短編

リナ

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Ifシリーズ

★BAD END "Y"①(ユウキ×ライ)

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 ※九話読了推奨
 ※八話「おやすみのキス」から派生(ソルのスマホを返さなかった事で分岐)
 ※バッドエンドルートなので暗め
 ※時雨との絡みもあり
 ※ほとんどやってる(監禁、寝取られ、射精管理、中出しなど色々注意)





 ブーブー

 黒色のスマホが充電器に繋がれた状態で振動し続けている。非通知からの着信だった。俺はそれを無視して組合員からの報告を受ける。

「ユウキさん」

 廊下に柴沢が立っていた。

「ライ様が目を覚まされました」
「!」

 報告を後回しにさせてすぐに自室を出た。早足で向かう道中で「あ」と足が止まる。

「そうだ、狼男さんのスマホ…」

 自室の充電器に繋いだままだったことを思い出す。返さなくては…と思ったが、一呼吸の後考え直した。
 (もうライはうちの組に入ったようなもんだし、いらないか)
 外部との連絡手段なんて必要ない。たとえそれが連絡手段以上の効果があるとしても、俺は“それ”を求めてない。

 こっそり処理してしまおう。

 そう結論を出して離れに向かった。


 ***


 翌日、ライは“運悪く”あの人の浮気シーンと遭遇してしまい“壊れた"。元々グレイ一派への不信感で疲弊していたが、どうやら浮気相手の男である六島修に一つ前の恋人(真人だっけ?)も奪われてるらしく、トラウマを見事に抉られたライはどん底に落ちきった。みるみるうちに弱っていくライ。薬を使った事もあるが、数日もせずに大人しく腕の中で抱かれるようになった。

「ね、ライ、気持ちいい?」
「はぁ…あっ、はっ、んんっ…、」

 体を前に倒し、四つん這いになったライに密着する。気持ちいいかどうかの質問に、ライは頷かなかった。でも咥えこんでるそこはぎゅうぎゅうと締め付けてきてほとんど答えてるようなものだった。
 (ふふ、可愛い)
 昨日から猿轡と拘束具をとってみてるが逃げる気配はない。薬は入れたままだから逃げたくても逃げられないのだろう。ほとんど思考できない上に、催淫剤で体の熱を持て余し、正常な判断を奪われてる。

「ハァ、ハァッ…ハッ…っ」

 苦しそうな横顔を眺める。こんな状態を何日も続けているのに甘えたり媚びてこないのは流石の精神力だが、我慢した先に何もないのだからその努力には何の意味もない。
 (意地張らなくてもいいのに…)
 引きつるように震える背中をよしよしと撫でてあげた。

「ううっ…、くっ」

 今のライがそんな刺激で満足できるわけがない。熱に焼かれた体で、早く動け、と肩越しに睨みつけてくる。

「はは、」

 煽られた俺は舌なめずりをして、ガツガツと遠慮なく抉った。

「ああああ…っ!」

 絞り出すような喘ぎ声にゾクリと鳥肌が立つ。ああ、この声が俺だけのものになったなんて夢みたいだ。もっと聞きたい。鳴かせたい。体の奥底まで俺を刻みつけたい。

 ドクリ

 熱く包み込むそこに思いっきり欲を吐き出した。

「はあ、はあ、最高…」

 最後の一滴まで送り込むように腰を動かし、目の前のうなじを舐める。汗の味がしてそれもまた興奮した。

「んんう…はあ、う…、あっ…」

 ライは中でイかされたのか呆然としながら余韻に浸ってる。その肩が震えてる事に気付き、うつ伏せの体を横に向かせる。

「ライ、泣いてるの?」

 覗き込むようにして確認するがライは泣いてはいなかった。ただ、俺と目を合わせようとしないその瞳には強い孤独の色が映っていて、恋人に裏切られた絶望で心が冷え切ってるらしい。

 ぎゅっ

 腕を巻き付けた。少しでも暖められるように密着する。

「大丈夫、俺はずっと、ライの傍にいるからね」

 頬に吸いつくと、ライの濡れた瞳がのろのろとこちらを向いた。体はすっかり欲に落ちて、心も沈み切ってるのに。どこかまだ芯の残っているようなゾクゾクするような瞳で睨まれ、俺は心臓を掴まれた気がした。

