オメガで腐男子の僕がBL展開期待して女装風俗店に勤務したら何故かノンケドライバーに惚れていた件

リナ

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二話

甘口さん、みかんが好きらしい

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 男は高らかにカツンと革靴を鳴らして僕の目の前に立つ。僕らの上ではぐっちゃぐちゃになってるBL絵(ギリギリ店内に張れるやつ)のドでかいポスターが張られている。完全にここがBLの棚だとわかる場所にきても男は一切澄まし顔を崩さず、僕をじっと見下ろしてくる。確実に知り合いじゃないとやれないレベルのガン見をかまされ僕は背中に滝汗をかいた。今更背を向けてダッシュするのも感じが悪い、というか僕のチキンメンタルではできないし、ただただ蛇に睨まれた蛙のように震え上がる。

 (ひいいぃ…、な、なに、この人誰??僕の知り合いにこんな人いた…?)

 いや、いない。いるわけがない。僕は何の取り柄もないただのオメガだ。友達すらほぼいないのに、こんなイケメンの知り合いがいるわけない。ひええっと震えていると、男がぽつりと呟く。


「…ちいきゃわ?」


 (ちい、きゃわ…?)

 一応言っておくと今の僕はちいきゃわ商品を一切所持していない。いくら全国的に老若男女から人気を得てるキャラとはいえ、持ち歩く程好きではないし(スタンプは結構使うけど)、ちいきゃわっぽいゆるふわコーデでもない。ハッキリ言ってちいきゃわ要素はゼロだ。そんな僕になぜちいきゃわ呼びをするのかさっぱり意味が分からなかった。お互いに首を傾げていると「うわ!」とギャルの悲鳴が響いた。

「えっ、なにこれ…なんでマッチョが並んでんの?ボディビルダーの本…?(BL棚凝視する)」
「でも顔赤くない?ホモってこと??!(恐る恐る裏見て…速攻捨てる)」
「ギャー!キショ!!ホモとか何も生まないじゃん!」
「ほんと!誰が読むのこんなキショイの~!うわートリハダ!」

 きゃははと甲高い声で笑うギャル達。

 (なっ…なっ…)

 聞き捨てならない言葉に僕は思わずギョッとした。

 (ぼ、僕の大好きなBLをだってええ~~~???!)

 オメガやLGBTへの意識が高められてる現代でもまだ一定数はこういう「キモイ」になってしまう人がいる。特定の悪意があるというより理解できない嫌悪なのだろうが、それでも無条件に、中身も見ずにBLを貶されるのは悲しかった。

 (ホモは何も生まないって…)

 僕の健やかなる時、病める時、腐る時、全て一緒に乗り越えてきたバイブルになんてことを言うんだ。僕はわなわなと体を震わせながら、…でも、ギャル相手に言い返せるほど肝は据わっていないしここで揉めたらBLを物色できなくなるので、拳をぎゅっと握りしめるだけに留めた。

 ああ、自分の欲望の為にBLが貶されるのを見過ごすなんて…なんて小さい奴なんだ、僕は…。





 ふと、滑らかな男の声がした。ギャルと一言一句揃えた、でもどこかニュアンスが違う言い方に、僕とギャルが同時に顔を上げた。今声を発したのは…ギャル侍らせ男だった。

「誰が読むのとか失礼な事、無駄にデカい声で言うんじゃねえよ。こっちが鳥肌立つっつの。一階の目立つ棚に置かれてるんだから人気商品に決まってんだろ?少し考えたらわかるだろうが。ああ、その小さな脳みそじゃそんな事も考えらんねえか、悲しいな」

 ギャルは突然の手のひら返しにポカーンと口を開けていた。てっきり同調してくれると思ったのだろう。僕もそう思っていた。見た感じこの男は絶対腐男子じゃないし(“リア充は腐らない”というのが僕の持論だ)、ギャルと一緒にBLを馬鹿にしてくるものとばかり思っていたが…

「お前らがどれだけ高尚な趣味をしてんだか知らねえけど、趣味嗜好は人それぞれだろ。キショイだのなんだの他人の好きな物を嘲って何が楽しいんだ?」

 キツイ言葉の中にはどこかの誰かへの思いやりが入り混じっていた。

 (この人…思ってるより冷たい人じゃないのかも…)

 見た目だけで勝手に内面を決めつけていたが、実は違うのかもしれない。そんな風に思い直したところで、男と真っ正面から視線がぶつかる。


「おい、ちいきゃわ…じゃねえ、ちいちゃん」


 ちいちゃん、と馴れ馴れしく呼んで、男が手を繋いできた。しかも流れるような仕草で指先を指の間に差し込んでくる。

 (こ、これは、俗に言う恋人繋ぎでは????!!)

 手を繋ぐのすら兄貴以外じゃ初めてなのに、そのまま恋人繋ぎは難易度が高すぎる。一気に手汗が溢れ、心臓がバクバクし始めた。…あ、ちなみに兄貴と手を繋いだのはずっと昔の事なので悪しからず。

「悪い、いつもと系統の違う服装してたから気付くの遅れた。ほら行こうぜ、ちいちゃん」
「へ、え、あ、ちょ、ちょっ!!?」

 男は当然のように手を繋いだまま出入り口に向かう。引き摺られる形になった僕は、何が何だかという顔をするギャルと遠目から様子をうかがっていた大量のマニメイト客に見送られながら、ものすごい注目度で退店した。…ざっと見て、視聴率80%は超えていたかもしれない。

 (いやもう店戻れないじゃんこれええええっ)

 あああああ!!!って目の前で閉まる自動ドアに手を伸ばし絶望する。男はマニメイトに出てからもギャルを警戒しているのか手を繋いだまま信号の辺りまで歩き続けた。

 プップー

 そこで横の通りを走っていた車が僕らの横で停止した。ピカピカに磨かれた見覚えのある車。まさか、と目を見開いていると、助手席の窓がウィーンと開き、マスクとメガネに覆われた男…甘口が見えた。いつもの通り運転席に座っている。

 (やっぱり甘口さん?!!!)

