
(もっと、か…)
ぼーっとしつつも言われるまま強く吸い…歯を立てた。
「…、ふふ」
上出来だと言われるように背中をさすられる。トントンとリズミカルに叩かれたと思えば腰を掴まれ引き剥がされた。
「あ…」
自分でも信じられないが、吸いついていた肩に名残惜しさを感じていた。もっと噛んでいたかった、なんて死んでも言えないが。自分の衝動に驚きを隠せずにいると、グレイが俺を見上げながら笑った。
「ちょっと酔っちゃったカシラ、ふふ」
グレイはくすりと妖艶に笑って俺の唇を指先で拭ってくる。なんとも甘い空気に耐え切れず、目をそらし、代わりに自分の服でグレイの肩を拭った。それからくっきりと赤い痕がついた肩を隠すように、ぐいっと服を引っ張ってやれば
「コラ、伸びちゃうデショ❤」
「…わり」
「それにせっかくライの初キスマなんだから、記念に撮っとかないと!」
「いッ…絶対やめろ!」
キッと睨みつけた所でコンコンと扉がノックされた。
「おいゴラァ、グレイ」
外からソルの不機嫌そうな声がする。関係性を知らない状態で聞けば喧嘩でもしにきたのかと思われても仕方ない治安の悪い呼びかけである。グレイは立ち上がり、化粧品をポーチに戻していく。
「あらあら、わんこを寝かしつける時間みたいネ」
「…みたいだな」
俺が急いで身なりを整え立ち上がるのを見届けてから、グレイは扉を開けた。
ガチャ
「んぁ?」
ソルが、部屋の中に俺がいるのを見て、目を丸くする。
「なんだぁ、人を部屋にいれるなんて珍しいじゃねえの。とうとうライも食ったのかよ」
「ふふ、ファンデで痕を隠しただけヨ」
「…ふーん。ま、そらそうか。大事な従業員だもんなぁ」
言っててありえないと思ったのか、銀色の瞳はすぐに眠そうに半目となり、欠伸と共に閉じられる。俺はその横を通って廊下にでた。ソルは乱雑な奴だが勘が鋭い。
(変に勘繰られる前に退散するに限る)
「じゃあ俺は店内の掃除するわ」
「アリガトウ❤この子寝かしたらそっち行くワネ」
「んー」
生返事で応え、そそくさと歩き出せば「ライ」と呼ばれた。チラリと首だけで振り返る。
「腕、捲っちゃだめヨ?❤」
「!!」
(そうだ…!グレイにつけられた手首のキスマ、残ってんじゃねえか…!)
あの場所では腕を捲るどころか少し袖がずれただけでも見えてしまうだろう。恥ずかしさと怒りが浮かぶが、ソルの前で責めるわけにもいかず、
「わかってる!」
俺は熱くなった顔を隠すように背を向ける事しかできなかった。
スタスタ!
「あら、行っちゃった」
「…てめえやっぱ食ったろ」
「食ってないってば❤」
end
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