「ライ、大好きだよ」
「…」
「もっと声聞かせて…?」

 仰向けにさせて体を開かせる。それをライは、拒まなかった。


 ***


 それから一週間、俺はライと幸せな時間を過ごした。昼間は最低限学校に行きライの体を休ませて、帰宅したらすぐに離れで愛し合って…夢のような日々だった。こんな毎日がずっと続けばいいのにと願わずにはいられなかった。

「これ以上は危険です」

 柴沢の助言で夢から覚めるような気分になる。そういえばと日々に散らばる違和感を手繰り寄せた。
 (確かにライの反応が鈍くなってきてる)
 これ以上薬を使えば廃人になってしまう。限界が見極められない程俺も馬鹿じゃない。ただ離れに連れてこられてすぐのライは酷く取り乱していたし、またああなってしまわないか賭けではあった。だが、このまま廃人にするのも嫌で、渋々薬の投与を止める事にした。



 ぱちり

 ライが目を覚ます。薬はほとんど抜けてる時間だ。緊張の面持ちで見守った。

「…」

 驚く程ライは落ち着いていた。近くに置かれた水差しに手を伸ばし喉を潤したと思えば、ぼんやりとした目で部屋を見回し、俺の姿を捉えると少し目を細めたが、何を言うでもなく部屋を出て縁側に腰掛けた。外の空気に触れたかったのだろう。浴衣を肩にかけぼんやりと月夜を眺める姿は壮絶な色気を纏っていた。
 (月よりずっと綺麗だな…)
 俺が横に座ると、一瞬身構えるように強張るが、襲ってこないのがわかるとすぐに警戒は解かれる。こうして人間らしい反応を見せるライと会うのは二週間ぶりぐらいだろうか。少し新鮮な気持ちになった。

「ライ、気分はどう?体の違和感とかはない?」
「…」
「俺の事怒ってないの?」
「…」

 ライは月を眺めたまま答えなかった。その横顔からは何の感情も読み取れない。でも怒ってはいるはずだ。たとえ恋人に裏切られ操を立てる気持ちが薄れていたとしても、無理やり体を縛って薬漬けにして抱いたのだから、真面目なライは俺を許さないだろう。

「…」

 だけどライは金色の月を、まるで誰かに重ねるように恋しそうに見つめるだけで何も言わない。

「…はは」

 自嘲するように笑う。
 (…怒ってほしいなんて思うのは、ワガママすぎるか…)
 怒りでも、憎しみでも、何かしら感情をぶつけてくれたら…それはきっと“親しい者"として認識されてる証拠だ。辛い現実から逃れる為の“処理道具”じゃない。そう思えたのに。縋るように横顔を見つめてもライは何も言ってくれなかった。こんなに近くにいるのに、遠ざかっていく背中を見てるような…切ない気持ちになる。

「ライ、あの人達、全員捕まったらしいよ」

 びくりとライが反応する。俺は淡々と続けた。

「三人共殺される予定だったんだけど、どこかの頭のおかしい社長さんがとんでもない金額を掲示してきて、急遽引き渡す事になったんだ。明日の朝なんだけどさ。一応気になってるかなって思って報告しといた」
「…」
「にしてもモノ好きもいたもんだよね。あんなヤバイ人達を買い揃えても危なっかしいだけなのにさ。幻獣コレクターらしいけど、俺には一生理解できない趣味だよ」
「……」
「…気になる?」

 尋ねると、ライは恨めしそうに見てくる。暗い目をしたライはしばらく俺を睨みつけた後、一度俺から視線を外し何も言わずに立ち上がる。

 すっ

 そして布団の前に移動した。ライが自分の足で布団に近づくときは「抱け」という意思表示だった。離れに連れてきてから唯一ライが行ってくれるコミュニケーションであり、酷く抱かれたがってる事も示してる。

「いいよ」

 誘われるままライの浴衣を脱がした。



「うああ…ッ、はっ、んああっ、や、めっ、あああっ」

 何度目かの射精の後ライは前でいけなくなり、そのもどかしさに喘ぎ苦しんでいた。薬漬けの時はばんばん中イキしてたが、正気の状態ではまだやれてないし、コツが掴めないのかもしれない。ぐちゅぐちゅとぬかるむ中を抉りながら薄く割れた腹を撫でてあげた。

「大丈夫、ライは中でもいけるよ」
「はあっ…あああっ、む、り…っ、だ、ッ」
「無理じゃないって。じゃあここ一旦縛ってあげるね。その方が思い出しやすいよ」
「なっ?!やめっ、ああっ、ぐっ」

