魔法学院の階級外魔術師

浅葱 繚

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第5章 ギルド体験週間編―最終日

ギルド体験週間最終日⑥ 勝敗の果て

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ルーシッドの勝利コールがマーシャから告げられると、会場からは拍手と歓声が上がった。

レイチェルは念のため医務室へと運ばれていった。もちろん切り倒したといっても、ルーシッドの剣には刃をつけていない。炎はついていたが、軽いやけどと打撲程度、最悪でも骨折くらいのものだろう。

医務室でベッドに横になっているレイチェルの横にはクレアが付き添っていた。

「謀ったな、クレア」
レイチェルは静かにそう言った。
「ごめんなさい…私にはこんな方法しか思いつかなかったの…覚悟はしてる。嫌われても仕方ないと思ってる。でも、私の好きだったレイに戻って欲しかった。レイの肩にのしかかってる重荷とか、レイの足を引っ張ってるしがらみとか、レイの前を塞いでる壁とか、そんなの全部ぜんぶ無くなっちゃえばいいって思った。そうすれば昔のレイに戻ってくれるかもって思った。身勝手でわがままでごめんなさい…」
「……そうだな。クレア、今回私がFランクの魔法使いに負けたという事件は、純色の魔法使いにとっては大きな打撃を与えることになるだろう。ルーシッドは強い、私などでは勝負にすらならなかった。おそらくサラよりもはるかに強いだろう。だが、何よりも魔力の質を重視する純色の魔法使いたちにとってはそんなことはどうでも良いことだ。要は『エレメンタル・フォーがFランクに負けた』、ただそれだけのことだ。今後、私自身の立場も、そしてこの魔法界における純色の魔法使いたちの地位もどうなってしまうのかもわからない。それほどの大きな影響を与えることになるだろう。そこまでわかっていてこの決闘を仕組んだのか?」
「えぇ…」
「まぁ、頭の良いお前ならそうだろうな…ははっ、なかなかに悪い女だ」
レイチェルは少しだけ笑った。
「ごめんなさい…どんな罰でも受けるわ…」
覚悟を決めた目で真っすぐとレイチェルを見つめるクレア。だが、手は震えていた。
「あぁ、今回の件でお前に罰を与える」
「はい…なんなりと…」
クレアは目をつむって、その宣告を待つ。


「これからもずっと傍にいて私を支えてくれ。私にはやらなければいけないことがある。今度こそ本当に、私たちの手で新しい純色の魔法使いの時代を作るんだ。お前の力が必要だ……手伝ってくれるか?」

「……はいっ」
クレアはそう言って笑い、涙をぬぐった。


その後のディナカレア魔法学院はなかなかに慌ただしいものだった。
ルーシッドがレイチェルに勝ったという非常に衝撃的な事件は、大きく2つの意見を生んだ。

1つは、クレアの思惑通りと言っていいのか『Fランクに負けるなんて純色の魔法使いも案外大したことないんじゃないか』という意見だ。
強さの象徴エレメンタル・フォーの中でも最も攻撃力の高い『火の魔法使い』『完全焼却バーンアウト』が敗れたというニュースはそのうち魔法界全土へと伝わるだろう。そうなった時に、純色の魔法使いが今まで通りの地位を保てるのかというと、それは微妙なところである。少なくとも純色至上主義を疑問視する声は多くなっていくのではないかと思われる。レイチェルの理想とする『若い世代による、新たな純色の魔法使いたちの在り方』が実現する日ももしかしたらそう遠くないのかも知れない。

そして、この決闘の後すぐに、風紀ギルドサーヴェイラによる純血ピュアブラッドの掃討作戦が行われた。ゲイリーとオリガの情報から、純血ピュアブラッドの主要メンバーと秘密の集合場所がわかり、一斉に乗り込んだのだ。昨夜のゲイリーの一件から、純血ピュアブラッドが怪しい魔法研究に関与していたことも明らかになり、純血ピュアブラッドは解体。主要メンバーたちは懲罰委員会にかけられることになった。国も調査に乗り出しているこの事件に関わっていたとなれば、最悪の場合退学処分は免れないだろう。
これで、このディナカレア魔法学院内における、純色至上主義という古い風潮は収まっていくことだろう。

そしてもう1つの意見としては意外にも『ルーシッドがすごい』という意見だった。ルーシッドが、わかりやすい形で『最強の魔法使いが最弱の魔法使いに負けた』という印象を与えようと、考えた魔術や魔法具は思わぬ結果を生んだのだった。ルーシッドが見た目的にも優劣がわかりやすいようにと青い炎を使ったことや、見たこともない魔法具を使ったり、派手に青い炎で空を飛んだりしたことによって、『ルーシッドは自分たちが知らない強力な魔法を知っている』『魔法具も自作できる』と言ったルーシッドを評価する意見が多く見られるようになったのだ。
中には単純に『青い炎がかっこいい、ルーシッドかっこいい』『レイチェルよりも全然小さいのに頑張っててすごい』という意見や、『小さくてかわいい』などという意見もあった。


そんな風に言われているともつゆ知らず、仲間たちからねぎらわれ、新しい魔術や魔法具についてあれこれ聞かれて、困ったように説明するルーシッド。
その晩には、風紀ギルドサーヴェイラの面々も集まって、ギルド体験週間終了の打ち上げが行われた。

入学初日から慌ただしい日々が続いたディナカレア魔法学院の最初の1週間もようやく終わろうとしていた。明日からは学院にとっては最初の週末である。週末の予定に胸を膨らませるルーシッドたち。

「ねぇ、みんなでどこかに遊びに行きましょうよ?」
「えー、私実験したいことがあるんだけど…」
そう言って全員から総突っ込みを受けるルーシッドなのだった。
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