 ビックリしすぎて固まる僕の代わりに、前を歩いていた男が「お」と声をあげる。

「甘口さん!」

 男は甘口と知り合いなのかパアアッと輝く笑みを浮かべて(初めて笑った!)窓に駆け寄った。甘口も男に軽く会釈する。

「黒田さんお疲れ様です」
「お疲れ様です!乗ってるって事は今から仕事っすか」
「はい、まだ時間があるのですが早めに出てきました。黒田さんは…そちらの方とお出掛けですか?」
「あーいや、」

 黒田と呼ばれた男は澄まし顔に戻って僕の方をチラ見する。繋いでいた手を離し「別に大した事じゃないです」と誤魔化した。そこで歩道側の信号が赤になったので、甘口が前を確認し、後部座席のドアを解錠した。

「よければ駅までお送りしましょうか」
「うわ、いいんすか、あざす!」

 僕は訳もわからないまま後部座席に押し込まれ「え、え、」と慌てながら甘口の真後ろの位置に座った。

 (うう…ナニコレナニコレ超展開すぎる…!あ、あああ甘口さんがそこにいる、うわわわわ!)

 この二週間何も起きなかったのが嘘のように今日は色々起きすぎている。とにかく僕はなるべく甘口の視界に入らないようにシートベルトがとめられるギリギリのラインまで前のめりになって体を隠した。

 (なるべく…甘口さんを不快にさせないようにしないと…っ)

 これ以上ノンケイケメンにトラウマを植え付けるわけにはいかない…と必死に体を縮めた。

 バタン

 僕の後に乗った黒田が扉を閉めるとちょうど信号が青になり車が発進する。黒田が早速と言わんばかりに身を乗り出して甘口に話しかけた(※シートベルトはしている)。

「甘口さん、そういや駅前のフルーツサンド専門店行きました?めちゃうまいっすよ」
「それはそれは…黒田さんを唸らせるなんてすごいですね。今度寄ってみます。おすすめはありますか?」
「シャインマスカットと…温州みかんっすね。確か、みかん好きでしたよね」
「はい好きです」
「はは、差し入れのみかん持ち帰ってましたもんね」
「あのままでは腐ってしまいますから、…きちんと確認は取りましたよ」
「そこ心配してないっすよ。でもフルーツサンドのみかんもフレッシュで味の濃いやつ使ってるんで甘口さんも気に入ると思います」
「…聞いてるだけでお腹がすいてきました」
「ははは」

 二人はまるでOLのような会話をしている。なんだフルーツサンドって。そんなオシャレなもの、僕は一度も食べた事ないんですが。

 (というか…甘口さん、全然平気そうだな…)

 とか自意識過剰に騒いでいたけど、甘口は戸惑う様子もないし、黒田が間を空けず話しかけてるのもあって車内は大いに盛り上がっていた。僕は前屈みになっていた姿勢をそっと戻し、背もたれに背中をつける。二人はどこ産のみかんが美味しいかという話を熱心に話していた。

 (そっか、甘口さんはみかんが好きなんだなぁ…)

 甘口の新事実を小耳に挟んで僕は嬉しかった。でもなんとなく胸がモヤついて…あんまり深く考えたくなくて窓の外に視線を逸らす。

 ぱち

 ふと、バックミラーで後方確認している甘口と一瞬視線が交差する。

「!」

 すぐに下を向いて"目が合ってないですよ"と誤魔化したが、僕の心臓は張り裂けそうな程バクバクと打っていた。また目が合ったら心臓発作を起こして死んでしまいそうだ。それ以降はひたすら膝を見つめ、顔は上げずに到着を待った。

「お待たせしました」

 甘口の到着の言葉に、黒田と僕はほぼ同時に「ありがとうございました」と言った。揃い過ぎてちょっと気まずい。黒田は一度僕を睨みつけてから、気を取り直して甘口に微笑みかける。

「甘口さん、じゃあまた電話しますね」

 (電話?!?)

 あまりにも意味深な言葉を残して黒田は出て行った。僕は戸惑い通り越してガーン!!とショックを受ける。好物を把握していて、電話をする関係って、まさか…まさか二人は付き合っているのだろうか。

 (いやでも…甘口さんノンケだよね…?)

「お疲れ様です」と言ってたし同じ職場なのかもしれないが、ブルームといえばキャストかスタッフかドライバーしかいない…はず。あのイケメンがあんあん喘いでいる姿はどうしても想像できないのでキャストはないとして、裏方のスタッフで収まるタイプにも思えない。一番可能性が高いのはドライバー仲間だが

 (ドライバー同士で…電話するかなぁ……)


「前原さん」


  悶々としている僕の耳に、甘口の甘く優しい声が響いた。思わず「ひゃい!」とビクッと飛び上がる。
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