 紐でライの半勃ちになった根元を縛る。こっちでイケなくなれば中でイクしかない。ライは顔を真っ青にして見上げてきた。助けを乞う視線に腰が熱くなる。

「はあ、ヤバい、可愛すぎ」
「ひっアアッ…や、」

 やめろと訴えるライを無理矢理抱いて限界まで追い詰める。前を封じられたまま抱かれるのは相当キツイのか、中がえげつない程締め付けてくる。食い千切られそうだなと笑っていると、ライは更に顔を青くして、今までイイ子にしていたのが嘘のように暴れ始めた。

「いや、だっ、アアアッ、うあっ、やめっ…んああっ、」

 腰を上げ、俺の腕から逃げようとするライ。

「ダメだよ、ライ」

 ぎゅっと腕の中にしまい込む。逃げたのを叱るように、縛られた前を掌で強く擦った。

「いああああ…ッ!!」

 悲鳴のような喘ぎ声に満足し、少しだけ擦る力を弱める。でも決して手を止める事はせず中を抉る動きもそのまま続けた。腹側のしこりを擦るように突き入れると「んああっ」と可愛い声が響く。
 (ああ、可愛い)
 愛おしすぎる存在に煽られ、行為はどんどん激しさを増していく。正気になったライとの“初めてのセックス"だしできるだけ優しくしたかったのに。そんな白々しい事を思いながら、中のしこりを抉り、奥を突き、前を擦り上げた。

「やああっ、はっ、アアアッ、んくっ、はっ、や、ああ…ッ」

 ライは涙を溢れさせてもう無理だと首を振った。俺は聞こえないフリをしてガツガツと奥を抉り続ける。

「はぁ…やば、そろそろ、出そう」
「!!」

 ライは目を見開き、今までずっと布団を掴んでいた手を解き、

 ぎゅっ

 俺の浴衣を掴んできた。離れに縛り付けて以来、初めてライが自主的に触れてくれた事に感動する。嬉しくなって顔を寄せると

「ユウ…キ」
「!」

 ライの唇から俺の名前が紡がれた。一瞬聞き間違いかと思ったが、ライはもう一度「ユウキ」と甘く呼びかけてくる。危うく暴発しかけた。

「う、っく、あぶな…え、何?どうしたの、ライ」
「い、かせ…て、くれ…っ」
「あは…そんなにイきたいの?」

 何度も頷き、腕にしがみついてくる。その甘える仕草に胸の寂しさが薄れていく気がした。

「心配しなくてもライは中でイケるから大丈夫だよ」
「い、け、ねえっ、うああっ、や…っ、ゆうきっ、うご、く、なっ、ううっ」
「はは、こんな気持ちよく締め付けられてジッとできるわけないよ」

 びくびくと震え、きつく締め付けてくるそこから無理矢理引き抜き、そして再び最奥へと突き入れた。自慰とは桁違いの快感が駆け上がってきて眩暈がする。

「はあ、やばぁ」
「アアアッ、ゆ、きっ、んああ、ユウキっ」
「ふふ、そんなに辛い?じゃあ…気持ちいいって言ってみて」
「ああう、ンぐ、はあ??」
「気持ちいい、大好きってライが言ってくれたら終わらしてあげるから、ね?」
「ううっ…」

 鎖骨を舐めながら上目遣いで“お願い”をしてみる。ライは瞳を揺らし、視線を外した後、俺の首に腕を回してきた。

「きも、ち、いい…」

 耳元で熱い吐息と共に囁かれる。

「…ッ」

 どくりと先走りが溢れる感覚がした。このまま出してしまいたいとマジで思ったが、どうにかこうにか堪えて、ライの膝を折り曲げるようにして抱えた。角度を調整しながらしこりを擦り、奥へと突き入れる。

「ライ、もう一回」
「う、うああっ、はっ、きもち、いいっ、んああっ、きも、ちぃ、いっ」
「はは、そうだね、気持ちいいね」

 良い子良い子と褒めるようにライが好きな所を弄った。胸も、口の中も、前も、後ろも全部。途中気を失いかけても気にせず激しく抱いた。やがてライも自分の口から溢れる「気持ちいい」という言葉に溺れ、どろどろに思考を溶かしていく。

