魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第5章 ギルド体験週間編―最終日

ギルド体験週間最終日④ 青い炎

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「青い炎…初めて見たな…」
レイチェルはつぶやいた。

「エアリー
術式コード火炎放射ジェットバーナー

ルーシッドがそう言うと、ルーシッドの前に巨大な魔法陣マジックサークルが展開される。
魔法陣にはプロペラの構造式グラムが組み込まれていた。大地の翼テリーンウィングで推進力にした構造式グラムを応用したものだ。プロペラによって魔法陣マジックサークルの後ろから空気が取り込まれ、前方に猛烈な風が吹き荒れる。

「本気で危険なので覚悟してくださいね。

術式展開ディコンプレッション!!」

レイチェルに悪寒が走った。避けなければ死ぬ。直感的にそう感じた。
レイチェルは咄嗟に炎の翼フレアウィングを展開し、天高く飛び立った。

それと同時、ルーシッドが手の平の青い炎を回転する魔法陣マジックサークルにかざして点火すると、爆音とともに前方に青い炎が噴き出した。

レイチェルが上空から見下ろすと、自分がいたところにまで届くほどの青い炎が吹き出し、射線上には強風が吹き荒れ、地面からは土煙が舞い上がっていた。

「なんだ…あれは…あんな炎見たことない…」

それは魔法界で普通にみられるような、メラメラと燃えたり、ゆらめいたりする赤い炎ではない。
真っすぐに噴き出す青い炎だった。まるでアニメやゲームで見るようなレーザーのように真っすぐに放出される青い光線のような炎だった。

「ドラゴンが吐く炎よりも強力なんじゃないか……?」

レイチェルも客席の生徒たちも、今まで見たことがないような光景に呆然としていた。



「火の玉を飛ばしたいなぁ…」
ルーシッドは昨晩そんなことを言っていた。それに対してエアリーは1つの案を出した。

『でしたらこういうのはどうでしょうか。球体状にした無色の魔力を表面から少しずつ可燃物に変えていくんです。それを燃やせば火の玉っぽくなるんじゃないでしょうか?』

「なるほど…いけそうな気がするね…ちょっと術式を考えてみようか…さすがエアリーだね」
『それほどでも』
「うん、意外に簡単かも。無色の魔力を可燃物に変えていく速度を調整して、あらかじめ術式に組み込んじゃえば安定しそうだね。よし実験してみよう」

こうして完成したのが、ルーシッドの新しい魔術『火球ブレイジングボール』であった。火球ブレイジングボールも『火の壁ファイアウォール』と同様に、無色の魔力で球体の形状を維持しているので、火を物体のように使うことができる。


ルーシッドはこの世界に存在する全てのものは目に見えない物質が無数に集まってできているということを理解していた。そう現代化学の基本、『元素』や『原子』といった概念である。
そして様々な実験によって、『燃える』という現象には空気中に存在するある物質が関係していること、その物質と別の何かが反応することによってものが燃えること、そのためには熱が必要であることを理解した。
それこそ、燃焼の3要素、『酸素(支燃物)』『可燃物』『熱』である。

ルーシッドは『火の魔法』について熱心に研究していた。そして、火の魔法が発生させているのは火そのものではなく『熱』なのではないかと考えていた。なぜなら、『火の魔法』の下位魔法に『熱の魔法』があり、火を起こさずに熱だけ起こすこともできるからだ。
そして、火の魔法は生み出した『熱』によって燃料の『赤い魔力』を燃やしているのではないかと推測したのだ。そのルーシッドの考えは正しかった。
ルーシッドは『火の魔法』によって生み出された火が木に引火して燃えると、火の魔法の発動が終わった後もそのまま燃え続けることに注目した。ルーシッドは、木には『燃料になる何か』が含まれているのだろうと考えた。そして発見したのが『炭素』である。
ルーシッドは火の魔法を使わなくても、『燃料』と『熱』を生み出せれば火を起こすことができることを発見したのだ。
そして、さらに実験を重ねることで、『熱』とは物体の運動によって発生すること。可燃物以外にこの空気中にある何らかの物質(酸素)がないとものが燃えないこと発見したのだった。

次にルーシッドが発見したのは『水素』だった。これは別の実験をしていたときに偶然発見したものだった。ルーシッドが『水の魔法』と『雷の魔法』について調べているときに、たまたま爆発が起こってしまったのだ。それこそがルーシッドが使う魔術『爆破ブラスティング』のもとになっている水素と酸素の混合気体『水素爆鳴気』である。
そこからルーシッドは、水は2つの元素からできており、そのうちの1つは空気中にあるのと同じ物質、すなわち酸素であるということを発見したのだった。
そしてルーシッドは燃やすものによって、炎の色が変わるということにも気づいた。

そもそもこの魔法界において一般的な魔法で作られる炎が赤いのと、ルーシッドが作る炎が赤いのは理由が異なる。
魔法で作る炎が赤いのは炎色反応によるものである。赤い魔力を燃やすことで炎の色が赤くなるのだ。
ルーシッドの作る炎が赤いのは、私たちの世界で炎が赤いのと同じ原理である。それは炭素の粒(すす)が高温で熱せられて赤く輝くからだ。ルーシッドがよく使う水素爆鳴気を使った爆破ブラスティングでは光はほとんど出ない。

だが、今回ルーシッドが作り出した炎は『青』だった。
その理由は昨晩のルーシッドとエアリーの会話にあった。
昨晩のこと、ルーシッドはエアリーにこのように言われた。


『以前、火の魔術を実験しているときに、予期していない反応が起こったことがありましたね。おそらく、私たちが知らない何かの物質が関係しているのではないでしょうか。その時の実験データがあるので、少し分析してみましょう』


その時、予期せぬ反応を引き起こした原因は『天然ガス』とも言われる『メタン』という物質だ。メタンは炭素と水素の化合物、炭化水素の一種である。
ルーシッドはすでに、ある物質は2つ以上の原子が結合してできているということを、実験から理解していた。水を分解して酸素と水素が得られたり、反対に酸素と水素を燃焼させると水ができたりするということがわかっていたからである。
それで、どちらも燃えることに関係している炭素と水素を結合させたらどうなるのかと色々実験してみたのである。
そのようにして、ルーシッドは『メタンガス』という新たな『可燃物』を手に入れたのである。
メタンガスを燃焼させると、私たちが使っているガスコンロやガスバーナーを使ったときに見られるような青い炎が出る。それはメタンと酸素が反応するときに出るラジカルという物質が発する光が青色だからである。メタンガスと酸素を燃焼する前に混合し、効率的に反応を進ませることで安定した高火力を可能にしたのが、ルーシッドが作り出した『青い炎』の正体であった。


ルーシッドは青い炎の発射をやめた。


術式コード噴射推進アフターバーナー


そう告げると、今度はルーシッドの背後、左右に2つの魔法陣マジックサークルが浮かび、先ほどとは逆の回転を始める。つまりは地面に向かって風が吹き始めて、土ぼこりが舞う。
そして、ルーシッドは両手に青い炎をともす。


「おいおい…まさか……」
レイチェルは何となく嫌な予感がした。


術式展開ディコンプレッション!!」


ルーシッドが魔法陣マジックサークルに青い炎を点火すると、魔法陣マジックサークルから轟音を上げて青い炎が噴き出して、ルーシッドは空高く飛び立った。


「飛んだぁあぁぁ!?」
会場から大きな驚きの声が上がった。
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