「ああ、ゆ、きっ、もっと…っ、あああっ、ユウキっ、きもちい、いっ、の、もっと…っ」
「気持ちいい?どこがもっと欲しいの?」
「ンああう、はっ、奥、うあ…アアアッ!」

 仰け反るようにしてライが叫んだ。中の締め付けが一際強くなり、俺はほくそ笑む。

「ほら、イケた」
「は、あっ、はっ、ゆ、き…っ」

 甘く溶けた瞳からぽろぽろと涙を溢れさせ、暴力的な内側からの快感に戸惑う姿は本当にたまらない。俺ももう限界だったから、ライの次の波に合わせて激しく突き入れた。

「アアアッ、や、めっ、うああっ、またっ、い、いく、からっ、ひあっ!ゆう、きっ」
「いいよ。一緒にイこう。またライの好きな所弄ってあげる」
「やだっ、もっ、いああっ、もう、いいっ、気持ち、いいの、アアア…ッ」

 また中でイったのかライが体を痙攣させている。俺はその中を味わうように奥を抉り、先走りでぐちゃぐちゃに濡れた先端を掌で擦った。

「やっ…!ああああ…ッ!!!」

 食い千切られそうな締め付けにつられ、俺も射精した。

 ドクッ、ドクドク…

 三回目なのに量が全然減ってなくて自分でも笑ってしまう。ライの中は締まり続けていて、俺の子種を漏らさず受け止めてくれている。最高に満ち足りた気分だった。
 (ああ、ライと一つになれてる)
 このまま死んでしまってもいいぐらいの幸福に酔いしれる。

「…う、…、」

 腕の中の愛しい人は強すぎる刺激に耐え切れず意識を手放していた。汗で張り付いた前髪を梳いてやりながら頬に口付ける。

「ふふ、まだ前でイケてないのに、寝ちゃったね」

 どうしようか悩んだが流石に前を縛ったまま寝かせるのは可哀想で、痛いほど食い込んだその紐を解いてあげた。すぐに先端から薄くなった白い液体が溢れてくる。もったいない気がしてそれを口に咥えて吸い上げた。

 ごくり

「ん…、はぁ…」

 ライは気を失ったまま悩ましげに眉を寄せてる。夢の中でも快感に責められてるのだとわかりまた腰が熱くなった。

「はあ、もう一回やりたいけど…」

 これ以上はライの体が壊れてしまう。ボロボロのライと自分の欲望を天秤にかけて

 すっ

 筋肉が減り細くなった太ももに手を伸ばした。素股ならライの負担にならないだろう。そう判断した俺は、固くなったそれを押し付け、好き勝手腰を振った。十分気持ち良い。ライの体と触れてると思えばどこででもイけそうだ。

「そういえば、ライ、好きって言ってくれなかったなぁ…」

 どうやったら言わせられるかな、そんな事を考えながら熱く煮えたぎる欲をライの腹へと吐き出した。


 ***


 俺はライの事を甘く見ていた。あれだけ激しく抱いたし、今のライなら薬も拘束具も必要ない。そう信じて疑わなかった。実際ライはこの二週間イイ子にしていたし脱走する素振りすら見せなかった。だからこそ気を抜いていた。

「ユウキさんっ」

 酷く焦った声で目を覚ます。柴沢の必死の形相で、慌てて横を見た。

 …誰もいない。

 やられた。

「くそっ」

 離れを飛び出す。あの体だし遠くまでは行けない。すぐ見つかるはずだ。そう思ったのに…ライは屋敷のどこを探しても見つからなかった。何の手がかりも掴めないまま二時間半が経過する。

「……」

 殺気立った俺の様子に、組合員の誰もが声をかけれずにいた。柴沢ですら言葉を失ってる。自分の責任だと責めているのだろうが今の俺にそれを気にかける余裕はなかった。
 (ライがいない…)
 どうして、どうやって、どこへ行った。必死に考える。夜中とはいえ組合員に気づかれず脱走するなんてできるわけがない。協力者がいるのか?いや…グレイ一派は拘束されていて動けない。組合員も裏切ってまでライを助けるメリットがない。龍神組の時雨はライを気に入っていたが…ヘブンの一件が片付いた今ここを出入りする事はできない。何よりグレイ一派の引き渡しで忙しいはずだ。
 (ならライが自力で…?)
 ライは前に軟禁した時も脱走していた。今回もそうなのだとしたら

 チラ

 裏の森の方を見る。
 (駐車場…)
 組合員に探させた場所ではあるがまだ自分の目では見れていない。そして、駐車場の“先"がまだだった事に気付く。

 ダッ

 弾かれたように走り出した。森を抜け、駐車場を隅々確認して、崖の形になってる部分に移動する。
 (まさか…)
 柵を掴み、恐る恐る下を覗いた。崖下は…木々が生い茂りよく見えなかった。スマホの光で照らそうにも、ここから崖下の山道までは五階建てぐらいの高さがある。真下までは届かない。

「ら、ライ…?」

 呼びかける。返事はない。

 ドクン、ドクン

 凍りついたように柵の下の暗闇を見下ろし固まっていると

 プップー

 クラクションと共に一台の車が近づいてくる。黒塗りの、運転者つきの車だった。うちの組の車ではないが…初老の男が出てきてすぐに誰の車かわかった。

「時雨さん…」
「狐ヶ崎の坊主、ちょうどよかった。お前に渡すものがある」

 時雨が車の中から何かを引きずり出してくる。それは、後ろ手に縛られ項垂れるライだった。

「運がよかったな。ちょうど通りかかった時に歩いてるのを見つけてな、拾っておいたぞ、――っと、おいおい」

 時雨の言葉を待たずその手から奪う。時雨は目を丸くし窘めるように見てくる。

「礼も無しにそれか?ったく、躾がなってないな」

 茶化すような台詞に腹が立ったが、今はそんな事はどうでもよかった。腕の中のライは身を捩るようにして暴れている。その体には覚えのない傷がいくつもあって、時雨にされた事を察し、腸が煮えくり返る。

「時雨さん…」

 時雨は俺の殺意を正面から受け止めても涼しい顔をしていた。腕の中のライを一瞥してニヤリと口元だけで笑う。

「傷の一つや二つで怒るな。なかなかよかったぞ。お前が囲いたくなる気持ちもわかる」
「…」
「今回はへまをしたお前が悪い。俺は狐ヶ崎のを回収してやっただけで、その保管方法にまでケチをつけられる謂れはない」
「…わかってます。回収してくださり…ありがとうございます」
「ふむ、わかればいい。で、話は変わるが、狐ヶ崎に用があってな。少し邪魔していいか?」
「どうぞ」

 柴沢に視線を送り案内させる。時雨は後部座席からトランクを取り出して、俺に「また後程」と残して屋敷に消えた。

「ユウキっ」

 声がして、視線を落とす。

「ライ」
「ユウキ…はなせっ!」
「…んで」
「おいユウキっ!聞いてんのかっ!はなせってば!俺には行くところがっ」
「なんで…置いていったの…?」

 ぴくり

 ライの動きが止まる。

「ライが…死んじゃったかと…思った」
「…!!」
「物理的な脱走ならいい。追いかけて縛り付ければいいんだから。でも…」

 柵の方を見た。

「追いかけられない場所に行っちゃったのかと思って…すごく…怖かったんだよ……」
「ユウ…、キ……」

 ライは真っ青な顔のまま、目を見開き俺の顔を凝視してくる。今自分がどんな顔をしてるのか、自分でもわからない。ライの表情を見る限り多分優しい顔はしてないのだろう。

「…俺はライが好きだ。愛してる。だから体は縛っても、心は縛りたくなかった。だって、ライの心を大切にする事が、ライ自身を大切にする事になると思ったから。いつか振り向いてもらいたいから、これでも…精一杯、大事にしてたつもりなんだよ」
「ゆ、ユウキ…」
「でも俺の認識が甘かったみたいだね」

 腕を掴み、屋敷へと引きずっていく。ライは今、ボロボロな上に後ろ手に縛られた状態だ。大した抵抗はできない。

「嫌だ…!ユウキっ!」

 でもそうやって抵抗しようとする姿に…酷く苛立った。

 パシッ

 頬を叩き、倒れ込んだライを蹴りつける。馬乗りになって何回か殴った後冷たく見下ろした。

「俺を置いていこうとするライなんていらない」
「…っ!」
「ああ、違うよ。ライがいらないんじゃなくて、逃げようと思ったライの心がいらないだけ。ライはいるよ?むしろ、もう二度と逃がさないって決めたから…、はは、覚悟してね」

 顔を青くして首を振るライ。

「怖い?大丈夫…もう俺から離れたいなんて馬鹿な事考えなくなるように、一旦全部、壊してあげるからね」

 そういってなるべく優しく笑いかけた。
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